GIGAスクール構想により、小・中学生1人につき1台の学習用端末を配布する取り組みが完了しつつあります。
高校でのICT教育はどの程度進んでいるのか、知りたい人もいるでしょう。
この記事では、高校におけるICT教育についての概要と、得られるメリット・デメリットを徹底解説。高校でのICT教育の目標や活用方法も紹介します。実際の活用事例と得られる効果にも触れますので、高校におけるICT教育について知りたい人必見です。
ICT教育とは?メリットやデメリットを解説
ここでは、ICT教育について概要を説明するとともに、メリット・デメリットも詳しく解説します。
ICT教育とはデジタル技術を活用した教育のこと
ICT教育とは、デジタル技術を活用し教育活動を行うことを指します。
ICT教育の実現には、環境整備が欠かせません。ハード面では個人用PCやタブレット・電子黒板・プロジェクタなどの用意が必要です。ソフト面ではデジタル教科書やAIドリル・インターネットを使って学習するeラーニングなどを使います。
ICT教育の導入で、教科書だけでは学びきれない多くの情報が入手できます。生徒一人ひとりに合わせた学習や、より深い学びを行えるのが強みです。
ICT教育を導入するメリット
ICT教育には、紙媒体の学習にはない利点が数多くあります。導入のメリットを4つ解説します。
1.わかりやすい授業ができる
ICTの利用で、生徒が理解しやすい授業作りができます。音声や映像などを活用し、より理解しやすい授業展開ができるためです。
一斉授業でのICT活用では、生徒の視覚に訴えて理解を促す効果が期待できます。電子黒板上でマーカーや書き込みができるので、生徒に重要な語句を教えたいときに役立ちます。
また、学習内容の関連動画を見せることもできます。映像教材のリンクを利用すると、簡単に関連動画が見られるので便利です。ICT教育では映像などで生徒の興味を引き、分かりやすい授業展開ができるのです。
2.生徒が効率的に学習できるようになる
限られた時間で学習効率が上がるのも、ICT教育の利点です。
黒板をノートに書き写す授業スタイルでは「書くこと」が目的になりがちです。黒板の視写に追われ、考えたり理解したりする時間がおろそかになる恐れがあります。視写が遅い生徒にとって大変な作業となるでしょう。
板書を生徒のデバイスに転送すれば、板書を写す必要がなくなります。空いた時間を考える時間などに回せるので、より深い学びが可能になります。
3.生徒一人ひとりに合わせた学習指導ができる
生徒の力に合った学習指導が行えるのも、ICT教育の強みです。デジタル教材などの利用で生徒一人ひとりに合った課題の作成ができます。
従来のプリント学習では、個人のレベルごとに個別課題を一つひとつ手作業で作成していました。一方、AI技術が取り入れられたデジタル教材では、個別課題の自動作成が可能です。AIが解答状況を分析し、生徒に合った問題を作成するので手間がかかりません。
また、デジタル教材では生徒がどこでつまずいているのかを分析することも可能です。誤解答の原因をAIが判定し、復習すべき項目を教えてくれるので便利です。
4.情報を活用する能力を身につけさせることができる
生徒の情報活用能力を、ICT教育で高めることができます。知識を得るだけではなく、活用できる人材の育成に役立ちます。
今の生徒達には、手に入れた情報を選択・活用する能力が求められています。知らない分野でも簡単に検索できる現代においては、得た知識から自分なりの考えを持てるかどうかが重要視されているのです。
ICTを使いこなすにはデバイスの使い方やルール・正しい情報の選び方などを学ぶ必要があります。基本的なICTリテラシーを学ぶことで、情報活用能力の向上につながります。
教員の負担を減らすことができる
ICTを導入することで、教員の負担軽減効果も期待されています。教員業務の一部を任せることができるようになるためです。
例えば、デジタル教材のAIドリルは、生徒のつまずきを分析し、個人に合った練習問題を用意してくれます。印刷業務が減り、効率的な学習のサポートができるのです。
また、成績分析もAIが行うため、教師が採点・入力する手間が省けます。顔認証システムを使えば、出欠席管理も自動で行えます。今まで教員が行っていた部分をICT技術がカバーするので、働き方改革にもつながるのです。
ICT教育を導入するデメリットと解決策
メリットの多いICT教育ですが、導入によるデメリットも見逃せません。ここでは、主なデメリット3つとそれぞれの解決法をまとめました。
1.生徒の思考力が低下する可能性がある
ICTの活用方法によっては、生徒の思考力が低下する恐れがあります。知識を得ることが目的になり、考える機会が失われるためです。
一問一答の問題形式では、インターネットで検索することですぐ答えにたどり着けます。しかし、簡単に手に入れた知識は単なる言葉の羅列です。そのため、自分で意味を考える機会が奪われてしまい、知識として定着しにくくなります。
解決策として、課題の出し方の工夫が考えられます。得た情報から考える課題など、出題方法を工夫するようにしましょう。
2.生徒の手書きする力が低下する可能性がある
デジタルデバイスの使用により、書く力が育ちにくくなる恐れがあります。書く時間の減少で、表現力や思考力を磨く機会が失われるためです。
デジタル偏重の教育では、書く活動が少なくなり、記述力をつける時間が減少します。書く活動を通すことで、情報を理解・整理し、自分の言葉でアウトプットする力が身につきます。大学入試の小論文や就職活動の自己PRにもつながるため、デジタル偏重の教育下であっても積極的に育てたい力です。
解決策として、ICTと従来の教育の良さを取り入れた授業構成が挙げられます。デジタル教材での問題練習と考えて書く課題の両方をバランスよく取り入れると、生徒の記述力を伸ばしやすくなります。
3.情報モラルに対する教育を行う必要がある
ICT導入を本格的に行う前に、情報モラル教育が重要です。デジタルデバイスやネット環境を使いこなすためには、マナーやルールを覚える必要があるためです。
インターネットが普及したことで、誰でも簡単に情報を得たり発信したりできる時代になりました。しかし、長時間使用による生活リズムの乱れや犯罪行為への加担、著作権を侵害する事例が報告されています。
トラブル回避のため、情報モラルの学習に家庭と連携して取り組むことが大切です。学校での情報モラル教育や家庭への呼びかけを行い、生徒が情報を正しく使えるように指導しましょう。
高校においてもICT教育の導入は重要
高校でもICT教育の導入は重要です。日本は諸外国と比べ、教室でのデジタル機器の活用時間が少ない傾向が見られたためです。
GIGAスクール構想で小・中学校のICT教育が進んだので、高校段階では必要ないと考える人もいるでしょう。しかし、OECDが15歳を対象に調査した授業中のデジタル機器使用率で、日本はOECD加盟国中最下位と判明しました。
小・中学校でICT教育を取り入れたとしても、高校で行わなければ力が育ちません。高校でもICT教育を続けることで、諸外国と競争できる人材の育成につなげていく必要があります。
高校におけるICT教育の目標について解説
2022年度に改正された高等学校学習指導要領では「情報I」が必修となり、重要な科目として位置付けられました。プログラミングやネットワークなどの学習を通して、情報社会に主体的に参画するための資質・能力を育成する目的があります。
ここでは高校におけるICT教育の目標を3つの観点に分け、項目別に解説します。
知識や技能に関する目標
知識や技能に関する分野では、コミュニケーションの実現が目標です。まず、機器を使いこなすための基本的知識や技能を学びます。その上で、情報を人との関わりに生かせるよう発展的な学習を行います。
学ぶ意欲や人間性に関する目標
学ぶ意欲や人間性に関する目標では、問題解決にICT技術を使い、情報を得て適切に使いこなせる人材の育成を目指します。
また、インターネット上のマナーやルールを理解し、安全に使うことも人間性に関連します。自分の情報を安易に教えない、著作権を侵害しないといったルールを確認するようにしましょう。
コミュニケーション能力に関する目標
ICTで得た情報を、適切なコミュニケーションにつなげる人材育成を目標としています。
良いコミュニケーションには、インプットした情報を相手に分かりやすい形式で伝える能力が重要です。情報を理解し、自分の言葉にして発信する活動などでコミュニケーション能力を養いましょう。
ICT教育は高校でどのように活用すべき?
ICT教育を高校で活用するため、気をつけるべき点があります。ここでは効果的な活用方法について3つに分けて解説します。
教員の指導方法を改善する
ICT教育推進のため、教師側も指導方法の改善が大切です。デジタル技術の特徴を生かした授業を組み立てましょう。
例えば、話し合い活動では、デジタル教材でシミュレーションを行い、個人の考えをまとめます。その後、班で話し合い、まとめた意見を電子黒板に映して発表するなどの手法が考えられます。
情報活用能力を育成する
高校のICT教育では、情報活用能力の育成も大切です。取り入れた情報を相手にどう使えるかが重要なためです。
インターネットの情報がすべて正しいわけではありません。中には虚偽の情報が含まれていたり、偏った情報だけしか出てこなかったりする場合もあります。同じ情報でも多方面の意見を取り入れ、自分の考えをしっかりと持つように指導しましょう。
生徒一人ひとりに合わせた指導をする
生徒一人ひとりに合わせた指導も大切です。AIドリルが問題出題やデータ分析をしてくれますが、データを活用するのは教師です。分析データをもとに、生徒の伸びた面や不得意な面を確認しましょう。よりきめ細やかな指導につながります。
小テストや課題提出をデジタル化する
教員の業務効率化と生徒の学習効果向上を実現するため、小テストや課題提出のデジタル化が注目されています。
従来の紙ベースの方式では、配布から採点、集計まで多くの時間を要していましたが、オンライン化によってこれらの作業が自動化されるためです。
教材のデジタル化により、解答の瞬時の採点が可能になるだけでなく、生徒の理解度や苦手分野の分析も容易になります。
正答率のリアルタイム表示や達成度のグラフ化により、生徒は自分の進捗を視覚的に確認でき、学習意欲の向上にもつながっています。
電子黒板を導入する
従来の黒板とチョークによる授業から、デジタル技術を活用した双方向的な学習環境へと変化しています。
電子黒板を使用することで、教員は事前に準備した資料を瞬時に表示し、生徒の端末と連携させられます。
数学の授業では複雑なグラフを正確に描画し、物理の実験では動画を用いて現象を視覚的に説明することが可能です。
生徒の解答をリアルタイムで共有し、クラス全体で議論を深めることも可能になります。電子黒板の活用により、生徒の理解度が向上し、より効果的な授業展開が実現できるでしょう。
統計を活用した授業を行う
データにもとづく意思決定力を育成するため、統計を活用した授業展開が重要性を増しています。
現代社会では、さまざまな課題解決において統計データの分析と活用が不可欠となっているためです。
地域の観光案内に適した言語を選定する場合、地域経済分析システムのRESAS(リーサス)などのデジタルツールを用いて訪日外国人の統計データを収集・分析し、効果的な言語選択を導き出すことが可能です。
また、商圏分析や市場調査など、実社会の具体的な課題に統計を応用することで、生徒は数値にもとづく客観的な判断力を身につけられます。
このように、統計データを活用した授業は、論理的思考力の育成とともに、社会で求められる実践的なスキルの習得にもつながるでしょう。
生徒の自主学習をデジタル化する
生徒の自主学習をデジタル化することで、学習の幅が大きく広がります。
従来の教科書や参考書に加え、インターネットを活用することで、生徒たちは豊富な情報源にアクセスできるようになりました。
オンライン辞書ツールを使えば、即座に単語の意味を調べられます。また、動画教材やシミュレーションアプリを利用することで、難解な概念をビジュアルで理解しやすくなります。
個々の学習ニーズに合わせた効果的な自主学習が可能となり、学力向上につながるでしょう。
デジタル化された自主学習環境は、生徒の学習意欲を高め、主体的な学びを促進する強力なツールとなり得ます。
スライドを用いたプレゼンテーションを課す
生徒たちは、調査した内容をスライドにまとめ、クラスメイトの前で発表することで、情報の整理力や伝達力を磨きます。
化学の授業では、ノートPCを使用して実験結果をビジュアル化し、分かりやすく説明する機会が増えています。
スライドを用いたプレゼンテーションでは、生徒たちは社会で求められるデジタルプレゼンテーションスキルの習得が可能です。
同時に、聞き手を意識した構成力や、説得力のある表現方法も学べるため、将来のキャリアに役立つ実践的なICT活用能力が身につきます。
高校でのICT教育の普及率と導入状況
高校でのICT機器・サービスの導入状況は着実に進んでいます。
生徒1人1台の端末配備率は84.9%(※)に達し、多くの高校生がデジタルデバイスを活用した学習環境で学んでいます。
校内のどこでも無線LANが利用できる環境が整備されている高校は47.1%(※)となり、約半数の学校でスムーズな情報アクセスが可能です。
しかし、機器の導入だけでなく、それらを効果的に活用するための教員研修や、情報モラル教育の充実など、ソフト面での取り組みも重要です。今後は、単なる機器の普及率だけでなく、ICTを活用した教育の質的向上が求められるでしょう。このように、高校でのICT教育は普及段階から活用の深化段階へと移行しつつあり、生徒の学びをより豊かにする可能性を秘めています。
高校でのICT教育では、具体的にどのような効果を上げているのでしょうか。実際の導入事例や効果をまとめました。
【ハードやソフト面の導入事例】
・1人1台デジタル機器を配布(タブレット・PC)
・高速インターネット通信のWi-Fi環境の整備
・電子黒板やプロジェクターの導入
・学習支援ソフトやアプリの導入
【感じられる効果】
・集中力の向上
・考える力が身につく
・成績の向上
・理解の定着
ICTを授業全体に取り入れ、生徒の集中力アップや成績向上効果などにつながるケースが見られました。プレゼンテーションソフトでのスライド作成を行えば、より生徒の実態に合った授業の展開が可能です。
立教池袋中学校・高等学校
立教池袋中学校・高等学校では、ICT教育の目標を4つ掲げています。「情報統合力」「思考力」「コミュニケーション力」の養成、そして「情報モラル」の習得です。
目標達成に向け、2018年度から高校生に1人1台のタブレット型PCを導入しました。さらに2022年度からは中学生にも同様の環境を整備し、高校生には自分のデバイスも持ち込めるBYOD方式を採用しています。
具体的な取り組みとして、タブレット型PCを従来の筆記用具やノートと同等の教具として位置付け、日常的に活用しています。
この方針により、ICT機器の利用が特別なものではなく、学習に不可欠なツールとして定着しました。
この取り組みは、ICT教育の効果的な実践例として、他校の参考にもなるでしょう。
東京都市大学等々力中学校・高等学校
東京都市大学等々力中学校・高等学校では、「Life is Tech Lesson」というオンラインプログラミング学習ツールを積極的に活用しています。このシステムの最大の特徴は、生徒が自分のペースで学習を進められる点にあります。
具体的には、HTMLとCSSの基礎を学んでウェブページを制作するプロジェクトを実施しました。学習の集大成として、生徒たちが作成したウェブページの発表会と鑑賞会を開催し、互いの成果を共有する機会を設けたことで、学びの相乗効果が生まれました。
授業を効果的に進めるため、教員側も工夫を凝らしています。生徒の集中力が持続する10〜20分程度の動画教材を作成し、使用したスライドはPDFでも配布しました。
さらに視覚的な要素を取り入れたり、楽しく学べる「おまけ」コンテンツを追加したりと、生徒の学習意欲を高める工夫が随所に見られます。
駒込中学校・高等学校
駒込中学校・高等学校では、電子黒板と生徒個人のタブレット端末を連携させた教育環境を構築しています。
教材の画像や図形を自在に操作できる授業が可能となり、生徒の理解度が格段に深まっています。
アクティブラーニングの実践において、ICT機器は不可欠な要素です。なぜなら、ペアやグループでの学習・発表・情報共有が瞬時かつ効率的に行えることにより、より発展的な学習活動へと展開できるからです。
一方で同校では、従来の黒板授業や理科実験、実技系学習の重要性も変わらず認識しています。
同校では「動画型ICT教材」を活用し、生徒が自宅でPCやタブレットを使って授業の復習や課題に取り組める環境を整えています。
教員側は生徒の課題への正答率などのデータを詳細に把握できるため、「なぜ間違えたのか」「今後どの点に注意すべきか」といった個別指導をより効果的に行えるようになりました。
北陸学院高等学校
北陸学院高等学校では「主体的な深い学び」を実現するためICT教育に注力しています。
注目したいのは、20年という長期計画にもとづいてICT環境の整備を進めている点です。従来の一方通行の授業から脱却し、生徒と教員の活発なコミュニケーションを促進するための環境整備を進めています。
全教室に設置された電子黒板は、動画・音声・画像を効果的に活用した授業を可能にし、生徒の興味・関心を高めながら理解を深める役割を果たしています。
特筆すべきは、授業で使用したデータを動画化してネットで共有し、家庭学習にも活用できる仕組みを構築している点です。
教員全員がタブレットかノートPCを活用できる環境が整備され、デジタル教科書の活用だけでなく、独自教材の作成も行っています。
まとめ
ICT教育は教師・生徒の両方にメリットがある学習方法です。高校では、小・中学校で学んできたICTリテラシーを土台とし、情報活用能力を高める学習が求められています。
教師もICTに関する知識や実践方法を学び、授業改善を行う必要があります。今までの教員生活で培ったノウハウも大切にし、新しい教育方法をうまく取り入れていきましょう。