文部科学省が提唱するギガスクール構想が進み、ICTを学習に取り入れる機会も増えてきました。
「ギガスクール構想の目的とは?」「今後のICT教育現場に求められるものは何か?」
上記のような疑問を持つ人もいるのではないでしょうか。この記事では、ギガスクール構想の目的やメリットについて詳しく解説します。解決すべき課題や今後の見通しについても説明しますので、ギガスクール構想について知りたい人必見です。
ギガスクール構想とは?概要と目的をわかりやすく解説
ギガスクール構想とは、2019年に文部科学省が発表した計画です。生徒一人ひとりに、パソコンやタブレット等のICT端末を配布する計画が組まれました。ギガスクール構想でのキーワードの1つに「Society 5.0 」があります。内閣府では「仮想空間と現実空間を高度に融合させたシステムによる社会」と説明しています。IoTやロボット・AIを活用して新たな価値を生み出す社会を目指しているのです。教育も例外ではありません。2019年の文部科学大臣メッセージでもSociety 5.0に触れ、「PC 端末は鉛筆やノートと並ぶマストアイテム」と位置付けました。情報社会より進んだSociety 5.0 時代を生きる子ども達に、ICT機器を導入した教育が必要とされたのです。
ギガスクール構想とは「児童・生徒1人に1つの末端を配布し、最適化された学び」を実現すること
ギガスクール構想では、1人1台のICT機器配布と高速インターネット通信の整備が目玉です。今までのパソコン教育は手軽にできるものではありませんでした。パソコン教室に1クラス分のデスクトップ型パソコンがあるものの、使える時間は限られています。1年に数回程度しか、パソコンに触れる機会がなかったのです。ギガスクール構想で、持ち運べる端末が1台ずつ配布されました。インターネットでの調べ学習もできるようになり、より個人に合った学習が可能になったのです。
ギガスクール構想の目的は主に3つ
ギガスクール構想の目的は、学習者や教育者により良い変化をもたらすことでした。ここでは主な目標3つを詳しく説明します。
生徒個人の能動的な学習をサポートする環境の整備
ICTの導入は、生徒個人が自ら進んで学ぶ環境の整備が行われることが目的です。紙媒体での授業は、教師の話を聞く学習スタイルが一般的でした。子どもに考えさせる時間も取られていますが、一斉指導の中では考えがまとまらない子どもが出てしまいます。タブレットでの学習形式であれば、答えを導き出す過程でシミュレーションが可能です。書き込んだデータを全体に向けて発表したり、教師が評価に使用したりできます。ICTには、集団で埋もれてしまう子の意見をくみ取れる良さもあるのです。
IT関連の情報モラルの知識を身につけるため
ICTの使用には情報モラルを身に付ける目的もあります。インターネットなどを安全に使うには、実際に使ってみてルールや危険性などを知る必要があるためです。家庭でスマートフォンやタブレットを使っている子どもも多いでしょう。便利で楽しい反面、使い方には注意しなければなりません。情報モラルを身につけるためにも、ICTを学校教育で行う必要があるのです。
近年問題にもなっている教員側の負担の軽減
ギガスクール構想には、教員の働き方改革を進める目的もあります。教師の仕事は学習を教えるだけではなく、成績処理などの事務作業など多岐にわたります。勤務時間が過ぎても成績処理や教材研究をしている状態で、働き方改革とはほど遠いのが現状です。文部科学省は統合型校務支援システムの導入で、教師の負担軽減を目指しています。生徒の成績処理や授業の準備などシステムに任せる部分を増やせば、働き方改革にもつながるでしょう。
ギガスクール構想の3つのメリット
ギガスクール構想で今までできなかった学習が可能になります。ここではギガスクール構想のメリット3つについて、項目別に詳しく解説します。
メリット①一斉授業から個別のレベルに合わせた学習環境が整う
ICT教材の導入で、一斉授業だけではなく個別レベルに合わせた学習環境が整います。どのような学習場面でも対応できるICTの良さが生きてきます。例えば、一斉授業では教育者用デジタル教材を使います。電子黒板に写し、大事な部分に教師がマーキングしたり、学習内容に関連した動画を全体で見て確認できたりします。また、家庭など学校以外では学習者用デジタル教材が便利です。AIドリルなら、個人の能力に合った課題を用意できるので、それぞれのレベルに合った学習ができます。
メリット②能動的な学習(アクティブラーニング)が可能に
ICTの活用でアクティブラーニングが可能になります。アクティブラーニングとは、生徒が自分から進んで学びに参加することを指します。一斉授業では発言する生徒が限られており、発言が苦手な生徒の声を拾うのは難しい面もありました。机間巡視で生徒の意見を把握できますが、全員を見逃さず確認するのは大変です。デジタル機器の活用で、生徒の考えを引き出しやすくなります。表現が難しい図形問題もシミュレーションで簡単に行え、ノートに書くより考えやすいです。答えを出すために試行錯誤した過程も記録に残るので、点数では見えない生徒の評価にも使えます。
メリット③情報が共有され、業務効率化も図れる
デジタル機器やデジタル教材の導入で、情報が共有されるため教師の業務効率アップが図れます。テストの採点業務や点数入力は時間がかかる仕事です。デジタル教材を使えば、点数が自動集計されるので入力の手間が省けます。苦手分野を分析し、生徒の力に合った課題作成も可能です。
ギガスクール構想の2つのデメリット
ギガスクール構想にも欠点があるため、導入する前に知っておきましょう。ここでは、ギガスクール構想のデメリットを2つ解説します。
デメリット①デバイスの取り扱いに関する保護者への説明や対応が不可欠
ICT端末の取り扱いについて、保護者への説明が必要不可欠です。家庭でデバイスを使う場合、保護者の管理下に置かれるためです。コロナの休校措置では、急だったこともありプリント配布を行う学校もありました。しかし、それだけでは不十分で悩む保護者がいることも考えられます。子どもだけでなく、保護者にも説明する場を設けるようにしましょう。
デメリット②ICT教育における教師側の理解や知識が必要
ICT教育を行うにあたり、教師側もきちんと理解し知識を持った上で対応する必要があります。子どもに分かりやすく指導するためには、教師もしっかり理解しておかねばなりません。現状、ICT教材を使いこなす教員もいれば、あまり活用できていない教員もいます。教師による差が出ないように研修会など行い、知識の共有を行う必要があります。
ギガスクール構想の現状
ギガスクール構想で端末の所持率は上がり、学習での活用も6割程度と進みました。端末の持ち帰りも準備も95%以上済んだと報告されています。家庭に通信設備がない場合は、約7割の学校でルーターの貸し出しを行っています。通信手段の確保ができつつあり、家庭での活用もすすんでいます。学校のネット環境もかなり進みましたが、生徒全員が満足できる通信速度が出ない場合もあります。通信速度について、文科省でも調査を行い改善する方向で検討中です。
ギガス クール構想の解決が急がれる3つの課題
順調に進んでいるギガスクール構想ですが、解決せねばならない課題も見えてきました。ここでは3つの課題について詳しく説明します。
課題①IT教育学習における教師のリテラシー教育
ギガスクール構想の推進には、まず教師に対しICTリテラシー教育を行う必要があります。生徒がデジタル機器を使いこなすには、ITリテラシーを学ぶ必要があります。しかし、教師側の知識にばらつきがあり、平等な学習体制が保てないのも大きな問題です。教師がICTリテラシーの研修会に出たり、詳しい先生が校内研修会を開いたりして、教員のスキルを上げる必要があります。
課題②機関導入後や、整備に関する教育機関の対応方法
教育機関にデジタル機器やネットワークを導入後、成果について検証しなければなりません。ギガスクール構想は、生徒の学習環境整備や教師の業務負担軽減などを目的として導入されました。新しい教育方法なので、ねらいに合った成果が出ているか、各学校で成果と課題を話し合い、より効果的な指導方法を練る必要があります。
課題③ICT教育の世界的な遅れの巻き返しは可能か
ギガスクール構想により、日本のICT教育が世界基準に追いつけるかも大きな課題です。日本のICT教育は世界と比較すると遅れをとっています。ギガスクール構想で活用が進んだとはいえ、まだまだ遅れている状態です。ICT機器を配布しても実際に使うのは現場の教師です。一斉指導でのICT活用やオンライン授業方法など、教師も学習する必要があります。今後は、今以上に学校現場にも対応が求められてきます。
ギガスクール構想の今後の見通し
ICT機器の配布が完了したあと、ギガスクール構想はどのように進められるのでしょうか。ここでは、今後の見通しについて2点確認します。
文部科学省が公表するロードマップからみた「アフター・ギガスクール構想」
今後はICTの知識を持ち、活用できる教員の育成が求められています。授業でICTを積極的に活用している教員もいれば、紙媒体中心の授業スタイルをとる教員もいます。蓄積された教育技術にICTを組み込むことで、時代に合った授業スタイルに変えることが可能です。まずは講習会などを実施し、ICTへの知識を持つ教員の育成が求められます。詳しい教員が中心となり、校内で研修会を開けば教員同士で知識が共有できます。このように、学校単位でICT教育に取り組む必要があるのです。
学びの保証オンライン学習システム「MEXCBT」(メクビット)の開発
「MEXCBT」とは文部科学省が開発したオンラインシステムです。学びの質を補償する目的で作られ、教師も生徒も利用できるシステムとして注目されています。一番の特徴は「問題バンク」があることです。国や自治体が作成した問題約25,000問が搭載されており、教師が選んだ課題を生徒に出題できます。また、生徒がインターネットを使い問題練習ができるのも利点です。学年や教科を選べるので、基礎からの学び直しも可能です。一問一答やテスト形式など解答方法も選べるので、より生徒に合った学習内容が選べます。
まとめ
ギガスクール構想でICT機器導入が完了に近づく今、現場に求められるのはICTの活用です。ICTを取り入れた教育活動は生徒と教師にメリットがある反面、デバイス管理や教師の知識不足の問題もあります。ICT教育を効果的に行うには、教師のICTリテラシーや指導方法の向上が必要です。学校現場で成果と課題を確認しながら、活用方法を考える必要があります。