日本の教育格差の原因と現状・対策は?教育現場でできること

2023/03/17(金)

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教育格差は世界中で問題となっていますが、日本も例外ではありません。さまざまな理由によって、教育が十分に受けられない子どもたちがいます。しかし、日本において教育格差がどのように問題となっているのか、教育者として何ができるのか疑問に思われる方も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、教育格差の原因と日本の教育格差の現状、また、国や自治体などで行われている教育格差解消の取り組みについて詳しく解説します。ぜひ参考にしてみてください。

教育格差=生まれ育った環境による教育の不平等

教育格差とは生まれ育った環境によって受けられる教育に不平等が生じている状態をいいます。教育格差は個人の能力や意思とは関係なく、それぞれが置かれた環境に起因するものです。つまり、たとえ「勉強したい」「進学したい」と思ってもかなえられない子どもたちがいる現状を指します。子どもの権利条約第28条や日本国憲法第26条では、全ての子ども(国民)に教育を受ける権利があることが言及されています。しかし、教育格差が問題となっている今、子どもたちに等しく与えられるはずの権利が侵害されてしまっているのです。

教育格差が生まれる2大原因

教育格差というと、単に学力差のみに目が行きがちになります。しかし、教育格差を生んでいる原因は「家庭の経済的な格差」「生まれ育った地域による格差」の2つにあります。それぞれが教育格差とどのように関係しているのか知っておきましょう。

1.家庭の経済的な格差

教育格差の原因の1つに、家庭の経済的な格差が挙げられます。家庭によって経済状況はさまざまであり、経済的に裕福な家庭もあれば、いわゆる貧困層と呼ばれる家庭もあります。経済的に余裕のある家庭は学校以外にも、学習塾や習い事など、多くの教育の機会を子どもに与えられるでしょう。一方、貧困家庭の子どもは、経済的な理由により得られる教育の機会が限られてしまう傾向にあります。経済格差によって子どもの進学率や就職率などにも差が出ることも明らかになっています。東京大学大学院教育学研究科大学経営・政策研究センターが2009年に発表した「高校生の進路と親の年収の関連について」によると、4年制大学への進学率が、年収400万円以下の家庭が31.4%だったのに対し、年収1,000万円以上の家庭は62.4%という数値が示されています。経済格差と教育格差は連鎖していくものです。教育格差の問題の解決には、貧困層の家庭への経済的支援が必要です。

2.生まれ育った地域による格差

教育格差が生じる原因には、生まれ育った地域による格差もあります。都市と地方とでは地域の発展度合いに差が生じやすく、教育環境も例外ではありません。学校設備が十分でなかったり、そもそも通える学校数が少なかったりと、地方は都市に比べてさまざまな問題を抱えています。公共交通機関が充実していないばかりに、進学の選択肢が狭められることもあるでしょう。また、プログラミング教育や社会教育など、専門的な学習を担える教員の数にも都市と地方とでは差が出ます。地域ごとで支援の状況が異なることも格差を生む原因です。例えば、NPO法人などによって子どもへ教育機会の提供を活発に行う地域もあれば、貧困家庭などへの支援が十分でない地域もあります。生まれ育った地域による格差は、教育を受ける子ども自身では変えようがない問題です。よって、地域格差を埋める取り組みや努力が必要だといえます。

日本における教育格差の現状

世界中で問題となっている教育格差ですが、日本も教育格差が深刻化している国の1つです。日本における教育格差はどのような現状にあるのか見ていきましょう。

教育費の公的支出の少なさが問題視されている

日本では、教育費の公的支出が少ないことが教育格差に影響していると問題視されています。日本の教育格差は学校外で得る教育機会の有無によっても生じています。つまり、多くの子どもが放課後・休日に学習塾や習い事に通えず、教育格差が生まれているのです。厚生労働省が3年に1度発表する17歳以下の「子どもの貧困率」では、2018年時点で15.7%という結果になりました。この結果は、7人に1人が貧困下にあり、学校外における教育面で不利な状態にあることを意味しています。このように、学校外での教育が得られず、教育格差が生じているにもかかわらず、日本の教育への公的支出の割合が低いことが問題になっているのです。また、公立校と私立校との間にも差が生じており、特に、公立校に対して国がICT環境を整えられていないことが教育格差を生む要因の1つになっています。

コロナ禍の影響で教育格差は拡大した

コロナ禍において、日本の教育格差は拡大しました。新型コロナウイルス感染拡大によりオンライン授業への需要が高まった一方、家庭ごとの通信環境やデジタルデバイスの有無によって、学校のオンライン授業が受けづらい家庭が生じてしまったのです。また、学校休校時には子どもを塾に通わせて学校教育を補う家庭もありましたが、全ての家庭で同じ対応ができたわけではありません。このように、コロナ禍に入り家庭のICT環境や経済的理由によって教育格差はさらに広がってしまいました。

日本で行われている教育格差解消を目指す対策

深刻化する教育格差を解消しようとする動きは文部科学省をはじめ、地方自治体や民間団体などでも見られます。それぞれどのような対策が講じられているのか確認してみましょう。

文部科学省主体の取り組み

文部科学省では子どもが受ける教育を無償化したり、教育費用にあてるように支援金を給付したりといった取り組みで、子どものいる世帯の支援や教育格差の解消を目指しています。

幼児教育・保育の無償化

主に3歳~5歳の子どもを対象に行っているのが、幼児教育・保育の利用料無償化です。幼児教育・保育の無償化実施に至った背景には少子化があります。子育てにお金がかかることを理由に子どもを持たない若い世代が増えている事態を受け、幼稚園や保育所などの利用料を無料とすることを決めました。対象となる施設は、以下の通りです。

・幼稚園
・保育所
・認定こども園
・地域型保育
・企業主導型保育所事業
・幼稚園の預かり保育
・認定外保育施設
・就学前障害児発達支援

無償化を受けるために所得の制限はありません。ただし、無償になるのは保育料や利用料であり、通園送迎費や給食費などは対象外です。

高等学校等就学支援金制度の創設

文部科学省は授業料にあてるための支援金を給付するための制度を創設しました。高等学校等就学支援金制度は、教育に関する経済的負担を軽減し、教育の機会を与えることを目的としています。以下のような学校が支援金の対象です。

・高等学校
・中等教育学校(後期課程・高等部)
・特別支援学校
・高等専門学校(1~3学年)
・専修学校(高等課程)

この制度は日本国内に住所がある学生を対象としています。また、世帯の年収が910万円未満かつ両親のどちらかが働き、高校生1人、中学生1人の世帯であるうえ、以下の要件を満たす必要があります。

なお、支援金の支給額は世帯年収や通う学校の種類によって異なります。高等教育の修学支援新制度の創設高等教育の就学支援新制度は2022年4月から受付開始となりました。高等教育の就学支援新制度は以下のような学校に通う学生が対象です。

・4年制大学
・短期大学
・高等専門学校(4年・5年)
・専門学校

しかし、対象校となるには一定の要件を満たさなければならないため、子どもの通う学校が対象であるかどうかは確認する必要があります。高等教育の就学支援新制度は授業料・入学金の免除もしくは減額と、給付金型奨学金の支給を組み合わせた支援制度です。世帯収入や資産に関して定められた要件を満たしていること、学ぶ意欲があることの2つを満たすことが条件です。世帯収入に対する給付型奨学金の金額を知りたい場合は、日本学生支援機構のホームページでシミュレーションが可能です。

地域未来塾の設置

地域未来塾の設置も、文部科学省主体として行われている対策の1つです。
子どもたちに学習機会を提供し、貧困による教育格差の解消を目指しています。地域未来塾の利用は原則無料です。さまざまな理由によって学習を行うことが難しい、学習習慣が身に付いていない児童・生徒に向けて、地域の大学生・教員OB・NPOなどが協力して子どもたちの学習を支援しています。支援内容は学校の授業の予習・復習、英語学習、ICT学習など幅広く、進路の相談なども可能です。

国や地方自治体による貧困世帯への支援

国が行う経済的支援には「児童扶養手当」「母子父子寡婦福祉資金」などがあります。児童扶養手当は1人親家庭を対象に生活の安定や自立のために支給される手当です。18歳当日以降の最初の3月31日まで手当が支給されます。母子父子寡婦福祉資金は1人親・寡婦(寡夫)の経済的自立の支援やその子どもの福祉増進を目的としており、全12種類の資金の貸し付けを行っています。

地方自治体で行われている支援の1つには、千葉市が取り組む「学校外教育バウチャー事業」があります。学校外教育バウチャー事業は学習塾や習い事などの教育費をバウチャー(利用券)を配布して助成する事業です。市内在住の1人親かつ生活保護受給世帯の小学5〜6年生を対象に、学校外で教育の機会が持てるよう支援します。

さらに、文部科学省の「放課後子ども教室推進事業」は、地域の協力により子どもの安心・安全が保たれる活動拠点「放課後子ども教室」を設け、学習・スポーツ・文化活動などに取り組む機会を提供しています。放課後子ども教室の利用に制限はなく、全ての子どもが利用可能です。

民間団体・企業による支援

教育格差の解消を目指すのは国や地方自治体だけではありません。民間団体や企業が日本の教育格差に対してどのような取り組みを行っているのか見てみましょう。

認定NPO法人カタリバ

認定NPO法人カタリバは、経済的な理由や家庭の事情の他、災害などによって教育の機会が得られない子どもたちに対して支援を行う認定NPO法人です。具体的には、以下3つの支援を行っています。

・学習習慣の形成
・居場所提供
・夕飯提供

学習支援を行いながら、子どもたちの学習習慣の形成を目指します。また、子どもたちが安心して過ごせる居場所や食事の提供を行い、あらゆる状況下にある子どもたちを支援しています。

NPO法人Learning for All

NPO法人Learning for Allは教育格差を根本から解決するために、子どもたちの学力向上を目指し、以下のような取り組みをしています。

・学習支援
・生活習慣の形成
・食事の提供
・遊び

地域の自治体や教育委員会と連携して、効果的な学習支援を無償で提供しています。また、居場所支援として、食事の提供や遊びなど、子どもたちが安心して過ごせるよう包括的支援を行っているのがNPO法人Learning for Allです。

株式会社すららネット

株式会社すららネットは、国内・国外のNPO団体を通じて、経済的に悩みを抱える家庭に対して学習機会の提供を行っています。オンライン学習教材「すらら」では自分に合った学びが受けられるため、学習の継続を生み、結果的に子どもたちの学力向上に役立つのが特徴です。また、パソコンに触れることで教育格差の要因の1つであるITリテラシーも身に付けられます。学習が子どもに良い影響を与えることが分かれば、これまで子どもの教育に積極的ではなかった保護者の子どもへの学習支援の姿勢にも変化が生まれます。このように、教育格差の解消へと貢献するのもすららの取り組みの1つです。

学校・教員にできる教育格差対策とは

学校・教員ができる教育格差への対策の1つは、子どもたちが困っていること・悩んでいることに気付くことです。家庭の事情や経済的困難を抱える子どもは、周りに心配をかけないよう振舞うことが多く、直接尋ねても困っていることはないような答え方をします。しかし、日々子どもたちと身近に接する教員だからこそ気付けることもあり、何か問題に気付いた際には専門家や専門機関と連携して子どもたちの支援を行うことが大切です。また、子どもたちが学校外の塾や習い事などに頼らずとも十分な教育が受けられるよう、学校側は教科指導の質の向上や少人数指導の実施を目指す必要があります。学校だけで手厚く質の高い教育が受けられれば、学校外の教育に関する家庭の経済的負担を軽減できます。しかし、上記のようなことを実施するためには、学校や行政が教員の業務軽減を行うことが必要不可欠です。教科指導の他にも多くの業務を抱える教員が、教育格差の対策まで担おうとすると余裕を持って行動できません。教員の業務改善は、子どもの悩みにいち早く気付き対応することや、家庭の経済的負担を軽減することにつながります。

まとめ

教育格差とは、それぞれが置かれた環境によって受けられる教育に不平等が生じることをいいます。教育格差は主に経済的な格差と地域による格差の2つの原因によって生まれるものです。現在日本ではそれらの格差を埋め、教育格差の解消を実現するために、国・地方自治体・民間団体などあらゆる角度から対策が取られています。学校・教員にも教育格差解消を目指してできることはあります。子どもたちが日々生活する学校現場においても支援できるよう努めることが大切です。

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