「不登校」という言葉を聞くと、「学校に行けない状態」だと思われるかもしれません。しかし、その背景や支援のあり方は、一人ひとり全く異なります。不登校の子どもの気持ちに寄り添いながら、公的な支援機関である「教育支援センター」がどのような役割を担っているのかを知ることは、子どもの未来を考える大切な一歩になるかもしれません。
本記事では、教育支援センターの役割に焦点をあてながら、教育支援センターによる学習支援や出席扱いの仕組みを、鳥取県と熊本県の具体的な取り組みを交えながらお伝えします。
- 1 「不登校」の定義は?
- 2 子どもの状況に合わせた学びの選択肢
- 3 教育支援センターは、どんなところ?
- 3-1 教育支援センターの役割
- 3-2 学校に戻ることだけがゴールではない
- 3-3 「出席扱い」の制度とは
- 4 教育支援センターの学習支援とGIGAスクールを活用した学び
- 4-1 個別の学習計画と基礎学力の定着
- 4-2 高校入試への安心感
- 4-3 GIGAスクール構想と連携したICTの活用
- 5 オンライン学習という新しい選択肢
- 5-1 自宅でのオンライン支援
- 5-2 オンラインと対面、どちらが良いの?
- 6 鳥取県の教育支援センターの取り組み
- 6-1 鳥取県内の教育支援センターは11教室
- 6-2 鳥取県の「すらら」を使った出席扱い
- 7 熊本県熊本市の教育支援センターの取り組み
- 7-1 熊本県熊本市「フレンドリーオンライン」の取り組み
- 7-2 「フレンドリーオンライン」のメリット
- 8 まとめ
「不登校」の定義は?
まず、国が定めている「不登校」の定義を確認しましょう。文部科学省は、不登校を次のように定義しています。
■不登校の定義
「何らかの心理的、情緒的、身体的、あるいは社会的要因・背景により、登校しない、あるいはしたくともできない状況にあるために年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの」
この「年間30日以上」という日数は、あくまで国が統計を取るための基準です。たとえ30日経っていなくても、子どもが学校に行きづらさを感じていたら、いつでも学校や教育委員会、そして教育支援センターに相談できます。不登校の原因は、いじめや友人関係の悩み、学業不振、家庭環境など、子どもによってさまざまです。大切なのは、子ども自身を責めることなく、今の状況を理解して、一緒に適切な支援を探すことです。
子どもの状況に合わせた学びの選択肢

子どもの今の状況に一番合った学びの形は、どのように探したらよいのでしょうか。ここでは、いくつかの代表的なケースと、それぞれの支援の例をご紹介します。
■子どもの状況と学びの選択肢
| 子どもの状況 | 主な居場所・学びの場 | どんなICTを使う? | 誰が中心になって関わる? |
| 朝の会や特定の教科だけ参加できる | 校内フリースクールや学校内の別室で短時間だけ登校する | 授業資料のオンライン配信や、先生とのオンライン面談など | 在籍校の担任の先生や、カウンセラーの先生など |
| 教室は難しいけれど、校外なら通えそう | 教育支援センター(適応指導教室)や地域の居場所へ通う | 個別学習アプリや、オンラインでのホームルームなど | 教育支援センターの先生と在籍校の先生が連携 |
| 今は外出が難しく、完全に在宅で過ごしたい | ご自宅での学習が中心となる | オンライン授業の視聴、課題のオンライン提出、相談チャットなど | 在籍校の先生とご家族が協力して進める |
| 医療や福祉の支援も必要 | ご自宅や病院での学びを、教育支援センターなどと併用 | 医療機関とのオンライン会議、遠隔授業など | 在籍校の先生と、医療・福祉の専門家、教育委員会がチームになる |
| 子どもの状況 | 主な居場所・学びの場 |
| 朝の会や特定の教科だけ参加できる | 校内フリースクールや学校内の別室で短時間だけ登校する |
| 教室は難しいけれど、校外なら通えそう | 教育支援センター(適応指導教室)や地域の居場所へ通う |
| 今は外出が難しく、完全に在宅で過ごしたい | ご自宅での学習が中心となる |
| 医療や福祉の支援も必要 | ご自宅や病院での学びを、教育支援センターなどと併用 |
| どんなICTを使う? | 誰が中心になって関わる? |
| 授業資料のオンライン配信や、先生とのオンライン面談など | 在籍校の担任の先生や、カウンセラーの先生など |
| 個別学習アプリや、オンラインでのホームルームなど | 教育支援センターの先生と在籍校の先生が連携 |
| オンライン授業の視聴、課題のオンライン提出、相談チャットなど | 在籍校の先生とご家族が協力して進める |
| 医療機関とのオンライン会議、遠隔授業など | 在籍校の先生と、医療・福祉の専門家、教育委員会がチームになる |
まずは、教室以外であれば学校へ行ける、学校には行けないが外出はできる、外出は難しいなど、お子さまの状況に合わせた支援を検討してみるのがおすすめです。
ここからは、さまざまな支援の中の1つである「教育支援センター」について詳しくお伝えします。
教育支援センターは、どんなところ?

教育支援センターは、不登校の子どもを支援するために、全国の市区町村の教育委員会が設置している公的な施設です。以前は「適応指導教室」という名称で呼ばれていました。
教育支援センターの役割
教育支援センターの主な役割は、子どもが学校に戻ることだけを目標にするのではなく、将来的に社会で自立していくためのサポートをすることです。
具体的には、次のような支援を行っています。
■教育支援センターの支援内容
- 居場所の提供: 子どもが安心して過ごせる場所を提供しています。同じような悩みを持つ子どもと交流したり、自分のペースで活動したりできます。
- 学習支援: 子どもの学力や学習のペースに合わせて、教員免許を持つ指導員などの支援スタッフが学習をサポートします。基礎学力の定着から、子どもの興味に合わせた学びまで対応しています。
- 相談・カウンセリング: 臨床心理士などの専門家によるカウンセリングや、スタッフとの面談を通じて、子どもや保護者の悩みに寄り添い、心のサポートをします。
- 社会的自立の支援: グループ活動やスポーツ、自然体験などを通じて、人と関わったり、子どもの自己肯定感を高める機会を提供したりします。
- 在籍校との連携: 子どもの状況を学校と共有し、スムーズに学校に戻ったり、学校行事に参加したりできるようサポートしてくれます。
このような支援を、子ども一人ひとりの状況や気持ちを大切にしながら、その子に合ったペースで進めることが大きな特徴です。教育支援センターの利用料は基本的に無料なので、安心して利用できるのも嬉しい点です。
学校に戻ることだけがゴールではない

以前は、不登校支援というと「学校に戻ること」が一番の目的とされがちでした。しかし、今は違います。文部科学省も「登校するという結果のみを目標にするのではない」と、はっきり方針を示しています。
本当に大切なのは、子どもが心身のエネルギーを回復させ、自分に合った形で学び、社会とつながり、将来的に自立していくことです。そのための選択肢は、学校に戻ることだけではありません。
教育支援センターでの活動をはじめ、フリースクールや、おうちを拠点にICT(情報通信技術)を使った学習など、多様な学びの場が認められています。無理に学校へ戻ろうとすることで、かえって子どもを追い詰めてしまうこともあります。まずは、子どもが心から安心して過ごせる場所を確保し、やる気が戻ってくるのを待つという考え方が、今の不登校支援の主流です。教育支援センターは、そうした多様な選択肢を支える重要な存在だといえます。
「出席扱い」の制度とは
不登校の子どもが、教育支援センターなどの学校以外の施設で活動した場合、その活動を学校に「出席」していることとして認める「出席扱い(出席認定)」という制度があります。この制度は、子どもの学びを保障し、その努力を評価することを目的としています。
出席扱いが認められると、学校の指導要録上の欠席日数が減るので、高校入試の際に不利になりにくいという大きなメリットがあります。ただし、最終的に出席扱いにするかは、在籍している学校の校長先生が判断します。
一般的に、出席扱いが認められるためには、いくつかの条件があります。
- 保護者と学校が、しっかり連携していること。
- 教育支援センターでの活動が、子どもの自立を目指す上で効果的だと判断されること。
- 学習活動が計画的に行われ、その様子を学校側が把握できること。
- 学校と教育支援センターが、定期的に子どもの状況について情報交換していること。
この制度の運用基準は、地域や学校によって異なる場合がありますので、利用を検討する際は、まずは子どもが在籍する学校の担任の先生やスクールカウンセラーに相談して、具体的な手続きや条件を確認することが大切です。
教育支援センターの学習支援とGIGAスクールを活用した学び

教育支援センターでの学習支援は、画一的なものではありません。子どもの学力、やる気、心の状態に合わせて、一人ひとりに合った形で提供されます。
個別の学習計画と基礎学力の定着
教育支援センターではまず、指導員や相談員が子どもや保護者とじっくり話して、学習の進み具合や本人の希望を丁寧に確認します。一人ひとりに合わせた「個別支援計画」を作る教育支援センターもあるなど 、無理のないペースで学習を進められるようにサポートします。学校で使っている教科書やドリルを持っていって、指導員から個別に指導を受けることもよくあります。まずは基礎学力をしっかり定着させつつ、「できた!」「わかった!」という成功体験を重ねることで、学習への自信とやる気を取り戻していけるように工夫しています。
高校入試への安心感
特に中学生で不登校の場合、保護者にとって高校進学は大きな気がかりとなることがよくあります。教育支援センターでは、子どもが安心して次のステップに進めるよう、学校や関係機関と連携しながら、きめ細やかな進路支援を行っています。
また、指導員やカウンセラーが子どもと定期的に面談し、将来の夢や得意なことを一緒に考えながら、進路の選択をサポートしてくれます。全日制高校だけでなく、定時制、通信制高校など、さまざまな学びの場の情報を提供し、子どもに合った進路を一緒に探してくれます。
高校入試では、内申書が心配になることもあります。教育支援センターでは、学校と連携し、センターでの活動や学習の記録を適切に評価に反映してもらえるよう働きかけます。また、入試の面接の練習や、面接において不登校の経験を前向きに伝えるためのアドバイスももらえます。入試に必要な学力を補うための勉強も、子どものペースに合わせて計画的に進められるので、自信を持って入試に臨むことができるでしょう。
GIGAスクール構想と連携したICTの活用
GIGAスクール構想で整備された一人一台のタブレット端末は、教育支援センターでも積極的に活用されています。例えば、今の学力に合わせて学習内容を調整するAIが搭載された教材を使うことで、子どもは自分の理解度に合わせて問題に取り組むことができます。また、動画教材で授業内容を繰り返し視聴したり、調べ学習をしたりして、自分の興味を深めることも可能です。ICTの活用により、自分のペースで効率よく学習を進められる環境が整っています。
オンライン学習という新しい選択肢

最近では、心身の状況から教育支援センターに通うのが難しい子どもや、人との関わりに不安を感じる子どものために、ICTを活用したオンラインでの支援が広がってきています。これにより、支援の選択肢が大きく広がり、どの子も一人ぼっちにならずに社会とつながりを保てるようになっています。
自宅でのオンライン支援
ビデオ会議システム(Zoomなど)を使って、自宅にいながら指導員と顔を合わせて学習相談やカウンセリングを受けることができます。また、メタバース(仮想空間)にアバターで参加できる「仮想教室」を設けて、ゲーム感覚で他の子たちと交流できる、そんな新しい取り組みも始まっています。
オンラインと対面、どちらが良いの?
オンラインと対面(通所)には、それぞれに良いところがあります。子どもの状況に合わせて、最適な方法を選んだり、両方を組み合わせたりすることが大切です。
- オンライン支援:自宅参加できるので、心の負担が少なく、自分のペースで学習や交流を進めやすいメリットがあります。
- 対面支援(通所):規則正しい生活リズムを送りやすく、指導員や他の子どもたちと直接的な関係を築けたり、さまざまな体験活動に参加できたりするメリットがあります。
鳥取県の教育支援センターの取り組み

「誰一人取り残さない」教育を掲げる鳥取県では、不登校の子ども一人ひとりに寄り添う支援に力を入れています。ここでは、鳥取県の教育支援センターの取り組みについて紹介します。
鳥取県内の教育支援センターは11教室
鳥取県内には、県教育委員会の定めたガイドラインに基づいて運営される11の教育支援センターがあります。教育支援センターでは、子どもの気持ちを尊重し、自己肯定感を育む支援を基本とする活動が行われています。
▼鳥取県 教育支援センターの詳細はこちら
https://www.pref.tottori.lg.jp/284970.htm
また、鳥取県では「つながる」をキーワードとして、不登校の子どもの学習機会を確保するため、ICTを使った自宅学習支援に力を入れています。この支援は「不登校の子どもたちは自宅でどのような気持ちで過ごしているのだろうか」「子どもたちはどんな思いでいるのだろう」というそれぞれの子どもたちの思いを想像し、「行けるものなら学校に行きたいと考えている」という子どもの気持ちと「登校を嫌がる子どもにどう関わればいいのか」など保護者の悩みを少しでも和らげるためにスタートしました。鳥取県で利用されているICT教材「すらら」は子どもたちが自宅で安心して楽しく学べるように設計された教材。この「すらら」を一人で学習する子どもをつなぐ「自宅学習支援員」を配置することで、子どもと「すらら」をつなぎ、子どもたちが他者とつながる心地よさ、「できた!わかった!」という達成感を感じ「今の自分でよい」と思えることを願っています。
鳥取県の「すらら」を使った出席扱い
鳥取県の自宅学習支援により、「指導要録上の出席扱い」とした学校の割合は年々増加しています。出席扱いに認められることで「すらら」の学習が子どもに見える形で評価されることで、学びに向かう意欲を高め、自己肯定感につながっています。
学習実績がなかったことで自信が持てず、外出できなかった子どもにも大きな変化が見られ、「指導要録上の出席扱い」が認められることで、周囲からの承認を実感し、自信が持てるようになったことで人との関わりや将来を考えるきっかけにつながったという実感の声も届いています。
▼鳥取県 ICT等を活用した自宅学習支援についてはこちら
https://www.pref.tottori.lg.jp/287232.htm
熊本県熊本市の教育支援センターの取り組み
熊本県熊本市では、不登校の子ども一人ひとりの状況に寄り添い、社会的自立を支援するための独自の取り組みが進められています
熊本市教育委員会は、「誰一人取り残さない」教育の実現を掲げています。その基本方針は、学校に戻ることだけをゴールとせず、子どもが自信を取り戻し、自分のペースで社会的自立に向かうことを多角的にサポートすることにあります。
市内の各区には、教育支援センター「フレンドリー」が設置されており、子どもが安心して過ごせる「居場所」としての役割も担っています。
▼教育支援センター「フレンドリー」の詳細はこちらから
https://www.kumamoto-kmm.ed.jp/k-soudan/tekiou
教育支援センター「フレンドリー」では、基礎学力の支援に加え、体験活動やICTを活用した学習など、子どものやる気を引き出すさまざまな学びの場を提供しています。
また、学校への登校や教育支援センターへの通所が難しい子どもに向けた、教育ICTを活用したオンライン学習支援「フレンドリーオンライン」の取り組みを行っています。
熊本県熊本市「フレンドリーオンライン」の取り組み

「フレンドリーオンライン」は、登校が難しい子どもが、オンライン上で周囲とつながりながら、自分のペースで学びを進める機会を保障する、安心できる場所です。熊本市内の小学校と中学校に設けられたスタジオから配信を行っています。
■フレンドリーオンラインの配信内容
- 朝の会・帰りの会 オンライン上で、みんなと一緒に朝の会や帰りの会を行います。こうすることで、生活のリズムを整えるお手伝いをしています。
- 学習支援 「すらら」などの学習アプリを活用し、お子さまのペースに合わせた学習ができます。わからなところにさかのぼって学習したり、得意なことをどんどん進めたり、一人ひとりに合わせた学びが可能です。
- 体験活動・交流 日替わりで、色々なテーマでの交流や体験活動を行っています。ゲームをしたり、好きなことについて語り合ったり、時には将来の夢について話したりすることもあります。顔を見せなくても、アバターなどを通じて、少しずつ人との関わりに慣れていけるような工夫もしています。
- 「心の居場所」としての役割 先生やお友達とつながることで、孤独感を和らげ、安心できる「心の居場所」になることを大切にしています。
「フレンドリーオンライン」のメリット
- 自分のペースで参加できる 体調がすぐれないときは無理せずに休むことができます。途中から参加したり、途中で抜けたりすることも大丈夫。子どもの気持ちを一番に考えます。
- 「出席」として認められる フレンドリーオンラインでの活動は、一定の要件を満たすことで、学校の「出席扱い」として認められる可能性があります。これは、子どもの頑張りがきちんと評価され、高校入試など将来の選択肢を広げる上で、とても大切なことです。
- 学校との連携 フレンドリーオンラインを利用する子どもの状況は、在籍校と情報共有されます。子どもが学校に戻りたいと思ったときも、スムーズに復帰できるようサポートしてくれます。
フレンドリーオンラインは、子どもが自分らしく輝ける居場所を見つけるための、大切な選択肢の一つです。
▼ICT教材「すらら」について詳しくはこちら
https://surala.jp
まとめ
本記事では、不登校の子どもを支える教育支援センターの役割や支援内容について、事例を交えてお伝えしました。教育支援センターは、学校に戻るだけでなく、多様な学びの場を提供し、子どもの将来を支えてくれる大切な場所です。最近では、「すらら」などのICT教材も活用されていて、一人ひとりのペースで学べる環境が整ってきています。
不登校の子どものことでお悩みなら、まずは地域の教育支援センターに相談してみてはいかがでしょうか。また、自宅で学習できるICT教材や出席扱いの制度について詳しく知りたい場合は、ぜひ「すらら」のお問い合わせ窓口までご相談ください。子どもにとって一番良い選択肢を、「すらら」が一緒にお探しします。
監修者
伊藤美奈子(いとうみなこ)先生
神戸女子大学教授/臨床心理センター長
臨床心理学や発達心理学を専門とし、特に学校現場における不登校、いじめ、教員のメンタルヘルスに関するテーマに取り組む。臨床心理士・公認心理師。文部科学省「不登校に関する調査研究協力者会議」委員、子ども家庭庁「いじめ調査アドバイザー」なども務める。不登校やいじめの問題に対し、理論と実践の両面から取り組み、幅広く活動している。
著書:『不登校の理解と支援のためのハンドブック:多様な学びの場を保証するために』(ミネルヴァ書房2022年)など。