不登校や発達障害を抱える子どもたちを前に、親や教師は何を感じ、どう支えていけばよいのか。今回お話を伺ったのは、愛知県で29年間にわたり小学校教員として勤務し、現在は心理カウンセラーとして不登校家庭の親子支援に取り組む柴垣 友佳里氏。
「支援すべきはまず親御さんの心」と語るその言葉には、現場の最前線で子どもたちと向き合い続けた経験と、心理的支援の実践知がにじみ出ます。教室の外でこそできる支援がある。学校、家庭、地域の垣根を越えて、今求められる“不登校支援のあり方”を共に見つめます。
KCS認定心理カウンセラーに聞く——すららコラム編集部インタビュー
プロフィール
KCS 認定心理カウンセラー
くれたけ心理相談室 江南支部/柴垣 友佳里 さん
愛知県名古屋市生まれ、江南市育ち。愛知教育大学卒、小学校教員として春日井・小牧・犬山・江南市、大口町で29年間勤務。3人の子の母でもある。心理資格取得後、発達障害・不登校の子どもと家族を支えるべく50代で転身。現在は江南市を拠点に、対面・訪問・オンラインでの丁寧なカウンセリングを通じ、子どもも大人も自分らしく歩めるよう寄り添う活動を続けている。
くれたけ心理相談室 江南支部HP:https://yukari.counseling1.jp/
教員時代に感じた取りこぼされる子どもたちへの違和感
ーー佐々木:本日はお時間をいただき、ありがとうございます。これまでのご経験や現在の取り組みについてお伺いしてもよろしいでしょうか。
柴垣:ありがとうございます。私は大学卒業後すぐに教職に就きまして、愛知県の公立小学校に採用され、24年間学級担任として、5年間算数の少人数指導教員として、教壇に立ってまいりました。
柴垣:教員生活の中で常に感じていたのは、教室という集団の場では、どうしても取りこぼされがちな子が存在するという現実です。1クラスに30数人の児童がいる中で、いつも後ろからそっとついてくるような子たち。学習のスピードや人との関わり方に独自のリズムを持つ子どもたちが確かに存在しました。
柴垣:当時はまだ、発達障害という言葉や診断が今ほど一般的ではありませんでしたが、明らかに個性の強い子どもたちや、何らかの困りごとを抱えるご家庭は少なくなかったと思います。親御さんも本当にご苦労されていました。
柴垣:もちろん、校内でも支援体制を整える努力はしていましたし、学級担任や特別支援担当、スクールカウンセラーなどと連携する機会もありました。ただ、それでも制度や時間の枠を超えて関わることの難しさに直面することが多かったのです。
柴垣:そうした中で、「一人ひとりの子どもに、もっと丁寧に向き合う時間が必要なのではないか」と考えるようになりました。そして、自身の家族の事情もあり退職を決意し、そこからは不登校や発達障害のあるお子さんを対象とした家庭教師としての活動を数年行いました。そのなかで、保護者の方と直接関わる機会が増え、「もっと心の部分に寄り添いたい」という思いが芽生えるようになりました。
柴垣:訪問型で数軒のお宅に伺い、主に学習支援を行っていたのですが、実際に関わってみてすぐに気づいたのは、「子ども以上に、親御さんが深く悩まれている」ということでした。お母さま方が抱えていらっしゃる葛藤や不安は非常に大きく、勉強を教えることと同じ、あるいはそれ以上に、保護者の心のケアが必要だと感じる場面が多かったです。
柴垣:しかし、親御さんが安心して悩みを語れる場所というのは、驚くほど少なく、自治体の相談窓口もあるにはあるのですが、件数が多く一人ひとりに丁寧に寄り添うのは難しい現状もあるようで…。であれば、個人としてもっと深く関わりたい。そう思い、心理カウンセリングの道へと進むことを決意しました。そして現在は、「くれたけ心理相談室」の一員として、江南支部のカウンセラーを務めながら、愛知県・岐阜県を中心とした地域の親子支援に携わっています。
ーー佐々木:ありがとうございます。今のお話、まるで私たちが日々直面していることそのままで…デジャヴを覚えるほど共感いたしました。
ーー佐々木:私どもが開発・提供している「すらら」という教材も、もともとは“学び”を切り口にしたICT教材ではありますが、無学年式という特徴との相性の良さも相まって不登校や発達障害のお子さんのご利用が非常に多くなってきています。そうなると、単に「勉強をサポートする」だけではなく、ご家庭全体、特に保護者の方の心の状態にまで踏み込んでサポートする必要があると、私たちも強く実感するようになりました。
ーー佐々木:お子さんが前に進むためには、まず親御さんの安心が欠かせない。その点で、柴垣先生が家庭教師からスタートされ、親御さんの苦悩を直接見てこられたというご経験は、まさに今の支援に直結していると感じます。さらに、現在心理カウンセラーとして活動されているというのも、私たちが今まさに注力している“保護者支援のあり方”にとても近いところで、ぜひ学ばせていただきたいと思いました。
柴垣:ありがとうございます。そう言っていただけて、私もお話しして良かったです。

必要な時に近くで支える”くれたけ心理相談室”の理念と仕組み
ーー佐々木:くれたけ心理相談室さんのことについて少し教えていただけますか。
柴垣:はい。くれたけ心理相談室には全国の支部があり、代表は竹内嘉浩さんという方です。私はそのビジョンに共感し、江南支部として活動しております。詳しくは公式の全国サイトに記載されていますが、代表が掲げておられるのは「全国どこにいても、30分以内に心理カウンセラーに会える体制を作りたい」という明確な目標です。
柴垣:クライアント様の視点に立って、「必要なときに、近くで、すぐに会える」環境を整えたいというその想いに、非常に感銘を受けました。私もいろいろな相談室を調べていたのですが、このようなビジョンを掲げているところは他にありませんでした。
柴垣:「くれたけ」では、本当にクライエント様に役立てることは何かを常に考え、たとえばクライアント様との相性が合わなければ、ご本人に相談の上、他の相性の合いそうな、または分野により精通したカウンセラーをご紹介するという姿勢が持たれています。「自分のところに来てくれさえすればいい」というのではなく、「困っている方のためにできることを」という価値観を共有できる点に、非常に共感しました。
柴垣:代表は現在も面談を通じて、信頼できる方を少しずつ仲間に加えておられます。そして、その方が活動できる地域で支部を立ち上げていくという形式で、全国そして海外にも展開されています。
ーー佐々木:非常に興味深いお話です。世界規模の支援体制を築きつつも、地域密着の視点がうまく融合しているのですね。たとえば「くれたけ流」のカウンセリングスタイルといった指針のようなものは存在するのでしょうか?それとも、各カウンセラーの裁量に委ねられている部分が多いのでしょうか。
柴垣:基本的には、それぞれのカウンセラーの専門性と経験が尊重されています。ただし、採用の際には必ず何らかの心理系資格を取得していることが条件となっております。どの資格かは問われませんが、体系的に学び、きちんと修了していることが前提です。
柴垣:その上で、希望者には「くれたけ」内のカウンセリングスクールでカリキュラムを学ぶことも可能です。すでに活動を始めている方でも、さらなる学びを求めてスクールで研鑽を積まれている方は少なくありません。
柴垣:ただし、その修了が必須というわけではなく、あくまで自発的な学びの場として位置づけられている点が特徴です。皆さん、ご自身のカウンセラーとしての力量を、たゆまず磨き続けておられる印象です。

ーー佐々木:なるほど。非常に柔軟で、かつ質を担保する仕組みが整っている印象を受けます。
柴垣:ありがとうございます。実際にご相談を受けて感じるのは、子どもの支援以上に、保護者の方がどれほど葛藤を抱えておられるかということです。とくに、不登校や発達障害のケースでは、「どこにも相談できない」「誰にもわかってもらえない」という孤独感が、親御さんの心を深く蝕んでいることも少なくありません。
柴垣:ですので、「安心して話せる場所」であることが、相談室のいちばんの役割だと思っています。こちらがどう導くかというより、まずは「どんなことでも否定せずに受け止める」姿勢を大切にしています。そのうえで、少しでも肩の荷が下りるような関わりができたら、という気持ちで日々の面談に臨んでいます。

”その子の世界”に寄り添う支援|感覚でつなぐ関わりのかたち
ーー佐々木:柴垣先生ご自身のこれまでのご支援の中で印象的だったケースやエピソードがあれば、お聞かせいただけますか?
柴垣:ありがとうございます。過去に関わらせていただいたお子さんで、今では元気に学校生活を送っておられる方の例を紹介させてください。
柴垣:そのお子さんは幼い頃に発達障害の診断を受けていました。保育園までは何とか集団に適応していたものの、小学校の2〜3年生頃からだんだんと集団生活が難しくなり、不登校傾向が強まりました。
柴垣:ご家庭では「このまま公立中学校へ進学させてよいのか」という不安が強くなり、私立の一貫校を受験させたいというご希望をお持ちでした。理由としては、私立の学校のほうが子どもの個性に寛容で、伸び伸びと学べる環境が整っているのではないか、と考えておられたからです。もちろん学校ごとに実際の対応はさまざまですが、ご両親にとっては、それも選択肢の一つだったのだと思います。
柴垣:私が関わったのは、小学校高学年の時期でした。そのお子さんは、文字や図の認識、人との関わり方など、非常に独自の感覚を持っていました。たとえば絵を見たときの印象や表現が、大人が想像しないような観点から語られるのです。
柴垣:もともと私は、感覚的にそうした子どもの世界を受けとめやすいタイプなのかもしれません。「どうしてこの言葉を選んだのかな」「なぜ今、こういう反応をしたんだろう」と、言葉になる前の思いや動機のようなものが、ふと伝わってくる瞬間があるのです。
柴垣:たとえば、国語の物語文の読み取りでは「この子は一文ずつ交代で読むと、うまくいきそうだ」と感じました。「。」がついたところで交替するゲームのような感覚です。決まりごとがあると集中しやすいタイプのお子さんだったということもあり、「次、先生の番だよ」と声をかけてくれるようになりました。
柴垣:読み進めるなかで、「主人公の〇〇はどうしてこんなふうに言ったんだろう?」と問いかけてみると、その子ならではの捉え方が返ってきます。その感性は本当に素敵なものでした。けれど一方で、お母さまからは「テストでも点がとれるようにしてほしい」とのご要望もありましたので、その子の世界を大切にしつつ、一緒に物語の中に入っていくようにして、イメージの中で体験しながら、別の視点もあることをそっと添えるようにしていきました。
柴垣:そのようなやり取りを重ねるうちに、少しずつテストの点も取れるようになっていきました。発達に特性のあるお子さんや不登校傾向のあるお子さんにとって、学びは頭だけで行うものではなく、日々の生活や人生そのものと深く結びついていると感じています。その子の心に触れるようなかたちで、学びの時間を共に過ごすことができたことは、私にとっても貴重な経験として心に残っています。

ーー佐々木:なるほど。その柔軟なアプローチと、言葉にならない“その子のリズム”を汲み取る感覚、まさに柴垣先生のご経験と感性の賜物だと感じます。そうした対応力は、保護者の方々にとっても非常に大きな支えになったのではないでしょうか。
柴垣:ありがとうございます。私自身は、理論よりも感覚で捉えることの多いタイプです。「今はこんなふうに進めてみよう」と、そのときの子どもの様子に合わせて、直感的に関わり方を選ぶことがあります。ぬいぐるみやボール、積み木など、その子が安心して触れられるものを使いながら、自分の気持ちを表してもらうこともあります。
柴垣:言葉だけでは、自分の内面をうまく伝えられない子も少なくありません。そんなとき、“遊び”を通して心の動きが見えてくることがあるのです。
柴垣:また、事前にご希望があれば、箱庭を使ったカウンセリングを行うこともあります。箱庭には、言語化しにくい感情やイメージが映し出されることがあり、無理なく子どもの心に近づく手がかりとなることがあります。
柴垣:もちろん、お子さんによって全く対応は異なりますし、同じ方法が別の子に通用するとは限りません。その子の特性を“肌感覚”で捉えることが、何よりも大切だと感じています。
ーー佐々木:まさにそこが、保護者の方にはなかなか難しい部分かもしれません。たとえば同じ声かけをしても、まったく違う反応が返ってくる。そういう子どもに対して、どう距離を取っていくのかを悩まれている方が本当に多くいらっしゃいます。
ーー佐々木:柴垣先生のように“自然にチューニングを合わせられる”というのは、ある種の職業的な技能かと思います。それを言語化することは難しいかもしれませんが、先生ご自身ではどう捉えていらっしゃいますか?
柴垣:そうですね…。私はどちらかというと視覚や聴覚ではなく、「体感覚」で捉えるタイプだと思っています。ですので、言葉ではうまく説明できないこともあるのですが、その子が今どういう状態にあるか、感覚的に“伝わってくる”ように感じることがあります。
柴垣:ただ、そうした感覚に頼るばかりでなく、私は常にご家庭との連携を意識しています。たとえば毎回のセッション後には、「今日はこういうことをしました」「こういうやり方が合っていたようです」といった内容を、必ずお母さまにお伝えするようにしています。
柴垣:そうすることで、お母さま自身も日常の中で「なるほど、だからこの行動をしていたのか」と納得してくださることが多く、一緒にその子どもを支える“チーム”のような関係性を築けるのだと感じています。

ーー佐々木:非常に印象的なお話です。支援者として一方的に導くのではなく、保護者と共に“子どもを理解する伴走者”として関わる、その姿勢がひしひしと伝わってまいりました。
柴垣:ありがとうございます。やはり、私だけが理解していれば良いというものではなく、保護者の方が安心して伴走できるようになることが、支援の核心だと思っています。
ーー佐々木:そのとおりですね。私たちもメールやLINEでのやり取りを中心に支援を行っておりますが、文字情報だけでは伝わらない“行間”のようなものがあると常々感じています。
ーー佐々木:ですので、可能な限り相手の背景や心情を想像しながら丁寧に返信し、文章の行間から温度感が伝わるように意識しています。ですが、それでもなお、対面での関わりには敵わない部分があることも痛感しています。
柴垣:その点、私もまさに同感です。やはり、五感すべてでその子の状態を受け止めるには、対面での関わりが最も有効です。もちろんオンラインの良さもありますが、私は訪問型だからこそ気づけることがたくさんあると感じています。
感覚と対話から導く、子どもに届く学習支援
ーー佐々木:先生は訪問型で活動されているとのことですが、例えばご家庭の中で、お子さんの学習の傾向やタイプを見極める際に、どのような視点を重視されていますか?
柴垣:はい、私は基本的に、実際にお子さんの様子を目で見て、その場で感じ取ることを大切にしています。たとえば「この子は視覚からの情報が入りやすい」「耳から聞いたほうが理解しやすい」「体を動かしながら覚えると定着する」など、その子の特性は本当にさまざまです。
柴垣:それを見極めるには、やはり実際の行動や反応を直接観察することが一番確実だと感じています。オンラインではどうしても伝わってこない部分が多く、その意味でも訪問型での支援が私には合っているように思います。
柴垣:また、ご家庭の雰囲気や保護者の方の価値観も、非常に重要なファクターになります。お子さんの特性と親御さんのタイプが一致している場合はスムーズですが、実際にはその逆のケースも多く見受けられます。
柴垣:たとえば、親御さんが「自分はこうやって勉強してきたから、子どもにも同じやり方をさせたい」と考えていらっしゃることがあります。しかし、その子の認知スタイルや感覚は全く異なっていて、同じやり方では成果が出ないということも少なくありません。
柴垣:ですので、私はまず「この子にはこういうタイプのアプローチが合っていそうです」と丁寧に説明し、ご自身の成功体験はいったん横に置いていただいたうえで、最適な支援法をご一緒に模索するようにしています。

ーー佐々木:非常によくわかります。私たちも希望されるご家庭には、KABCという認知特性検査を提供しておりまして、その結果に基づいて「この子は同時処理型で、イメージで捉えるのが得意です」といったアドバイスを行っています。
ーー佐々木:柴垣先生の場合は、そうした検査のようなツールを使わず、現場での観察と感覚的な分析でお子さんの傾向を把握されているということですね。
柴垣:はい、その通りです。今のところ、検査ツールの導入はしていませんが、目の前の子どもをよく観察し、対話を重ねる中で見えてくるものがたくさんあると感じています。
柴垣:それと同時に、私は「生活リズム」と「栄養面」にも強く関心を持っています。近年の子どもたちは、昔に比べて栄養不足が顕著で、たとえばセロトニンやドーパミンといった脳内物質を生成するために必要な栄養素が足りていないケースが少なくありません。
そうなると、どうしても集中力が続かない、イライラしやすい、疲れやすいといった傾向が見られます。食事の内容を見直したり、プロテインやビタミンのサプリメントを取り入れるだけでも変化が見られる場合があります。
また、夜眠れない、朝起きられないというお子さんには、睡眠環境の見直しや光の取り入れ方を工夫するようにお伝えすることもあります。ですから、学習面だけでなく、ご家庭の生活全体を視野に入れて支援することが大切だと感じています。
ーー佐々木:なるほど。非常に包括的な支援をされていらっしゃるのですね。勉強という枠を越えて、子どもたちの“生きる土台”そのものを整える支援だと感じます。
柴垣:ありがとうございます。私の支援の軸には、「子ども一人ひとりの育ちをトータルで見つめる」という考え方があります。学力だけでなく、生活力、感情の安定、人との関係性など、どの部分も大切にしていきたいという思いが根底にあります。
ーー佐々木:本当に共感します。我々も、ICT教材という形を取りながら「自分を肯定できる子に導く」ことを目的の1つとして置いています。そのためには、勉強だけでなく、環境づくりや保護者との関係性まで含めた支援が欠かせないと日々感じています。

「不登校は気づきのチャンス」ーー保護者・教育関係者へのメッセージ
ーー佐々木:では最後に、この記事を読んでくださる保護者の方、あるいは教育関係者の皆さまに向けて、柴垣先生からメッセージをお願いできますでしょうか。
柴垣:はい。まず、発達障害や不登校のお子さんを育てていらっしゃる保護者の皆さまへ――これまで、きっとたくさんの大変な思いや葛藤を抱えてこられたことと思います。日々の戸惑いや、周囲との違和感、先の見えない不安や焦り…。そんな気持ちと向き合いながら、日々を過ごしてこられたのではないでしょうか。
柴垣:でも、「なぜこの子がこんな行動をとったのか?」「どうしてこんな言葉を発したのか?」ということが少しずつ理解できてくると、その子の中にある独自の価値観や豊かな感性に気づけるようになります。それは、他の誰にも真似できない、その子だけの宝物だと思います。子どもたちが持っている“そのままで素晴らしい部分”に気づいていただきたいのです。特に不登校は、ただの問題行動として片付けられるべきものではなく、「今、休む必要がある」というサインであることも多いと感じます。ぜひ、そこに目を向けていただきたいのです。そして、不登校という現象についてですが、「学校に行けない」ということがすべての問題ではありません。私はむしろ、それがきっかけとなって、お子さんの本当の特性や生き方に気づける“チャンス”が訪れたと捉えています。
柴垣:私は、子どもたちと関わるとき、いつも「夢を配るような存在でありたい」と思って接しています。すぐに効果が見えなくても、心のどこかに灯をともせたらいいなと。たとえ小さな一言であっても、それがその子の中で「私は大丈夫かもしれない」と思えるきっかけになると信じています。もちろん、親御さんだけで抱え込むのはとても大変なことです。だからこそ、専門家とつながって、一緒に悩みながら、一緒に歩んでいくことが大切だと思っています。どうか、おひとりで抱え込まず、声をあげていただけたらと願っています。

柴垣:そして、教育現場の先生方へも、心から敬意を申し上げたいです。日々、何十人もの子どもたちと向き合っておられる中で、すべてに目を配ることの難しさは、私自身の教員時代を通じて痛いほど理解しています。それでも、学校でしかできない教育――集団で学び、社会性を育み、喜びや悔しさを共有する経験――そうした場の価値は、今もこれからも変わらないと信じています。
柴垣:だからこそ、学校の先生方と、私たちのような地域の支援者が手を取り合い、子どもたちの健やかな育ちを支えていけたらと心から願っています。
ーー佐々木:ありがとうございます。保護者の方への温かなまなざし、そして教育現場への敬意がにじむお言葉に、私自身も非常に胸を打たれました。柴垣先生が仰った「夢を配る」という表現がとても印象的です。支援とは、知識や技術を教えることにとどまらず、子どもや保護者の心に“希望”という光を灯すことなのだと、あらためて感じました。
柴垣:ありがとうございます。少しでも、誰かの心に届いていれば嬉しく思います。
ーー佐々木:本日は本当に貴重なお話をたくさん伺うことができました。いただいた言葉一つひとつが、今まさに悩みの中にいるご家庭や、現場の先生方への大きな励ましになると確信しています。
柴垣:こちらこそ、丁寧に聞いていただき、ありがとうございました。
【編集後記】
柴垣さんとの対話の中で、何度も空気が静かに揺れる瞬間がありました。それは、言葉の表面をなぞるのではなく、心の深いところにそっと触れるような語りが続いたからだと思います。支援の現場では、効率や正解が求められる場面も少なくありません。しかし柴垣さんは、目の前の人の“いま”を全身で感じとり、その場その場で最も自然なアプローチを見出していきます。技法や知識を超えた、人としての関わりの力。誰かの迷いや手探りの日々に、そっと寄り添う記事となっていれば幸いです。