2023/11/21(火)
自身や周りの人が幸せに暮らすために必要なウェルビーイング。教育現場では生徒だけではなく、教員自身もウェルビーイングを高めることが大切だと考えられています。本記事では、ウェルビーイングの基本的な意味や教育現場や社会における意義、そして生徒と教員がウェルビーイングを高める方法を解説します。教育に携わる方はぜひご一読ください。
心身の健康・社会的な充実を表す「ウェルビーイング」とは?
快適な日常生活を送ったり、学習に取り組む姿勢を保ったりするためには、心身の健康状態が良好である必要があり「ウェルビーイング」が役立ちます。ここからはウェルビーイングの定義や、社会の動向について解説します。
ウェルビーイングの定義を解説
ウェルビーイングは、健康・幸福・福祉などと直訳され、心身ともに良好であり社会においても持続して充実している状態を表します。たとえば、素直に喜びや感謝の気持ちを持てるようになり、落ち込んでも乗り越え、回復する力が働いて元気を取り戻せる状態です。ウェルビーイングは1946年に世界保健機関が設立されたときに初めて登場しました。世界保健機関憲章における健康とは、肉体的・精神的・社会的に満たされた状態にあることと定義されています。そのため、健康とは全てが満たされているという意味であると解釈できます。
ウェルビーイングをめぐる社会の動向
ウェルビーイングが注目を集める社会的な背景として、価値観の変化が挙げられます。これまで「モノ」に対して効率や利益など経済指標を優先した結果、格差の拡大や地球環境の悪化などさまざまな問題が発生しました。これらはモノの価値観では解決できない問題ばかりで、モノの成長に限界が感じられ始めたからです。そのため、ウェルビーイングの視点から考えて、地球規模で周囲と調和をしながら、より良い社会をつくろうと変化をしてきています。
学校教育でのウェルビーイングの現状
学校教育でもさまざまな効果が期待できるウェルビーイング。生徒と教員がどの程度ウェルビーイングを高められているのか、現状をお伝えします。
生徒のウェルビーイングの現状
2022年6月15日にこども基本法が成立し、以下の内容が定められました。
・常に子どもにとって最善の利益を考えること
・全ての子どもが適切に養育され、生活を保障され愛されること
・年齢や発達状況に応じ、意見を発表したりさまざまな社会活動に参画したりする機会が確保されること
このように子どものウェルビーイングを大切にすることが理念に掲げられています。しかし、新型コロナウイルスの影響で修学旅行が中止になったり、給食の時間も黙食が当たり前になったりと、子どもたちは我慢を続けている状態です。また不登校の生徒も増加しているため、現状では子どもたちのウェルビーイングが高められているとはいい難いでしょう。
教職員のウェルビーイングの現状
教育研究家の妹尾昌俊氏が2022年3月〜4月に実施したアンケート調査によると、高校の教職員の8割以上が多忙で余裕がないと感じていることが分かりました。理由は以下の通りです。
上記のような状況をつくり出す原因は、教員・講師不足が考えられます。今後このような状況が続いた場合、子どもたちのウェルビーイングを高めるには限界があり、教職員や学校現場を苦しめてしまう可能性も考えられます。まずは、教職員のウェルビーイング向上から始めることが大切といえるでしょう。
文部科学省のウェルビーイングへの取り組み
文部科学省では、以下のような日本社会に定着したウェルビーイングへの取り組みを目指しています。
・子どもそれぞれの幸せや生きがいの実現に向けた教育
・学校や地域とのつながり・幸福感・協調性・協働性などの要素を含んだ、協調的幸福と獲得的幸福のバランスを重視
・日本が独自に考えた調和と協調にもとづくウェルビーイングを発信
このように文部科学省では、短期的ではなく将来にわたり持続的な幸福=ウェルビーイングと考えています。
ウェルビーイングの指標と把握する方法
人生において重要な役割を果たすウェルビーイングですが、目に見えないためどのように測定したり把握したりするのか、ここからはウェルビーイングの指標や把握する方法を解説します。
ウェルビーイングの指標とは?
ウェルビーイングは主に、以下の4つの指標によって測定されています。
1.ウェルビーイングの「5つの構成要素」:ギャラップ社
2.世界幸福度ランキング:国際連合(国連)
3.より良い暮らし指標:OECD(経済協力開発機構)
4.ポジティブ心理学における5つの指標
上記の指標はそれぞれの指標によって特徴や要素が異なります。生徒や教員などに必要な要素を抜粋し、目的に合わせて参考にするのがポイントです。
教員が生徒のウェルビーイングを把握する方法
OECDによる「認知的スキル」「社会情緒的スキル」2つの観点がウェルビーイングに影響を与えることから、生徒のウェルビーイングを測定できると考えられています。
生徒のウェルビーイング向上のために学校ができる取り組み
学校ができる取り組みとして、授業にウェルビーイングを取り込んだり、生徒の精神状態に合わせて対応できる環境を整えたりすることが挙げられます。以下で具体的に解説しますので、ぜひ参考にしてください。
カリキュラムにウェルビーイングを組み込む
学校生活が楽しいと感じることも、ウェルビーイングを向上させるために役立ちます。そのためには、以下のような感情を実感できるウェルビーイングを取り組んだカリキュラムづくりを行うと良いでしょう。
・自分のことが好き
・自分には良いところがある
・勉強が理解できた
・部活動や委員会活動に対して人一倍やる気がある
・苦手なことでも努力できる
このような感情から自己実現と自己受容が鍛えられ、ウェルビーイングの向上につながるでしょう。
生徒のメンタルヘルスに対応できる環境を整える
生徒が学校に対して不安や心配を持つのを防ぐためにも、以下のように安心して通える環境を整えることも大切です。
・安心して学校に通えるように通学路の安全を再確認する
・校舎や教室などの整理整頓を心がけ、清潔に保つ
小さなことかもしれませんが、生徒はネガティブな部分と捉える場合もあります。できる限り不安を取り除く環境づくりが大切といえるでしょう。
保護者や地域との連携を図る
多様なつながりを持つことも、ウェルビーイングの向上に役立ちます。地域間交流体験活動や地域探究を通して、地域の方と交流する時間を設けましょう。説明を聞くだけではなく質問したり、実際に体験したりと、交流を深めることも大切です。このような体験をきっかけに保護者や地域の方々と協働することで、相手の気持ちを理解したり共感したりして、向社会性が備わります。これらの取り組みによって教員と保護者・地域の方々が連携すれば、生徒のウェルビーイングを高められる事でしょう。
教員のウェルビーイング向上が重要な理由
教員が心身ともに健康な状態でないと、生徒の小さな変化に気づけないかもしれません。そのため、教員のウェルビーイング向上が重要といわれています。ここからは、その理由を具体的に解説していきます。
教員の心身の健康が生徒の健康や学習に影響する
教員が忙しさのあまり余裕がなくなってしまった場合、生徒の心身状態は不安定になりやすく、学校を欠席せざる負えない状況になる可能性があります。教員が欠席することで、本来進められるはずの授業がストップしてしまったり、単元が終わらなかったりと、生徒の学習に影響が出るかもしれません。生徒の学習を進めるためにも、教員のウェルビーイング向上は大切といえます。
教員の労働環境整備が教育現場全体を発展させる
学校は、教員が働くことの幸せを感じながら、たとえ苦しいことがあっても耐えられるような、安心できる職場をつくることが大切です。たとえば「心理的安全性のつくりかた」の著者・石井遼介氏の組織づくりを参考に、心理的安全性を支える以下4つのポイントを全職員で共有するのも1つの手です。
・話しやすさ
・助け合いの気持ち
・挑戦
・新奇歓迎
労働環境を整備することで、教育現場全体を発展させられ、教員のウェルビーイング向上につながるでしょう。
教員がワークライフバランスを保てる環境の整備が人材確保・定着につながる
教員がウェルビーイングを高めると、ワークライフバランスを保ちやすくなるでしょう。心身が健康であると、仕事へ対する取り組みや困難に対しての対処も前向きになるため、困難に直面したときに「退職」といった選択をせずに済みます。このように自身の力で乗り越えられる教員が増えれば、人材確保や教員の定着にもつながるでしょう。
教員のウェルビーイングの高め方
生徒だけではなく、教員自身のウェルビーイング向上も大切だと考えられています。ここからは教員のウェルビーイングの高め方を5つ紹介します。
ストレスマネジメント
教育現場でさまざまなストレスの要因に直面した際に、対処する方法やテクニックを身に付けておくことが大切です。たとえば、適度な運動・睡眠・バランスの良い食事など、自由に使える時間の確保が重要です。教員がウェルビーイングを維持することで、ストレスに対する抵抗力が向上し、生徒に対する教育にも良い影響を与えてくれるでしょう。
健康管理
少しでも興味があることにチャレンジしようという気持ちが、ウェルビーイングを高めるために役立ちます。たとえば、体力づくりで自転車通勤をしてみるのも良いでしょう。教員自身の健康管理をしながら、生徒のウェルビーイングを考える指標として活用するのもおすすめです。
ワークライフバランスの改善
働き方改革により残業時間が減少することで、ワークライフバランスが改善できるでしょう。ワークライフバランスが整うことにより自由な時間が増えるため、趣味などに没頭する事が出来ます。新しい分野の勉強を始めたり、教科の専門知識を深める事もできます。自身を高めることでウェルビーイングの向上に役立つでしょう。
教育現場の環境改善
たとえば退職理由の1つに職場の人間関係がありますが、人間関係でのトラブルはストレスの原因につながります。退職を考えているときに、向き合ってくれる職場の仲間や、信頼できる教員の存在によって、教員を続ける選択をしたという例が多くあります。このように、教育現場の環境が改善される事でウェルビーイングの向上が期待できるでしょう。
教員間のコミュニケーションの促進
良い人間関係は、ウェルビーイングを高めてくれます。感謝の気持ちを持ったり信頼したりすることで人間関係が深まれば、教員間のコミュニケーションが活発になるとともに良い人間関係を築けるでしょう。
まとめ
教育現場では、生徒のウェルビーイングを高めるために、まずは教員のウェルビーイングを高めることが重要と考えられています。そのため、教員自身が心身ともに健康な状態を持続できるように、本記事で紹介したウェルビーイング向上が重要な理由や高め方をよく理解し、これからの教育にお役立てください。