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不登校は「学校に行けなくなった日」が始まりではない|児童精神科医に聞く親子を学校や支援につなぐ医療の役割

「どうして学校に行けないのだろう」「病院へ連れて行った方がいいのだろうか」と悩みながらも、子ども自身が理由をうまく説明できなかったり、家から出ることさえ難しかったりする場合、医療機関へ相談することにもハードルを感じてしまう保護者は少なくありません。

「精神科というと、少し構えてしまう方もいると思います。でも、困っていたら気軽に相談してほしいんです」

そう話すのは、むすびメンタルクリニック院長の植家雄士先生です。

植家先生が大切にしているのは、診断名だけを見るのではなく、「今、その子がどんな状態にあるのか」を一緒に考えること。そして、医療だけで抱え込まず、学校や福祉、カウンセリングなど、親子に必要な支援へつないでいくことです。

今回は、不登校や行き渋りを児童精神科医はどのように捉えているのか、不登校になったばかりの時期に家庭で大切にしたいこと、発達特性との関係、カウンセリングや医療機関への相談の目安について伺いました。

むすびメンタルクリニック院長  植家 雄士

植家 雄士

精神科医

むすびメンタルクリニック院長
植家 雄士 (うえか ゆうじ)

不登校やお子様の発達、こころの不調に直面されたとき、1人で抱え込んで不安や孤立感を深めてしまわれるご家族は少なくありません。
当院の『むすび』という名前には、人と人とをむすびつけたいという私たちの想いが込められています。人を悩ませるのは人であることが多いですが、同時に人を癒やすことができるのもやはり『人』です。1人で悩むあなたに寄り添い、一緒に解決方法を見つけていく存在でありたいと考えております。

今回の記事が、今まさに悩んでおられるご家庭にとって良き出会いとなり、明るい人生へ歩み出すきっかけになれば幸いです。

むすびメンタルクリニックのwebサイトはこちら

「診断名」よりも大切なのは、今の子どもの状態を見ること

ーーはじめに、植家先生が精神科医を目指されたきっかけを教えてください。

植家: 明確なきっかけは、自分でもあまりよく分からないんです。

初期研修でさまざまな診療科を回っていた際 、さまざまな身体の病気を抱えている方の診療に携わりました。

もちろん身体の病気も苦しいのですが、病気があっても健やかに、生き生きと生活されている方もいらっしゃいます。反対に、病気があるかどうかにかかわらず、心の調子を崩してしまっている方は、見ているこちらも苦しくなるような状態になることがあります。

それを見ていて、「人が生きていく上では、心の健康度がすごく大事なんじゃないかな」と思ったのが、精神科を選んだ理由の一つですね。

ーー現在の診療では、どのようなことを大切にされていますか。

植家: 当院では、心理カウンセリングにはかなり力を入れています。

ストレスや悩みがあって、そこから心や身体の不調が出ている方はとても多いのですが、医療機関で十分な時間を取ってカウンセリングを受けられる場所は、意外と多くありません。

ですので、医療としての治療とカウンセリングを組み合わせながら、その方が抱えているストレスや悩みからくる不調を一緒に整理していくことを一つの柱にしています。

ーー不登校のお子さんの場合、「何か診断名がつくのではないか」と不安に感じる保護者も多いかもしれません。児童精神科では、不登校をどのように見ているのでしょうか。

植家: 多くの精神科医は、診断名にばかり囚われているわけではないと思います。もちろん診断名を一応つけることはあります。でも、僕が一番大切だと思っているのは、「今、その子がどういう状態なのか」です。

診断名と状態は、少し別物なんですよね。例えば、うつ状態になって学校へ行けないのであれば、症状が重ければお薬を使うこともあります。ただ、「そのうつ状態の原因になっている病気の名前は何なのか」ということだけに固執する必要はないと思っています。

今どれくらいしんどいのか。何ができなくなっているのか。何がその子を苦しくさせているのか。そこを一つずつ見ていくことの方が大切ですね。

学校へ行けなくなった日は、子どもにとっては「中間地点」

ーー不登校になったばかりのご家庭には、どのようなことを伝えていますか。

植家: 「不登校になって間もない時期 」のご家庭には、比較的共通してお話ししていることがあります。

お子さんは、ある日突然学校へ行けなくなったように見えるかもしれません。

でも実際には、その前からずっと葛藤したり、つらい思いをしたり、我慢したりしていることが多いんです。それが積み重なって、いよいよ限界になって動けなくなる。

一方で、親御さんは「学校へ行けなくなった日」に初めて異変に気づくことも多いですよね。

だから、僕はよく、子どもにとってはそこが「中間地点」だけれど、親御さんにとっては「スタート地点」なんですとお話ししています。

ーー親子の間で、すでに時間のずれがあるのですね。

植家: そうなんです。

親御さんからすると、今日学校へ行けなくなったから、「じゃあ、明日はどうやって行かせよう」「何をすれば戻れるんだろう」と考え始めます。

でも、お子さんからすると、その前までにかなり頑張ってきているんですよね。

だから最初は、「学校に行きなさい」と焦らせたり、何とかしようとあれこれ手を尽くしたりするよりも、一度休ませてあげることが大事です。

「これまで耐えて、頑張ってきたんだね」と労ってあげてほしいと思います。

ーー学校へ戻す方法をすぐ探すのではなく、まずはそれまでの頑張りを見る。

植家: そうですね。

もちろん、その後どうしていくかはお子さんによって違います。

人間関係がしんどかったのかもしれないし、学習についていくのが大変だったのかもしれない。発達特性が関係している場合もあれば、家庭以外の環境が影響していることもあります。

そこは、少し元気を取り戻してから、その子に合わせて考えていけばいいと思います。

何も話せなくても大丈夫。「話さないカウンセリング」もある

ーー子どもの中には、「どうして学校へ行けないの?」と聞かれても、自分でも理由が分からなかったり、気持ちを言葉にするのが難しかったりする子もいますよね。

植家: たくさんいますね。そもそも、「なぜ学校に行けないの?」「何がつらいの?」と聞かれて、自分の気持ちを整理して答えられる子は、それなりに元気な状態なんです。

本当につらいときは、何がつらいのかも分からないことがあります。

ーーそういう状態でも、カウンセリングはできるのでしょうか。

植家: できます。カウンセリングって、「悩みを話してください」というイメージが強いと思うんですけど、話さないカウンセリングもあります。年齢や状態にもよりますが、最初は好きなものの話をしたり、雑談をしたりします。ゲームをすることもありますよ。

ーーゲームをすることもカウンセリングになるのですか。

植家: なります。

例えば、ほとんど話さないけれど「カウンセリングには来たい」という子もいるんです。そういう子なら、黙って同じ空間で過ごしたり、一緒にゲーム(アナログ)をしたりする。それも立派なカウンセリングです。

大切なのは、まずその子との関係を作ることですね。

自分から「僕にはこういう悩みがあるので、どうにかしてください」と来られるお子さんはほとんどいません。だから最初は、好きなことの話をしながら、「この人ならまた会ってもいいかな」と思ってもらうところから始めます。

ーー「何も話さないから相談しても意味がない」というわけではないのですね。

植家: 全然そんなことはありません。医療は基本的には受け身のものなので、無理やり何かをすることはできません。

だからこそ、お子さんにも親御さんにも「また来たい」と思ってもらえることが大事なんですよね。

ーー症状がとても重い場合でも、最初からカウンセリングを行うのでしょうか。

植家: そこは状態によります。

症状がかなり強いときに、最初から「話しましょう」とカウンセリングを頑張らせると、かえって苦しくなることもあります。話ができるくらいまで元気になる必要がありますからね。

そういう場合は、最初はお薬の力を借りて症状を少し和らげることもあります。

薬とカウンセリングのどちらか一方ではなく、その時点でその子に何が必要なのかを考えて使い分けていくイメージです。

発達特性だけが、不登校の原因ではない

ーー不登校のお子さんを見ていると、背景に発達特性があるケースもあるのでしょうか。

植家: 昔に比べると、発達特性が関係しているケースは増えている印象はありますね。ただ、不登校のお子さんがみんな発達障害というわけでは、もちろんありません。

ーー例えば、人間関係のトラブルがきっかけに見えても、その背景に発達特性があることもありますか。

植家: ありますね。発達障害というのは『スペクトラム』、いわゆるグラデーション(連続体)のようなものです。 特性がすごく強い子もいれば、少しだけ見え隠れする子もいます。

例えば高学年になってグループになじめない子がいたとします。単純に受け身な性格だから人間関係が作りにくいのかもしれません。

一方で、ASD(自閉スペクトラム症)の特性があって、場の空気に合わないことを言ってしまい、人間関係が難しくなっている場合もあります。

そこを少しずつ紐解いていくと、「これはコミュニケーションの特性なのかな」「性格なのかな」「周りの環境に原因があるのかな」ということが見えてきます。

発達特性が少し見え隠れするお子さんは、決して少なくないですね。

ーー発達障害かどうかだけを見るのではなく、その子と環境との関係も含めて考えるのですね。

植家: そうですね。だからこそ、「学校へ行けない=発達障害」と決めつけてしまうのも違うと思います。

その子の性格もありますし、周囲との関係もありますし、心の調子そのものが悪くなっていることもあります。一つの原因だけで説明しようとせずに、いろいろな可能性を見ていくことが大切です。

「どうしたらいいか分からない」ときこそ、医療を頼ってほしい

ーー保護者が一番迷うのが、「どの段階で病院へ相談したらいいのか」だと思います。何か受診の目安はありますか。

植家: 僕たちクリニック側からすると、「困っていたら、すぐ来てください」という感じです。あまり難しく考えなくていいと思います。

「最近、様子がおかしいな」と感じたときでもいいですし、「どうしたらいいのか分からない」という段階でもいい。その時点で一度相談していただければと思います。

ーー「まだ病院へ行くほどではないかも」と考えなくてもよいのでしょうか。

植家: そうですね。不登校のお子さんの親御さんから、「こんな悩み、誰に相談したらいいんだろう」という話はよく聞きます。

周りに同じような経験をしている親御さんがいるとは限りませんし、誰にも話せないまま、親御さん自身が孤立してしまうことがあります。だから、親御さんが「ちょっと話を聞いてほしい」というくらいの気持ちでも、医療につながっていいと思います。

親御さんがその状況で社会とつながれなくなってしまうと、お子さんも社会とつながりにくくなってしまいますからね。

ーー子どものためだけではなく、保護者が誰かとつながることも大切なのですね。

植家: そう思います。ただ、保険診療の場合は少し制度上の問題があって、ご本人が受診しないと保険が使えません。そのため、最初に一度はお子さん本人に来てもらう必要があります。

その後、どうしても本人を連れて来られない場合には、親御さんとの面接を行うこともあります。

当院では別に提携のカウンセリングセンターもあって、そちらでは保険診療ではないので、親御さんだけでも対面や電話、LINEなどで相談できます。

ーー「本人が外へ出られないから、もう何もできない」とは考えなくてよいのですね。

植家: そうですね。医療機関へ行くのはハードルが高いけれど、「医療的な視点から話を聞きたい」「病院へ行った方がいいのか相談したい」という方もいます。そういう場合に、まずカウンセリングを使っていただく方法もあります。

医療機関は、親子と支援をつなぐ「架け橋」

ーー実際に医療機関へ相談すると、どのようなことができるのでしょうか。

植家:発達障害の正確な見立てや診断は、やはり医療でないとできません。また、若い方の中には、心というより脳の調子そのものがかなり悪くなっている子もいます。

そういう場合、カウンセリングだけをずっと続けてもなかなか良くならないことがあります。

医療機関なら、診断もできますし、必要なら薬も使えますし、カウンセリングもできます。一通りのメニューがそろっているところが、医療の強みだと思います。

ーーすべて病院の中で治療するということでしょうか。

植家: いえ、そういうわけではありません。

全体を見た結果、「この子は病院に通い続けるより、スクールカウンセラーにつないだ方がいいな」と思うこともあります。「福祉の力を借りた方がいい」と考えることもあります。

僕らのところですべて抱え込む必要はないんです。必要なところへつなげばいい。だから、医療機関は一つの架け橋、ハブみたいな役割だと思っています。

ーー学校とのやり取りでも、医療機関が間に入ることで変わることがありますか。

植家: ありますね。良くも悪くも、医療機関は少し力が強いんですよ。

医療機関からの専門的な評価や診断書があることで、学校側も客観的な根拠を持って動きやすくなることがあります。保護者様がずっと伝え続けてこられた現状や思いを、医療の立場から客観的に裏付けることで、学校側との連携や環境調整がスムーズに進むケースは少なくありません。 

「むすび」に込めた、社会とのつながり

ーークリニック名の「むすび」には、「人と人とを結びつけたい」という思いが込められているそうですね。

植家: 悩みやストレスで心身の調子を崩して、その状態からなかなか抜け出せなくなっている方には、孤独な方がとても多いんです。誰にも相談できない。悩みそのものがすぐ解決しなくても、誰かに話すだけで少し軽くなることってありますよね。

でも、その話す相手すらいない方がいます。

僕らは友達というわけではないですけど、一緒に話を聞いて、解決する方法を考えるサポーターにはなれます。

ただ、僕らとのつながりだけで終わってしまってはいけないと思っています。

ーーその先の社会とのつながりまで考えているのですね。

植家: そうですね。最初の「むすび」が僕らでもいい。でも最終的には、身近な人や社会の中にいろいろなつながりができて、うちに通う必要すらなくなってもらうのが一番の理想です。ずっと通院してもらうことが目的ではありませんから。

僕らがいなくても、自分の足で元気に、健やかに生活できるようになる。そこまでいけたら一番いいですね。

不登校になると、子どもだけでなく、保護者も「どこに相談したらいいのか分からない」と孤立してしまうことがあります。

けれど「病院へ行くほどなのか」と悩み続ける必要はありません。

診断名をつけることだけが児童精神科の役割ではないので、今の子どもの状態を知り、必要であれば心身の症状を治療し、話せない子とは話さないところから関係をつくる。そして、家庭だけでは抱えきれないときには、学校や福祉、カウンセリングなど必要な支援へつなぐ。

困っていたら、まず相談していいんです。その一歩が、親子が孤立せず、次のつながりを見つけるきっかけになるのかもしれないのですから。

編集後記

今回の取材で特に印象に残ったのは、「学校に行けなくなった日」は、子どもにとって突然の始まりではなく、それまで頑張ってきた先の「中間地点」だというお話でした。だからこそ、「学校に行けているかどうか」だけではなく、その子がそこに至るまでにどんな思いを抱え、どれだけ頑張ってきたのかを見ることの大切さを感じました。

そして、困ったときには、家庭だけで抱え込まず、医療や学校、福祉などにつながってもいいのだということも強く心に残りました。

「どこに相談したらいいのか分からない」と悩んでいる方にとって、この記事が一歩を踏み出すきっかけになりましたら幸いです。 

執筆者
あした研究室編集部 (あしたけんきゅうしつへんしゅうぶ)
あした研究室編集部は、(株)すららネットの子どもの発達支援室に所属するスタッフと、学び・発達支援に関心を持つ編集チームによって運営されています。教育・発達支援・子育て・学習法などのテーマについて、現場視点と実証的な知見を大切にしながら、企画・取材・執筆・編集・校正・発信まで一貫して取り組んでいます。私たちの使命は、保護者や教育関係者、子ども自身が次の一歩を見つけられるような 信頼できる知見とアイデアを届けること。読者の皆さまには、根拠ある情報と温かい視点を通じて、学びと成長を支えるパートナーでありたいと考えています。