ICT教育はネットワーク技術の発展という背景や、今後の激動の時代を生き抜くための手段として、国を挙げて進めている教育です。2020年には新型コロナウイルスの流行もあり、ICT教育推進の勢いがさらに加速しました。この記事では、2022年現在、学校におけるICT教育がどうなっているのか、現状や課題・活用事例を解説します。
学校におけるICT教育とは
「ICT」はさまざまな分野で日常的に聞かれる言葉です。では、学校で推進されているICT教育とはどのようなことを指すのでしょうか。具体的に解説していきます。
そもそも「ICT」とは情報と通信の技術を意味する
「ICT」とは情報通信技術のことで、「Information and Communication Technology」の略語となります。具体的には、インターネットなど通信技術を使い、人と人が繋がるコミュニケーション技術です。例えば、私たちの生活になじみがある、インターネット検索やチャット・通販などがあります。
「ICT」と「IoT」の違い
IoTは人が間に入らず、インターネットとモノが繋がる技術のことです。「Internet of Things」の略語となります。具体的には、インターネットを通して家電や機械を操作することです。ICTとの違いは間に人が入るか入らないかという点があります。
「ICT」と「IT」の違い
ITは「Information Technology」の略語で、日本語では情報技術を指します。ICTとITの意味はほぼ変わりません。厳密に違いをいえば、「IT」はパソコンやインフラなど技術そのものを意味するのに対し、「ICT」はどう活用していくかという技術の使い方を意味します。
現在、国際的にはICTのほうがよく使われており、日本でもICTという言葉を使うことが増えています。例えば、2000年に政府が掲げたIT戦略であるe-japan構想ではITという言葉が使われていましたが、2004年以降のu-japan構想ではICT表記になりました。
ICTはさまざまな分野で欠かせない存在
ICTはいまや世界中に浸透しており、医療・福祉・観光・農業などさまざまな分野で欠かせない存在です。今後もさらにICTの活用が進んでいくことが予想されます。その中にはもちろん教育も含まれます。さまざまな分野でICTを活用するには、ICTを正しく使える人材の育成が不可欠だからです。
ICT教育とはデジタルを活用した教育方法のこと
ICT教育とは、デジタルを活用した教育方法のことです。ここでいうデジタルとは、パソコンはもちろん、タブレット端末・デジタル教科書・学習用ソフトなどさまざまな物が含まれます。子供はICT教育を受けながら、ICTの活用方法や安全に使うための決まりなどを学びます。
学校にICT教育が必要な理由を解説
ICT教育推進は国の方針ではありますが、実際に学校側から見ても今後に必要な教育です。その理由を解説します。
少子高齢化によって遠隔で学習できる環境が必要
現在日本では少子高齢化が進んでおり、特に地方では児童生徒数の減少から学校の統廃合につながっています。学校の統廃合が進むと毎日遠方から時間をかけて通わなければいけない子供が出てきます。通学路が遠く送り迎えなど親の援助を必要とするケースもあるので、何らかの都合で行けない日が出てくるかもしれません。この問題に対応するための解決策の一つが、ICTを活用した遠隔授業です。遠隔授業では、学校に行かなくても自宅からオンラインで授業を受けられます。
今までの教育課題をICTで解決することができる
ICT教育による遠隔授業は、地方の子供以外にも不登校や病気などさまざまな理由で学校に通えない子供に教育を提供できます。記憶に新しい新型コロナウイルスなどの感染症や自然災害発生時にも、遠隔授業ができれば教育を途切れさせずに続けられます。遠隔授業以外にも、例えばICTで一人ひとりの成績を管理しながらそれぞれに合った学習を提供するなど、個に応じた細やかな指導を行いやすくなります。個に応じた指導は、多数の子供を教師1人が指導する従来の教育スタイルでは難しさがありました。このように、今までの教育課題を解決するための手段として、ICT教育を活用できます。
子供が生きる未来の社会ではICTが必要不可欠
未来ではICTがより生活に密接していくでしょう。そうした未来を生きる子供たちには、無数の情報に流されずに正しくICTを活用する力が求められます。ICT技術の発展は凄まじい速度で進んでおり、今後もAIやロボット・VRなどさまざまな技術の進歩が予想されています。しかし、技術発展がどのように進み、活用されていくかは不透明です。こうした変化が激しい社会に対応するためにも、ICTを使いこなして自分に役立てる力が必要です。
GIGAスクール構想とは?学校におけるICT教育の現状
GIGAスクール構想とは、2019年に文部科学省が打ち出した教育構想です。具体的には子供1人に1台のパソコンやタブレット端末の支給や高性能なネットワーク環境・ICT支援員の配備など、ICT環境の整備を進めています。これにより全ての子供がICTを活用して自分に合った教育を受け、課題解決能力や創造性など資質・能力をより一層伸ばしてもらうことが目的です。
文部科学省は「GIGAスクール構想」を推進している
文部科学省は2019年からGIGAスクール構想を推進しています。文部科学省の考えに基づき、各自治体が実際にICT教育の導入を進めている最中です。地域によって導入に格差はありますが、2022年現在のICT教育の現状を解説します。
学校へのICT教育の導入はどこまで進んでいる?
小・中学校でのICT教育の導入において、1人1台端末やインターネット環境などハード面はおおむね完了しています。文部科学省が行った2021年7月の調査結果では、小・中学校の9割以上がインターネット環境の整備が完了し、1人1台端末も実現しました。一方で高等学校(公立)の端末配備は小・中学校に比べて遅れが見られます。
日本の学校でのICT教育の浸透率はまだまだ低い
ハード面での配備は完了したものの、ICT教育の浸透率はまだ低いといえるでしょう。ICT教育を行う教員側のスキルが上がっておらず、教員を支援するICT支援員の配備も不十分だからです。2020年9月の段階において、ICT環境(ハード面)の整備が完了している自治体はわずか4%でした。そのため、今後はICTの活用データを溜め、実践を広げることが課題となります。
地域格差も課題となっている
高等学校では地域格差も課題となっています。2022年の調査ではすでに1人1台端末の配備が完了している自治体がある一方、まだ約4人に1台という自治体もあるからです。文部科学省は2022年度中に、全都道府県の高等学校1年生に1人1台端末の実現を目指しています。
withコロナ時代とともにICT教育は加速する見込み
ハード面でICT環境の整備が大きく進んだのは、新型コロナウイルスへの対応が大きく影響しています。2020年に一斉休校となった際はまだ環境整備がほとんど完了しておらず、遠隔授業への対応が難しい状況でした。しかし、新型コロナウイルスの発生によって計画は大きく前倒しとなりました。withコロナが求められる現在、今後もICT教育は加速する見込みです。
学校でICT教育の環境が整わない理由を解説
このように、ICT教育の環境整備は現在急ピッチで進められていますが、まだ完全に整っているとはいえません。その理由を解説します。
理由①予算の確保が難しい
1つ目は予算の確保です。文部科学省や各自治体はすでに1人1台端末や高速インターネット環境の配備に多額のお金を掛けています。しかし、ICT教育に必要なものはそれだけではありません。デジタル教科書や学習システム・ソフトウェアなどのソフト面の充実や、ICT支援員・教員へのICT研修など人材育成が求められます。
理由②教員がICTによる授業をイメージできていない
2つ目は教員のICT活用能力の問題です。ようやく1人1台端末の整備がほぼ終わったばかりなので、まだICTを使った授業をどう進めればよいかわからない教員が大半です。これから全国で事例を積み重ね、教員がごく当たり前にICTを使った授業ができるようにする必要があります。
【事例】学校でのICT教育はどのように進めるべきか
これから学校でのICT教育はどう進めるべきでしょうか。先行している学校の事例を紹介します。
小学校でのICT活用事例
ICTで写真や動画を使うことで視覚的に授業を伝えられ、授業への理解度や意欲の向上につながっています。どの年齢の子供にも視覚的支援は有効ですが、特にまだ読解力や理解力が発達途上にある小学校段階では大いに役立ちます。調べ学習やレポートにも活用事例があります。例えば理科の植物観察レポートでは、1人1台のタブレットで写真を撮ることで、簡単に分かりやすくまとめることができました。
中学校でのICT活用事例
中学校では数学の問題をICTを使って分かりやすく表すことで、直観的な理解が容易になりました。また、理科実験や技術授業などで作業を説明するときにも便利です。タブレットで撮影したものをプロジェクタに投影したり、デジタル教科書を使ったりすることができます。教師の説明だけでなく生徒の活動も、同じようにタブレットを使ってリアルタイムで共有可能です。
高校でのICT活用事例
英語や国語では、文章の音声を好きな速さで繰り返し再生することができます。これにより、分からない部分も再度取り組んで理解することが可能です。また、生徒人数が多い高等学校では、タブレット上でテストを行うことで簡単に採点でき、結果を見比べることができました。さらに、出欠状況や学習時間などもタブレットで一括管理し、教員や生徒のコストを削減している高等学校もあります。
まとめ
ICT教育は各自治体や学校で次々と進んでいます。2021年は学校でICT環境の配備が進んだことからGIGAスクール元年と呼ばれるほどです。ICT教育のゴールはただICTを活用することではありません。ICTを使いこなして変化の大きい未来に対応していく人材の育成です。これからはICTをどう授業に取り入れ、子供の成長につなげるかという活用方法に重点が移っていくでしょう。今後も学校のICT教育の動向から目が離せません。