文部科学省が「一人も取り残さない学習」といったコンセプトを掲げ、導入が進む個別最適な学び。GIGAスクール構想の重要な狙いの1つとして位置づけられている新たな教育スタイルです。この記事では、教育者・学校の先生に向けて、改めて個別最適な学びの内容や具体的な取り組みについて解説します。併せて、協働的な学びとの一体化がなぜ求められているのかについても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
文部科学省が推進する個別最適化学習とは
個別最適な学びとは、生徒1人1人の特性や理解度に応じて、最適化させた学習を提供する教育スタイルのことです。子どもたちの多様な特性を尊重し、学習意欲を引き出すことを目的としています。特別支援学校・特別支援学級に通う児童生徒や日本語指導を必要とする児童生徒、不登校児童生徒など子どもが多様化している背景から、個々の状況に応じた学びが必要とされています。
個別最適な学びの実現のためにはICTを活用しながら進めていくこともポイントです。
ここでは、文部科学省が推進する個別最適な学びの目的や、特徴である「指導の個別化」「学習の個性化」の2点についてご紹介します。
指導の個別化
指導の個別化とは、学習目標に対して生徒1人1人の特性や課題を踏まえて、それらを達成できるように個別指導をしていく教育方法のことです。個人が達成したい目標や抱えている課題に対して、しっかりとゴールを作ってあげたり、早く目標や課題をクリアできた生徒には類似課題や発展課題を用意してあげたりなど、柔軟に指導できるのが指導の個別化の特徴です。生徒1人1人によって学習のペースや理解度は異なります。指導方法、学習時間などを生徒に合わせて個別化することによって、生徒の学習ペースや理解度に合わせてアプローチできます。
学習の個性化
学習の個性化とは、生徒自身が個人的に興味があることを学習し深めたり、アウトプットの表現を自分に合った方法で行ったりすることです。学習の個性化によって、生徒1人1人が自分に合うものを考え、自発的に自分の考えを深め人に伝える自主性などが磨かれます。指導の個別化と組み合わせながら、進めていきます。教師もそのことを理解し、生徒が自ら考え、選べる環境をつくる必要があります。
「個別最適な学び」を教師視点で考えたのが「個に応じた指導」
「個別最適な学び」を教師の視点から捉えた概念が「個に応じた指導」です。この指導法は、学習指導要領の総則で示されており、「指導の個別化」と「学習の個性化」の両面を考慮します。
この指導法のポイントは以下の通りです。
・個々の学習者のニーズに合わせたアプローチ
・理解度や興味に応じた課題設定
・学習者の潜在能力を最大限に引き出す
「個に応じた指導」を通じて、個々の学習者の成長を促進させ、教育の質的向上につながることが期待されます。
実践にあたっては、ICTの活用が重要です。ICTの活用で生徒の主体的な学習を促進し、各自に適した学習方法の発見を支援します。
またその土台となる教師の専門性の向上や教育環境の整備も不可欠となってきます。(※1)
「個別最適な学び」が注目される背景
「個別最適な学び」が注目される背景には、文部科学省による教育ビジョンの変革があります。2021年1月の答申(※1)では、全ての子供たちの可能性を引き出すために、個別最適な学びの実現が強調されました。学習指導要領の中で示された資質・能力の育成を進めるためには、ICTを活用し、多様な子供たちを対象にした教育が不可欠です。
個別最適な学びは協働的な学びとの一体的な充実を図ることが大切
上述の答申では個別最適な学びと共に協働的な学びも強調されました。文部科学省の中央教育審議会は、「令和の日本型学校教育」の一環として、これら二つの学びの一体的な充実を提言しました。協働的な学びとは何か、一体的な充実とは何かを解説します。
協働的な学びとは
協働的な学びとは、生徒が多様な他者と協力しながら、未来の社会を創造する力を育む学習方法です。
持続可能な社会の担い手を育成するため、協働的な学びでは以下の3つの要素があります。
子ども同士や地域の方々との協働による探究的な学習
あらゆる他者を価値ある存在として尊重する姿勢の育成
社会的な変化に対応する力の養成
学校は、未来への準備の場であると同時に、現実社会との関わりの中で日々の生活を築く場です。生まれ育った環境にかかわらず、さまざまな人との関わりを通じて学びが深まっていきます。自己肯定感や社会参画への意識が育まれ、主体的な学びの姿勢が形成されていくでしょう。
協働的な学びを通じて、子どもたちは学習内容と実社会を結び付けて理解を深め、必要な資質・能力を身に付けることが可能です。(※2)
個別最適な学びと協働的な学びの関係
「個別最適な学び」と「協働的な学び」は、教育の場においてお互いに補完し合う重要な関係にあります。個別最適な学びは、生徒一人ひとりの学びのニーズやペースに応じて個別に対応することを指し、生徒が自分のスタイルに合った方法で学ぶことができます。このアプローチは、特に学習の成果を上げるために有効とされています。
しかし、個別最適な学びだけでは、生徒同士の相互作用や協働を助長する学びの場が欠けてしまうおそれがあります。そのため、学校教育では、個別最適な学びと協働的な学びを並行して進めることが大切です。例えばプロジェクト型学習では、生徒がチームを組み、各自の強みを生かしながら協力して課題に取り組むことで、個別の学びが際立つこともあります。こうした活動は、問題解決能力やコミュニケーション能力の向上にも寄与します。
協働的な学びでは人によって集団の中で力を発揮しずらい可能性もあります。その際ICT活用を取り入れることで生徒がリアルタイムでアイデアを共有したり、共同で資料を作成したりできるため、「主体的・対話的で深い学び」にもつながります。
このようにICTも活用し、個別最適な学びと協働的な学びは、互いに作用し合うことでより効果的な学びが実現できるのです。
個別最適な学びを効果的に進めるポイント
個別最適な学びを効果的に進めるポイントは、以下の2つです。(※3)
・データの十分な活用
・先生の指導力向上と連携
それぞれ見ていきましょう。
ICT・データの十分な活用
個別最適な学びを効果的に進めるためにも、ICTや教育ビッグデータを十分に活用しましょう。教育ビッグデータを活用すれば、生徒1人1人の学習状況や理解度などを的確に把握できます。また、生徒自身が自らデータの活用を行ったり、学力定着を促したりすることも期待できます。より個別最適な学びを効率的に進めるために、AIを活用するのも1つの手段です。AIが学習履歴を分析すれば、生徒1人1人に合わせた教材や学習内容を明確に教えてくれるため、個別最適化された学びの実現が可能になります。
先生の指導力向上と連携
個別最適な学びを効果的に進めるためのもうひとつの要素は、先生の指導力向上と連携です。どれだけ学習内容を個別化しデータを取得しても、先生がそれを活用しなければ効果が薄れてしまいます。ただ、各自で個別最適の方法やデータ活用の方法を学ぶのには限界があることも問題点として挙げられます。多様な生徒の成長を促すためには、事例をもとに先生方の指導力向上の取り組みを実施したり、先生同士の連携を意識したりすることが大切です。
「個別最適な学び」「協働的な学び」の実践事例
「個別最適な学び」と「協働的な学び」の実践例として、次の2つを紹介します。
・「自由進度学習」で取り組む個別最適な学び
・クラウドを活用した子ども主体の学び
それぞれ詳しく見ていきましょう。
「自由進度学習」で取り組む個別最適な学び
広島県廿日市市立宮園小学校では、児童1人1人のペースに合わせた学習を実現するために、独自の工夫を取り入れています。
その特徴は、算数と社会科を関連付けた統合的な学習計画表の活用です。また、スモールステップで構成されたワークシートを導入し、児童が自分で学習を進められる環境を整えています。
「自分のペースで進められる」という学習意欲の向上や、「友達に教えてあげた」という協働学習の促進が報告されています。
自由進度学習は、個別最適な学びと協働的な学びの両立を実現する有効な手法といえるでしょう。
クラウドを活用した子ども主体の学び
愛知県春日井市立高森台中学校では、クラウドツールを活用した先進的な学習スタイルを実践しています。この取り組みの核となるものは、Googleスプレッドシートを活用した協働学習です。
生徒たちは、検証の重要な視点を記録し、自らが対話する相手を見つけてディスカッションをします。この過程で得られた気付きや意見は、共有スプレッドシートに記入され、クラス全体で学びを深めることが可能です。
生徒たちは単なる知識の習得だけでなく、主体的な学び方そのものを身に付けていきます。
クラウドツールの活用は、個別最適な学びと協働的な学びを両立させる効果的な手段となっています。
まとめ
この記事では、個別最適な学びの内容や具体的な取り組み、協働的な学びとの関連についても紹介しました。個別最適な学びは、まだまだ導入されたばかりの教育スタイルで、課題が多く残っています。しかし、誰一人取り残さない学習スタイルとして、今後の教育現場や学生の成長・発展のきっかけになることが期待されます。今後も発展して多くのメリットをもたらすであろう個別最適化の動向をチェックしていきましょう。