イエナプラン教育の基本理念や特徴は?メリットや課題も解説

2023/08/31(木)

保護者

探究学習

イエナプラン教育は、日本で取り入れ始められたばかりの比較的新しい教育です。それゆえ、イエナプラン教育の教育方針や教育内容が分からない方も多いのではないでしょうか。本記事では、イエナプラン教育の概要や特徴、実施するメリット・デメリットなどについて詳しく解説します。また、イエナプラン教育における教員の役割についても紹介しているため、ぜひ参考にしてみてください。

自律と共生を重視する「イエナプラン教育」とは

イエナプラン教育とは、子どもが自ら考え、行動する自発的な態度や、他者を尊重し、互いに協力し合う姿勢の育成を目指す教育のことです。日本イエナプラン教育協会は、イエナプラン教育を「自律と共生を学ぶ教育」と定義しています。イエナプラン教育は、1920年代にドイツの教育学者ペーター・ペーターセン(Peter Petersen)が自らの教育理論と実践をもとに考案したものです。ペーターセンが創始した後、イエナプラン教育はオランダを中心に普及し、日本には大正デモクラシーの時代に伝わっています。イエナプラン教育は子どもたち1人ひとりが自ら学ぶことや支え合うことを大切にしている教育です。

イエナプラン教育の5つの特徴

子どもの自主的態度や他者との共生を学ぶイエナプラン教育。イエナプラン教育では具体的にどのような取り組みがされているのか、ここでは5つの特徴を紹介します。イエナプラン教育の特徴を知るとともに、従来の学校教育との違いを理解しましょう。

①学年をまたいだグループによる学級構成

1年生、2年生のように同じ学齢の子どもたちが集まり学級がつくられる従来の学校教育とは異なり、イエナプラン教育では学齢が違う子どもたちが同じグループになるよう構成されます。具体的には4〜6歳・6〜9歳・9〜12歳のように、2〜3学年が混合している形です。年下の子どもたちにとっては、年上の子どもたちのサポートが受けられるという安心感があり、年上の子どもたちは年齢が下の子どもたちに対する責任感が生まれます。また、各グループで全員が必ず年少・年中・年長3つの立場を経験するのも、イエナプラン教育ならではの特徴です。

②4つの基本活動による学び

イエナプラン教育では、4つの基本活動「対話」「遊び」「仕事(学習)」「催し」を軸に教育活動を行います。イエナプラン教育では、グループの全ての子どもたちがサークル状に座り、お互いに対話する時間が設けられます。教室の前に立って発表するような緊張感がない点が特徴です。遊びでは、音楽に合わせて体を動かす活動や絵を描く活動など、さまざまな活動が行われます。活動内容は子どもたちが自由に決める場合もあり、必ずしも企画されたものを行うわけではありません。仕事(学習)には共生学習と自律学習の2種類があり、特に自律学習では子どもたちが自身の興味・関心、得手不得手を考慮した上で、自らの時間割を作成します。催しとしては、年間行事や誕生日会、地域行事への参加などが挙げられます。

③リビングルームとしての教室づくり

イエナプラン教育において教室はリビングルームと呼ばれ、子どもたちがリラックスして過ごせる教室づくりがなされています。リビングルームでは、一般的な学校のように規則正しく並べられた机で学習することはありません。テーブルや長椅子などが自由に置かれた空間の中で、子どもたちは好きな場所に座り学習を進めます。リビングルームは子どもたちと教師が協力してつくり上げます。リビングルームづくりでは、1人ひとりが自分らしく過ごせることに加えて、グループ活動のしやすさなどを考えることが大切です。

④ワールドオリエンテーション(総合学習)の実施

ワールドオリエンテーションと呼ばれる総合学習に重きが置かれているのも、イエナプラン教育の特徴です。ワールドオリエンテーションとは、教科の枠を超えた総合的な学習のことを指します。ワールドオリエンテーションでは、グループごとで協力しながら、あるテーマにおける問題や課題の解決を目指す学習活動を行います。問題解決に向けて、調査・実験・発表を子どもたち主体で行う点では、PBL(問題解決型学習)の要素を持つ学習活動といえるでしょう。ワールドオリエンテーションはイエナプラン教育の核となる大事な学習です。

⑤健常者と障がい者がともに学ぶ体制

前項で、イエナプラン教育では学齢の違う子どもたちが同じグループに所属することをお伝えしましたが、健常者と障がい者がともに学べる教育体制も大切にされています。障がいの有無にかかわらず、全ての子どもが同じ環境で教育を受けるというインクルーシブの考えが重要とされているため、イエナプラン教育では特別支援学級の設置がありません。健常者と障がい者がともに学習する環境の中で、子どもたちは多様性や助け合う力を養います。

イエナプラン教育には20の原則がある

イエナプラン教育の方向性を示すのが「20の原則」です。20の原則は、「人間」「社会」「学校」の3つに分けられます。ここでは、それぞれに関する原則を簡単にまとめました。より詳しく知りたい方はイエナプラン教育協会「イエナプラン教育とは」※1をご確認ください。

人間についての原則

人間についての原則では、1〜5の原則が定められています。

1.誰もがかけがえのない価値を持っている
2.人種・国籍・宗教・性別・社会的背景・障がいの有無にかかわらず、誰もが自分なりのやり方で成長する権利を持っている
3.それぞれが成長するために、他者との関係、自然・文化に触れられるものとの関係、触れることはできないが現実であると認めるものとの関係を持っている
4.誰もが1つの人格を持った人間として受け入れられ、できる限り待遇されなければならない
5.誰もが文化を担う者として受け入れられ、できる限り待遇されなければならない

人間についての原則で述べられているのは、個々の価値や存在を互いに受け入れ、それぞれが自分なりの成長を遂げることの大切さです。

社会についての原則

社会についての原則は、6〜10の5つです。

6.個々に持つかけがえのない価値を尊重し合う社会をつくらなければならない
7.人それぞれが個性を伸ばす場、また、個性を伸ばすために刺激を受けられる社会をつくらなければならない
8.公正・平和・建設性の向上という観点で、人同士の違いや個々の成長・変化を受け入れる社会をつくらなければならない
9.地球と世界を大事に守っていく社会をつくらなければならない
10.未来の人たちのために、自然の恵みを責任を持って使う社会をつくらなければならない

社会についての原則では、それぞれが尊重される社会や成長できる社会の形成などについて述べられています。

学校についての原則

教育方針や教育体制などについて述べられているのが、学校についての原則です。11〜20の10の原則が定められています。

11.学びの場は、全ての人が自律し、共同でつくる組織であり、社会から影響を受けるだけでなく社会へ影響を与える組織である
12.学びの場で働く者は、1〜10の原則を子どもの学びの始まりと捉えて働く
13.学びの場での教育内容は、暮らしの中・経験の世界・文化の恵みの中から生まれる
14.学びの場では、教育学的に考えてつくられた道具と環境を用意した上で教育活動を行う
15.学びの場では、4つの基本活動がリズミカルに出現する形で教育活動が行われる
16.学びの場では、子ども同士で学び合いや助け合いが行えるよう、検討の上年齢・発達の異なる子どもたちを組み合わせたグループをつくる
17.学びの場では、1人で行う学習・遊びと、指導を受ける学習が交互に実施される
18.学びの場では、経験・発見・探究などの学習の基本とともに、ワールドオリエンテーションが学習の核となる
19.学びの場では、子どもに対する評価は、成長過程を重視し、できるだけ子ども自身との話し合いをする形で行う
20.学びの場では、何かを変えたりより良くしようとしたりすることは、日常的に続けなければならない。そのためには、実際に取り組み、取り組んだことについて考えるというプロセスを繰り返す姿勢がなければならない

イエナプラン教育における教員の役割

イエナプラン教育で教員が担う役割は、子どもたちを自主的な学習へと導くことです。イエナプラン教育では、教員は「先生」ではなく「グループリーダー」と呼ばれます。つまり、教員は子どもたちとともにグループ、そして学校という共同体をつくり上げる一員なのです。あくまで中心は子どもたちであり、子どもたちの自治が最も大切にされます。そのため、教員は子どもたちに物事を教えるのではなく、子どもたちの自主的な学びをサポートする役目があることを理解しておきましょう。

イエナプラン教育を実践するメリット

前述の通り、イエナプラン教育は子どもを中心に考え、のびのびとできる環境の中で子どもたちの自発的学びや成長を促す教育です。ここでは、イエナプラン教育の実践における3つのメリットについて解説します。

児童・生徒の主体性・協調性を育める

1つ目のメリットは、子どもたちの主体性や協調性が育めることです。前述の通り、イエナプラン教育では子どもたちの自律が重んじられており、子どもたちが自ら考え、行動することを促します。そのため、イエナプラン教育では子どもたちの主体性が育まれます。また、グループ活動が多いイエナプラン教育では、子どもたちは他者の意見を受け入れることや自分の意見を適切に相手へ伝えることを学びます。よって、他者を尊重する協調性が身に付く点もメリットといえます。

児童・生徒のリーダーシップを促せる

イエナプラン教育は、子どもたちのリーダーシップ育成にも効果的です。イエナプラン教育におけるグループでは、誰もが年長の立場を経験し、年少・年中の子どもたちをサポートすることを学びます。そして、年齢を重ね進級を迎えれば、再び年少からのスタートとなり、年少・年中・年長を繰り返し経験した子どもたちは自分とは異なる立場の人間をも思いやれるリーダーへと成長します。

児童・生徒の自己肯定感の向上が期待できる

子どもたちの自己肯定感向上が望めるのも、イエナプラン教育におけるメリットの1つです。前項にもある通り、イエナプラン教育ではグループの年長者として、年少者・年中者の学習を支えたり、教えたりする経験を重ねます。他の人の役に立つという経験が子どもたちの自己肯定感を高めるのです。また、20の原則にもある通り、子どもたちの評価を行う際には1人ひとりと話し合いを行います。従来の学校教育のような相対的評価ではないため、他者と比べることはありません。自分だけの評価を受けることで、子どもたちの自己肯定感は向上します。

イエナプラン教育を日本の学校で行う際の課題

前項までの内容を見るとイエナプラン教育にはメリットばかりがあるように感じられますが、日本の学校においては課題がいくつか存在します。ここでは、イエナプラン教育を日本の学校で実施する際の主な課題を3つ解説します。

日本での実践例が少なく効果が未知数

日本では、イエナプラン教育の実践例はまだ少なく、教育効果が測れないのが現状です。イエナプラン教育が日本で広まり始めてからは20年ほどしか経っておらず、日本におけるイエナプラン教育の実践例は多くありません。また、日本ではオランダを参考にイエナプラン教育を取り入れているため、日本の子どもに対する教育効果は未知数といわれています。より多くの実践を行い、効果の検証を行うことが求められています。

学習指導要領に準じたカリキュラムとの両立

国が定める学習指導要領に沿ったカリキュラムとの両立も、日本の学校でイエナプラン教育を実施する際の課題です。いわゆる一条校と呼ばれる教育機関では、国が定めている学習指導要領を蔑ろにはできません。しかし、学習指導要領に準ずるカリキュラムとイエナプラン教育におけるカリキュラムとでは内容が大きく異なるため、2つを両立することが難しいのが現状です。学習指導要領を考慮し、カリキュラムの改善を重ねることが必要になります。

従来型教育とのスムーズな接続の考慮

イエナプラン教育を実施する場合は、従来型教育とのスムーズな接続に配慮しなければなりません。現在日本において、イエナプラン認定校とされているのは「学校法人茂来学園大日向小学校・中学校」(長野県佐久穂町)と「福山市立常石ともに学園」(広島県福山市)のみです。そのため、仮にイエナプラン校に入学したとしても、中学校・高校では従来型の教育機関へ進学することになります。イエナプラン校では受験に対する対策を行っておらず、子どもたちは自力で受験に臨まなければならないため、進学に対する不安や負担が大きくなってしまう懸念があります。また、イエナプラン教育から従来型教育に進むことは、子どもたちにとって大きな環境の変化をもたらします。よって、イエナプラン校から従来型の教育機関へ進む子どもたちへの配慮は必要不可欠といえるでしょう。

まとめ

イエナプラン教育は、子どもの主体性と協調性を育む教育法です。イエナプラン教育には、学齢の異なる子どもたちを同じグループとして構成したり、ワールドオリエンテーションが実施されたりするといった特徴があります。また、イエナプラン教育のコンセプトや方向性を定めているのが20の原則です。イエナプラン教育において、教員には従来型教育のような教える役割はありません。教員は子どもの自主的学習をサポートする役目を担うことを覚えておきましょう。イエナプラン教育の実施には、子どもたちの主体性が育つなど多くのメリットがありますが、日本の学校ならではの課題も存在します。イエナプラン教育をより良い形で実施するためには、課題点の解決に努める必要があるでしょう。

※1:https://japanjenaplan.org/jenaplan/rule/

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