近年、教育の現場や企業研修で広く活用されているeラーニングは、パソコンやスマートフォン、タブレットを使い、時間や場所を選ばずに学習できる点が大きな特徴です。学習者にとっては自由度の高い学びの機会を提供し、教育者側にとっても教材管理や運用の負担を軽減できるなど、多くのメリットがあります。
本記事では、eラーニングの基本的な仕組みや通信教育との違い、発展の歴史について解説します。また、最新のトレンドや導入時に必要なポイント、運用を成功させるための方法についても詳しく紹介するので、eラーニングを効果的に活用したい方はぜひ参考にしてください。
eラーニングとは?意味・特徴や通信教育との違いを解説
まずはeラーニングの特徴の紹介です。同じく教育者と学習者が離れていても学べる学習形態として通信教育がありますが、この2つの違いも合わせて解説します。
eラーニングとはインターネットを利用した学習形態のこと
eラーニングとは、インターネットを利用した学習スタイルのことです。パソコンやタブレット、スマートフォンを使い、時間や場所を選ばずに学習できる点が特徴です。近年では「オンライン学習」とも呼ばれることがあり、動画教材をはじめ、さまざまな形式のコンテンツが提供されています。
「e」は「electronic(電子的な)」の略であり、IT技術を活用した学びを指します。学習者はインターネットを通じて教材にアクセスし、映像やテキストを使って自主的に学習を進められます。従来の対面授業とは異なり、双方向のやりとりが可能なシステムもあり、教育の幅が広がっています。
場所・時間・回数に制限なく学習できるのが特徴
eラーニングは対面授業のように教育者と学習者が1カ所に集まる必要がありません。場所にとらわれずに授業を受けられます。特に最近はスマートフォンやタブレットの普及もあり、電車での通勤通学時など、パソコンがなくても受けられるようになりました。また、学習する時間や回数に制限はなく、自分の好きなタイミングで、理解できるまで教材を繰り返し見ることができます。
このように、場所や時間、回数に制限なく学習できる点が、eラーニングの大きな特徴です。
eラーニングは学びの機会を広げて人の成長を促す
eラーニングは学校教育や企業研修などさまざまな場所で使われており、人の成長に役立ちます。教育者によって作成された動画を活用することで、テキストを読むよりも効率的に理解しやすく、効率的な学習が可能になります。
また、eラーニングは時間や場所を選ばず学べるため、忙しい人でも学習を継続しやすいのが特徴です。教育者側にとっても、教材の準備や更新にかかる手間や費用を抑えられ、導入しやすいメリットがあります。その結果、学習環境の充実や教育の質の向上につながり、組織や人の成長を促せるのです。
eラーニングと通信教育の違いを解説
教育者と学習者が遠くに離れていても問題ない学習形態として通信教育がありますが、eラーニングとどこが違うのでしょうか。
この2つの違いは、主に使用する教材の種類です。eラーニングはインターネットを通して動画教材で学びます。一方、通信教育は紙のテキストやラジオ・テレビなどを使います。
通信教育では教材を送りっぱなしになってしまうことが多く、レポートを後で学習者が返送する形であっても、費用やタイムラグが発生します。一方、eラーニングでは学習履歴が残るので、教育者が学習の進み具合を把握しやすいという違いもあります。eラーニングは通信教育の弱点をうまく補えるのです。
eラーニングはどのようにして広まってきたのか
eラーニングは、1950年代の「CAI※computer assisted(aided) instruction(コンピュータを利用した教育)」を皮切りに、パソコンやITの発展とともに広がりました。言葉自体が出てきたのは2000年頃ですが、当時からも形態は大きく変化しています。その発展の歴史を紹介します。
集合研修での課題解決のために開発されたeラーニング
従来、研修や授業といえば教育者と学習者が同じ場所に集まって行うものでした。しかし、集合研修では学習に関わる人が1カ所に長時間拘束されてしまいます。研修場所が遠ければそこに行くまでの時間やお金も発生します。場所代やテキスト代など経費も多く必要でした。
また、学習者がどれだけ理解できているかも、テストやレポートなどを参考に人力で把握しなければいけません。このような課題を解決するためにeラーニングが開発されました。しかし、当時はインターネットの普及はおろか、コンピュータの導入も始まったばかりで、現在のようなシステムを整えるのは難しい状況でした。そのため、CAIを活用した学習支援は、十分に機能するには至らなかったのです。
パソコンの普及とともに発展した学習環境
eラーニングの発展には、1990年代のパソコン普及が大きく寄与しています。コンピューター技術の急速な発達により、CAIはコンピューターを利用した学習のCBT(コンピューター・ベースド・トレーニング)へと進化しました。
同時に、CD-ROMの大容量化によって動画や音声を含む教材が一般的になり、「eラーニング」という言葉が広く使われるようになったのです。
特に1995年に発売された「Microsoft Windows 95」は、家庭用パソコンOSの革新版として、それまで専門家だけのものだったコンピューターを一般家庭に浸透させました。家庭でのコンピューター利用が日常化したことで、誰もが場所を選ばず学べる環境への第一歩を踏み出したのです。
インターネットの普及による学習環境の変革
「e-Japan構想」が2000年に打ち出されたことで、日本のeラーニング環境は大きく変わりました。超高速ネットワークインフラ整備が進み、2001年には「日本イーラーニングコンソシアム」の設立でeラーニングの普及が加速したのです。
この時期に企業の独自ネットワークシステム整備も進み、学習方法はCD-ROMを使用したCBTから、インターネットを通じて教材を配信するWBT(ウェブ・ベースド・トレーニング)へと移行しました。
WBT方式のeラーニングシステムは、企業だけでなく教育機関にも普及し、全国的に利用が拡大しています。さらに、LMS(ラーニング・マネジメント・システム)の登場によってオンライン上での教材配布が可能になり、管理者にも大きなメリットをもたらしました。
スマートデバイスの普及による学習スタイルの変化
2000年代後半から普及したスマートフォンやタブレット端末などのスマートデバイスは、携帯できるコンピューターとして、学習の時間的・空間的制約を大きく緩和しました。電車での通勤時間や仕事の合間などの「隙間時間」を学習機会に変えたのです。
従来は従業員を1カ所に集めなければ研修できなかった各業種でも、各自が持つスマートデバイスを通じて気軽に学習できるようになりました。また、最近のeラーニングシステムでは利用者同士が交流できるコミュニティー機能が充実しています。
同じ内容を学んだ者同士が意見交換や相互支援する場が生まれ、より深い学びへとつながっています。
スマートデバイスの普及は、いつでも、どこでも、何度でも学習できる環境をつくり上げました。
今後はAIやVRを活用したeラーニングに
現在ではAIやVRを使ったものも出てきています。これにより、実感を伴った体験学習がしやすくなりました。たとえば、VRを使えば実技が学びやすいですし、対人コミュニケーションをよりリアル感が伴った形で対応を見ながら学習できます。
AIを使った分野でも、AIを相手にして実践的な形で学習したり、成績やデータを瞬時に分析したりなど活用が進んでいます。今後も技術の発展に伴い、活用方法がさらに広がっていくでしょう。
eラーニングの最新トレンド事例4選
教育現場で注目を集めるeラーニングには、最新技術を取り入れた学習手法が次々と登場しています。現在主流となっている4つのトレンドを以下で紹介します。
1.リスキリング
「リスキリング」とは、働きながら新しい知識やスキルを習得する取り組みです。DXの進展に伴い、その重要性が増してきました。企業は変化する市場環境に対応するため、従業員の能力開発を求められています。
eラーニングは、リスキリングに最適な方法です。理由は、時間や場所に縛られず学習できる自由度の高さと、AI技術を活用した学習内容のレコメンド機能があるからです。
LMS(学習管理システム)を活用すれば、学習履歴の管理や必要なスキルを体系化できます。
2.ブレンデッドラーニング
「ブレンデッドラーニング」とは、対面とオンラインなどを組み合わせた学習方法です。個々の学習スタイルに合わせて最適な方法を選択できる点が最大の強みです。
例えば、理論的な内容はeラーニングで自分のペースで学び、実践的なスキルは対面で習得するといった使い分けが可能になります。
柔軟な学習環境の提供が、多様な学習者のニーズに応え、教育効果を高める方法として注目されています。
3.反転学習
「反転学習」とは、事前に知識を予習し、研修や授業ではディスカッションや実践的な活動をする学習方法です。
反転学習は、eラーニングとの相性が良いとされています。理由は、eラーニングを活用することで、学習者は事前に動画教材やオンライン資料を用いて知識を効率的に習得できるからです。
例えば、製造業では作業手順を事前に学び、現場で実践することでスムーズな技術習得が可能になります。
eラーニングと組み合わせた反転学習は、学びの質を向上させる効果的な方法として注目されています。
4.アクティブラーニング
「アクティブラーニング」は、学習者の主体的な参加を促す学習法です。従来の一方通行の講義とは異なり、グループディスカッションやプロジェクト学習などを通じて能動的に学べます。
アクティブラーニングはeラーニングと組み合わせることによって、オンライン上でも双方向のやり取りができ、学習効果が高まるでしょう。
変化の激しい時代に対応するため、知識の詰め込みだけでなく、自ら考え問題解決する力を育む手法です。
立場別のeラーニングのメリット・デメリットを解説
このように、時代の変化に合わせて発展したeラーニングは活用するメリットが大きいです。しかし、もちろんデメリットもあります。ここでは、教育者と学習者の2つの立場でメリットとデメリットをそれぞれ解説します。
【教育者側】eラーニングのメリットとデメリット
教育者側から見たeラーニングのメリットとデメリットを、オンデマンド配信とライブ・オンライン授業に分けてまとめました。
学習形態学習形態 | メリット | デメリット |
eラーニング 【オンデマンド配信】 | ・教材は常時更新し改善可能 ・最新コンテンツを全受講生へ一斉配信 ・教育品質の標準化 ・受講者全体の学習状況を一元的に把握 ・個々の学習者に適合した教材の提供 ・長期的視点のコスト削減 | ・教材開発の手間と初期投資 ・学習管理プラットフォーム(LMS)の導入が必要 |
eラーニング 【ライブ・オンライン授業】 | ・対面教育に近い指導体験の提供 ・地理的制約を超えた学習機会の提供 ・相互交流型の教育アプローチが可能 | ・オンライン講義配信が必要 ・Web会議ツールでの学習データ収集に制限 ・体系的教育プログラムの提供が困難 ・オンライン授業の指導と進行のスキルが必要 |
【学習者側】eラーニングのメリットとデメリット
学習者側から見たeラーニングのメリットとデメリットを、オンデマンド配信とライブ・オンライン授業に分けてまとめました。
学習形態学習形態 | メリット | デメリット |
eラーニング 【オンデマンド配信】 | ・場所を選ばず学べる環境 ・個人の理解度に合わせた反復学習 ・動画と音声教材による理解促進 ・自動採点機能による即時フィードバック ・学習記録の可視化による進捗管理 | ・その場で疑問点の解決が困難 ・体験学習と実技学習に不向き ・受講者間コミュニケーションに制限あり ・ネット環境とパソコンやスマホのデジタルデバイスが必須 ・自己管理能力が必要 |
eラーニング 【ライブ・オンライン授業】 | ・移動不要で臨場感ある学習体験 ・双方向で質疑応答が可能 ・グループワークなど協働学習が可能 ・映像と音声を活用した学習効果 | ・体験学習と実技学習に不向き ・ネット環境とパソコンやスマホのデジタルデバイスが必須 ・固定された時間枠に合わせる必要あり |
eラーニングの導入には何が必要?
eラーニングを実際に導入するに当たって必要なものは、学習管理システム、学習教材、学習を支援する人、学習者が使用する端末の4つです。具体的に解説します。
1.学習管理システム(eラーニングシステム・LMS)
まずは学習管理システムです。LMS(Learning Management System)とも呼ばれています。
このシステムは学習者や教材の情報を一括して管理してくれるものです。たとえば、学習者がテストで何点だったかチェックしたり、次にこの教材を公開するように設定したりできます。
2.学習教材
次に学習教材です。現在は動画を使った教材が多く、テロップをつけたものやPower Pointと連動したものなど、その内容は多岐にわたります。教材はオーサリングツールという編集用のソフトウェアで作り、学習管理システムで配信することが多いです。最近は機能を一本化し、教材作成ができるシステムも出てきています。
3.学習を支援する人(メンター・チューター)
eラーニングは人力のコストがかからない点がメリットですが、学習をしっかり身に付けてもらうためには学習者を支援する人の存在も必要です。
メンターは学習者の相談者や助言者として、メンタル面も含めて全体をケアしていきます。チューターは主に教材内容の質問に答える役割です。学習の質問に答えたり、アドバイスをしたりなど、学習関連のサポートを行います。
eラーニングは自分で学ぶことが求められるので、個人のモチベーションがより大切になります。対面ではすぐに質問や相談ができないことも多いので、このような役割は重要です。
4.学習者が使用する端末(パソコン・スマートフォン・タブレットなど)
eラーニングを効果的に導入するには、学習者が使用する端末が必要です。現代のeラーニングシステムは、パソコン・スマートフォン・タブレットといったさまざまな端末に対応しています。
注意すべきは、学習者間でITリテラシーにばらつきがある場合です。
スマートフォンのOSによって操作方法が異なるため、端末の種類に合わせたサポート体制が必要です。また、画面サイズの違いから学習効果に差が生じる可能性もあります。
同じ端末を貸し出し、マニュアルを整備すると学習の進捗率の向上につながりやすくなるでしょう。
端末選定時には、画面の大きさ、バッテリー持続時間、処理速度などを考慮し、学習者の状況に応じた最適な環境を提供してください。
eラーニングシステムを効果的に運用するためのポイント
eラーニングシステムの効果的な運用には、明確な学習目標設定・学習者の意見反映・適切な学習環境の整備・継続的なサポート体制の構築が欠かせません。以下でそれぞれ解説します。
学習目的を明確にする
eラーニングシステムを効果的に運用するには、学習目的を明確にすることが最初のポイントです。何のために学習するのか、どのようなスキルを身に付けてほしいのかを具体化してください。
学習目的の明確化が必要な理由は、それが教育活動全体の指針となるからです。例えば、「生徒の英語リスニング力を向上させる」という目的であれば、それに特化した音声教材や会話練習が欠かせません。
目的があいまいなままだと、eラーニングの導入自体が目的化してしまい、本来獲得すべき教育効果が得られなくなります。
eラーニングを導入する際は、目的を明確にした上で、対象となる生徒の学年や習熟度に合った教材を準備し、学習計画を立てることが重要です。明確な目標があれば、効果的な学習環境を構築できるでしょう。
学習者の意見を反映させる
eラーニングシステムを効果的に運用するためには、受講者の意見を反映させてください。教材が受講者のニーズに合わない場合、学習効果が低下する可能性があるからです。
例えば、教材が難し過ぎたり学習時間が長過ぎたりすると、受講者は途中で挫折してしまう恐れがあります。短時間で学べるコンテンツや分かりやすい教材を提供できれば、学習の継続率が向上します。
日頃から受講者からのフィードバックを収集し、教材の内容や形式を定期的に見直すことが大切です。アンケート機能や学習履歴データを活用し、受講者の声を反映して改善しましょう。
上記の取り組みによって、eラーニングシステムはより効果的なものとなり、受講者の満足度と成果も向上します。
学習環境を整備する
効果的なeラーニングにするためには、社内のパソコンだけでなく個人のスマートフォンやタブレットからもアクセスできる環境を整えることで、学習機会が増加します。
運用面では、管理者側の体制の構築も課題です。
誰がどのような頻度で教材や受講者の状況を確認するのかや、明確なマニュアルを作成しておくことが必須項目です。学習環境の整備により、学習者はストレスなく学習を継続できます。
適切なサポートで学習を促進する
eラーニングは、個別の学習状況に合わせてサポートすることで効果が高まる学習方法です。
受講者に合わせたコンテンツ提供や、個別のメッセージ送信などのフォローが重要になります。双方向のコミュニケーションが取りやすい環境は、受講者のモチベーション向上や悩みの共有につながるからです。
適切にサポートするeラーニングは、学習効果が向上し、導入目的の達成率が高まります。eラーニングの運用に当たっては、受講者と継続的にコミュニケーションを図りましょう。
まとめ
本記事では、eラーニングの特徴や歴史、メリット、導入に必要な要素について解説しました。インターネットを活用することで、学習者は時間や場所を問わず自由に学べるだけでなく、教育者にとっても教材の管理や成績の把握がしやすくなる利点があります。また、適切なシステムや環境を整えれば、継続的かつ効果的に運用することが可能です。
eラーニングは、教育の可能性を広げる学習手法として、今後ますます発展していくでしょう。導入を検討する際は、目的を明確にし、学習者のニーズに合わせて運用することが成功の鍵となります。ぜひ、自身の環境に適した形で活用を検討してみてください。