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不登校は未来の芽―「違いを才能に」育てる伴走メソッドとは?

「学校に行けない」と言われたとき、親はどう向き合えばよいのでしょうか。
小中学生の「なぜ?」を受け止め、一緒に考え、挑戦を形にしていく。そうした積み重ねの中から「違いを才能に」変えていく実践を続けているのが「学びの芽育」代表の西川寿美礼さんです。

学習塾での受験指導、生活困窮者への福祉支援を経て独立した西川さんは、教育と福祉とビジネスの視点を掛け合わせ、子どもと親の双方に寄り添ってきました。小さな成功体験が自己肯定感を育み、問いかけが未来を切り開く力へとつながる。不登校から広がる多様な学びと進路の可能性について、西川さんにお話を伺いました。

「違いを才能」にする家庭教師 西川 寿美礼さんに聞く—すららコラム編集部インタビュー

学びの芽育 代表 西川 寿美礼さん

プロフィール

学びの芽育 代表
西川 寿美礼 さん

学習塾で約10年の指導、福祉職で7年半の経験を経て2021年に「学びの芽育」を創設。 教育×福祉×ビジネスを横断し、不登校や発達特性の子どもに伴走。 「違いを才能に」育てる家庭教師として、未来をひらく学びを実践中。
学びの芽育HP:https://manabinomake.net/

偏差値教育から福祉へ――西川寿美礼さんの歩んできたキャリア

ーー佐々木:本日はありがとうございます。まずは西川さんがどのようなキャリアを歩まれてきたのかを伺えればと思います。

西川:はい。最初のキャリアは18歳の大学生の頃からで、学習塾で国語を中心に教えていました。難関中学や高校を目指す受験指導や偏差値教育にどっぷり浸かっていたんです。でも、その中で「これが本当に子どものためになっているのか」という違和感を抱くようになりました。

ーー佐々木:なるほど。受験指導は成果が目に見えやすい一方で、子ども一人ひとりに寄り添うことは難しい場面も多いですよね。

西川:そうなんです。塾というのは企業である以上、どうしても子ども個人に深く踏み込むことは難しい。「ここをもっとサポートできたら」と思っても線を引かざるを得ない場面がありました。そんなとき、大学時代からお世話になっていた先生の紹介で、生活困窮者の自立支援に関わるようになったんです。

ーー佐々木:教育から福祉へ、ずいぶん大きな転換ですね。しかも生活困窮者というと非常に厳しい現場を想像します。

西川:はい。ホームレス状態の方や生活保護を受けている方の生活を立て直す伴走支援を7年半やりました。住所がない方の住民登録をサポートしたり、病院や役所への同行をしたり、生活全般を支える仕事でした。教育現場とはまったく違いましたが、人の生活そのものに関わる経験は大きな財産になりました。

ーー佐々木:教育と福祉、どちらも長く経験されたことが、今の「学びの芽育」につながっているのですね。

西川:そうですね。30代半ばでかねてから持っていた「独立したい」という思いに向き合うことにし、コロナ禍を機にフリーランスとして活動を始めました。そこで教育と福祉の両方の視点を融合させた「学びの芽育」を立ち上げたんです。偏差値教育ではなく、一人ひとりの強みや生活全体を見据えてサポートすることを大事にしています。

ーー佐々木:キャリアの積み重ねがそのまま事業に直結しているのですね。西川さんのお話を伺っていると、とても説得力があります。教育現場の経験と、生活困窮者への伴走という異なるフィールドの両方を経てこそ、「学びの芽育」の理念が生まれたのだと感じます。

「『支援』という概念のない社会をつくる」理念と、「違いを才能に」する視点

ーー佐々木:ここまでのキャリアを伺うと、教育と福祉の両方の経験を土台に「学びの芽育」を立ち上げられたことがよくわかります。そのうえで、事業としての理念や方針について改めてお聞きできますか。

西川:はい。私は事業理念として「『支援』という概念のない社会をつくる」という言葉を掲げています。これは事業構想大学院に在学していた頃に、自分自身ととことん向き合う中で過去の経験のなかから降りてきた言葉なんです。

ーー佐々木:とても印象的な言葉ですね。一般的に「支援」というとポジティブなイメージで使われますが、あえてそれをなくすような表現をされたのはなぜでしょうか。

西川:不登校や発達特性をもつ子どもたちには、突出した興味や才能を持っているケースが少なくありません。でも日常の中ではそれが「困りごと」として扱われてしまうことが多い。「落ち着きがない」「こだわりが強い」と否定的に受け止められてしまうんですね。

でも本来、誰しも苦手と得意を持っています。互いに補い合えばよいだけなのに、「支援する側」と「される側」という上下関係が固定化されてしまう。私はそこに違和感を持ちました。だからこそ「違いを才能に」と捉え直し、補い合える社会をつくりたい。そうすれば“支援”という言葉自体が要らなくなるのではないか、という考えに至ったんです。

ーー佐々木:なるほど。「違いを才能に」という表現は、実際に活動されている内容とも直結していますね。とても腹落ちします。

西川:ありがとうございます。実際、理念を伝えるときに「支援という概念のない社会をつくる」だけだと少し抽象的すぎる、と言われることもありました。そこで具体的に噛み砕いた言葉が「違いを才能に」です。これは保護者や子どもにも直感的に伝わりやすい。最近ではこちらの言葉を前面に出すことも増えています。

ーー佐々木:確かに「違いを才能に」というフレーズは、とても前向きで力強いですね。親御さんや子どもたちも「自分のことかもしれない」と受け止めやすいと思います。

西川:そうですね。理念は活動の根っこですが、現場で関わるときには、もっと日常的な言葉で伝えていくことを意識しています。

図:学びの芽育が描く『「支援」という概念のない社会』の全体像

ーー佐々木:今のお話を伺っていると、理念と実践がしっかりつながっている印象を受けます。教育現場では理念が形骸化してしまうこともありますが、学びの芽育はまさに「理念が行動を導いている」という感じがします。

西川:そう言っていただけると嬉しいです。

不登校の子どもに寄り添う二つの軸――「声をきく」と「なんでなんで」

ーー佐々木:ここからは、不登校支援の具体的な実践についてお伺いしたいと思います。西川さんのメソッドには「声をきく」と「なんでなんで」という二つのキーワードがあると聞きました。

西川:はい。「声をきく」というのは、子どもが言葉にしていることだけでなく、その奥にある気持ちや雰囲気、表情なども含めて受け止めるという意味です。表面的な言葉だけではなく、声にならない声も含めてキャッチすることを大切にしています。

ーー佐々木:なるほど。確かに「話をきく」と「声をきく」ではニュアンスが違いますね。後者の方がずっと深く、子どもに寄り添おうとしている姿勢が伝わってきます。

西川:そうなんです。もう一つの「なんでなんで」は、子どもたちが疑問を投げかける力を大事にする、ということ。2歳や3歳くらいの子が「なんで?なんで?」と繰り返す時期がありますよね。あれが本来の学びの原点だと思っていて、大人になっても「なんで?」を持ち続けることが成長につながると考えています。

ーー佐々木:素晴らしいですね。子どもの疑問を受け止めるだけでなく、大人自身も「なんで?」を忘れないことが重要だと。

西川:はい。ただ、親御さんの中には「なんで?」と聞かれるのが怖いと感じる方もいらっしゃいます。「答えられなかったらどうしよう」と不安になってしまうんです。でも、全部に答える必要はありません。「一緒に調べてみよう」でもいいし、「わかったら教えてね」でもいい。大人が完璧に答えなくても、子どもの学びは続いていくんです。

ーー佐々木:確かに、「正しく答えなければならない」と思い込んでしまうと、親も追い詰められてしまいますよね。でも「わからないね」と共有すること自体が、子どもにとって安心につながるというのはとても大事な視点だと思います。

西川:ありがとうございます。「声をきく」と「なんでなんで」は、いわば“聞く力”と“考える力”です。これをベースにすることで、不登校の子どもたちが少しずつ自分のペースを取り戻していけると感じています。

ーー佐々木:教育の世界でも「考える力」は重視されていますが、西川さんのメソッドはそこに「子どもを丸ごと受け止める姿勢」が加わっているのが特長的ですね。まさに「違いを才能に」の理念が生きていると思います。

 問いを育て、挑戦をやりきる――中学生の実行力を支える伴走

ーー佐々木:西川さんのメソッドを実際に不登校のお子さんに適用された事例を、具体的に教えていただけますか。

西川:そうですね。印象的なのは中学生の男の子です。彼はいわゆる「なんでなんで」のタイプで、とにかく疑問をたくさん持つ子でした。

ーー佐々木:「なんでなんで」というのは、例えばどんなことを?

西川:例えば校則ですね。「なんで髪を染めちゃいけないの?」「なんでこのルールがあるの?」と、純粋に疑問をぶつけてくるんです。決して大人に反抗したいわけではなく、本当に「知りたい」から先生に聞く。でも学校の先生からは「決まっているから守りなさい」としか返ってこない。それで納得できずにモヤモヤしてしまうんです。

ーー佐々木:なるほど。「ルールだから」とだけ言われてしまうと、思考の余地がなくなってしまいますね。

西川:そうなんです。彼は「なぜそういうルールになったのか」「古いルールならなぜ変えられないのか」まで考えたい子なんです。だけど学校では受け止めてもらえない。「大人が考えてないじゃん」と彼自身が気づいてしまうんですよね。

ーー佐々木:それを西川さんとの関わりの中ではどう受け止めていったのでしょうか。

西川:私は彼の「なんで?」にとことん付き合いました。「こうあるべき」と押しつけるのではなく、「こんな可能性もあるよね」といろんな視点を一緒に探すようにしました。例えば「髪を染めるのは風紀が乱れるから」だけじゃなくて、「薬品が体に入って健康に影響があるかもしれないよ」という見方も提示します。彼のお母さんが健康や医療関係の仕事をしている方だったので、その知識も取り入れながら対話しました。

ーー佐々木:理屈で説明すれば理解できるタイプのお子さんなんですね。

西川:そうです。ちゃんと理由を知りたいんです。だからこそ「右もあれば左もあるし、上も下もある」と、なるべく偏らずに複数の考え方を提示して、「君はどれが一番しっくりくる?」と問いかけるようにしていました。

ーー佐々木:先生や親からはもしかすると「面倒な質問」とされてしまうかもしれませんが、西川さんはむしろ一緒に考える時間を大切にされていたわけですね。

西川:はい。そうすることで「この人なら自分の話を真剣に聞いてくれる」と信頼してもらえるようになったんだと思います。

ーー佐々木:その中学生のお子さんとはどうやって出会ったんですか。

西川:きっかけはコロナ禍のときに参加したビジネス交流会でした。そこでたまたま彼のお母さんと出会って、「うちの子が学校に合わなくて悩んでいる」と相談を受けたんです。それで後日改めて個別にお話をしていたら、お子さん本人も画面越しに顔を出して。そこから自然な流れで関わりが始まりました。

ーー佐々木:なるほど。最初から学習支援というより、出会いから自然に入っていった感じなんですね。

西川:はい。中学1年生の夏休みの頃から関わり始めました。今まで部活も習い事も長続きしなかった子だったそうですが、私との関わりは「やめたい」と言わないそうです。彼のなかで唯一続けられているのが、私との学びだそうです。

ーー佐々木:それは大きいですね。信頼関係が築けている証拠だと思います。

西川:そうだと思います。リアルで会ったことはなく、すべてオンラインですが、2週1回のレッスンと、私が運営しているオンライン自習室に参加する形で続けています。最初は個別が週1回、徐々に2週に1回に減らしつつ、自習室は週1回。合計すると月に5〜6回程度は関わっていることになりますね。

ーー佐々木:その自習室というのは、どんな仕組みなんですか。

西川:基本は自己管理です。各自が課題を決めて取り組み、それを写真に撮ってLINEで送ってもらう。私は自己管理のサポートとして関わっています。もちろんわからない問題があれば個別のときに教えることもありますが、基本は「自分で決めてやる」ことを大事にしています。

ーー佐々木:すごいですね。自分で決めたことをやり、報告する習慣が育っているわけですね。

西川:そうなんです。彼の場合は特に「自分で決める」ことにモチベーションがあるので、相性が良かったんだと思います。

ーー佐々木:中1から関わられてきて、最初はどんな印象のお子さんでしたか。

西川:一対一ではとても真面目に話ができる子でした。ただ、周囲に同年代の子がいると少し気が散ったり、ふざけたりする面もありましたね。学校という場ではそうした部分が目立ってしまって、先生とうまくいかないこともあったのかもしれません。

ーー佐々木:発達特性がある可能性も心配されていたそうですね。

西川:はい。ご家族も「グレーゾーンかもしれない」とおっしゃっていました。不登校になった時期もありましたし、「今月は行かない」と決めて1か月以上休んでいたこともあります。その分、家庭で自分なりの時間割をつくって勉強したりと工夫していました。

ーー佐々木:そうしたお子さんに対して、西川さんのメソッドはどのように機能したのでしょうか。

西川:私は「声をきく」「なんでなんで」に加えて、特に次の三つを意識していました。

  • 褒める:どんな小さなことでも「できたね」と認める。
  • 否定しない:子どもの言葉を頭ごなしに否定しない。
  • 待つ:子どものタイミングを尊重して急かさない。

例えば、レッスン中になかなか言葉を発することができない子もいます。そんなときも「今、考えてるんだよね」と声をかけて、沈黙の時間を大切にする。急かさずに待つことで、安心して話せるようになるんです。

ーー佐々木:確かに「待つ」というのは大人にとって難しいことですが、子どもにとっては安心につながりますね。

西川:そう思います。何もしていないように見えても、心の中では考えたり感じたりしている。それを信じて「待つ」ことが、信頼関係を築くうえで欠かせないと感じています。

ーー佐々木:中1から関わり始めて、今は中3とのことですが、この数年でお子さんにどんな変化が見えてきましたか。

西川:少しずつ大人っぽさが出てきましたね。対話の中でも建設的な会話が増えました。最近は「有名人を呼んでイベントを企画したい」というテーマで企画書づくりにチャレンジしています。

ーー佐々木:イベントの企画ですか!中学生でそこまで考えるのはすごいですね。

西川:はい。もちろん本当に有名人を呼べるかどうかは別として、企画を形にするプロセスを経験すること自体に大きな意味があると思っています。企画書を作り、アンケートを作って友達に答えてもらう。実現可能性を考えて事務所に問い合わせる。その一つひとつが学びなんです。

ーー佐々木:なるほど。アウトプットすることを前提にしているからこそ、現実的な力が育つんですね。

西川:そうですね。最初は「ファンレターを書いてみようかな」と言い出したところから始まったんです。返事が来るかどうかは別として、行動してみることが大切だと思っています。それをきっかけに「じゃあ次は企画書を書いてみよう」とステップアップしていきました。

ーー佐々木:本人の「やってみたい」という気持ちに寄り添いながら、一歩ずつ広げていかれたんですね。

西川:はい。箇条書きで出てきた彼のアイデアをもとに、私が「じゃあこれをつなげれば企画書になるよ」とアドバイスします。主体はあくまで本人です。自分の言葉をつなげて形にすることで、「自分でもできる」という実感を持てるようになってきました。

ーー佐々木:学校でも探究学習が取り入れられていますが、西川さんの関わりはそれ以上に「実行」に重点を置いているように思います。

西川:おっしゃる通りです。探究学習は「調べて発表する」までで終わることが多いと思いますが、彼とは「じゃあ実際にやってみよう」と次の段階に進めています。自分が叶えたい未来を考え、企画に落とし込み、実際に動いてみる。その過程に寄り添うのが私の役割です。

ーー佐々木:確かに、社会人になって初めて企画書を出す人が多い中で、中学生でその経験を積んでいるのは大きなアドバンテージになりますね。

西川:そう思います。将来会社員になるとしても、企画を立てて提案する力は必要です。中学生のうちからそのプロセスに触れておくことで、大人になったときに自然にできるようになるんじゃないかと思っています。

ーー佐々木:単なる「勉強の遅れを取り戻す」ではなく、「生きる力」を育てることにつながっているんですね。

西川:はい。もちろん定期テストや受験勉強も必要ですが、それ以上に「考えて動ける力」を持ってほしいと思っています。その力があれば、どんな環境にいても生き抜いていけますから。

ーー佐々木:ここまでのお話を伺うと、西川さんとの信頼関係があったからこそ、お子さんも安心して挑戦できているのだと感じます。

西川:そうですね。例えば欠席連絡一つでも、彼は親を介さず自己管理をしています。自己管理は親御さんの意向でもあります。甘えから適当な言い訳をしているときもあります。そういうときは、数回静観し、変わらないようであれば、「気づいてないわけじゃないよ」ということを伝えます。「君を信頼しているから最初は何も言わないようにしていたんだよ」と伝えるんです。

ーー佐々木:否定するのではなく、「信じているからこそ任せている」と伝えるわけですね。

西川:はい。すると「やっぱりちゃんとしなきゃ」と気づいてくれる。頭ごなしに注意するのではなく、信頼を前提に声をかけることで、自分で行動を修正していけるようになります。

ーー佐々木:大人でも同じですよね。信じてもらえていると感じると、自分から「ちゃんとやろう」と思えます。

西川:本当にそう思います。だから「待つ」ということも大切なんです。彼が自分から動き出すのを信じて待つ。そのスタンスがあるからこそ、本音を話してくれるし、新しい挑戦にもつながっているんだと思います。

ーー佐々木:今のお話を聞いていて、西川さんのメソッドの大きな特徴は「実行力の育成」なのではないかと思いました。

西川:そうですね。私自身も「行動力を育てること」が他の支援と大きく違う点だと思っています。探究や調べ学習は大事ですが、そこから一歩進んで「自分でプロジェクトを形にして動かす」経験を積ませる。これは子どもたちの自信につながります。

ーー佐々木:その経験はきっと高校、大学、社会人と進んでも活きてきますね。

西川:はい。自分でやりたいことを見つけて、それをどう実現するかを考える。その過程で自然と勉強の必要性にも気づきます。だから「やらされる勉強」ではなく「自分の想いを叶えるために必要なこと」としての勉強に変わっていくんです。

ーー佐々木:素晴らしいですね。まさに「不登校=マイナス」ではなく、むしろ「新しい学びの形」に出会うチャンスになると感じました。

西川:そう思います。不登校の期間は決して無駄ではなく、むしろ自分を見つめ直し、力を育てる大切な時間だと考えています。

親の不安に伴走する――孤独を和らげる“親支援”のあり方

ーー佐々木:まさに「信頼関係を築く」「探究を深める」「実行まで伴走する」という3つのステップが一貫しているからこそ、この中学生はここまで成長できたのだと感じました。

ただ、こうした成長の背景にはやはり家庭の支えも大きいのではないでしょうか。子どもが安心して挑戦するためには、親御さんの関わり方も大事になると思います。西川さんは親御さんへのサポートについてはどのように考えていらっしゃいますか。

西川:はい。実は「子ども支援」と「親支援」は切り離せないんです。子どもの自己肯定感や行動に大きく影響するのは、やはり家庭での関わりですから。

ーー佐々木:確かに、親御さんの声かけひとつで子どもの気持ちは大きく変わりますよね。

西川:そうなんです。特に不登校のお子さんをもつ親御さんは、「うちの子は大丈夫なんだろうか」「将来どうなるんだろう」と大きな不安を抱えています。その不安が子どもに伝わって、ますます動けなくなってしまうケースも少なくありません。

ーー佐々木:親が安心できれば、子どもも安心する。まさに連動していますね。

西川:はい。ですから私は、親御さんに「小さなできたことを一緒に喜んでください」と伝えています。たとえば1分でも机に向かったら「今日は机に座れたね、すごいね」と声をかける。勉強の量や成果よりも「できた瞬間を共有する」ことが大切なんです。

ーー佐々木:なるほど。成果ではなく、行動そのものを認めるんですね。

西川:そうです。親御さんはつい「もっとやりなさい」と言いたくなるんですが、それでは子どもにプレッシャーがかかって逆効果になります。できたことを認める方が子どもは「またやってみよう」と思えるんです。

ーー佐々木:とはいえ、親御さんにとっては「このままでいいのだろうか」という不安も常につきまといますよね。

西川:だからこそ、私は親御さんに「大丈夫ですよ」と伝えることを意識しています。子どもは必ず育っていきます。焦らなくても大丈夫なんです。

ーー佐々木:具体的には、どんな形で親御さんと関わっていらっしゃるんですか。

西川:最初の接点としては、個別の相談はもちろんですが、セミナーも開催しています。同じ立場の親御さんのことを知ると、「うちだけじゃない」と思えて安心できるんです。「共感してもらえる」という体験は本当に大きい。

そして、普段の関わりは、レッスンを始めたばかりの最初の1ヶ月くらいは、毎回のレッスンの後にレッスンの様子をラインなどでお知らせしています。

その際に必ず「できたこと」にフォーカスして、それを伝えるようにしています。

これには子どもだけでなく、親御さん自身にも自信を持ってもらいたいという思いもあります。親御さんは子どもにとって唯一無二の存在です。そのことに自信を持ってほしいと思っています。

「あなたほど、子どものことを愛し、大切に思っている人はいない」ということに自信を持ってもらったうえで、そのことが干渉しすぎにつながってしまわないよう、「親子の適切な距離」を意識してサポートしていきます。

そして、2ヶ月目から少しずつ、その報告の頻度を減らし、「親子の適切な距離」を意識して、干渉しすぎないよう、親御さんの自立も促します。

報告すべきことやタイミングとそうではないことやタイミングを見極めながら、親子双方の自立を促します。

そして、学期中に特に問題がなくても、長期休みの前は必ず保護者面談をするようにしていますので、年に少なくとも3回以上の面談をしています。

ーー佐々木:確かに、「わかる」と言ってもらえるだけで心が軽くなる瞬間、共感してもらえていると感じることで安心感につながることってありますね。学びの芽育の特長は、子どもだけでなく親御さんにもしっかり伴走しているところなんですね。

西川:そう思います。子どもと親御さんは表裏一体ですから。どちらか片方だけを支えても、根本的な安心にはつながりません。親子が一緒に少しずつ前に進んでいけるように、伴走していくことを大切にしています。

発達特性を伸ばす教育アプローチ――「違い」がある子との向き合い方

ーー佐々木:発達障害やグレーゾーンのお子さんについてもお伺いさせてください。不登校と重なっているケースも多いと思いますが、そういった子どもへのアプローチはどのようにされていますか。

西川:そうですね。発達障害やグレーゾーンのお子さんの場合は、まず特性を理解することが大事です。例えば「こだわりが強い」「予定が崩れると不安になる」「集中が続かない」「忘れ物が多い」といった特徴がある。その特性を理解したうえで、その子に合った工夫をしていきます。その子の特徴に応じてスケジュールを見える化して安心できるようにしたり、学習を細かく区切って短時間で達成感を味わえるようにしたりします。

ーー佐々木:つまり、まずは「特性を正しく理解し、その子に合った方法を提示する」ことが出発点になるわけですね。

西川:はい。大事なのは「できないことを責めない」ことです。特性によってできないことがあるのは当たり前なので、それを責めても意味がない。できる方法を一緒に探していく。これが学びの芽育のスタンスです。

ーー佐々木:なるほど。できないことを矯正するのではなく、できる方法を一緒に探すという視点ですね。

西川:そうです。そして、不登校と発達特性は切り離せないことが多いです。発達特性が背景にあることで学校生活に馴染めず、不登校になるケースも少なくない。だから両方をセットで見ていくことが必要だと思っています。

ーー佐々木:背景に発達特性があるかどうかを丁寧に見極めることが重要なのですね。

西川:例えば「忘れ物が多い」と先生から指摘されて、それが積み重なって「自分はダメだ」と思い込んでしまう子もいます。でもそれは発達特性によるものかもしれない。そこに気づいて支援してあげれば「ダメな自分」ではなく「工夫すればできる自分」になれるんです。

ーー佐々木:単なる行動上の問題に見えても、実は特性によるものかもしれない。その視点を持つことで、子ども自身の自己認識が大きく変わるということですね。

西川:はい。だから学びの芽育では、子どもの特性を理解して、それを才能として育てる視点で関わるようにしています。

ーー佐々木:実際の事例を伺えるとイメージが湧きやすいのですが、印象に残っているケースはありますか。

西川:そうですね。ひとりの小学生の例が印象に残っています。2021年当時、小学5年生でした。その子はとても強いこだわりがあることと、勉強が「できすぎる」ことが特徴でした。当時、コロナ禍で学校にも社会にも不満がたまっていたその子は、選挙の時期になると全政党のマニフェストを読み込んで政党の主張の矛盾点を洗い出すということをしていました。イーロンマスク氏へのあこがれもあり、「将来は政治家か起業家になりたい」と言っていました。そんな彼のお母さまには「この子勉強はよくできるんですけど、作文が全然で・・・」とのお悩みがありました。それで、「起業や政治をテーマに作文をしよう」と提案し、世の中の新サービスや新商品を調べたり政治についての彼の考えをアウトプットしたりして、文章化していきました。

そうすると、少しずつ学校への不満などもあまり気にならなくなってきたようで、周囲への不満を言うより自分の好きなことに集中している時間を楽しめるようになってきたんです。

ーー佐々木:まさに「好きなことを入り口にする」ことで学びへの扉が開いたわけですね。

西川:そうなんです。学校のカリキュラム通りにやろうとするとつまずいてしまう子でも、「好き」から入れば自分で学んでいける。そういう子はたくさんいます。

ーー佐々木:教育現場でも「子どもの興味を大事に」とはよく言われますが、実際にこれほど効果を発揮するのですね。

西川:特に発達特性のある子は、興味関心がものすごく深い分野があることが多いので、そこを大事にしてあげるとすごく力を発揮します。

ーー佐々木:逆に、難しかったケースもあるのではないでしょうか。

西川:はい。親御さんの子どもの成長への気づきや理解が追いついていないときは難しいですね。

実際にあった例で、2ヶ月くらいレッスンを受けたところで、「すみれ先生とのレッスンは楽しんでいるようだけど、子ども本人がどうしてもやりたい!と思うほどの強いパッションにはなっていないみたいなので、今月まででやめさせます」というような連絡があったんです。

ずっと不登校でほとんど学校に行けていなかった子です。

私との初回の体験のときもほとんど話をすることはできず、ずっとゲームをしていました。それで、体験当日は妹さんとお母さんと話しました。

その後、本人・妹、両方にそれぞれお手紙を書き、お母さん経由で本人に届けました。

それを読んだ本人が「この先生と勉強してみようかな」と「自分から」と言って始まったレッスンでした。

お母さんも「うちの子が自分から何かを始めると言ったことがなかったので、とても驚いています!」とおっしゃっていました。

そうして始まったレッスン。少しずつ、一歩ずつ変化を見せました。

1ヶ月目はレッスン時間に間に合ったことはなく、時間を過ぎて私からの連絡の後にZOOMに入ってきていました。でも、遅れる時間は少しずつ短くなっていたんです。

そして、2ヶ月目の最初の日、なんと、1分前にZOOMに入ってきました。

これは、本人にとってはとても大きな成長なんです。そのことは随時、お母さんにも共有していました。そして、少しずつ見守りましょうとお伝えしていました。

そうして、「ここからだ・・・!」と喜んでいた矢先に先ほどの「今月でやめさせます」の連絡です。

お母さんともよく話し、「本当に意義を感じなかったら今年いっぱい、または今年度いっぱいでやめてもいい」とお話しし、結果、現在も継続していますが、ここで本当にやめさせていたら、どうなっていたと思いますか?

これは、「失敗体験」になっていた可能性がとても高いんです。

そして、次に踏み出すのにはこれまでの何倍もの時間がかかります。

ーー佐々木:親御さんの不安や「目に見える結果がほしい」という気持ちが強すぎると、それがかえって子どもへにとって良くない結果になってしまう、ということですね。

西川:そうです。もちろん親御さんに悪気があるわけではありません。心配だからこそ「学びに強い思いを持ってほしい」「目に見える結果がほしい」と思う。でもその気持ちが強すぎると、かえって逆効果になってしまうことがある。そして、子どもにとっては負担が大きくなる。そこをどう理解してもらえるかが難しいところです。

このご家庭も良くお話をきくと、上の子が学校に行かないことに対して妹が「ずるい」と言うようになって、妹も行き渋ることが出てきたということでした。それで、お母さんもいっぱいいっぱいになって思考停止してしまっていたんです。

だからこそ、ここで学びの芽育での学びを止めると、妹はさらに上の子に対して「学校も行かなくてよくて、すみれ先生との学びもやめてよくて・・・なんで?!ずるい!!」となってしまいます。

親御さんも日常の生活があって、仕事があって、兄弟姉妹のこと全部考えないといけなくて・・・となると思考停止してしまいます。

だからこそ、親御さんと一緒に考える、視点の違う「もう一人の自分」「もう一人の親」として、寄り添うことが大切だと思っています。

ーー佐々木:だからこそ、親御さんとの信頼関係を築いて一緒に考えていく姿勢が大切になるのですね。

西川:そうなんです。

子どもが本気の思い・強い思いを持つときは、その前に親やその子に関わる大人が本気でその子の成長と向き合ったときなんです。

大人の本気が伝わらないと、子どもは安心できないと思います。

「また見捨てられるかもしれない」「また失敗だと思われるかもしれない」その不安が連鎖していくのではないかと思います。

子どもに向き合うことも、子育て・教育に向き合うことも、親御さんだけで抱えることではありません。だからこそ、「一緒に考えましょう」という想いですべてのご家庭と向き合っています。

「あなただけで抱えなくて大丈夫、一緒に考えましょう」

それをお伝えしていっています。

進学・復帰・別の道…子ども自身が納得できる選択肢を

ーー佐々木:学びの芽育に通うお子さんたちは、最終的にどういった姿を目指すのでしょうか。学校復帰や進学といったことがゴールになるのでしょうか。

西川:目指すゴールは一人ひとり違います。学校に戻りたい子もいれば、戻らずに別の学びの場を選ぶ子もいる。大事なのは「本人が納得して選ぶこと」だと思っています。

ーー佐々木:つまり、学校復帰を前提とせず、子どもの意思を尊重するのですね。

西川:はい。無理に学校復帰を目標にすることはしていません。進学についても「どうしたいか」を尊重します。高校に行きたい子もいれば、フリースクールで学び続けたい子もいる。本人が「これがいい」と思える選択肢を一緒に探すことがゴールです。

ーー佐々木:そのスタンスはとても共感します。実際に学校に戻った子もいれば、戻らずに元気に別の道を歩んでいる子もいる、どちらも正解だということですね。

西川:そうなんです。「学校に行くことだけが成功じゃない」ということを、親御さんにも子どもにも伝えていきたいんです。

ーー佐々木:確かに、親御さんは「学校に戻ってほしい」と自然に思ってしまうものですが、その気持ちにとらわれすぎると、子どもの選択肢を狭めてしまいますね。

西川:そうなんです。だから私は「学校に戻ること」ではなく、「自分で選べる状態になること」を目指しています。学校に戻るかどうかは本人が決めればいい。戻らなくても、自分で納得して別の道を選べたなら、それがゴールだと思っています。

そうして、将来、大人になったときも自分の人生を選択する力、自分で自立して生きていく力につながっていきます。

ーー佐々木:進路の選択肢という点では、高校進学ひとつを取っても「全日制」「通信制」「フリースクール」「オンライン」など多様ですよね。

西川:その通りです。大事なのは「どの選択肢を取ってもいい」と本人が思えることです。そのためには親御さんも学校以外の選択肢を知っておく必要があります。だから私は通信制高校やフリースクール、オンライン学習の情報も積極的に伝えています。「こんな道もあるんだ」と知るだけで親御さんの不安は和らぎますし、子どもも選びやすくなります。

ーー佐々木:親が選択肢を知っているかどうかで、子どもにかける言葉も大きく変わりますね。

西川:そうなんです。「学校に戻るしかない」と思っていると「早く戻りなさい」としか言えません。でも「他の道もある」と知っていれば「学校に戻るのもいいし、別の道もあるよ」と伝えられる。その一言で子どもはとても安心するんです。

ーー佐々木:選択肢を広げてあげること自体が支援になる、ということですね。では、不登校のお子さんや親御さんと関わる中で、一番大事にしていることを一つ挙げるとすれば何でしょうか。

西川:一つに絞るのは難しいですが、やはり「その子の声をきくこと」だと思います。大人が「こうした方がいい」と思っても、本人が望んでいなければ意味がない。本人が何を感じ、何を望んでいるのかを丁寧にきくことが一番大事です。

ーー佐々木:本人の声に耳を傾けることが出発点になるのですね。

西川:同時に「親御さんの声をきく」ことも大事です。親御さんも悩みを抱えていて、誰にも言えずに苦しんでいることが多い。だから親御さんの気持ちも丁寧にきき、受け止めてあげる。それが子どもの支援にもつながると考えています。

ーー佐々木:なるほど。ここまでのお話を伺っていると、「学びの芽育」は単なる家庭教師や学習支援を超えているように思います。教育と福祉、両方の視点を持つからこそできる関わりですね。

西川:私自身、教育と福祉の両方を経験してきたからこそ、「学び」と「生活」を切り離さずにサポートできると思っています。学習支援だけでも、生活支援だけでも不十分。両方をトータルで見ることが大事だと考えています。

ーー佐々木:確かに。さらに言えば、一人ひとりの子どもに合わせた「オーダーメイドの支援」が必要になるということですね。

西川:その通りです。不登校や発達特性のある子たちは本当に多様なので、マニュアル的に「こうすればいい」という答えはありません。一人ひとりに合った方法を一緒に探す。

子ども時代の今は、将来、大人になったときも自分の人生を選択する力、自分で自立して生きていく力をつけていく時期です。その力がつけば、その過程は学校でなくてもよいのかもしれません。将来、会社員になる人も、研究者になる人も、ゲーム好きがこうじてゲーム開発者になる人も、私のように起業する人もいます。今、学校に行かなくても、将来、自分の納得した道で自分で稼ぎ、生きがいや幸せを見つける力がつけば、その子にとっての正解はそこにあるのだと思います。そういう多様な学び方、そして、「生き方」を一緒に見つけていくのが「芽育」の支援です。

子どもが納得して動き出すために――関わり方で変わる小さなきっかけ

ーー佐々木:ここまで「学校に戻る以外の道も肯定する」という視点を伺ってきました。そのうえで、子どもが実際に動き出す瞬間にはどんなきっかけがあるのでしょうか。

西川:私のサポートで子どもたちが動き出すときに一番大きいのは「納得感」だと思います。安心できる環境と関係性をもとにした建設的な対話の場があれば、子どもは必ず自分から動き出します。逆に「やらなきゃ」とプレッシャーをかけられると、心を閉ざしてしまうんです。

ーー佐々木:確かに「納得できるとき」に人は一歩を踏み出しやすいですよね。

西川:そうなんです。例えばある子は、長い間学校に行っていませんでした。小学校低学年だったのですが、自分の作品で個展をすると自分の意志で決めました。もちろんこちらからいくつか選択肢は提示しています。例えば、自分の作品集をつくるとか写真集をつくるとか、作品自慢用のインスタアカウントをお母さんに運用してもらうとか・・・。そのなかで「自分の作品を飾って自分で自慢する場をつくることもできるんだよ、そういうのを『個展』っていうんだけどね」とも声をかけていました。そういった提示した選択肢の中からその子は「自分の意志で」個展を選んだんです。

個展の準備を進めていくなかで、チラシもつくりました。そのチラシを1人でも多くの人に配りたい、個展に1人でも多くのお友だちに来てほしい。そう思っている中で気づいたんです。「学校に行けばお友だちにチラシを渡せる」と。

ーー佐々木:なるほど。大人が「変わらなきゃ」と急がせなくても、納得感が得られれば自然と子どもは自分で動き出すんですね。

西川:はい。そしてその動き出しは本当に小さなものです。午後だけ学校に行ってみるとか、給食の時間だけとか・・・。まずはその程度。でも、その小さな一歩を「よくできたね」と一緒に喜んであげることが、次の一歩につながります。

他の子で「したいこと」をきいても、なかなか出てこない子がいました。質問を変えて「じゃぁ、したくないことは?」「これだけは絶対したくない・こうはなりたいくないっていうのでもいいよ、思いつくことはある?」と問いかけると、「勉強したくない」というんですね。

「そっか。わかった。じゃぁ、勉強しなくても生きていける方法を一緒に考えよう」というと、「うん」と答えました。こんなことは?あんなことは?と私から声をかけながら、しばらく一緒に考えていると、ぼそっと言ったんです。「その方が難しいかも」と。

そして、「普通に勉強してる方が意外と楽なのかも」ということに「自分から」気づく。だから、取り組まないといけないことだということに「納得感」が芽生え始める。

そうした芽生えた瞬間はとても小さな小さな出来事かもしれません。でも、それがのちにとても大きいものになります。

ーー佐々木:小さなきっかけを大切にする、ということですね。

西川:そうです。親御さんはどうしても「学校に毎日行く」「今、目の前で勉強を進める」といった大きな変化、「大人が考える『普通』」を求めてしまいがちです。でも実際の子どもの成長は、大人の「普通」が通用しないことは多く、もっと小さな段階を踏んで進んでいきます。その小さな気づき、小さな一歩を一緒に大切にできるかどうかで、次の変化のスピードも変わると思います。

ーー佐々木:それはとても大事な視点ですね。親御さん自身が「小さなできたや変化を見逃さない」ことが大切になりそうです。

西川:そうですね。だから私は「できた瞬間を一緒に喜びましょう」と繰り返しお伝えしています。勉強でなくてもいいんです。今回のケースのように個展なんて大きなことでなくていいんです。散歩に出られた、友達とLINEでやりとりできた、親のサポートなしで自分で私のレッスンに来られた、「勉強した方がしないより実は楽なのかもしれない」と気づけた、そんな日常の中の一コマを認めてあげる。それが安心と自信の種になって、やがて納得感を伴った大きな動きにつながっていきます。

ーー佐々木:子どもにとって「親に認められた」という実感は大きなエネルギーになりますよね。

西川:本当にそう思います。特に不登校のお子さんは「どうせ自分なんて」と思いやすいので、「あなたの一歩をちゃんと見ているよ」と伝えてあげることがとても大事なんです。

そして、その子が動き出すときにはその子の心からの「納得感」が何よりも大切なんです。

ーー佐々木:なるほど。安心を積み重ね、小さなきっかけを大事にすること、そして心からの納得感が、子どもが動き出す一番の原動力になるんですね。

西川:はい。子どもは本来、前に進む力を持っています。大人ができるのは、その力が安心の中で自然に芽を出すのを待ちながら、子どもたち自身が納得できる一歩を一緒に探し、動けたときには一緒に喜ぶことだと思っています。

子どもと大人が共に育つ社会へ――西川寿美礼さんが描く未来

ーー佐々木:ここまで伺ってきて、不登校支援といっても単に「学校に戻す」ことではなく、子どもが自分らしく生きられるように伴走することだと実感しました。最後に、西川さんがこれから描いている未来についてお聞かせいただけますか。

西川:私が目指しているのは「支援という概念がいらなくなる社会」です。「違い」が異質なものとか障害とかとして認識されるのではなく、それを「才能」として活かしあえる社会です。「違い」をいかすことで、お互いの強み・才能を生かし合って、苦手なことは補い合う、そういうことが当たり前に循環していく社会を目指しています。

そのような社会を実現するためには、子どもたちの「今」においては、特性があっても、不登校であっても、「その子に合った環境で学ぶのが当たり前」になっていくことが必要です。そのためには、子どもだけでなく大人も一緒に学び、育っていくことが大切だと思っています。

ーー佐々木:「大人も一緒に育つ」というのはどういう意味でしょうか。

西川:例えば親御さんが「子どもを変えよう」とするのではなく、「自分も学んで変わろう」と思えることです。子どもに安心を与えるには、親自身が安心して生きることが欠かせません。親が変われば、子どもも変わる。これは本当に実感しています。

ーー佐々木:なるほど。子どもと親が同じ方向を見ながら共に育っていくというイメージですね。

西川:はい。そしてそれは親子に限りません。先生や地域の人、社会全体が「子どもと共に育つ」という姿勢を持つことが、不登校をめぐる環境を変えていくと思います。

ーー佐々木:確かに「学校に合わなかったら終わり」ではなく、「他の道もある」「違いが才能になる」と思える社会であれば、子どもも大人もずっと生きやすくなりますね。

西川:そうですね。「違いを才能に」という想いは、そのまま社会の在り方にも広げていきたいです。誰もが自分らしさを持ち寄って協力できる社会であれば、不登校が問題になる世の中ではなくなる日が来ると思っています。

ーー佐々木:最後に、不登校の子どもを持つ親御さんに向けて、一言いただけますか。

西川:はい。実際に保護者の方にお伝えしたことをここでもシェアしますね。

「子どもが自分自身や自分の学びと本気で向き合えるためには、その前に親が、周りの大人が、その子の成長と本気で向き合うことが必要です」と伝えました。

「その子の成長と本気で向き合う」のは親だけの責任や役割ではありません。社会の大人たちの、子どもの周りにいるすべての大人たちの責任と役割です。

「あなた一人で抱え込まなくていい、一緒に考えたいと思っている人がここにいます」

このことを強くお伝えしたいと思います。

子どもを信じることは「自分を信じること」でもあります。

あなた以上にあなたの子ども愛している人は、大切に思っている人は他にいない。

そのことを、そういう自分自身を信じてあげてください。

自分を信じることには自分と向き合うことが伴います。それは時として、とても苦しいこともあると思います。

だからこそ、私がいます。私はここにいます。

あなたがあなたのお子さんと、あなたのお子さんが自分自身と、本気で向き合えるように、そのサポートをするために、私が、あなたと、あなたのお子さんと、本気で向き合います。

子どもたちが自分の力で自立して生きていけるよう、一緒に考えましょう。

子どもたちは今は動けなくても、大人の本気を感じると、動き出せる自分のタイミングを見つけます。そうして動き出したときに「よく頑張ったね」と言ってあげられるように、どうか、あなた自身を信じて、焦らず寄り添ってほしいと思います。

ーー佐々木:本当に力強いメッセージです。今日のお話を通して、不登校は「止まっている時間」ではなく「未来につながる時間」なのだと改めて感じました。西川さん、貴重なお話をありがとうございました。

西川:ありがとうございました。

編集後記

今回の取材を通じて、「違いを才能に変えるプロセス」の一端を垣間見ることができました。信頼を築き、問いを深め、そして実行に至るまで伴走する――この三段階が切れ目なくつながることで、子どもの「違い」が「才能」へと変わっていく。その核心の一部を、西川寿美礼さんの実践から感じ取ることができました。

現実には、多くの支援が分断されています。 カウンセラーは信頼関係の構築で止まり、学校は探究の枠組みまでは整えても実行の伴走には踏み込めません。逆に実行を急げば、土台となる信頼が欠けて空回りしてしまいます。専門領域ごとの強みと限界が、そのまま支援の断絶を生んでいるのです。

西川さんの卓越性は、まさにその「切れ目」をつくらない点にあります。教育(塾)、福祉、そしてビジネス――三つの領域を横断的に学び、実践してこられた経験が、信頼・探究・実行を一貫して結びつけることを可能にしているのです。

「違いを才能に」。この理念を現実に落とし込む方法は、西川さんの歩みにこそ表れていると感じました。支援の常識を越境し、学びを統合して実践に変える。その姿勢こそが、子どもの「違い」を「才能」へと確かに転化させているのだと思います。

もし今、

  • 不登校が続き、将来への不安で胸がいっぱいになっている方
  • わが子の発達特性にどう向き合えばよいか迷っている方
  • 勉強の遅れや進路の選択に悩んでいる方
  • 子どもの個性が親である自分と違いすぎてどうしてよいか悩んでいる方

こうした思いを抱えておられる方は、一度西川さんに相談されてみてください。子どもと親御さん、双方に寄り添いながら「違いを才能に」変えていく伴走者として、きっと新しい道を一緒に描いてくださるはずです。

学びの芽育HP:https://manabinomake.net/

執筆者
佐々木章太 (ささきしょうた)
株式会社すららネット 子どもの発達支援室 室長/あした研究室 編集長
ICTを活用した家庭学習支援の専門家として、不登校・発達障害・学びづらさを抱える子どもと保護者に寄り添った支援メソッドを構築してきた。2015年より「出席扱い制度」の普及に取り組み、文部科学省への提言、自治体との連携、申請書支援などを通じて、延べ2,000名以上の出席認定支援に携わる。現在は、教材開発、保護者支援、コーチ制度の設計などを担い、学習の継続と自己肯定感の回復を両立する家庭学習の仕組みづくりを推進。教育現場や家庭の声をもとにした発信にも注力し、「あした研究室」編集長として不登校支援に関する実践的な情報を届けている。デジタルと人の力をかけ合わせた、“子どもが前を向く学びの場”の創出をライフワークとしている。