アサーションとは相手に配慮したコミュニケーション方法の1つです。学校教育においても導入することで「学習意欲の向上」「いじめや不登校の防止」などの効果が期待できます。この記事では、アサーションについて解説しながら、身につけるメリットや指導方法について解説します。アサーションを身につけるためのトレーニング方法も詳しく解説するので、ぜひ参考にしてください。
「アサーション」とは相手に配慮した自己表現法
アサーションとは、相手の気持ちに配慮した自己表現のことです。自分の素直な気持ちや考え方を適切な方法で伝え、お互いを尊重してコミュニケーションを行う上で欠かせない技法です。現代の生徒たちは、コロナの影響で学校に出席する機会が減少したことから、友人との交流が不得意な生徒が増え、また友人関係の悩みも増加している可能性が考えられます。アサーションの表現方法を身につけることで、スムーズな対人関係を構築しやすくストレスもたまりにくくなることが期待できます。このような背景から、学校においても予防的・開発的な側面の1つとして、アサーションを身につける訓練の必要性が求められるようになってきました。
アサーションにおける3つのコミュニケーションタイプ
アサーションは、コミュニケーションの傾向によって3つのタイプに分けられます。
1.アグレッシブ(攻撃的)
2.ノン・アサーティブ(非主張的)
3.アサーティブ(バランス型)
それぞれ詳しく見ていきましょう。
アグレッシブ(攻撃的)なコミュニケーションタイプ
アグレッシブは、英語で「攻撃的な」という意味を持ち、自己中心的で相手の気持ちや状況を十分に汲み取らないコミュニケーションタイプです。例を挙げると、気に入らないことがあると頭ごなしに怒ったり、「どうしてくれる」と責め立てたりすることがあります。起こしてしまった問題には何らかの原因があるにもかかわらず、冷静に考えずに攻めてしまうのが「アグレッシブ」の特徴です。物事をはっきりと伝えられる利点もありますが、相手の考えを軽視し、自分の考えを無理やり押し付けてしまうこともあります。そのため、強い口調で怒鳴ったり、威圧したりしてぶつかり合うことも多いでしょう。
ノン・アサーティブ(非主張的)なコミュニケーションタイプ
ノン・アサーティブは、相手の意見を優先し、自分の考え方や気持ちを表明しないコミュニケーションタイプです。例を挙げると、「図書館に行こう」と誘われた際、本当は公園で遊びたいのに相手に伝えられずに「いいよ」と応えてしまいます。相手に合わせられる利点もありますが、内面は不快な感情をため込んでいる可能性も少なくありません。言いたいことを言えずにストレスを溜め、爆発してしまうリスクも抱えています。そのため、自分の気持ちを表明できないことはあまり望ましくないといえるでしょう。
アサーティブ(バランス型)なコミュニケーションタイプ
アサーティブは、自分の気持ちを伝えながら相手の気持ちや周りの状況に配慮した対話ができるコミュニケーションタイプです。自分と相手の気持ちや考え方は違うことを前提としているため、状況に応じて自分の考えをしっかりと伝えながら、相手の意見も引き出せるタイプです。断るときも相手を傷つけずに断れたり、代案を提案したりして、柔軟な対応ができます。意見を出し合って、お互いが納得できるようにコミュニケーションをとるのがアサーティブタイプの特徴です。
アサーションを学ぶことで期待できる効果やメリット
アサーションを学ぶことで、以下のような5つの効果やメリットが期待できます。
・相手を尊重できるようになり人間関係が円滑になる
・自尊感情を高められる
・いじめや不登校の防止につながる
・人権意識を醸成できる
・学習意欲が向上する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
相手を尊重できるようになり人間関係が円滑になる
アサーションを身につけることにより、相手を尊重できるようになり、今まで以上に人間関係が円滑になるでしょう。例えば、一方的なコミュニケーションをとる人が現れても、その人の背景を理解して寄り添いながら相手の考え方や魅力を引き出しながらコミュニケーションをとれるようになります。人間関係が円滑になれば、生徒は学校生活が楽しくなり、授業に臨む姿勢も変化していくことでしょう。
自尊感情を高められる
アサーション表現を用いた肯定的な声かけをすることにより、高い自尊感情が身に付きます。アサーションを通して「適切な言動は何か」と考える際に、自分の内面の声に耳を傾け、自分とじっくり向き合おうとする姿勢が生まれるためです。自分がどのような気持ちや考え方を持っているか、自分との対話をしていく課程で自尊感情を高めていくことができるでしょう。
いじめや不登校の防止につながる
攻撃的な表現をアサーション表現に変えることで、友人関係のトラブル減少が期待できます。アサーションは自他を尊重し相手への思いやりが養われるため、意見の食い違いがあってもいじめや暴力行為につながる前に防げるでしょう。また、生徒が自分の気持ちや考え方を素直に表現できるようになれば、生徒と先生の関係が構築され、先生が生徒の悩みを早期に発見しやすくなります。このような理由から、アサーションはいじめや不登校の防止に役立つと考えられます。
人権意識を醸成できる
アサーションを学ぶ過程で、人権意識の醸成が期待できます。学ぶこと自体が自分の人権を大切にすると考えられ、同時に相手や先生などの人権を尊重する力が芽生えるためです。自分の気持ちや考え方を他者に伝えることは基本的人権の1つですが、コミュニケーションタイプによっては素直に話せない生徒もいます。そういった生徒はアサーションを学ぶ過程を通して人権意識の醸成につながるでしょう。
学習意欲が向上する
アサーション表現を学び、自分の気持ちを友人や先生に伝えることの喜びを実感した生徒は、学習意欲の向上も期待できます。自分の考えを素直に伝えられるようになれば、交流が深まり、学級の中で好ましい友人関係が構築されます。その結果、学級の中で生徒が発言しやすくなったり、話し合いが活発になったりして学習意欲の向上につながるでしょう。
アサーション実践の前に「アサーション権」を理解しよう
アサーションを実践する前に、まずはアサーションの前提となる「アサーション権」を理解しておくことが大切です。臨床心理学者の平木典子氏は「誰もが自分の考えや気持ちを表明する権利がある」という考え方で、以下の5つのアサーション権を挙げています。
1.私たちは、誰からも尊重される権利がある
2.私たちは、他人の期待に応えるかどうか決める権利がある
3.私たちは誰でも過ちを犯し、それに責任を持つ権利がある
4.私たちは、支払いに見合ったものを得る権利がある
5.私たちは、自己主張しない権利もある
出典:「平木典子著『アサーション・トレーニング』 日本・精神技術研究所」
アサーションスキルを身につける前にアサーション権を学ぶことで、より深い理解につながるでしょう。
アサーションを身につけるためのトレーニング方法
アサーションを身につけるためのトレーニング方法は以下の3つです。
1.DESC(デスク)法を使って順序立てて表現する
2.I(アイ)メッセージを使って表現する
3.非言語的コミュニケーションを意識する
DESC(デスク)法を使って順序立てて表現する
DESC(デスク)法は、自分の気持ちや考え方を整理して話すときに役立つ思考方法です。以下のようにそれぞれの頭文字をとってDESC法と名づけ、4つに分けてコミュニケーションを取っていきます。
1.D(describe):事実を伝える
2.E(express、explain):自分の意見を伝える
3.S(specify):具体的な解決策を提案
4.C(choose):別の選択肢の提案
一例を挙げると、図書室で本を読んでいるときにクラスメイトが大きな声で話している場合「うるさい、静かにして」と伝えるのではなく、DESC法を用いて次のように順序立てて伝えると効果的です。
・D:少し声のボリュームが大きいよ
・E:本を読んでいるから、集中できなくて困る
・S:ここは図書室だから、静かにしてくれない?
・C:もしこのまま話したいなら、別の場所へ移動してもらえない?
DESC法を活用して自分の主張を段階的に分けて使うことで、相手が理解しやすく、心地の良いコミュニケーションが図れるでしょう。
I(アイ)メッセージを使って表現する
主語を私(I)に変えてアイメッセージを用いて対話することで、自分の考えや気持ちが明確になります。主語を相手「You」にしてしまうと「なぜあなたは〇〇してくれないの」と、あまり良い印象ではありません。意識的に主語を私(I)に変えることで、「私はあなたに〇〇して欲しいな」などという具合に、自分の気持ちを素直に伝えられます。あくまで自分の気持ちを伝えているに過ぎないので、相手の受け取り方も変わってくるでしょう。
非言語的コミュニケーションを意識する
コミュニケーションをとる際は、話の内容以外に声の大きさ・話し方・身振り・手振りなど非言語的表現も重要です。視覚的に相手の様子を判断できるためです。例を挙げると「ありがとう」の一言でも、怒った顔をしながら低い声で言われるよりも、笑顔で少し高い声で伝えたほうが好印象です。話の内容に加えて非言語的コミュニケーションを意識することでお互いに気持ちの良い関係を築けるでしょう。
授業におけるアサーショントレーニングの基本的な流れ
授業におけるアサーショントレーニングの基本的な流れは以下の通りです。
(1)3つの自己表現の違いについて理解する
自己表現に攻撃的・非主張的・バランス型の3種類のコミュニケーションタイプがあることと、それぞれの特徴を理解しましょう。
(2)先生を通してアサーティブな自己表現の方法を理解する
アサーティブな表現を意識的に使えるように、表現の良さや適切な使い方を学びましょう。
(3)自らアサーティブな表現を試みる
学んだ知識を活かし、より実践的にアサーティブな表現を活用できるように、ロールプレイングなどを通して更に学びを深めましょう。
(4)聴き方を鍛える
相手がどのような表現で対話してきても、自らアサーティブな表現に変換して聴き方や受け取り方を鍛える練習を重ねましょう。
まとめ
アサーションは、相手に配慮したコミュニケーション方法です。生徒が表現方法を習得することで学習意欲の向上やいじめや不登校の防止などの効果が期待できます。まずは先生がアサーションについて知識を深めながらトレーニングを重ねて、生徒の見本となるように進めていきましょう。