2022年度から始まった総合的な探究の時間とは?目的やメリットを解説

2022/09/20(火)

2022年度から高等学校で「総合的な探究の時間」が始まりました。似た授業として以前から「総合的な学習の時間」はありましたが、高等学校のみ名称が新たに変更されています。

新設された科目ということで、どのように授業を進めていけばよいのか悩んでいる方もいると思います。そこでこの記事では、総合的な探究の時間について目的やメリットを解説していきます。

2022年度から高等学校で実施されている「総合的な探究の時間」とは

まず、総合的な探究の時間とは何か、以前からあった総合的な学習の時間との違いも踏まえながら解説します。

「総合的な探究の時間」とは教科や科目の枠を越えた学びの時間のこと

総合的な探究の時間とは、生徒一人ひとりが自分で探究する課題を設定し、実際に調べながら学習することです。国語や数学など各教科とは別に時間が設けられました。以前からあった総合的な学習の時間と近いですが、学習指導要領の改定も踏まえてリニューアルされています。

目的は、各教科の知識に捉われない、社会生活を送るために役立つ資質や能力を養うことです。また、課題と自分との関係を通して、キャリア形成など自分自身について考えるきっかけにつながることも目指しています。

「総合的な探究の時間」が求められるようになった背景

高等学校の生徒は、大人として社会に出るのが近い年齢です。高校生が活躍する将来の社会は、世界的に進む急速なIT技術の革新や日本独自の少子高齢化問題などがあり、予測が難しい時代となっています。

その時代を生きるためには一人ひとりが考えて行動し、課題に直面したら解決していかなければなりません。過去のロールモデルはあまり通用しないでしょう。

そのため、総合的な探究の時間を通して、社会を生きるための資質や能力を身につける必要があると考えられました。

また、自分で考えて答えを出す経験が将来のキャリア形成を考えるきっかけにもつなげてほしいと考えられています。

「総合的な学習の時間」との主な違い

総合的な学習の時間は、特定のテーマにおける課題解決について考える時間と同じような目標を担っていました。

それに対し総合的な探求の時間は、より自分事として主体的に学習に取り組むことが求められています。特に課題解決だけでなく、課題を発見するところからの過程が重要視されているといえるでしょう。

なぜなら、先ほどの背景ともからみますが、予測不能な社会においては生き方や抱える課題も多様化すると考えられるからです。自分なりの課題を見つけ、解決することが求められます。

「総合的な探究の時間」の目的と目標をそれぞれ解説

では、総合的な探究の時間の目的と目標について、学習指導要領を交えながら解説していきましょう。

目的や狙いを解説

目的は、社会を生きていくために必要な資質・能力を育成していくことです。自分が何に関心があるのか、社会とどう関わっていくかなど、自己キャリアも考えながら取り組むことを狙いとしています。特定の教科だけの知識では解決が難しいので、各教科の枠を越えて横断的に知識や情報を活用していくことが求められます。

目標を解説

具体的な目標は3つあります。1つ目は、自分なりに探究する課題を見つけ、それを解決するための能力を身に付けることです。実際の社会で生きていく時にも役立つ力の育成を目標としています。

2つ目は、情報を集めて整理し、結果をまとめていく情報活用能力の向上です。総合的な探究の時間では、テーマを探究するにあたってたくさんの情報を集めたり、何が課題解決に役立つのか分析してまとめたりする活動が求められます。

3つ目は、より良い社会を実現しようとする態度の育成です。総合的な探究の時間では、他の生徒とのグループワークや実地調査など他者や社会と接する機会も生まれます。そこで実際に関わりながら、社会の中で生きる人としてふさわしい態度を培うことを目標としています。

「総合的な探究の時間」を実施するメリット・デメリット

総合的な探究の時間を実施するにあたって、期待されるメリットは大きいです。ただし、デメリットもあります。それぞれについて解説します。

「総合的な探究の時間」のメリット

メリットは、まず課題発見や探究を通して、自分で考えて行動する力を養えることです。課題に対してどのように向き合い、解決していけばよいか、その姿勢を経験して学べます。また、高等学校段階では間近に迫った将来設計を考えるきっかけにもつながります。

課題を解決する過程で、情報を調べてまとめる情報活用能力を身に付けられることも利点です。情報を調べる過程で、他の教科の知識を活用するなど各教科とのつながりも生まれます。

課題を解決するには、自分だけではなく他の生徒・教師・校外の人間など多くの人との協力が必要です。そのため、コミュニケーション能力の向上にもつながります。

最後に、自己肯定感の向上です。自分なりに課題を考え、調べて解決したという経験は大きな自信になります。

「総合的な探究の時間」のデメリット

デメリットとしては、まず学習に取り組むための時間の確保が難しいということです。

カリキュラムとして時間が設けられてはいます。しかし、決まった答えや進め方というものがなく、場合によっては校外に出て調査やインタビューをする必要があるため、手間や時間がかかることが予想されます。地域との調整や連絡など、教師に負担がかかる可能性も大いにあります。

また、総合的な探究の時間は各教科ではないので、大学入試に直結しません。直近の大学進学率が5割を超える中、それが学習意欲の低下につながる高校生も出てくると考えられます。

ただし、最近では推薦入試やAO入試など、教科以外で評価する大学も多いです。本来の趣旨とは違いますが、その場合には総合的な探究の時間による成果も活用できるでしょう。

「 総合的な探究の時間」の進め方を4つのプロセスに分けて解説

では、実際に総合的な探究の時間をどのように進めていけばよいのでしょうか。学習指導要領の内容を踏まえて紹介します。

プロセス①:課題の設定

まずは、探究する課題の設定です。課題は生徒が自分自身で考えることが求められます。課題設定次第でその後のプロセスの深め方が変わるので、大事な部分です。

とはいえ、急に課題を設定するように伝えても、どうすればよいかわからない生徒がいるかもしれません。その場合は必要に応じて教師が課題設定の手助けをします。

プロセス②:情報の収集

続いて、課題解決のための情報収集です。インターネット検索・書籍・実地調査・見学など、情報収集の手段はたくさんあります。生徒はその中でどのように進めるのがよいのか判断をして、必要な情報を集めます。

プロセス③:整理・分析

情報を集めたら、分野やカテゴリーごとに整理し、分析します。どのように情報を整理するのか、どのように分析したらよいかなど、その過程も生徒自身が決めて行うものです。情報をそのままつなぎあわせるのではなく、自分なりに考えて整理する力が求められます。

プロセス④:まとめ・発表

総合的な探究の時間には、レポートを作成したり他の生徒の前で発表したりするまとめのプロセスがあります。自分なりに成果をまとめることで、自信や次の探究活動への意欲につながります。改善点が見つかることもあるかもしれません。

また、他の生徒や教師からフィードバックをもらえることもメリットです。他の生徒の発表を見て、新たな知識の習得や考え方の発見につながったりもします。

教師の役割は主にファシリテーターに徹すること

教師の役割は学習を先導するのではなく、生徒の考えを尊重して学習が進むよう手助けしていくことです。総合的な探究の時間は、あくまでも生徒が自主的に進める活動です。

必要に応じて生徒の考えを引き出したり、体験活動を取り入れたりするなど、学習がスムーズに進むように動きます。

しかしその場合でも、総合的な探究の時間では答えは教師ではなく生徒自身が持っていることを頭に入れておかなければいけません。役割達成のために重要な指針です。

「総合的な探究の時間」に対する生徒への評価の仕方

総合的な探究の時間は、各教科と違いテストの点数や実技課題で評価することはできません。ですが、教育活動である以上、評価は必要になります。では、生徒への評価はどのように行うのでしょうか。

評価方法は3つの指針を元にすること

学習指導要領では、生徒への評価方法として3つの指針が示されています。

1つ目は、学校で共通した信頼できる評価基準を設定することです。評価に対する説明ができないようでは、信頼できる評価とはいえません。また、教師によって評価基準が違っていては、生徒のモチベーション低下や混乱につながってしまいます。学校全体で評価方法を考え、共通理解を図ることが重要です。

2つ目は、さまざまな角度から評価を行うことです。総合的な探究の時間では、テストの点数などはっきりした基準が用意できません。むしろ教科を横断した内容を取り扱うこともあり、テストのような一方向からの評価方法は不適当です。行動力やコミュニケーション能力など、さまざまな角度からの評価が求められます。

3つ目は、学習過程を評価する方法であることです。総合的な探究の時間では、課題の発見から解決までの一連の流れを重視しています。まとめの発表やレポートだけでなく、課題発見や情報収集など、プロセスごとの評価を行うことが必要です。

生徒の評価記入に対するアンケート結果

先行して探究活動を行っていた学校への評価記入に対するアンケート結果では、活動への所見を文章のみで記載する傾向にあることがわかっています。

アンケート項目の「活動状況・所見を記載するが、評価は行わない」が最多で63.5%でした。「学期ごとに点数、あるいはランク等で評価している」(16.2%)を大きく引き離しています。

高校の探究学習「総合的な探究の時間」における生徒への評価方法 – 一般社団法人 英語4技能・探究学習推進協会 (ESIBLA)より引用

「 総合的な探究の時間」におけるこれからの課題

これからの課題として、学習環境の整備が挙げられます。生徒を取り巻く教師や外部人材、機材などの設備面など、学習環境の要素は多々あります。

まずは、一番身近な教師です。課題として教師一人ひとりの授業力の向上が挙げられます。総合的な探究の時間は生徒主導の学習となるため、通常の各教科と進め方が異なる分、難しいと感じる教師が多いでしょう。2022年から実際に授業を行い、経験や実践が集まることで教師の力量も上がるかもしれません。

次に、地域や外部機関との連携です。生徒を取り巻く実社会がテーマになる以上、外部と協力して授業を行ったほうがより学習効果が期待できます。学校としてどのように連携するか考える必要があるでしょう。

最後に、学習に必要な設備面の充実です。図書館やインターネット環境だけでなく、パソコン・カメラ・プロジェクターなど、必要な設備は多岐にわたります。準備時間や予算には限りがあるので、何が優先して必要なのか決めることが大切です。

まとめ

生徒が自分で課題を見つけて、情報を集めて解決していく総合的な探究の時間。2022年度から高等学校でスタートしました。

学習を通して、変化のスピードが早く予測不能な未来を生きるための力を身につけることを目指しています。生徒のキャリア形成にも役立つでしょう。生徒の学習がスムーズに進むように、まずは教師が総合的な探究の時間についてきちんと知っておくことが大事です。

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