ラーニングピラミッドとは?文部科学省が進める学習定着率の理論や7つの構成要素を詳しく解説

2022/09/22(木)

あなたはラーニングピラミッドという言葉を聞いたことがありますか。ラーニングピラミッドとは、学習方法と学習定着率の関係を表したものです。

テスト勉強や自主学習をしても、なかなか覚えられなかったという経験は誰しもあることでしょう。何かを学びたいときにラーニングピラミッドを覚えておくことで、より効率的な学習が可能です。この記事では、ラーニングピラミッドについて内容を詳しく解説します。

ラーニングピラミッドは学習方法と学習定着率を表した図のこと

ラーニングピラミッドはアメリカ国立訓練研究所が発表しました。

ラーニングピラミッドで示す学習方法は、例えば、教師が大勢の生徒に一斉に教える講義形式や、実際の実技を取り入れながら学ぶ実習など、全部で7つに分類されています。学習方法ごとの、学習内容の定着度をまとめたところ、ピラミッド状に表せたことが、その名の由来です。

ラーニングピラミッドを構成する7つの要素

ラーニングピラミッドは学習方法によって全部で7つの要素に分けられています。ここではそれぞれの方法と学習定着率をまとめました。

1.授業やセミナーなどの「講義」:5%

まずは、教師の話を大勢の生徒が聞くだけの講義です。

講義の学習定着率はわずか5%しかありません。つまり、普通に授業やセミナーを受けるだけではすぐに忘れてしまう可能性が高いということです。もし内容を覚えておきたいのであれば、教師の話を聞きながらノートをとったり、予習や復習を行ったりするなど、話を聞くだけにしない学習に変えるのが有効です。

2.学習内容に関連する「読書」:10%

続いて、学習に関係する本を読む読書です。

本を読むことは、講義をただ受けるよりも自発的な分、定着しやすくなります。しかし、ただ何となく文字を目で追っているだけの読書では学習が身につくとはいえません。定着率も低く、わずか10%です。読書においても、読む前に何が知りたいか考えたり、読後は学んだ内容を要約したりするなどの作業を取り入れると、より効果的な学びにつながります。

3.ビデオ・音声を用いた学習「視聴覚」:20%

読書より覚えやすいのが、ビデオや音声を用いた学習です。定着率は20%になります。

視聴覚教材を通して理解しやすい形で示されることで頭に入りやすく、学習の定着につながります。言葉や文字だけでは伝わりづらいことでも、図や音声効果を用いることでイメージしやすくなるためです。現在はオンライン教材やYouTube上でも、さまざまな分野の学習動画があるため、比較的容易に取り入れることが可能です。

4.実験や見学などのデモンストレーションによる「実演」:30%

実演とは、実験や見学など誰かが行っているものを見ることです。

たとえば、理科の実験を見たり、社会科見学に行ったりするなどが該当します。学習定着率は30%です。その場で体感すると、音・におい・手触りなどその場で感じたリアルな印象が強く残ります。結果的に学んだことを忘れにくくなるのです。

5.ディベートなどによる他人との「議論」:50%

ここからはより能動的な学習方法になります。

まずはディベートなどによる他人との議論です。他人と意見を交わすには、議論するテーマや内容について深く理解しておく必要があります。そうでないと、リアルタイムで話を聞きながら自分の意見をまとめることが難しいからです。

また、自分の考えを話すことで、頭の中にある漠然とした学びも整理されます。結果的に定着率は50%と高くなっているのです。

6.実際に体を動かす「実践による経験・練習」:75%

次は、身体を動かしながらの学びとなります。

たとえば、学校の実技科目や現地でのフィールドワークなどがあります。頭だけでなく体全体を使って学ぶので、より学んだことが身につきやすく、定着率は75%に伸びます。

数学や英語といった実技ではなく座学が中心の学びであっても、練習問題を”解く”、外国人と”会話する”などの実践を取り入れることで、定着率は大きく向上します。

7.研究・論文の発表を通して「他人に教える」:90%

最後は、他人に学んだ内容を教える行為です。

一見、学習方法には見えないかもしれませんが、定着率は90%と高い効果があります。教えるためには、内容についての理解や分かりやすく伝えるための応用力、質問に答えられる深い知識が求められるからです。付け焼き刃の知識では難しい行為といえるでしょう。

たとえうまく教えられなくても、準備や実際の経験は大きな学びとして身につきます。教える中で自分の課題や分からない点が見つかれば、他の方法でさらに学び直すことも可能です。

ラーニングピラミッドの学習スタイルの違い


ラーニングピラミッドは、学習方法と学習定着率の関係を示すモデルです。このピラミッドは、大きく分けて「受動的学習」と「能動的学習」という2つの学習スタイルを示しています。それぞれの学習スタイルが学習効果にどのような違いをもたらすのか見ていきましょう。

受動的学習

受動的学習とは、情報を受け取ることに重点を置いたインプット型の学習スタイルです。具体的には、講義を聞く、書籍を読む、映像や音声コンテンツを視聴する、実演を見るなどが該当します。

受動的な学習は、多くの情報を効率良く取り入れるのに役立ちます。例えば、大学の講義で専門知識を学んだり、教科書を読み込んで基礎固めしたりする際に有効でしょう。しかし、受け身だけの学習では、残念ながら情報の定着率が低い傾向にあります。

ラーニングピラミッドでは、講義が5%、読書が10%、視聴覚が20%、実演を見るのが30%と、学習定着率が低いと示されています。

能動的学習

能動的学習とは、学んだことを自ら発信・活用するアウトプット型の学習スタイルです。グループディスカッションで意見を交換したり、学習内容を実践して経験を積んだり、さらには他の人に教えたりする活動が該当します。

能動的な学習は、学習内容の定着率を高めるのが特徴です。例えば、ラーニングピラミッドでは、他人との議論が50%、実践による経験・練習が75%、そして「他人に教える」に至っては90%と非常に高い学習定着率が示されています。

文部科学省が推進する「アクティブ・ラーニング」も、能動的学習の考え方にもとづいています。

ラーニングピラミッドとカクテルパーティー効果の関係


ラーニングピラミッドで示される学習定着率の差は、私たちの脳が持つ「カクテルパーティー効果」と密接に関連しています。この脳の働きを理解することで、なぜ能動的な学習がより効果的なのかが明確になります。

カクテルパーティー効果とは自分に関係のある情報だけを選択的に認識できる脳の働き

カクテルパーティー効果とは、騒がしい環境の中でも、自分にとって重要な情報だけを無意識に聞き分けられる脳の働きのことです。例えば、にぎやかなパーティー会場でも自分の名前や興味のある話題が耳に入る現象が該当します。

脳が音の情報を全て処理するのではなく、特定の情報にだけ焦点を当てて認識する能力があるためです。私たちは、五感から入る膨大な情報の中から、自分に関係のある情報や重要だと判断した情報だけを選び取って処理しているのです。

この選択的注意の働きは、学習においても重要な役割を果たします。

ラーニングピラミッドとの関係性

カクテルパーティー効果とラーニングピラミッドは、学習における注意と定着のメカニズムという点で深く関連しています。

カクテルパーティー効果は、数ある情報の中から特定の情報を選び出す脳の能力を指します。一方、ラーニングピラミッドは学習方法と学習定着率の関係性を示したものです。

2つの関係性を理解すると、能動的な学習がいかに効果的かが分かります。能動的な学習は、カクテルパーティー効果を意図的に活用しているといえるでしょう。

学習への応用方法

カクテルパーティー効果を学習に応用する場合、定着させたい内容は「脳にとって優先度の高い情報」と認識させることが重要です。繰り返し学ぶことで、脳はその情報を次第に優先させ認識しやすくなります。

具体的な方法として、反復学習は得意な科目だけでなく苦手な科目の学習にも有効です。さらに、ラーニングピラミッドで示される能動的な学習方法を積極的に取り入れると、学習内容を効率良く脳に定着させられます。具体的には、以下のような学習法が挙げられます。

ディベートやグループディスカッションで議論する
学んだことを実際に試す・練習する
他人に教える

ラーニングピラミッドはなぜ注目されるのか?

ラーニングピラミッドが注目されている要因として、2つの学習方法に分けられることと、その効果を分かりやすく示していることにあります。

学びの種類と効果が分かりやすい

まず、ラーニングピラミッドでは、受動的な学びと、能動的な学びがあることを分かりやすく示しています。受動的な学びは、講義・映像などの視聴・実演などの視聴等です。能動的な学びは、議論する・自ら実践する・他人に教える、等が該当します。
この2種類の学びの方法と学習定着率という観点からの効果が、1枚の絵で分かりやすく整理されているため、効果的な学びについて自ら確認したり、人に伝えたりする際に、利用しやすいという特徴があります。

アクティブラーニングの学習定着率以外のメリット

アクティブラーニングには学習定着率以外に、自分で動いて学びを身につけようとする主体性や、教師や生徒同士での対話から身につく対話力が向上するといったメリットがあります。
このメリットは現代社会に求められる能力と重なることもあり、各国の教育で重要視されています。現代ではITなどの技術進歩の影響を受け、主体的に行動して新たなものを生み出せる人材が求められているからです。
日本も各国と同様にアクティブラーニングを推進しており、新しい学習指導要領にも「主体的・対話的な深い学び」として登場しています。

文部科学省が紹介するラーニングピラミッド導入事例


文部科学省が推進するSSH(スーパーサイエンスハイスクール)のカリキュラムは、ラーニングピラミッドの下層の能動的学習を重視している点が特徴です。SSHでは、生徒が自らテーマを設定し、調査・実験・考察・発表まで主体的に取り組む「課題研究」を中核に据えています。

課題研究では、グループワークやジグソー法など、生徒同士が協力し合う「協働的・体験的な学び」が重視されています。以下はラーニングピラミッドの考え方を効果的に取り入れた導入事例です。

福島県立福島高等学校

福島県立福島高等学校は、課題研究と地域連携の組み合わせにより、ラーニングピラミッドの上位に当たる能動的な学習を推進しています。生徒が実社会と関わりながら探究し発表することは、「実践」や「他者に教える」という深い学びに直結するからです。

1年次の「ベーシック探究」から始まる課題研究が教育の軸です。地域の産業界や小中高大と連携し、生徒は現実社会の課題に挑戦します。探究の成果は発表会で共有され、他者からの質疑応答や評価を受けることで、学びがさらに深まります。

同校は実践的な経験を通して、生きた知識と思考力を着実に養っているといえるでしょう(※1)。

茗溪学園中学校高等学校

茗溪学園中学校高等学校は、中高6年間を見通した一貫性のある課題研究により、ラーニングピラミッドを体系的に実践しています。段階的な「探究スキル育成カリキュラム」によって、生徒が主体的に学びを深める仕組みが構築されているためです。

同校は中学段階から探究活動の基礎を学び始めます。高校1年次には「ミニ研究」、高校2年次には「個人課題研究」へ発展させ、論理的思考力や表現力をレベルアップしながら育成します。

生徒が自ら問いを立て、調査・発表するサイクルは、「実践」と「他者に教える」ことの連続といえるでしょう(※2)。

東京科学大学附属科学技術高等学校

東京科学大学附属科学技術高等学校は、独自の教材と国内外の機関との連携により、専門性の高い探究活動を実現しています。これは、ラーニングピラミッドの上位に位置する高度な「実践」の機会を、学校設定科目として保障しているからです。

同校の「課題研究」では、教員が作成した独自教材を活用します。生徒は独自教材によって体系的に研究手法を学びます。さらに、東京科学大学や海外の教育機関と連携することで、生徒は最先端の科学技術に触れながら研究を深めることが可能です。

生徒は研究成果を国内外の舞台で発表する機会にも恵まれています。同校は「他者に教える」という最高レベルの学習を提供する学校です(※3)。

石川県立小松高等学校

石川県立小松高等学校は充実した指導体制で、課題研究を通じて生徒の探究力を育成しています。学習のプロセスと成果をデータで可視化する仕組みが、ラーニングピラミッドの効果的な実践を支えているといえるでしょう。

同校の特徴は手厚いサポート体制です。複数の教員がチームで指導に当たるほか、「研究サポートプログラム」で生徒の研究活動を多角的に支援します。育成する探究力を明確に定義し、ルーブリック評価などで生徒の成長を測定・分析します。

評価とフィードバックが「実践」の質を高め、確かな学力定着につながるでしょう(※4)。

山梨県立甲府南高等学校

山梨県立甲府南高等学校は、全校体制で主体的・協働的な課題研究を推進しています。全校体制での研究は、ラーニングピラミッドが示す学びを深化させています。独自のポートフォリオの活用が、生徒一人ひとりの探究活動を質的に高めているからです。

スーパーサイエンスハイスクール事業の中核の「フロンティア探究」で、生徒がグループで協働し、地域の課題解決などに取り組みます。その際、活動の記録や考察、自己評価などを「オリジナルポートフォリオ」に蓄積していきます。

生徒は自らの学びの軌跡を客観的に振り返り、次の探究へとつなげることが可能です(※4)。

ラーニングピラミッドを生かした授業のポイント

ラーニングピラミッドを生かして学習を身につけるための授業を行うときには、いくつかのポイントがあります。段階的に生徒が能動的に学べるように、ポイントをおさえながら授業を行っていきましょう。具体的に気をつけるべきポイントを紹介します。

学習者の状況を考える

より効果の高いアクティブラーニングを実施するためには、実は、基礎力を磨くことが前段階として大切です。学習の評価は単純なテストの点数だけではありませんが、たとえば、基礎が身についていない状況でディベート形式の授業を行っても、十分なアクティブラーニングは成立しにくいです。
もちろん、基礎を磨くうえでも、シンプルな授業以外の取り組みは有用です。例えば、授業で発表させるといった取り組みは、比較的容易かつ、自らの声を使うという点で能動的です。
すでに多くの教員がされているように、テストの点以外にもさまざまな観点から、生徒の状態を把握することも大切です。

個人に合わせたフィードバックやフォローを行う

続いて、生徒個人に合わせたフィードバックやフォローを行いましょう。たとえば、現在の学習課題を伝えたり、具体的な苦手分野やその学習方法の復習を提示したりするなどです。
生徒もどこが課題かが分かり、やみくもに学習を進めるよりもはるかに効率的に復習できるためです。

AIドリルを利用することで、対多人数で把握しにくい生徒一人ひとりの弱点の把握や、必要箇所の学習提示が飛躍的に容易になります。またスタディログを参考にすることで、日の目を浴びにくい個々の努力を確認し、承認しやすくなるという利点もあります。

生徒同士で教え合う時間を作る

ある程度学習が身についてきたら、生徒同士で教え合う時間を作るのも効果的です。
分かりやすく教えようとする活動は、学びの振り返りや応用につながります。また、お互いの考えを交わすことで、新たな観点の発見など学びが広がることもあります。教え合う時間は学びを定着させたいときに有効です。

生徒の学習のモチベーションを保つ施策を考える

ラーニングピラミッドを生かした授業では、生徒が能動的に学んでいく必要があります。そのためには生徒自身の学習へのモチベーションが重要です。
教師側は、生徒がドロップアウトしないように、モチベーションを保つ施策を考えることが求められます。たとえば、生徒の興味をひく実演をしたり、面白くなるよう学習にゲームを取り入れたりするなどです。

ラーニングピラミッドは指導のヒントか、それともただの俗説か?

ラーニングピラミッドについて、「科学的根拠(エビデンス)に乏しい」「数値が独り歩きしている」といった指摘があるのも事実です。特に、学習定着率が5%や10%といった切りの良い数値で示されている点から、その信憑性に疑問を持つ声もあります。

確かに、このピラミッドの典拠は明確ではなく、教育研究における確立されたモデルとして扱うには慎重になるべきでしょう。

しかし、多くの先生方が日々の実践の中で、「ただ講義を聞くだけでなく、生徒が主体的に活動した時の方が、学びが深まっている」と感じる場面は多いのではないでしょうか。

このラーニングピラミッドは、**厳密な科学的データとして捉えるのではなく、より良い授業を構想するための「思考のヒント」**として活用することに価値があると考えられます。

学習活動のバランスを見直すきっかけとして
講義形式の時間と、グループディスカッションや発表、演習といった能動的な活動のバランスを考える上での参考になります。

生徒に学習方法を意識させるツールとして
生徒自身にこの図を見せ、「どうしたらもっと記憶に残るだろう?」と自分たちの学び方を振り返らせるきっかけ作りにも活用できます。

数値の正しさに固執するのではなく、その根底にある「どうすれば生徒の学びがより深く、確かなものになるか」という問いについて考えるための、一つの材料としてラーニングピラミッドを捉えてみてはいかがでしょうか。

まとめ

さまざまな学習方法と、その学習定着率を示したラーニングピラミッド。何かを学ぶときに覚えておくことで、効率的に学習したり、学んだ内容を身につけたりするのに役立ちます。
特に、学習したことがあまり頭に入らないという人は、部分的にでも定着率が高い学習を取り入れることで学習が身につく可能性があります。ぜひラーニングピラミッドを活用して、学習や授業を行ってみてください。

※1:福島県立福島高等学校「スーパーサイエンスハイスクール」
※2:茗溪学園中学校高等学校「SSH関連情報」
※3:東京科学大学附属科学技術高等学校「学びの特色」
※4:文部科学省「スーパーサイエンスハイスクール実践事例集」

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