デジタル化する現代において、ITやICTという言葉を耳にすることが増えました。ITやICTは教育現場にも活用されています。しかし、ITとICTの違いは何でしょうか。教育者にはそれぞれの定義や教育現場での位置付けを理解し、それらを適切に活用することが求められます。そこで本記事では、ITとICTの違いや教育現場におけるICTの位置付けについて解説するとともに、実際に授業でICTが活用された例をご紹介します。ITやICTに関する理解を深め、教育現場で効果的に活用しましょう。
IT=情報技術そのもののこと
ITとはInformation Technologyの略であり、日本語で「情報技術」を意味する言葉です。ITはパソコンやタブレットなどの電子機器(ハードウェア)、内部に搭載されたOS(オペレーティングシステム)やアプリケーション(ソフトウェア)、さらにインターネット等の通信やセキュリティなど、情報にまつわる技術の総称を指します。身近なものだと、普段使用するスマートフォンもITのうちの1つです。
ICT=情報技術で人やモノをつなげること
ICTは、Information(情報)、Communication(通信、伝達)、Technology(技術)が組み合わさった言葉で、日本語では「情報通信(伝達)技術」と呼ばれます。ICTは情報技術を使って、人と人、人とモノといったように、それぞれをつなげることを意味する言葉です。ICTの身近な例としては、SNSや電子メールなどが挙げられます。近年ではITの代わりにこのICTが使われることが多くなりました。
ITとICTの違いは「コミュニケーション」
ITとICTはほとんど同じ意味で使われることもあります。しかし、ITに比べてICTの方が「コミュニケーション」にフォーカスしている点が、2つを分ける違いです。前述の通り、ITは情報を扱う技術の総称を指します。つまり、技術そのものを意味する言葉であり、人やモノとのやり取りというポイントはITには含まれていません。一方、ICTは人やモノとのコミュニケーションに重きが置かれている言葉です。よって、IT(情報技術)をどのように活用するのか、また、活用した先にどのような結果がもたらされるのかを説明する際によく用いられます。
ICTの概念の1つ「IoT」とは
ICTの中には「IoT」という概念があります。IoTはInternet of Things(モノのインターネット)を意味する言葉で、モノをインターネットと接続させて、情報のやり取りを行う仕組みのことを指します。従来のパソコン以外にも、スマートフォンやテレビ、音楽プレイヤー、家電製品など、現代ではあらゆるモノをインターネットにつなげられます。話しかけるだけで照明やテレビを付けたり消したりしてくれるスマートスピーカーも、IoTの技術を活用したものです。
IT教育とICT教育の違いとは
ITとICTに意味の違いがあるように、IT教育とICT教育もそれぞれ異なる意味を持ちます。IT教育はITについて学ぶ、もしくはITを導入した教育のことです。IT教育を始めるためには、パソコンやタブレットなどの電子機器の導入やインターネット・無線LANの整備、教科書を拡大化して映す実物投影機の導入などが必要です。一方ICT教育が意味するのは、情報通信技術を活用した教育です。単にITを導入することだけでなく、導入後の活用までが含まれています。つまり、ITを用いる目的やITを活用した場合の効果に焦点が置かれているのです。ICT教育の具体例としては、算数・数学の授業にシミュレーションソフトを用いて、表・グラフ・3Dの立体などと関連付けて理解を深めることや、表計算ソフトなどを用いた成績評価のシステム化などが挙げられます。ICT教育は児童生徒の学習効率と、学校・教員の業務効率両方の向上が期待できるといえます。とはいうものの、IT教育とICT教育は時折ほとんど同じ内容を指すこともあります。経済産業省はIT教育、文部科学省はICT教育といったように、省庁によって使い分けられている場合もあることを覚えておきましょう。
IT・ICTの学校教育における位置付け
現在の日本では、学校教育においてIT・ICTの導入が推進されています。したがって、教育者としては、学校現場でIT・ICTが示すものや具体的な取り組みなどを理解しておく必要があるでしょう。以下では、「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」と「GIGAスクール構想」から、学校教育におけるIT・ICTの位置付けについて解説します。文部科学省は情報技術・情報技術活用の両方の意味でICTという用語を用いていることを念頭において、以下の解説をご覧ください。
IT環境の整備方針「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」
文部科学省が2017年度に打ち出した「2018度以降の学校におけるICT環境の整備方針」をもとに始まったのが「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」です。当初の計画では2008年度〜2022年度の5年間で各学校のICT環境を整備することが目的とされました。この計画で示されたICT環境の整備目標とされる水準は以下の通りです。
上表の他に、学習用ツール・予備用学習者用コンピュータ・充電保管庫・学習用サーバー・公務用サーバー・公務用コンピュータやセキュリティに関するソフトウェアについても整備されます。
参照:文部科学省「学校におけるICT環境整備について」
次項のGIGAスクール構想でも解説しますが「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」で掲げたICT環境の整備はGIGAスクール構想の実施によって当初の予定よりも前倒しで進みました。しかし、GIGAスクール構想を踏まえた成果・課題などから、2024年度まで2年間の延長が決まっています。
文部科学省が推進するGIGAスクール構想とICT
文部科学省が2019年から進めているのが「GIGAスクール構想」です。GIGAスクール構想とは、多様な子どもに公正かつ個別に最適化され、それぞれの資質・能力が育成できる教育のICT環境を実現する取り組みを指します。GIGAスクール構想において進められているICT環境整備は、学校内の通信ネットワークと国公立・私立の小学校・中学校・特別支援学校などの児童生徒向けに1人1台端末を整備することです。GIGAスクール構想では、以下のようなICTの学びへの実現を目指しています。
・1人ひとりで情報収集が行える調べ学習を行う
・ソフトを利用して、個々の考えをまとめ、発表する
・視覚的に理解しやすい教材を活用する
・児童生徒の学習進捗状況をデータとして可視化し、1人ひとりに合った対応を行う
国語の文章作成・理科の実験結果の発表などには専用ソフトを活用した学習、算数・数学ではグラフなどを分かりやすく提示、社会ではデータを分かりやすく加工・可視化するなど、各教科においてもあらゆる活用法が想定されています。GIGAスクール構想は「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」と並行して進められ、2022年度の達成が目指されていましたが、2020年の新型コロナウイルス感染拡大により実施が大幅に前倒しされました。2021年7月末までに、全国公立小学校などの96.2%、中学校などの96.5%が端末利活用を開始しました。ただし、前述の通り「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」自体は2年間の延期が決定しています。
新学習指導要領におけるICT教育の扱い
新学習指導要領では、情報活用能力が「学習の基盤となる資質・能力」と示されており、教育課程全体を通して情報活用能力を育成することが記載されています。また、情報活用能力を育むためのコンピュータやネットワークなどを整備し、学習活動の充実を図るよう配慮することが明記されました。つまり、ICTを活用した教育の重要性が記されているのです。小学校ではプログラミング教育が必修化され、新学習指導要領にはコンピュータに意図した処理を実行させるための論理的思考力の育成を行うことが記されています。小学校におけるプログラミング教育の目的はあくまで論理的思考力の育成であり、プログラミング言語の習得などではありません。他にも、プログラムの働きやITによって社会が支えられていることに気付くことが目指されています。中学校では技術・家庭科(技術分野)でプログラミング・情報セキュリティに関する内容を充実させる旨が示されています。「計測・制御のプログラミング」と「ネットワークを利用した双方向性のあるプログラミング」が中学校のプログラミング教育の内容です。高校では、情報化の共通必履修科目として「情報Ⅰ」が新設されています。全生徒がプログラミングやネットワーク、データベースの基礎などについて学びますが、さらに学びを深めるためには選択科目として「情報Ⅱ」を取ることも可能です。「情報Ⅱ」では、情報システムや多様なデータを活用する力、コンテンツを創造する力を育みます。
IT・ICTの教育現場における活用事例
これまでITやICTが教育現場で活用されてきた事例を4つご紹介します。ICTを活用した教育がどのように行われているのか、ぜひ参考にしていただき学校現場で生かしてみてください。
小学校2年生の算数の授業における活用事例
大阪府箕面市立止々呂美小学校の2年生の算数の授業では、三角形の学習にICTが活用されました。授業の目的は、さまざまな三角形の辺の長さから三角形を分類し、分類の理由を相手に説明することでした。授業の中ではタブレットPCが用いられています。事前に児童が作成した三角形をデジタルカメラで撮影し、その画像を使用してタブレットPC上で分類する活動が行われました。また、児童が作成した三角形の画像は、授業終盤でフラッシュカードとしても活用され、タブレットPC上での三角形の仲間分け活動に使われています。さらに、教師は電子黒板上に児童が行った仲間分けを表示し、クラス全体での共有や意見交流に役立てました。自分で作成した三角形が教材として使われるため、児童は興味を持って意欲的に学習に取り組めました。また、それぞれがつくった三角形の実物を使用すると、作成具合にばらつきが生じ児童が混乱する可能性もありますが、データ化したことによって全員が同じ教材で学習でき、スムーズな理解を促せたという学習効果も出ています。
小学校特別支援学級3年生の算数の授業における活用事例
福岡県筑前町立三並小学校の特別支援学級3年生の算数の授業では、時計の読み方を学ぶためにICTが活用されました。本授業の目的は、針の形・数の順序・規則的な数え方から「30分」の時刻を読むことです。教師は自作のとけいブック(プレゼンテーション教材)を電子黒板に表示し、タッチパネルを操作しながら時計の読み方を教えました。また、児童がとけいブックをつくる際の方法や手順も電子黒板で分かりやすく表示しました。時計の読み方を学んでもらうことはもちろん、児童1人ひとりの特性に合わせたPC教材に取り組ませ、個々の興味・関心度や理解度を向上させています。電子黒板やPC教材を使用したことによって、児童の興味を惹くことができ、授業の展開をスムーズに行えたことが、本授業の学習効果の1つです。また前述の通り、PC教材は児童それぞれの特性に合わせて教師がつくっているため、個々に適した形での学習が実現しています。
中学校2年生の理科の授業における活用事例
佐賀県唐津市立加唐中学校の2年生の理科の授業において、二酸化炭素の中でマグネシウムが燃焼する化学変化を粒子モデルを使って説明する際にICTが効果的に使われました。3人につき1台のPCが割り当てられ、生徒は交互に操作や意見交流をしながら学習を行います。原子が1粒ずつ動かせるようプレゼンテーションソフトを用いて粒子モデルを作成し、生徒自身に操作させることで「マグネシウムが二酸化炭素から酸素を奪って燃焼し、その後炭素が生成される」といった化学反応への気付きを促しました。紙に図を描くのとは違い、実際に粒子モデルを操作して動かしながら学ぶことでイメージを高めることができ、化学変化の仕組みへの深い理解につながっています。
高校2年生の英語の授業における活用事例
岡山県立勝山高等学校2年生の英語の授業では、学習を効率化することにICTが役立てられました。本授業では、教材の本文の内容を理解したり、生徒自身がまとめた内容をプレゼンテーションしたりする際に、ICTが活用されました。本文をわざわざ板書して説明するのでなく、テキスト付属の本文データをタブレットPC上に表示させ、補足事項は手書きで書き込むようにしたことで、授業の効率化を図りました。生徒が行った英作文や本文の要約文はタブレットPCでPDF化して教員へと送信し、それにより1人ひとりに板書させるよりも多くの英作文・要約文に教員は目を通せるようになりました。さらに、タブレットPC上に表示された図について、生徒自身がキーワードを考えてプレゼンテーションを行う活動も行われ、ICTの活用はプレゼンテーション能力の育成にも効果を発揮したことが分かります。
まとめ
ITは情報技術を意味する言葉で、情報にまつわる技術の総称を指します。一方、ICTは情報通信技術を意味し、ITを活用してコミュニケーションを行うことに着目した言葉です。IT教育がITについての教育もしくはITを導入した教育であることに対し、ICT教育はITを活用する教育で、IT活用の目的や効果に重きを置いています。学校教育においては「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」および「GIGAスクール構想」で教育現場でのICT化が進められています。ICTを活用した授業もすでに始まっているため、本記事で紹介した事例をぜひご自身の学校で役立ててみてください。