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インクルーシブ教育とは?メリット・デメリットや取り組みについても紹介

2022.11.10

「インクルーシブ教育」という言葉を聞いたことはありますか?
現在、教育業界ではインクルーシブ教育を実現するためにさまざまな取り組みが進められています。しかし、そもそもインクルーシブ教育とは何なのか、どのような取り組みが進められているのか、疑問に思う方も多いでしょう。本記事では、インクルーシブ教育に関する基本的な知識、導入のメリット・デメリット、具体的な取り組みなどについて詳しく解説します。海外での事例や今後の課題についてもお伝えしていますので、インクルーシブ教育について理解を深めたいという方はぜひご覧ください。

障害の有無による隔たりを取り除く 「インクルーシブ教育」とは

インクルーシブ教育とは、障害の有無に関わらず、全ての子供が同じように教育が受けられる仕組みのことを言います。障害のある子供が他の子供と一緒に教育を受けるために、個々の教育ニーズに合った支援や指導を提供するということがインクルーシブ教育の教育方針です。しかし、インクルーシブ教育が目指すのは、教育の場における隔たりを取り除くことだけではありません。障害の有無にかかわらず、共に尊重し支えあいながら全員が積極的に参加できる社会(共生社会)をつくりあげることがインクルーシブ教育の目的です。つまり、インクルーシブ教育とは、共生社会を形成するための平等な教育体制のことを指します。

インクルーシブ教育とインテグレーション教育の違い

インクルーシブ教育に似た言葉で、「インテグレーション教育」という言葉があります。
インテグレーション教育とは、障害のある子供と障害のない子供を区別した上で、同一の教育環境で学ばせるという教育体制です。障害の有無に関わらず全ての人が同等に生活するというノーマライゼーションの考えが根底にあります。インテグレーション教育では、障害のある子供も含め全ての子供が通常学級に統合されました。しかし、障害のある子供へのサポートや配慮は十分でなく、学力差やいじめが問題になりました。その後、1994年にスペイン・サマランカで行われた「特別なニーズ教育に関する世界会議」でインクルーシブ教育の理念が表明されました。これを機に、環境を同じにすることばかりが重要視されたインテグレーション教育は、同じ環境の中で個々のニーズに合った配慮を行うインクルーシブ教育へと移行していったのです。

教員側のインクルーシブ教育のメリットとデメリット

インクルーシブ教育を教育者として行う以上、メリットだけでなくデメリットも理解しておく必要があります。メリット・デメリットについてそれぞれ解説します。

メリット:教育スキルの向上が期待できる 

教員側のメリットは、教育スキルの向上が期待できるという点です。
インクルーシブ教育では、教員が障害のある子供と障害のない子供の両方の指導に携わります。教員は実際に障害のある子供に触れることで、障害に対する理解が深まると共に、専門的な教育スキルも身につけられるのです。

デメリット:業務の増加により負担が大きくなる 

デメリットとして挙げられるのは、業務負担が大きくなるという点です。
インクルーシブ教育では、障害のある子供1人ひとりに合った支援や配慮が求められます。教員側は個々への支援や配慮に加えて、授業遅延がないようクラス全体も管理しなければなりません。よって、教員側の業務は増加し、負担が大きくなってしまいます。

インクルーシブ教育における取り組みについて

インクルーシブ教育では、主に以下5つの取り組みが行われます。

・基本的な環境の整備
・学校や教員による「合理的配慮」
・教室や授業の工夫
・就学先決定の仕組みの改善
・相談や情報提供の機会の増進

順番に見ていきましょう。

基本的な環境の整備

まずは、多様な子供たちが等しく教育を受けられるように、基本的な環境の整備が必要です。
例えば、身体的に障害のある子供のために、バリアフリーな環境を整えることなどが挙げられます。さらに、特別支援学級と通常学級を行き来できたり、共同で学びを受けたりできるようなシステムの構築も、基本的な環境整備の1つです。障害の有無に関わらず、全ての子供が学びやすい環境を整えることが求められます。

学校や教員による「合理的配慮」

1人ひとりが学びやすい環境が整ったうえで、学校や教員は個々に対する「合理的配慮」を行います。
合理的配慮とは、それぞれの障害の状態や教育ニーズに合わせたサポート・配慮を指す言葉です。読み書きが困難な子供への合理的配慮や、落ち着きがない子供への合理的配慮など、サポートの仕方はそれぞれ異なります。障害のある子供も他の子供と同じように一般教育が受けられるように、学校や教員は合理的配慮に努めなければなりません。

教室や授業の工夫

教室や授業全体で行うべき工夫もあります。
例えば、「教室や授業での指示や大事なことをわかりやすく伝える」という工夫です。ゆっくり話したり繰り返し伝えたりなど、全員が同じように理解できるように工夫します。また、ときには口頭だけでなく、文字に起こして明示することも必要でしょう。他にも、行動の切り替えをしやすくするためにルールを明確にしたり、視覚的刺激を少なくするために掲示物を隠したりするなど、教室や授業でできる工夫は多々あります。個々への配慮に加えて、全体でできる工夫を行うことが大切です。

就学先決定の仕組みの改善

従来の就学先決定の仕組みを改めるという取り組みがされています。
これまでは、障害のある子供は原則特別支援学校に就学するという仕組みでした。しかし、インクルーシブ教育では、本人の障害の状態・教育ニーズ・保護者の考え・専門家の意見・学校や地域の状態などを総合的に見て就学先を決めるという仕組みが推進されています。本人の教育ニーズや保護者の考えを最大限尊重し、就学先の決定だけでなく就学後の転学にも柔軟に対応できるように、仕組みの改善が進められているのです。

相談や情報提供の機会の増進

教育に関する相談や情報提供の機会を増やすこともインクルーシブ教育の取り組みの1つです。
子供1人ひとりの教育ニーズに合わせた支援や配慮を行うためには、乳幼児期を含む早期から教育・就学相談ができていることが重要だとされています。支援が必要な本人や保護者は十分な情報を得ることができ、教育関係者は個々の教育ニーズを早いうちから把握することができるという、両者にとって有益な取り組みです。相談や情報提供の機会を増やすことで、円滑な支援や配慮が可能になります。

海外におけるインクルーシブ教育の具体例

では、海外ではどのようにインクルーシブ教育が進められているのでしょうか。ここでは、フィンランド・イギリス・オーストラリアの3カ国におけるインクルーシブ教育の具体例をご紹介します。

フィンランド

フィンランドでの具体的な取り組みの1つが「三段階支援」と呼ばれるものです。通常学級の教員が対応する「一般支援」、一般支援が十分でなかったときの「強化支援」、さらに支援が必要な場合の「特別支援」と、三段階で支援を提供しています。また、複数の教員が協力して授業を行う「Co-teaching」という取り組みもしており、通常学級でのサポート体制を十分に整えています。

イギリス

イギリスでは、学級担任の他に個々の教育ニーズに合わせた支援を行うサポートスタッフが配置されています。また、サポートスタッフの数は全スタッフの3分の2から2分の1を占め、十分に支援が行える数のサポートスタッフが配置されているのです。他にも「SENサポート」と呼ばれる取り組みがあります。学級担任がSENCO(Special Educational Needs Coordinator)の助言のもと個別の教育計画を作成し、教育計画に基づいて指導を行うということが仕組化されているのです。さらに、障害のある子供向けのカリキュラムの作成、教育・医療・福祉が連携したサポートなど、あらゆる取り組みが行われています。

オーストラリア

オーストラリアでは、特別学校や特別学級など、どのような学びの場を提供するかが州によって異なります。また、教育カリキュラムについても州ごとに違いがあります。2013年に導入されたナショナルカリキュラム(オーストラリアン・カリキュラム)によって、多様性や人権教育を含んだカリキュラムの作成が求められるようになりました。具体的には、「人文科学と社会科学」で人権理解について、「保健・体育」で障害について扱われています。国全体を通して、人権教育が推進されているのです。

インクルーシブ教育に残された課題

インクルーシブ教育には「人員不足」という課題が残されています。個々の教育ニーズに合った合理的配慮が求められるインクルーシブ教育では、サポートをするための教員数が十分ではありません。課題解決に向けて、コーディネーターや複数の教員との連携が必要になります。

まとめ

インクルーシブ教育は、障害がある子供と障害がない子供が共に教育を受ける仕組みです。共生社会の形成を目指し、障害の有無による障壁をなくすことを目的としています。個々の教育ニーズに応える合理的配慮や教室・授業での工夫など、インクルーシブ教育の取り組みはさまざまです。しかし、インクルーシブ教育は必ずしも良いことばかりではなく、教員側のデメリットや残された課題があることも覚えておかなければなりません。

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