新学習指導要領の施行が開始され、教育現場では学習評価の変容が求められるようになりました。しかし、これまでの学習評価から何が変わったのか、実際にどのような方法で評価を行ったら良いのか、疑問を抱く教員の方も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、学習評価の基本的な考え方や評価観点について詳しく解説します。信頼度の高い学習評価を行う際のポイントも併せて紹介しますので、教員の方はぜひ参考にしてみてください。
学習指導要領改訂に伴い新しくなった「学習評価」
教育現場における児童・生徒の「学習評価」は、学習指導要領の改訂に伴い一新されました。文部科学省は、新たな学習評価について児童・生徒の学習状況を評価するものと提言しています。つまり教員には、児童・生徒の授業のねらいの達成度ではなく、以前の学習からの成長や深い学びへ向かう姿勢を評価していくことが求められます。2020年度に小学校で新学習指導要領が施行されて以降、新たな学習評価が各学校で順次導入されています。
文部科学省が提唱する学習評価の基本的な考え方300
文部科学省は、学習指導要領の総則において、指導と評価を一体化する必要があることを明言しています。教員による学習指導と児童・生徒の学習評価は、それぞれ単体で存在するものではなく、相互につながりのあるものです。例えば、教員は児童・生徒の学習評価で大切にされている学びの成長や学びへの姿勢を伸ばすために、日々の学習指導を工夫していく必要があります。また、個々の学習評価の結果を踏まえて、学習指導の改善や児童・生徒の学習意欲の向上に努め、さらなる能力育成を図らなければなりません。学習評価は、児童・生徒の学習成果をもとに教員が指導を改善するため、そして、児童・生徒自身が自らの学びを振り返り、次なる学習へとつなげていくための大事な役割を担っています。そのため、文部科学省は指導・評価それぞれが一貫した取り組みとして行われることを重視しています。
カリキュラム・マネジメントの中核的役割を担う指導と評価
指導と評価は、学校におけるカリキュラム・マネジメントの中核的役割を担っています。学校では「Plan:指導計画の作成」「Do:指導計画を踏まえた教育の実施」「Check:学習評価および指導計画の評価」「Action:学習・指導の改善」のサイクルを実行することで、教育活動全体の質の向上を図っています。このカリキュラム・マネジメントにおいて、核となっているのが指導と評価です。児童・生徒への授業だけでなく、組織運営などの改善にも必要不可欠な指導と評価は、教育活動の根幹といえるでしょう。
「主体的・対話的で深い学び」の視点による授業改善と評価
「主体的・対話的で深い学び」の視点から授業の改善を図るためには、学習評価が欠かせません。「主体的・対話的で深い学び」は新学習指導要領で重視されていることの1つです。主体的かつ対話的な学びを提供し、資質や能力の向上を図るためには、学習評価によって児童・生徒の学習成果を的確に理解する必要があります。学習評価の結果を指導の改善に生かすことで「主体的・対話的な深い学び」の実現が期待できます。
新学習指導要領における資質・能力の3つの柱
新学習指導要領では「知識および技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」の3つの柱が掲げられており、それらの資質・能力を総合的に高めることが目指されています。
知識および技能
「知識および技能」とは、社会で働きながら生きていくための知識や技能のことを指します。各教科において、知識や技能などをそれぞれ単体で習得するだけでは、社会で生きていくための力にはなりません。新たに習得した知識・技能、さらにすでに身に付けている知識・技能を関連付けて理解することが重要です。児童・生徒に学習内容を体系的に理解させ、それらを応用できるように指導することが必要です。
思考力・判断力・表現力等
「思考力・判断力・表現力等」は、未知の状況でも適切に対応できる力のことです。思考力・判断力・表現力を総合的に高めることは、問題解決能力の向上につながります。未知の状況に直面した際、求められるのは身に付けた「知識および技能」をどのように使うのかということです。よって学校教育では、問題を発見した際に物事を論理的に考えて解決につなげる力や、仲間と協力しながら問題解決に取り組むための力などを習得させることが目指されています。
学びに向かう力・人間性等
「学びに向かう力・人間性等」は、学んだことを社会や人生に生かし、自分の意思によって他者に影響を与えるための力や人間性を意味します。社会においては「知識および技能」「思考力・判断力・表現力」をうまく働かせていくことが大切です。そのために、学校教育では児童・生徒の学習に対する主体性を育み、多様性を理解して協力し合う力や優しさ・思いやりといった豊かな人間性などを向上させる指導を行います。
「資質・能力の3つの柱」は学習評価の3観点に反映されている
「知識および技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」の3つの柱を正しく評価するために、学習評価には3つの観点が定められています。
・知能・技能
・思考・判断・表現
・主体的に学習に取り組む態度
資質・能力の3つの柱の1つ「学びに向かう力・人間性等」については、観点別評価では示しきれない要素も含まれています。そのため「主体的に学習に取り組む態度」のみは評価観点であることを覚えておきましょう。
3観点それぞれの評価方法と工夫
学習評価では、3つの観点を適切に評価することが大切です。評価の工夫点も踏まえて、ここでは学習評価の方法について解説します。
「知識・技能」の評価の方法と工夫
「知能・技能」の評価方法の1つは、ペーパーテストの実施です。ただし、ペーパーテストでただ単純知識を問うだけでは十分ではありません。より深い理解を問うために、文章題などの応用的な問題を入れることが大切です。ペーパーテスト以外では、習得した知識や技能を実際に利用する機会を設けます。具体的には、以下のような学習活動を取り入れましょう。
・文章で説明させる
・観察・実験を行う
・式やグラフで表現させる
上記のような学習活動は、各教科の特性に応じて実施することが重要です。
「思考・判断・表現」の評価の方法と工夫
「思考・判断・表現」をペーパーテストで評価する場合は、児童・生徒の意見・考えを記述させるような問題を作成すると効果的です。しかし「思考・判断・表現」はペーパーテストに限らず、あらゆる活動を通して評価すべきだとされています。「思考・判断・表現」を評価する学習活動の例は以下の通りです。
・レポート作成
・グループもしくは学級全体でのディスカッション
・発表活動
・作品作成を通じた表現活動およびそれらの活動をまとめたポートフォリオ作成
「知識・技能」と同様、それぞれの教科の特性に合わせた学習活動を行い、その中で評価を行うことが求められます。
「主体的に学習に取り組む態度」の評価の方法と工夫
「主体的に学習に取り組む態度」の具体的な評価方法の例は以下の通りです。
・ノートやレポートなどでの記述
・ディスカッション
・授業中の発言
・発表活動
・児童・生徒の自己評価・相互評価
発表活動においては、発表で話す内容を試行錯誤しながら組み立てる姿勢や発表にいたるまでの練習態度などが評価の材料となります。また、自己評価においては振り返りシートなどを用いて、学ぶ中でどのようなことに気付いたのか、またその気付きを次なる学びに生かしているかなどを見ることで評価できます。「主体的に学習に取り組む態度」の観点においては「知識・技能」を獲得していく姿勢や「思考・判断・表現」を実行しようとする態度を評価するといったように、他2つの観点とのつながりも大事とされています。
学習評価を行う場面や頻度
それぞれの観点における評価の記録を残す場合、基本的には単元や題材などそれぞれのまとまりで、評価観点にある資質や能力の実現状況が把握できるときに行います。また、学習指導要領で明記されている教科ごとの目標や内容の特質によっては、複数の単元・題材を1つのまとまりとして評価することも可能だと考えられています。日々の授業においては、記録のために評価するのではなく、児童・生徒それぞれの学習状況を把握し、学習指導の改善に生かすことを重視しましょう。
指摘される学習評価の課題点
学習評価においては、いくつかの課題点が指摘されています。
・教師によって評価方針が異なり、効果的な学習改善につながりにくい
・学期末・学年末などでの評価にとどまり、評価の結果が学習改善に生かされていない
・「主体的に学習に取り組む態度」では、授業中のノートの取り方や挙手の回数など、表面上の行動を評価するものだという誤解が残っている
・評価の記録に労力を費やさなければならず、学習指導に力が割けない
・力をかけて作成した指導要録が、次学年で生かされていない
「学習評価の在り方ハンドブック」にも「教師によって重きを置いている観点が異なるため、何に注力すべきなのか分からない」と、評価に戸惑う生徒の声が載せられています。児童・生徒を正しく評価するため、そして評価の結果を教育活動の改善に生かしていくために、上記のような課題の克服は必要不可欠です。
学習評価の信頼性を高めるには
学校全体や教員1人ひとりの取り組みによって学習評価の信頼性は高められます。ここでは、学習評価の信頼性を高める3つのポイントについて見ていきましょう。
学校が一丸となり組織的に取り組む
学習評価の信頼性を高めるポイントの1つは、学校全体が一丸となって組織的に学習評価に取り組むことです。学習評価の課題の1つに、教員によって評価方針が異なることが挙げられていました。児童・生徒の戸惑いを生まないためにも、教師同士が事前に話し合い、評価基準や評価方法を明確にしておくことが大切です。また、これまでの評価事例を全体で共有したり、評価に携わる教員の能力アップを図ったりするなど、学校全体で学習評価の在り方について検討していくことが求められます。
生徒や保護者と方針や結果を共有する
児童・生徒や保護者に対して、評価方針や評価結果を共有することも重要です。学習評価を行っても、評価を受ける児童・生徒やその保護者が評価の実態をつかめなければ信頼は得られません。評価方針を共有することで教育活動に対する保護者の理解を得られ、加えて児童・生徒の学習意欲を喚起することも期待できます。また、児童・生徒に評価結果を伝えるときは、いかに細かく伝えるかが大切です。評価方法を共有し、必要であれば評価に使った資料や記録などを用意して結果を伝えることが、学習評価への信頼性向上につながります。
評価基準や方法の工夫・改善に努める
学習評価の信頼性を高めるためには、評価基準や方法の工夫・改善に努める必要があります。評価基準は、学習指導の目的や内容に対応した形で定めることが大切です。また「知能・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3つの観点で示される資質や能力が的確に評価されるよう、評価方法の工夫が求められます。評価基準・方法の工夫や改善を重ねることで、信頼性の高い学習評価の実施につながるでしょう。
まとめ
学習指導要領改訂で新しくなった学習評価では、児童・生徒の学習状況を評価することに重きが置かれるようになりました。学習評価は、新学習指導要領で掲げられた3つの柱を反映した「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3つの観点をもとに行われます。今回紹介した学習評価の信頼性を高めるポイントを参考に、的確な評価の実施と評価結果を踏まえた指導の改善に努めてはいかがでしょうか。