教育現場で注目度が上がっている非認知能力。高校では2022年度に新学習指導要領が施行開始されたことで、非認知能力育成の重要性が高まりました。しかし「非認知能力がどのような力を指すのか理解できていない」「具体的に何に取り組んだら良いのか分からない」という教員の方も多いのではないでしょうか。本記事では、非認知能力の重要性を改めて確認するとともに、非認知能力育成に必要な教育ステップや具体的な指導法などを解説します。高校での非認知能力の伸ばし方に悩んでいる方はぜひ参考にしてみてください。
非認知能力とは?文部科学省の定義と重要性
生徒の非認知能力育成に携わるのであれば、まずは非認知能力が何を指すのか理解しておく必要があります。ここでは、非認知能力の定義と重要性を確認してみましょう。
非認知能力の定義
非認知能力とは、人間が持つ数値では測れない能力です。非認知能力は、意欲・意志・情動・社会性に関する以下3つの要素で構成されます。
・目標に向かって粘り強く取り組む
・目標達成のために方法を工夫する
・周囲の人と同じ目標を達成するために協力し合う
非認知能力は、特に4~5歳のうちに発達するといわれていますが、その後の学齢期や思春期、そして大人になってからも伸ばすことは可能です。非認知能力は、社会生活を送る上で重要な力として注目されています。
非認知能力の重要性
文部科学省は新学習指導要領の中で非認知能力育成の重要性を提言しています。新学習指導要領で示されている育成すべき資質・能力である「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」のうち、3つ目の「学びに向かう力、人間性等」が非認知能力にあたります。つまり、学校教育の一環として非認知能力の育成が掲げられているのです。
非認知能力が高い人に見られる4つの特徴
非認知能力は社会生活のあらゆる場面で発揮されます。ここでは、非認知能力が高い人の特徴4つを確認するとともに、どのような場面で力が発揮されるのか見ていきましょう。
①自己効力感が高い
自己効力感とは自分の能力や可能性を信じる気持ちを指します。課題が生じた際や物事がうまくいかないときに、自分を信じて挑戦を続けられたり、最後までやり抜けたりするのが、自己効力感が高い人の特徴です。「自分ならできる」と思えることで、たとえ失敗したとしても、目標に向かってモチベーションを維持できます。
②目標に向かって行動する
自ら目標を定め、その目標に向かって行動できるのも、非認知能力が高い人に見られる特徴です。目標に向かって行動する力は、実行力や主体性とも言い換えられるでしょう。実行力や主体性がある人は、物事に積極的に取り組んだり、考えたことを行動に移せたりします。社会に出て働く上では、業務を推進する実行力や主体性のある人材が求められます。
③諦めずに困難に立ち向かう粘り強さがある
自ら行動した結果、困難な状況に陥る場合や課題に直面する場合もあります。そのときに、粘り強く挑み続けられる人は非認知能力が高いといえます。物事に対して最後まで諦めずにやり遂げる力は、目標達成という成果につながります。また、日ごろから粘り強い態度を示すことで周囲からの信頼も得られるでしょう。
④自己管理能力が高い
自己管理能力とは、自分のパフォーマンスを最大化するために、タスク・時間・行動・モチベーション・思考・心身の健康状態などを自分でコントロールする力のことです。周りの人と同じ目標に向けて何かに取り組む場合、自己管理能力が高ければ自分の役割を認識できます。その役割を全うするために自分を管理し行動することで、周囲への貢献にもつながります。その場合、取り組み全体の生産性も向上するでしょう。
非認知能力を伸ばすための教育ステップ
生徒の非認知能力を伸ばすためには、適切なステップを踏むことが大切です。ここでは、非認知能力育成のための4つの教育ステップを紹介します。
ステップ①行動指標の作成
1つ目のステップでは、的確な指導へとつなげるために、育成したい非認知能力を具体化して、各非認知能力に応じた行動指標を作成します。たとえば「心豊か」「たくましい」「誠実」など概念的な理想像を掲げる場合、それらがどのような力を意味するのか細分化します。さらに、細分化で明らかになった力によって、どのようなことができるのかを挙げ、理想像を実現するための行動の規準を明確にします。
ステップ②生徒へのフィードバック
ステップ①で作成した行動指標をもとに、生徒へのフィードバックを行います。このとき、単に「頑張っているね」と伝えるのではなく、努力の過程を細かく見取ることが大切です。適切にフィードバックを行うことで、生徒は自らの行動に価値を見出し、主体的に能力を伸ばすように意識を変えていきます。
ステップ③非認知能力を伸ばす活動の導入
3つ目のステップでは、他者と協力できる活動や自分と向き合える活動など、伸ばしたい非認知能力によって活動内容を工夫します。具体的には、PBL(課題解決型学習)の活用が効果的です。非認知能力は直接指導して伸ばすものではありません。あらゆる教育活動を通して、生徒の非認知能力は伸びていきます。
ステップ④評価
評価は非認知能力の発達をサポートする役割があります。評価によって、目標に対しての現状を把握することで、生徒・教師両者が目標に向けた改善策を検討できます。また他者からの評価は、生徒の自己肯定感向上にも効果的です。
非認知能力の評価方法と指導への生かし方
評価は非認知能力を育成する上で大切なステップです。ここでは、具体的な評価方法と指導への生かし方について解説します。
非認知能力の評価方法と尺度
前述の通り、非認知能力は学習指導要領で示される「学びに向かう力、人間性等」に値します。高校の観点別評価の中で「学びに向かう力、人間性等」を評価するのは、「主体的に学習に取り組む態度」の観点です。「主体的に学習に取り組む態度」はペーパーテストでは測れません。そのため、単元ごとに評価規準をつくり、ルーブリック(評価基準表)を設けることで評価します。評価規準および評価基準を明確に作成することで、教師の感覚に頼らない評価が可能になります。また、非認知能力の評価には自己評価を取り入れることも大切です。「主体的に学習に取り組む態度」に含まれる「自ら学習を調整する側面」を発揮するためには、生徒の正確な自己理解が求められます。自分の能力をどのように捉えているのかという傾向を知ることが重要です。
評価を生徒の指導に生かす方法や工夫
評価後はクラスや学校全体の傾向を評価結果から分析する必要があります。その中で、課題があるとみなされる部分に関しては、どのように解決できるのかに焦点を置いて指導方針を改善します。たとえば、対人関係スキルに課題があると判明した場合には、各教科の中にアクティブラーニングを導入して、対話を通して学べる環境をつくるなどの方法が考えられるでしょう。評価から課題を見出し、課題解決に向けて指導を工夫することが求められます。
生徒の非認知能力育成に必要な学校の取り組み
生徒の非認知能力は、教科指導においてはもちろん、それ以外の学校の取り組みの中でも伸びていきます。ここでは、生徒の非認知能力育成に必要な具体的な取り組みについて紹介します。
学校風土や環境の整備
学校風土とは「生徒が安心して通える学校」「いじめがない学校」など、学校が掲げる概念的なものです。学校風土は非認知能力向上に大きな影響をもたらすといわれています。よって、学校全体で風土の改善に努めることは、結果として生徒の非認知能力を高めます。また、非認知能力を伸ばすためにはどのような環境で学ぶのかが重要です。「物事に挑戦すると応援してもらえる」「常に対話が行き交う」などの学習環境が非認知能力の向上を支えます。どのような学習環境になるのかは教師の働き方や生き方に起因します。教師自身が試行錯誤して探求する姿や教科・学年の枠を超えて協力し合う姿などを見せることで、おのずと学校環境は変化し、生徒に良い影響が与えられるでしょう。非認知能力育成のための環境づくりには、教師が自分の意識や行動を見直し、改善することが大切です。
学校生活での取り組みや学習プログラムの実施
教師が学校生活の中で意識したいのは「生徒の興味・関心を引き出す」「成功を褒め、失敗しても責めない」環境をつくることです。興味・関心を引き出すためには、学習指導要領の中でも重要性が提言されている「主体的・対話的で深い学び」の観点から指導を工夫するのが効果的です。また、学びは必ずしも成功体験から得られるものではありません。学習の中で、成功だけでなく失敗にも目を向けさせることを意識して指導しましょう。非認知能力育成のための具体的な学習プログラムの1つにSEL(Social and Emotional Learning)があります。SELは以下5つの非認知能力によって構成される学習プログラムです。
・自己理解
・社会/他者理解
・自己管理能力
・対人関係スキル
・責任ある意思決定
このSELを兼ね備えているのが、PBL(課題解決型学習)です。PBLの中でグループごとに課題を設定し、対話を通じてそれぞれが主体的に学習に取り組むことで、上記で挙げたような非認知能力が伸ばせます。
非認知能力の向上が生徒の将来にもたらす影響
ますますAIの発展が進み、生き方が多様化している現代。人々に求められるのは、自ら課題を見つけ解決に取り組むような人間らしい力や、変化する社会に柔軟に対応し、自ら考えて行動を続ける力です。これらの力はすなわち非認知能力を指し、高校教育の中で非認知能力を育成することは、将来生徒が社会生活を送る上で大きな意味を持ちます。またアメリカで実施されたペリー就学前プロジェクトでは、非認知能力を高める教育を受けた子どもたちは、教育を受けていない子どもたちよりも大人になったときの年収や持ち家率が高くなったという結果が出ています。このプロジェクトの対象となったのは3〜4歳の幼児ですが、非認知能力はいつからでも伸ばせる特性があるため、高校での教育にも期待できるでしょう。
生徒の非認知能力育成につながる家庭での取り組み 100
生徒の非認知能力を伸ばすためには、学校はもちろん家庭での取り組みも重要です。ここからは、各家庭でできる具体的な取り組みを紹介するとともに、学校との連携の重要性をお伝えします。
家庭での具体的な取り組み
各家庭では、子どもの意思にもとづいた活動を取り入れることが大切です。たとえば、子どもが何か習い事をしている場合、どのような習い事でも子どもが主体的に、そして粘り強く取り組めていることが非認知能力の育成につながります。子どもが物事に興味・関心を持って取り組める環境づくりが重要です。
学校との連携と協力
前述の通り、子どもの非認知能力の育成には、学校教育が重要な役割を担っています。一方、保護者が自分の子どもに高い関心を抱くこともまた、非認知能力育成に大きな影響を及ぼします。そのため、教育を担う学校と、子どもと深く関わる家庭との連携が大切です。近年ではスマートフォンの普及により、学校からの連絡を各家庭に一斉送信できるようになりました。また、1人1台学校から配布される端末によって、プラットフォーム内で学校と家庭がつながれるようにもなっています。従来より、学校と家庭で連携が取りやすくなっている環境を生かして、生徒1人ひとりの非認知能力育成に努めることが求められています。
まとめ
非認知能力とは粘り強さや協力など、数値化できない能力のことです。新学習指導要領で育成が掲げられるほど、非認知能力の重要性は増しています。高校には、学校全体の環境改善や学習プログラムの導入によって、生徒1人ひとりの非認知能力を向上させることが求められています。本記事で解説した内容を参考に、ぜひ自身の学校での取り組みに生かしてみてはいかがでしょうか。