平成28年度、学習指導要領の改訂によって「プログラミング教育」が必修化されました。プログラミング教育とは、インターネットやAIに負けない人材を育成することや、社会や生活で起こる問題解決に立ち向かえる能力を養うことが目的となった学習指導法のことです。この記事では、プログラミング教育の狙い、小・中・高等学校におけるプログラミング教育の特徴について解説します。あわせて、学校におけるプログラミング教育の課題についても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
小・中・高で必修化されたプログラミング教育とは?
プログラミング教育とは、平成28年の学習指導要領改訂に伴い、必須化された情報教育のことです。小・中・高等学校で必修化されている情報教育で、学校段階によって学習内容が異なります。それぞれの学習内容の違いは以下のとおりです。
・小学校:算数や理科など、既存の教科にプログラミング的思考を取り入れた授業を行う
・中学校:技術分野と呼ばれる技術・家庭科授業の中で、プログラミングや関連技術を学習する
・高校:情報Ⅰと情報Ⅱの授業内でプログラミング教育を行う。高校によっては、プログラミング言語を学ぶケースもある
プログラミング教育学習では、新しくカリキュラムを作るわけではなく、小・中学校においては、既存の教科内に組み込む形を取っています。次に、プログラミング教育が既存の教科内に組み込むほど重要視された背景について紹介します。
プログラミング教育が必修化された背景
プログラミング教育が必修化された背景には、インターネットやAIの発展により、今後、人々の生活が大きく変わっていくことが挙げられます。その他にも、時代の変化により、現在の教育方法が通用しなくなるかもしれないことや、AIに仕事が奪われていくことに危機感が生まれたことで、プログラミング教育が必修化され始めました。また、文部科学省でも「プログラミング教育によってコンピュータの仕組みや活用法を理解することは、これからの社会を生きる子供たちの可能性を広げることにつながる」といった見解が公表されていることも、プログラミング教育が必修化された背景です。
学校でプログラミング教育を行う狙い
学校でプログラミング教育を行う狙いは以下のとおりです。
・プログラミング的思考を身に付ける
・問題解決能力を養う
・各教科の理解をより深める
・IT化に適応した人材を育成する
それぞれの狙いについて、順番に見ていきましょう。
プログラミング的思考を身に付ける
プログラミング教育を行う狙いとして、プログラミング的思考を身に付けることが挙げられます。プログラミング的思考とは、コンピュータやAIの思考概念に基づいた論理的に物事を考える問題解決型の思考方法のことです。プログラミング教育では、コンピュータを正しく動作させるための手順や方法などを細かく分析する過程で、プログラミング的思考が学べます。特に、小学校のプログラミング教育において、このプログラミング的思考が重要視されています。
問題解決能力を養う
プログラミング教育を行う狙いとして、問題解決能力を養うことも挙げられます。問題解決能力は、社会で活躍していくためにあらゆる場面で必要な能力です。小学生のうちから問題解決能力を養っていれば、問題に対峙したときに焦ることなく落ち着いて対処したり、自ら思考して問題に対して適切にアプローチしたりできるようになります。
各教科の理解をより深める
各教科の理解をより深めることもプログラミング学習の狙いとして挙げられます。プログラミング教育では、算数や理科などの既存強化と組み合わせた教育方法が取られています。例えば、算数を学習する際、「長さを3cm伸ばす」「右に150°回転」などのような指導をプログラミングと組み合わせることで、自分が意図した図形を作成するための順序や方法を考えることが可能です。順序立てた思考を繰り返すことで、算数の勉強だけでなく、問題解決能力を養ったり、各教科の理解を深めたりできることが期待できます。
IT化に適応した人材を育成する
IT化に適応した人材を育成することも、プログラミング教育を行う狙いの1つです。「IT人材需給に関する調査」の調査報告書によると、2030年には約16〜79万人のIT人材が不足すると予想されています。国内のIT人材が不足すると、企業の生産性や競争率が下がることに繋がるため、早急な対策が必要です。文部科学省では、IT人材が不足傾向にある現状を事前に防ぐために、小学校から行われるプログラミング教育で、ITに適応した人材育成が積極的に行われています。
小学校におけるプログラミング教育の特徴
小学校におけるプログラミング教育の最初の狙いとして、「身近な生活でコンピュータが活用されていること」「問題の解決には必要な手順があることに気付くこと」が挙げられます。そういった狙いを達成するためにも、下記の内容が小学校におけるプログラミング教育の特徴になっています。
・特定の科目に限らず学習活動を行う
・パソコンを使わない学習もある
それぞれ詳しく見ていきましょう。
特定の科目に限らず学習活動を行う
小学校におけるプログラミング教育の特徴として、特定の科目に限らずプログラミング教育が行われていることが挙げられます。これは、小学校ではまだまだ初歩的な内容が多く、普段の授業内でプログラミング的な思考力を身に付けられることも多いためです。例えば、既存教科である算数や理科などにプログラミング教育の要素を取り入れるなど、各教科の垣根はありません。とはいえ、プログラミング教育をどのくらい取り組むのかは各学校によって異なります。そのため、必ずしも特定の科目に限らずプログラミング教育が取り入れられているとは限りません。
パソコンを使わない学習もある
小学校におけるプログラミング教育では、「アンプラグド」という手法が取り入れられています。アンプラグドとは、パソコンを使わずプログラミング的思考を身に着ける学習方法のことです。小学校では、ボードゲームやワークシートを使って「私たちの街の魅力と情報技術にはどんな関係があるか」などを子ども同士で話し合う方法が取り入れられています。プログラミング教育は、必ずしもパソコンを使用するだけが学習方法ではありません。パソコンを使わなくても学習できるといったことが、プログラミング教育の魅力でもあります。
中学校におけるプログラミング教育の特徴
中学校におけるプログラミング教育の最初の狙いとして、「社会におけるコンピュータの役割や影響を理解する」「簡単なプログラムを作成できるようにすること」が挙げられます。そういった狙いを達成するためにも、下記の内容が中学校におけるプログラミング教育の特徴になっています。
・主に技術・家庭科の一環として学習する
・新学習指導要領で学習内容がより拡充された
それぞれ解説していきます。
主に技術・家庭科の一環として学習する
中学校のプログラミング教育では、主に技術・家庭科の一環として取り入れられています。既に中学校の技術・家庭科の授業内でプログラミング学習が行われている場合は、内容が強化されるといったイメージです。文部科学省によると、中学校におけるプログラミング教育では下記の学習内容が明記されています。
・AIの画像認識技術を活用し、問題解決に近づく
・自動チャットプログラムで問題解決に取り組む
・おそうじロボットのプログラミングの工夫を探る
中学校におけるプログラミング教育は、小学校時と比べ、実践的で深い内容が取り入れられているといった特徴があります。
新学習指導要領で学習内容がより拡充された
中学校におけるプログラミング教育では、新学習指導要領で学習内容がより拡充されました。2020年度までに行われていたプログラミング教育では、インターネットの仕組みを学んだり、実際に簡単なプログラミングを作成したりなどが行われていました。しかし、中学校におけるプログラミング教育では、2021年度の新学習指導要領において、インターネットの仕組みを学ぶだけでなく、問題解決能力を高めるためにICT教育などの情報処理技術を活用した学習が取り入れられています。
高校におけるプログラミング教育の特徴
高校におけるプログラミング教育の最初の狙いとして、「コンピュータの働きを科学的に理解する」「実際の問題解決にコンピュータを活用できるようにすること」が挙げられます。そういった狙いを達成するためにも、高校におけるプログラミング教育では、履修科目「情報I」が新設されました。
履修科目「情報I」が新設された
高校におけるプログラミング教育では、より実用的なプログラミング学習を行うために、履修科目「情報I」が新設されました。「情報I」は必修化されており、「情報Ⅱ」では選択科目として導入されています。学習の目的は、コンピュータの仕組み・情報の内部表現・計算に関する限度などを理解し、コンピュータがもつ潜在能力を最大限に引き出す能力を養うことです。小・中学校で学んだプログラミング学習よりも、よりレベルアップされた内容が「情報Ⅰ」では行われます。
学校におけるプログラミング教育の課題
学校におけるプログラミング教育では、学習指導要領で求める内容のレベルが高く、現状の学校体制と大きく乖離しているのが現状です。そのため、学校におけるプログラミング教育では、下記の課題が問題視されています。
・指導する教師の負担が大きい
・十分な知識を持つ教師が少ない
・環境の現場を整える必要がある
・授業時間の確保が難しい
1つずつ順番に見ていきましょう。
指導する教師の負担が大きい
学校におけるプログラミング教育では、指導する教師の負担が大きくなっています。なぜなら、他教科の準備がある中でのプログラミング教育の準備が大変など、プログラミング教育を受けてきていない子どもたちに向けて、1から指導する必要があるからです。他にも指導方法や教育教材の内容が不十分なため、多くの指導教師は、プログラミング教育の指導が困難だと感じています。リトルソフト株式会社で行われた全国の教師(教員)を対象に、「プログラミング教育必修化」に関する調査が行われたところ、下記のような結果になりました。
・プログラミング教育により、大きく負担が増えた:32.7%
・プログラミング教育により、やや負担が増えた:54.8%
・プログラミング教育があっても、負担は変わらない:10.5%
・プログラミング教育により、負担は減った:2.0%
このように、8割以上の教師がプログラミング教育に対する負担を感じています。プログラミング教育が原因で引き起こされている負担を軽減させるためにも、指導方法の見直しや教育教材の開発は必要不可欠と言えます。
十分な知識を持つ教師が少ない
プログラミングの十分な知識を持つ教師が少ないことが課題として挙げられます。教師の多くは、プログラミング教育を受けていない世代です。そのため、生徒に分かりやすく教えられるだけの知識を持ち合わせていないことが多くあります。そのため、プログラミングの知識を身に着けるための講座の開催や指導方法のレクチャー、教材の開発を行い、プログラミング知識を備える教師の養成が必要です。課題解決のためにも、プログラミング知識を持っている特別教員を導入するなどの施策が必要になっています。
現場の環境を整える必要がある
プログラミング教育が学習指導要領によって導入されたことで、学校現場では環境を整えるための時間が十分に確保できず、困惑しているといった状態が起こっています。例えば、パソコンなどの設備やネットワーク環境が整備されていないなどといった問題があります。また、パソコンやネットワーク環境の設備には、高額な費用がかかります。プログラミング教育は、環境を整える時間だけでなく、設備や環境の整備に関する費用面でも問題視されています。
授業時間の確保が難しい
授業時間の確保が難しいといったことも課題の1つです。学習指導要領では、プログラミング教育だけでなく、英語教育の授業時間確保が必須です。特に小学校では、教科担任制によって他科目の中に、プログラミング教育を取り入れた授業準備が求められるため、教師に負担がかかります。授業時間の確保が難しくなると同時に、教師への負担も更にかかっていることも問題です。
文部科学省が公開している実践例やガイドが役に立つ
先述した通り、学校におけるプログラミング教育では4つの課題が問題視されています。身近における教育現場でも、同じような課題が問題視されていることもあるでしょう。先述した課題を解決するには、文部科学省が公開しているプログラミング教育の実践例やガイドが役に立ちます。小・中・高等学校におけるプログラミング教育の内容がPDF形式でまとめられているため、簡単に見ることができます。また、文部科学省が公開しているため、内容量も豊富です。プログラミング教育で抱えている課題解決の手助けになるので、参考にしてください。
まとめ
この記事では、プログラミング教育についてや狙い、小・中・高等学校におけるプログラミング教育の特徴、プログラミング教育の課題についても紹介しました。プログラミング教育は、まだまだ制定されたばかりで、課題の多い指導内容です。しかし、IT人材が不足している日本では、必要とされる教育方法にもなっています。今後、プログラミング教育が子ども達にどういった効果をもたらすのか、社会に対してどういった成果を上げるかなど、動向もチェックしていきましょう。