「ハイブリッド授業とはどんな授業?」「教員側はどのような工夫が必要?」このように考えている方も多いのではないでしょうか。新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに、オンラインでの授業を導入する学校が増えました。現在では、オンライン授業だけでなく、オンライン授業と対面授業を組み合わせた「ハイブリッド授業」を実施する学校があります。しかし、ハイブリッド授業とは具体的にどのような取り組みなのか、教員側はどのような工夫をしなければならないのか、疑問に思う方も多いのではないでしょうか。本記事では、ハイブリッド授業の形態やメリット・デメリットについて解説します。さらに、ハイブリッド授業の実践事例やハイブリッド授業のやり方も紹介しているので、ハイブリッド授業実施に向けて知識を身につけておきましょう。
コロナ禍で需要が高まった「ハイブリッド授業」とは
ハイブリッド授業とは、対面授業とオンライン授業を組み合わせた授業形態のことです。新型コロナウイルスの感染が拡大した当初、オンライン授業はあくまで対面授業の代替案として捉えられ、緊急措置として実施されていました。しかし、現在では引き続きオンライン授業の良さを活かすために、対面授業と組み合わせたハイブリッド授業の導入が進んでいます。ハイブリッド授業はその特徴から、生徒たちに継続的かつ効果的な学びを提供できる授業スタイルです。なお、ハイブリッド授業には以下の3つの形態があります。
・ブレンド型
・ハイフレックス型
・分散型
以下で1つずつ詳しく解説します。
オンライン学習と対面授業を組み合わせる「ブレンド型」
ブレンド型とは、授業を、リアルタイムのオンライン配信・事前に録画した動画・関連動画等のオンライン学習と、対面による授業を組み合わせた授業スタイルのことを言います。ブレンド型の授業スタイルの一例として、反復授業があります。反復授業で行うことは、事前に動画を視聴する自学自習と、対面授業による知識を生かしたワークです。反復授業は、学びを活用する時間を多く確保できるので、知識を習得しやすいという特徴があります。また、ブレンド型では反復授業と逆のパターンの授業スタイルもあります。これは、対面授業で知識について学び、ワークなどをオンライン上で行うというスタイルです。ワークをオンラインで行うことで、他校や外部機関との連携が可能になり、教育の幅が広がります。
オンラインと対面で同じ授業に参加する「ハイフレックス型」
ハイフレックス型の授業は、対面授業をリアルタイムで配信し、対面とオンラインの双方で同じ授業に参加するという授業スタイルです。ハイフレックスは「Hybrid(ハイブリッド)」と「Flexible(フレキシブル)」の2つの言葉を掛け合わせた造語で、柔軟な組み合わせを意味します。ハイフレックス型は、新型コロナウイルス感染拡大による休校が明けた後からよく用いられるようになりました。体調不良や家庭の事情など、通学が困難な場合はオンライン授業を選択するなど、生徒たちは柔軟に受講スタイルが選べます。オンライン授業を選択しても、対面授業と同様にリアルタイムで発言ができたり、他の生徒の様子を伺えたりするのがハイフレックス型の特徴です。
グループごとに授業を行う「分散型」
分散型の授業は、生徒たちをグループ分けして行われます。分散型の授業スタイルの一例として、一方のグループが対面授業を受けているときに、もう一方のグループは別室で授業に関連する動画を視聴します。分散型の特徴は、新型コロナウイルスなどの感染リスクを減らせることです。全ての生徒が同じ教室に集まって講義を受け、実験・実習を行うと、どうしても感染リスクが増加します。そこで、講義を受ける生徒と、実験・実習を行う生徒に分けることで、人同士の接触を抑え、感染の拡大を防止できます。
ハイブリッド授業を実施するメリット
ハイブリッド授業には、以下のようなメリットがあります。
・個々の事情に合わせて授業形式を選べる
・不登校や病気で長期間登校できない生徒を支援できる
・遠隔地にいる講師を招き授業の幅を広げられる
順番に見ていきましょう。
個々の事情に合わせて授業形式を選べる
ハイブリッド授業のメリットの1つは、個々の事情に合わせて授業スタイルが選択できることです。台風などの天候の問題や、自宅にいなければならないような家庭の事情などで登校が難しい場合、オンライン授業を選ぶことができます。また、新型コロナウイルスの濃厚接触者になってしまい出席できないときでも、欠席せずに自宅から授業に参加できます。このように、全ての生徒が個々の事情に合わせて一律に学習機会を得ることができるのです。
不登校や病気で長期間登校できない生徒を支援できる
病気や怪我を持つ生徒や、不登校になってしまった生徒を支援することにも、ハイブリッド授業が役立ちます。全ての授業には参加できなくても、オンラインで参加できる授業に関しては自宅や病院から受けることができるためです。これにより、病気や怪我を持つ生徒の長期的な欠席が防げます。また、不登校の生徒の中には、オンラインや動画でなら授業に参加できるという生徒もいるでしょう。自分の部屋から授業を受けられ、他の生徒の様子を気にする必要もありません。このように、学習スタイルが選べることは、対面授業が困難な生徒や学校に通いづらい生徒の継続的な学びをサポートすることに繋がります。
遠隔地にいる講師を招き授業の幅を広げられる
遠隔地の講師を招くことで授業の幅が広げられることも、ハイブリッド授業実施のメリットの1つです。例えば、語学の授業では海外在住の講師にオンラインで授業を行ってもらうことで、生きた発音や会話が学べます。他にも、著名人や業界で活躍する人を招き、講義をしてもらうなど、オンライン授業を活用すれば、対面授業だけでは難しかった授業を実現することができるでしょう。オンラインの活用により、これまでよりも幅広い授業内容を提供できます。
ハイブリッド授業のデメリットや注意点
ハイブリッド授業にはメリットがある反面、以下のようなデメリットや注意点もあります。
・先生や生徒同士のコミュニケーションが不足しやすい
・授業の質が各家庭の通信環境に左右される
・家庭の費用負担に配慮が必要
・オンライン授業の出欠の扱いが自治体によってまちまち
それぞれ解説していきます。
先生や生徒同士のコミュニケーションが不足しやすい
ハイブリッド授業では、先生や生徒同士のコミュニケーション不足が懸念されます。生徒は任意で授業スタイルが選べるので、オンライン授業を多く選択する生徒も出てくるでしょう。オンライン授業を選ぶ生徒が増えてしまうと、対面でのコミュニケーションの機会が減ってしまいます。教師にとってのデメリットは、生徒とのコミュニケーションが不足することで、生徒の様子が伺いづらくなったり、生徒の悩みや困りごとに気付きづらくなったりすることです。そのため、オンラインで授業を受ける生徒には、より注意深く接する必要があります。また、オンライン授業では友達が出来づらかったり、孤独を感じやすかったりします。そのため、教師は生徒同士のコミュニケーション不足にも配慮しなければなりません。
授業の質が各家庭の通信環境に左右される
各家庭の通信環境によって授業の質が左右されてしまうことも、ハイブリッド教育のデメリットです。Wi-Fiなどの通信設備は家庭ごとに異なります。いくら配信側の設備が良くても、通信が安定しない家庭では、動画が止まってしまったり、音が聞こえづらかったりすることがあるでしょう。こうした通信トラブルは、授業の妨げとなり、生徒の集中力低下に繋がります。トラブルなくオンライン授業を受けるためには、各家庭の通信環境が整っていることが欠かせません。
家庭の費用負担に配慮が必要
オンライン授業を行う学校は、家庭の費用負担に配慮しなければなりません。前述した通り、オンライン授業にはWi-Fiなどの通信環境を整えることが必要です。しかし、通信設備を整えるには相応の費用がかかる上、授業時の電気代も各家庭の負担になります。また、オンライン授業のためにはパソコンやタブレットなどの機材を準備することも必要です。このように、家庭によっては通信費や機材代が大きな負担になることもあります。学校側は各家庭の費用負担に配慮することが必要です。
オンライン授業の出欠の扱いが自治体によってまちまち
オンライン授業の出欠扱いが自治体によって異なることもデメリットの1つです。文部科学省の方針では、新型コロナウイルスの感染が不安でオンライン授業を受ける場合は、基本的に「出席停止・忌引」扱いにすることになっています。「出席停止・忌引」の扱いになると、出席すべき日数から外され、出席にも欠席にもなりません。オンライン授業を実施している多くの学校は、文部科学省の方針をそのまま採用しています。一方で、オンライン授業を出席扱いとする地域もあるのです。一例として、福岡市の対応が挙げられます。福岡市教育委員会は、新型コロナウイルスに対する不安で登校できない生徒に対してオンライン授業を実施し、受講すれば出席扱いにするという対応を取っています。地域によってオンライン授業の出欠扱いに差が出ることは、保護者や生徒の不安を生むため、改善していく必要があるでしょう。
ハイブリッド授業の実践事例
小学校から大学まで、あらゆる学校でハイブリッド授業が実施されています。ここで紹介するのは、ハイブリッド授業の3つの実践事例です。実例を知ることは、ハイブリッド教育についての知識を深めるとともに、自身がハイブリッド教育に携わる際にも役立ちます。1つずつ見ていきましょう。
大阪府枚方市の小学校・中学校の事例
大阪府枚方市の小・中学校では、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、2022年1月からハイブリッド教育の実施が開始されました。枚方市のハイブリッド授業は、オンライン授業や課題の配信、実技の後日実施などを組み合わせた授業スタイルです。定期試験など、オンラインでは実施が困難な場合は登校しなければなりませんが、家庭ごとに対面授業かオンライン授業かを選べるようになっています。また、オンライン授業を選択した場合は、出席や欠席ではなく出席停止扱いにするとしています。
山梨大学の事例
国立大学である山梨大学では、新型コロナウイルスの感染リスクに配慮するため、オンライン授業と対面授業を組み合わせたハイブリッド授業が導入されました。2022年前期の授業では、実技や実習などを除いた講義科目でオンライン授業が推奨されています。ただし、学校側が対面授業の実施が適切であると判断した場合には、対面授業を実施するという方針をとっており、講義内容に応じてオンライン授業と対面授業の両方が実施されているのです。
千葉工業大学の事例
私立の千葉工業大学では、コロナ禍で導入されたオンライン授業を継続しつつ、オンラインでは十分な教育が提供できない場合に対面授業を実施するという授業スタイルが採用されています。対面授業と自宅学習を合わせた分散型の授業を実施し、対面授業を少人数化することで、新型コロナウイルスの感染対策を行っているのです。また、科目によっては対面授業をリアルタイムで配信する対応も取られています。さらに、大学側はオンライン授業と対面授業が同じ日にならないように時間割を組み替えており、より効率的にハイブリッド授業が実施できるような工夫も行われています。
オンラインでも快適に参加できるハイブリッド授業のやり方
オンラインで授業を行う際には、対面授業とは異なる工夫が必要になります。生徒がオンラインでも快適に授業に参加できるように、ハイブリッド授業の効率的なやり方を紹介します。この先ハイブリッド授業を実施する予定があるという方は、ぜひ参考にしてみてください。
映像での見やすさを意識して板書する
映像でも見やすい板書を意識することが大切です。授業をオンラインで配信すると、解像度が下がり、文字が見えづらくなってしまいます。そのため、対面授業のときに比べて文字を大きく書くことを意識しましょう。また、配信するカメラを黒板やホワイトボードに近い教卓に置けば、より見えやすくなります。さらに、映像に映る範囲は限られています。黒板やホワイトボードの端は使わないなど、全体が映るように配慮しなければなりません。板書の方法として、パワーポイントなどのデジタル教材を利用したり、オンラインホワイトボードなどのアプリケーションを活用したりすることも効果的です。
双方に声が伝わる工夫をする
対面授業側とオンライン授業側の双方の声が伝わるように工夫しましょう。教師は、配信しているパソコンやタブレットなどの機材が拾える声量で授業を行う必要があります。配信する機材を教卓に置くなどすれば、教師の声を拾いやすくなります。ただし、声が大きすぎてもいけません。音が割れてしまい、聞こえづらい原因になってしまうためです。対策の一例として、ワイヤレスのBluetoothイヤホンの利用がおすすめです。イヤホンのマイクが口の近くにくるので、声を張らずとも音声を届けることができます。イヤホンは安価なものでも十分に声が伝わるので、手に入りやすいものを選ぶと良いでしょう。また、生徒同士の声は双方とも聞き取りづらいので、教師が聞き取った声を反復して伝えるなどして、お互いの声を届けてあげましょう。
コミュニケーションを大切にした授業作りをする
コミュニケーションの機会を設けた授業づくりを目指しましょう。対面とオンラインでは、お互いのコミュニケーションの機会が減ってしまいます。そこで、授業内容によっては、対面授業の生徒にカメラの前に来てもらい、お互いにコミュニケーションを取らせる機会を設けると良いでしょう。また、アプリケーションを活用することも、教師と生徒、そして生徒同士のコミュニケーションを増やすために効果的です。例えば、オンライン配信の画面上にコメントを流せるコメントスクリーンというサービスがあります。コメントスクリーンを活用すれば、生徒はわからないことを聞けたり、教師の問いかけに反応したりできます。また、教師は生徒が困っているときにすぐに対応できたり、授業に対する反応をもらえたりすることが可能です。このような少しの工夫で、お互いのコミュニケーションを増やすことができます。
まとめ
ハイブリッド授業は、オンライン授業と対面授業を組み合わせた授業スタイルです。ハイブリッド授業には「ブレンド型」「ハイフレックス型」「分散型」の3つの形態があり、それぞれ異なる特徴を持ちます。また、ハイブリッド授業にはメリットがある反面、デメリットや注意すべき点も存在することを覚えておかなければなりません。すでにハイブリッド授業を実施している例や、オンラインでも効果的な授業を行うための工夫を参考に、いざハイブリッド授業を行うというときのために備えておきましょう。