- 1 いじめとは何か?文部科学省による定義
- 1-1 いじめ防止対策推進法におけるいじめの定義
- 1-2 過去から現在までのいじめの定義の変遷
- 2 どこからがいじめか?判断する基準
- 2-1 被害者が心身の苦痛を感じているか
- 2-1-1 加害者に悪意がなくてもいじめにあたる
- 2-1-2 けんかやいじり、ふざけ合いとの線引き
- 2-1-3 本人が否定していても確認が必要
- 2-1-4 犯罪にあたる行為は警察とも連携する
- 2-2 インターネット上のいじめとは
- 3 いじめの具体的な種類と事例
- 3-1 身体的ないじめ
- 3-2 心理的ないじめ
- 3-3 金銭的ないじめ
- 4 いじめが起きてしまう原因と背景
- 4-1 加害者側の心理状態
- 4-1-1 ストレスや不満のはけ口
- 4-1-2 優越感・嫉妬・集団内での立場の確保
- 4-1-3 加害の自覚が乏しい
- 4-2 学校や家庭環境の影響
- 4-2-1 学級や部活動など集団の状態
- 4-2-2 教職員の言動や対応
- 4-2-3 家庭環境
- 5 いじめの被害に遭ったときの相談窓口
- 5-1 学校や教育委員会への相談
- 5-1-1 学校内で相談できる人
- 5-1-2 保護者が学校に相談するときのポイント
- 5-1-3 教育委員会に相談するケース
- 5-2 文部科学省や外部機関の相談窓口
- 5-2-1 24時間子どもSOSダイヤル(文部科学省)
- 5-2-2 子どもの人権110番(法務省)
- 5-2-3 チャイルドライン(民間団体)
- 5-2-4 警察の相談窓口
- 5-2-5 インターネット上のいじめに関する相談先
- 6 まとめ
いじめとは、2013年施行の「いじめ防止対策推進法」第2条で、同じ学校に在籍するなど一定の人的関係にある児童生徒が行う心理的・物理的な影響を与える行為(インターネットを通じたものを含む)で、対象の児童生徒が心身の苦痛を感じているものと定義されています。いじめかどうかは、加害者の意図や回数ではなく、被害を受けた側が苦痛を感じているかで判断します。本記事では、2006年度に「一方的」「継続的」「深刻な」の文言が削除されるなどした定義の変遷、身体的・心理的・金銭的いじめの具体例と原因、24時間子どもSOSダイヤル(0120-0-78310)などの相談窓口も紹介します。
いじめとは何か?文部科学省による定義
文部科学省が用いる「いじめ」の定義は、2013年に成立した「いじめ防止対策推進法」の条文と同じです。全国の学校はこの定義に沿っていじめを認知し、対応しています。
いじめには、大勢で一人を執拗に攻撃するような深刻な行為があります。しかし法律上の定義はそれより広く、被害を受けた子どもが苦痛を感じているかどうかを基準にしています。以下では、法律の条文の内容と、定義がどのように変わってきたかを説明します。
いじめ防止対策推進法におけるいじめの定義
いじめ防止対策推進法(平成25年法律第71号)は2013年6月に公布され、同年9月に施行されました。2011年に滋賀県大津市で起きた中学生のいじめ自殺事件をきっかけに、議員立法で制定された法律です。いじめの定義は第2条第1項に次のように定められています(条文はe-Gov法令検索「いじめ防止対策推進法」で確認できます)。
この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。
この条文に照らすと、次の4つの要素がそろえば法律上の「いじめ」にあたります。
- 行為をする側とされる側がともに「児童等」であること:学校に在籍する児童・生徒が対象です。
- 両者の間に「一定の人的関係」があること:同じ学校やクラスの子どもに限らず、塾やスポーツクラブ、地域の友人など、何らかの関わりがある相手も含まれます。
- 「心理的又は物理的な影響を与える行為」であること:叩く・蹴るなどの身体への行為だけでなく、悪口、仲間外れ、物を隠すといった行為も含まれます。インターネット上の書き込みも条文に明記されています。
- 対象となった子どもが「心身の苦痛を感じている」こと:判断の中心は被害を受けた側の受け止め方です。
ここでいう「学校」は、学校教育法第1条に定める小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校(幼稚部を除く)を指し、国公私立を問いません。大学や幼稚園は法律の対象外です。また、大人同士の職場での嫌がらせは、この法律ではなく、労働施策総合推進法などに基づくパワーハラスメント対策の対象になる場合があります。
定義には、行為が「継続的」であることや、加害者に「いじめるつもり」があったことは含まれていません。1回限りの行為でも、相手が苦痛を感じていればいじめにあたります。加害側が「ふざけていただけ」「悪気はなかった」と説明した場合でも、それだけでいじめではないとは判断されません。被害者の苦痛をどのように確認するかは、次の章「どこからがいじめか?判断する基準」で詳しく扱います。
法律は第4条で「児童等は、いじめを行ってはならない」と定め、学校や教職員、保護者、国、地方公共団体の責務も規定しています。各学校は「学校いじめ防止基本方針」を策定し、複数の教職員などで構成する組織を設けて対応することが義務付けられています。
過去から現在までのいじめの定義の変遷
文部科学省(2001年以前は文部省)は、全国の学校を対象とする「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」でいじめの件数を集計しています。この調査で使われる定義は、社会の注目を集めたいじめ事件が起きるたびに見直されてきました。変遷の概要は文部科学省「いじめの問題に対する施策」で公開されている資料にまとめられています。
| 適用時期 | 定義の主な内容 | 主な変更点 |
|---|---|---|
| 1986年度(昭和61年度)から | 自分より弱い者に対して一方的に、身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、相手が深刻な苦痛を感じているもので、学校としてその事実を確認しているもの | 調査上の定義が初めて示された |
| 1994年度(平成6年度)から | 自分より弱い者に対して一方的に、身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、相手が深刻な苦痛を感じているもの | 「学校としてその事実を確認しているもの」を削除し、いじめられた児童生徒の立場に立って判断することを明記 |
| 2006年度(平成18年度)から | 一定の人間関係のある者から、心理的・物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの | 「弱い者に対して一方的に」「継続的に」「深刻な」という条件を削除 |
| 2013年度(平成25年度)から | いじめ防止対策推進法第2条の定義 | インターネットを通じた行為を明記し、定義が法律で定められた |
1986年度の定義が作られた背景には、同年に東京都中野区の中学生が「葬式ごっこ」などのいじめを受けて自殺した事件があります。ただし当時の定義は「学校としてその事実を確認しているもの」に限られていたため、学校が把握していないいじめは件数に含まれませんでした。
1994年に愛知県西尾市で中学生がいじめを苦に自殺した事件の後、この条件は削除されました。あわせて、個々の行為がいじめにあたるかどうかを表面的・形式的に判断せず、いじめられた子どもの立場に立って判断するという方針が示されました。
2006年には、福岡県筑前町や北海道滝川市などでいじめが関係する子どもの自殺が相次ぎました。これを受けて、2006年度の調査から「一方的」「継続的」「深刻な」という条件が外されました。力関係に明確な差がない友人同士の行為や、短期間の行為も、いじめとして扱われるようになりました。同じ年度から、調査で数える件数の名称も「発生件数」から「認知件数」に改められています。いじめは見えにくいところで起きるため、学校がどれだけ把握できたかを示す数値として扱うという考え方によるものです。
2013年度からは、法律の定義がそのまま調査にも使われています。2006年度の定義では「攻撃」という言葉が使われていましたが、法律では「心理的又は物理的な影響を与える行為」に変わり、攻撃とまでは言えない行為も含められるようになりました。現在の定義はこのように、加害者の行為の程度ではなく被害者が受けた苦痛に着目し、いじめを早い段階で見つけて対応することを重視しています。
どこからがいじめか?判断する基準

ある行為がいじめにあたるかどうかは、いじめ防止対策推進法第2条の定義をもとに判断します。この定義から読み取れる判断の要素は、次の3つです。
- 行為をした側とされた側に「一定の人的関係」があること
- 「心理的又は物理的な影響を与える行為」であること
- 行為の対象となった子どもが「心身の苦痛を感じている」こと
「一定の人的関係」とは、同じ学校や学級の児童生徒に限りません。塾やスポーツクラブ、地域の友人関係など、何らかのつながりがある子ども同士の関係を含みます。行為が起きた場所も問わないため、登下校中や休日、自宅でのやりとりであっても対象になります。「心理的又は物理的な影響を与える行為」には、叩く・蹴るといった直接的な行為だけでなく、無視や仲間外れ、悪口のように身体に触れない行為も含まれます。
かつての文部科学省の定義では、「一方的に」「継続的に」「深刻な苦痛」といった条件がありました。現在はこれらの条件がないため、1回限りの行為や、立場が対等に見える関係での行為であっても、ほかの要素を満たせばいじめに該当します。
被害者が心身の苦痛を感じているか
3つの要素のうち、判断の中心になるのが「行為の対象となった子どもが心身の苦痛を感じているか」です。いじめかどうかは、行為の重さや加害者の意図ではなく、被害を受けた側の受け止め方を基準に判断します。文部科学大臣が定めたいじめの防止等のための基本的な方針でも、いじめにあたるか否かの判断は表面的・形式的に行わず、いじめられた児童生徒の立場に立って行うよう求めています。
加害者に悪意がなくてもいじめにあたる
「からかっただけ」「遊びのつもりだった」という場合でも、相手が苦痛を感じていればいじめに該当します。基本方針では、好意から行った行為が意図せず相手に苦痛を与えた場合もいじめにあたるとしています。そのうえで、加害者に悪意がなく、すぐに謝罪して良好な関係を築けたようなケースでは、学校が「いじめ」という言葉を使わずに指導するといった柔軟な対応も可能としています。ただし、この場合でも学校のいじめ対策組織へ情報を共有することが必要とされています。
けんかやいじり、ふざけ合いとの線引き
けんかやふざけ合いに見える場面でも、周囲から見えないところで一方が苦痛を受けていることがあります。基本方針では、こうしたケースも背景にある事情を調べ、児童生徒が感じている被害性に着目していじめかどうかを判断するよう示しています。たとえば、毎回同じ子どもだけが笑いの対象になる、本人が嫌がる呼び方を周囲がやめない、といった状況は、表面上は「いじり」に見えてもいじめにあたる可能性があります。
本人が否定していても確認が必要
いじめを受けている子どもは、仕返しへの不安や恥ずかしさ、親に心配をかけたくないという気持ちから、被害を否定することがあります。基本方針でも、本人がいじめを否定する場合が多くあることを踏まえ、表情や様子をきめ細かく観察して確認するよう求めています。そのため、保護者や教職員は「大丈夫」という言葉だけで判断せず、持ち物がなくなる、登校を渋る、食欲が落ちるといった変化にも目を向けることが大切です。
犯罪にあたる行為は警察とも連携する
いじめの中には、暴行、恐喝、金品を盗む・壊すといった刑法上の犯罪にあたる行為も含まれます。いじめ防止対策推進法第23条では、犯罪行為として取り扱われるべきいじめについて、学校が警察と連携して対処することを定めています。子どもの生命や身体、財産に重大な被害が生じるおそれがある場合は、直ちに警察へ通報し、援助を求めることとされています。
インターネット上のいじめとは
いじめ防止対策推進法の定義には「インターネットを通じて行われるものを含む」と明記されています。SNSやメッセージアプリ、オンラインゲームなどで行われる行為も、対面での行為と同じ基準でいじめかどうかを判断します。具体的には、次のような行為が該当します。
- SNSや掲示板に悪口や個人を特定できる情報を書き込む
- グループチャットから特定の子どもを外す、または特定の子どもの発言だけを無視する
- 本人の許可なく写真や動画を撮影し、投稿・拡散する
- 本人になりすましてアカウントを作り、投稿する
インターネット上のいじめには、匿名で行われやすい、短時間で多くの人に拡散する、書き込みや画像が削除されずに残り続ける、学校外の時間帯にも続くといった特徴があります。保護者や教職員の目が届きにくいため、被害が表面化するまでに時間がかかる場合があります。
また、悪口を書き込まれた子どもがその事実を知らず、まだ苦痛を感じていないケースもあります。基本方針では、こうした場合でも加害行為をした子どもへの指導などは法の趣旨を踏まえて適切に対応する必要があるとしています。本人が気づいていないことを理由に、放置してよいわけではありません。
書き込みの削除や投稿者の特定を求めたい場合、いじめ防止対策推進法第19条では、被害を受けた子どもや保護者が必要に応じて法務局または地方法務局に協力を求めることができると定めています。被害の証拠として、書き込みの画面をスクリーンショットで保存し、投稿日時やURLを記録しておくと、学校や関係機関に相談する際に状況を正確に伝えられます。なお、内容によっては名誉毀損罪や侮辱罪などの犯罪にあたる場合もあります。
いじめの具体的な種類と事例

いじめにはさまざまな形があります。文部科学省は毎年実施している児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査で、いじめの態様(行為の内容)を次のように分類して集計しています。
| 調査上の態様 | 本記事での分類 |
|---|---|
| 軽くぶつかられたり、遊ぶふりをして叩かれたり、蹴られたりする | 身体的ないじめ |
| ひどくぶつかられたり、叩かれたり、蹴られたりする | 身体的ないじめ |
| 嫌なことや恥ずかしいこと、危険なことをされたり、させられたりする | 身体的ないじめ・心理的ないじめ |
| 冷やかしやからかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる | 心理的ないじめ |
| 仲間はずれ、集団による無視をされる | 心理的ないじめ |
| パソコンや携帯電話等で、ひぼう・中傷や嫌なことをされる | 心理的ないじめ |
| 金品をたかられる | 金銭的ないじめ |
| 金品を隠されたり、盗まれたり、壊されたり、捨てられたりする | 金銭的ないじめ |
この調査では、「冷やかしやからかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる」が例年もっとも多く、次いで「軽くぶつかられたり、遊ぶふりをして叩かれたり、蹴られたりする」が多くなっています。また、ひとつのいじめが複数の種類にまたがることは珍しくありません。たとえば、悪口から始まった行為が暴力や金品の要求にエスカレートするケースもあります。
文部科学省は2023年2月、いじめが犯罪行為に該当する可能性がある場合は、ためらわずに警察へ相談・通報するよう学校に求める通知を出しています。以下では種類ごとに、具体的な行為と、該当する可能性のある刑法上の罪もあわせて紹介します。
身体的ないじめ
身体的ないじめとは、相手の体に直接危害を加えたり、体を使って苦痛や屈辱を与えたりする行為です。具体的には次のような事例があります。
- すれ違いざまにわざとぶつかる、足を引っかけて転ばせる
- プロレスごっこや遊びと称して、特定の子だけを繰り返し叩く・蹴る
- 集団で取り囲んで殴る、物を投げつける
- 高い場所から飛び降りさせるなど、危険な行為を無理やりさせる
- 人前でズボンや下着を下ろす、裸にして写真や動画を撮る
注意が必要なのは、「遊ぶふりをして叩く」「ふざけてぶつかる」といった軽く見える行為です。加害者や周囲が「遊びの延長」と考えていても、叩かれる側が毎回同じ子どもであり、その子が苦痛を感じていれば、いじめに該当します。
身体的ないじめは、内容によって刑法上の罪に問われる可能性があります。殴る・蹴るは暴行罪、それによってけがをさせれば傷害罪、脅して危険な行為をさせれば強要罪に該当しうる行為です。裸の写真や動画を撮影・送信する行為は、児童買春・児童ポルノ禁止法に違反する可能性もあります。なお、14歳未満の子どもには刑罰は科されませんが、少年法に基づいて児童相談所や家庭裁判所が関与する場合があります。
身体的ないじめは、あざや傷、服の汚れや破れとして表れることがあります。子ども本人が「転んだ」などと説明していても、同じような傷が繰り返し見られる場合は、背景にいじめがないかを確認する必要があります。
心理的ないじめ
心理的ないじめとは、言葉や態度、人間関係の操作によって相手の心を傷つける行為です。前述の調査でも件数がもっとも多く、日常的に起きやすい種類のいじめです。具体的には次のような事例があります。
- 容姿や名前、家庭環境などを理由に、からかったり傷つくあだ名で呼んだりする
- 「死ね」「消えろ」といった暴言や、「言うことを聞かないと殴る」といった脅し文句を言う
- 話しかけても集団で無視する、グループ活動や遊びから意図的に外す
- 本人に聞こえるように陰口を言う、うそのうわさを広める
- 人前でものまねをさせる、恥ずかしい言動を強要する
- SNSのグループから外す、本人の悪口や写真を投稿する
心理的ないじめは体に傷が残らないため、周囲の大人が気づきにくいという特徴があります。特に無視や仲間はずれは、加害者側が「何もしていない」と主張しやすく、表面化しにくい行為です。しかし、集団の中で孤立させられることによる苦痛は大きく、不登校のきっかけになることもあります。
悪口や暴言も、内容や方法によっては犯罪に該当する可能性があります。不特定多数の人がいる場で相手を侮辱すれば侮辱罪、具体的な事実(真偽を問わない)を挙げて社会的評価を下げれば名誉毀損罪に該当しうる行為です。危害を加えると告げて脅せば、脅迫罪に該当する可能性もあります。
SNSやメッセージアプリを使った悪口・仲間はずれも心理的ないじめの一種です。インターネット上のいじめに特有の性質(拡散しやすい、加害者が匿名になりやすいなど)は、前章で解説しています。
金銭的ないじめ
金銭的ないじめとは、お金や持ち物を奪ったり、壊したり、相手に金銭的な負担を強いたりする行為です。具体的には次のような事例があります。
- 「貸して」と言ってお金を受け取り、返さない
- 飲食代や交通費を毎回払わせる、プレゼントを強要する
- オンラインゲームのアイテムや課金分の支払いを求める
- 文房具や靴、体操服などを隠す・捨てる・壊す
- 財布や持ち物を盗む
- 店で万引きをするよう命令する
金銭的ないじめは、「おごってもらっただけ」「借りただけ」と加害者側が説明しやすく、被害者本人も脅されたことや恥ずかしさから黙っていることがあります。要求される金額が少しずつ増えていき、被害者が家族のお金を持ち出すようになるケースもあります。家庭のお金がなくなる、子どもが急にお金を欲しがる、持ち物が頻繁になくなるといった変化は、金銭的ないじめのサインである可能性があります。
金銭的ないじめは、犯罪に該当する可能性が高い種類のいじめです。脅して金品を出させれば恐喝罪、持ち物を盗めば窃盗罪、物を壊したり隠したりすれば器物損壊罪に該当しうる行為です。万引きを強要する行為は強要罪に該当する可能性があり、実行させられた被害者も窃盗に問われうる立場に追い込まれます。
また、いじめ防止対策推進法では、いじめにより児童生徒の「財産」に重大な被害が生じた疑いがある場合も「重大事態」に当たるとされています。高額な金銭を要求されている場合は、学校が調査を行う対象となりえます。
いじめが起きてしまう原因と背景
いじめの原因はひとつではありません。加害者個人の心理、学級や部活動などの集団の状態、家庭環境などが重なって起きます。文部科学省のいじめの防止等のための基本的な方針は、いじめを「どの子どもにも、どの学校でも起こりうる」ものとしています。特定の性格や家庭の子どもだけの問題ではありません。
国立教育政策研究所の生徒指導・進路指導研究センターが行ったいじめ追跡調査では、同じ児童生徒を数年間追いかけて調べました。その結果、仲間外れ・無視・陰口について、多くの子どもが被害と加害の両方を経験していました。また、被害者と加害者は固定されず、時期によって入れ替わっていました。原因を考えるときは、「誰が悪い子か」だけでなく、どのような状況でいじめが生まれやすいかを見る必要があります。
加害者側の心理状態
加害者が、最初から強い悪意を持っているとは限りません。ストレスや集団内での不安など、本人が抱える問題がいじめという形で表に出ることがあります。
ストレスや不満のはけ口
文部科学省の基本方針は、いじめの加害の背景に勉強や人間関係などのストレスが関わっていることを踏まえ、ストレスに適切に対処できる力を育むよう求めています。主なストレスの例は次のとおりです。
- 成績や受験へのプレッシャー
- 友人関係の悩み
- 部活動での上下関係
- 家庭での不満
こうしたストレスを適切に処理できないと、自分より弱い立場の相手に攻撃が向かうことがあります。
優越感・嫉妬・集団内での立場の確保
加害の動機には、次のような心理があるとされています。
- 相手を下に見ることで優越感を得る
- 成績や容姿、人気などで目立つ相手に嫉妬する
- グループ内での自分の立場を保つために、共通の標的をつくる
グループのリーダー格の言動に合わせないと、自分が仲間外れにされるかもしれません。その不安から、本心では望んでいないのに加害に加わるケースもあります。
加害の自覚が乏しい
「からかい」「いじり」「遊びのつもりだった」と、加害者がいじめだと認識していない場合も多くあります。相手が笑っていたり、はっきり嫌がらなかったりすると、加害者は問題ないと受け取ることがあります。その結果、行為がエスカレートしやすくなります。しかし、いじめにあたるかどうかは、加害者の意図ではなく、被害者が心身の苦痛を感じているかで判断されます。
学校や家庭環境の影響
いじめは、加害者と被害者の二者関係だけで起きるものではありません。子どもが日常的に過ごす学校や家庭の状態が、いじめの起きやすさや深刻化に影響します。
学級や部活動など集団の状態
文部科学省の基本方針は、学級や部活動などの集団に、無秩序さや閉塞性といった構造上の問題がある場合に注意するよう示しています。また、次のような周囲の存在にも目を向けるよう求めています。
- はやし立てたり面白がったりする「観衆」
- 見て見ぬふりをして暗黙の了解を与える「傍観者」
周囲が止めずに笑ったり黙認したりすると、加害者は行為が受け入れられていると受け取り、いじめが続くことがあります。逆に、学級全体に「いじめを許さない」という雰囲気があれば、加害は起きにくくなります。
さらに、同じメンバーで長い時間を過ごす環境では、人間関係のトラブルが逃げ場のないまま固定化しやすい傾向があります。「みんなと同じでなければならない」という同調圧力が強い集団も同様です。
教職員の言動や対応
文部科学省の基本方針は、教職員の言動が他の児童生徒によるいじめを助長することのないよう、指導のあり方に注意するよう求めています。例えば、教師が特定の子どもを人前で笑いものにすると、子どもたちはその子を軽く扱ってもよいと受け取るおそれがあります。
初期のトラブルを「よくあるけんか」として扱い、事実確認をしないまま済ませることも問題です。その対応が、いじめの長期化や深刻化につながる場合があります。
家庭環境
家庭で強いストレスを抱えている子どもは、そのストレスを学校での人間関係に持ち込むことがあります。主な例は次のとおりです。
- 保護者からの過度な期待や叱責
- 家庭内での暴力や暴言
- 保護者とのコミュニケーション不足
また、家庭内で力の強い者が弱い者を言葉や暴力で従わせる関わり方が日常的だと、子どもがそれを人との関わり方として学んでしまうおそれも指摘されています。
ただし、家庭環境はいじめの直接の原因と言い切れるものではなく、背景要因のひとつです。家庭に問題がなくても、学級の状況や友人関係によっていじめが起きることは十分にあります。
ここで挙げた背景は個々の家庭や被害を受けた子どもに責任を求めるものではありません。背景の確認と並行して、被害を止め、安全を確保する対応が必要です。
いじめの被害に遭ったときの相談窓口

いじめの相談先は、学校、教育委員会、国の機関、民間団体など複数あります。最初に相談した窓口で状況が改善しなくても、別の窓口に相談できます。本人が直接相談しても、保護者が代わりに相談してもかまいません。
相談の前に、いじめの内容を記録しておくと、相手に状況が正確に伝わり、事実確認も進めやすくなります。記録しておきたい主な項目は次のとおりです。
- いつ、どこで、誰から、何をされたか
- そのときに言われた言葉や、周りにいた人
- けがの写真や医療機関の診断書
- SNSやメッセージアプリでの書き込みのスクリーンショット(日時とアカウント名が写るように保存)
- 壊された持ち物や、取られたお金の金額
学校や教育委員会への相談
いじめ防止対策推進法では、学校にいじめ防止の対策のための組織を置くことが義務づけられています。学校は、いじめの相談や通報を受けた場合、事実の有無を確認し、その結果を学校の設置者(公立学校であれば教育委員会)へ報告することになっています。学校への相談は、法律に基づく対応を求める最初の手段といえます。
学校内で相談できる人
学校では、担任の先生だけでなく、次のような人にも相談できます。
- 学年主任や生徒指導担当の先生
- 保健室の養護教諭
- 心理の専門家であるスクールカウンセラー
- 家庭や福祉機関との連携を担うスクールソーシャルワーカー
- 部活動の顧問など、話しやすい先生
担任の先生に話しにくい場合や、すでに相談したのに対応が進まない場合は、別の先生や校長・教頭に相談する方法もあります。
保護者が学校に相談するときのポイント
保護者が相談する場合は、電話で済ませずに面談の時間を設けてもらうと、詳しい事情を伝えやすくなります。面談では、記録しておいた事実を示し、学校にどのような対応をしてほしいか(事実確認、加害側への指導、席替えや登下校時の見守りなど)を具体的に伝えます。話し合った内容や学校が約束した対応は、日付とともにメモしておきます。
いじめによって子どもの生命・心身・財産に重大な被害が生じた疑いがある場合や、いじめが原因で相当の期間(年間30日が目安)学校を欠席せざるを得ない疑いがある場合は、法律上の「重大事態」として、学校または学校の設置者が調査を行うことになっています。該当すると考えられる場合は、保護者から重大事態として扱うよう申し出ることができます。
30日は調査を始めるまで待つ期間ではありません。連続して欠席している場合などは、30日に達する前でも学校・設置者が状況に応じて迅速に調査に着手する必要があります。詳しくは文部科学省の基本方針をご確認ください。
教育委員会に相談するケース
学校に相談しても対応してもらえない、学校の説明に納得できないといった場合は、公立学校であれば市区町村または都道府県の教育委員会に相談できます。多くの教育委員会では、教育相談室やいじめ相談の電話窓口を設けています。私立学校の場合は、都道府県の私立学校を担当する部署が相談先になります。窓口の名称や連絡先は、自治体のホームページで確認できます。
文部科学省や外部機関の相談窓口
学校には知られずに相談したい、夜間や休日に話を聞いてほしいという場合は、学校の外にある窓口を利用できます。以下の窓口は、いずれも匿名での相談が可能です。
24時間子どもSOSダイヤル(文部科学省)
文部科学省が設けている電話相談窓口で、電話番号は「0120-0-78310(なやみ言おう)」です。夜間・休日を含めて24時間つながり、通話料はかかりません。原則として、電話をかけた地域の教育委員会の相談機関につながります。詳しくは文部科学省「24時間子どもSOSダイヤル」で確認できます。
子どもの人権110番(法務省)
法務省の人権擁護機関が運営する電話相談で、電話番号は「0120-007-110」です。受付は平日の午前8時30分から午後5時15分までで、通話料はかかりません。全国の法務局・地方法務局の職員や人権擁護委員が相談に応じます。法務省では、電話のほかにインターネット(メール)やLINEでの相談も受け付けています。詳しくは法務省「子どもの人権110番」で確認できます。
チャイルドライン(民間団体)
18歳までの子どもが対象の電話相談で、電話番号は「0120-99-7777」です。受付は毎日午後4時から午後9時まで(年末年始を除く)で、オンラインのチャット相談も実施しています。運営はNPO法人チャイルドライン支援センターで、相談内容を学校や保護者に伝えることは原則ありません。詳しくはチャイルドライン公式サイトで確認できます。
警察の相談窓口
殴る・蹴るなどの暴力、金品を脅し取られる、裸の写真を撮られて拡散されるといった行為は、暴行罪や恐喝罪などの犯罪に当たる可能性があります。身の危険が迫っている場合は110番通報をしてください。緊急ではない相談は、警察相談専用電話「#9110」や、各都道府県警察が設けている少年相談窓口で受け付けています。
インターネット上のいじめに関する相談先
SNSや掲示板への悪口の書き込み、写真の無断掲載などの被害は、上記の法務省の人権相談で、削除依頼の方法について助言を受けられます。被害の内容によっては、法務局がサイトの運営者に削除を要請する場合もあります。また、総務省の支援事業である「違法・有害情報相談センター」でも、書き込みの削除依頼の方法について相談できます。
まとめ
いじめとは、いじめ防止対策推進法で「一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的または物理的な影響を与える行為で、対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」と定義されています。インターネットを通じて行われる行為も含まれます。
どこからがいじめかは、行為の大小や加害者の意図ではなく、いじめを受けた子どもの立場に立ち、本人が苦痛を感じているかで判断します。暴力だけでなく、悪口や仲間外れ、金品を要求する行為もいじめに当たります。
被害に遭ったときは、担任や学校、教育委員会に相談できます。文部科学省の「24時間子どもSOSダイヤル」(0120-0-78310)では、夜間や休日も相談を受け付けています。