義務教育終了段階で、生徒が実生活のあらゆる場面で必要とされる知識をどのくらい身についているのか測定するPISA調査。PISAにおける読解力の定義や国の取り組みについて、不明点を持つ教員も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、PISAにおける読解力の測定方法や読解力が低下している原因・改善策を解説していきます。読解力がどのように変化しているのか日本の現状について理解を深め、生徒にとってより効果的な指導を行うためにぜひ参考にしてください。
PISAで分かる読解力とは
PISA(OECD生徒の学習到達度調査)で分かる読解力とはどのようなものでしょうか。まずはPISAの概要や読解力、測定する読解力の要素を具体的に解説していきます。
PISA(OECD生徒の学習到達度調査)とは
PISAは経済協力開発機構(Organisation for Economic Cooperation and Development)」の略称であるOECD事業の1つです。教育においても、社会や経済と密接に関連していることから、生徒の将来を見据えた教育政策のあり方を提唱しています。近年では経済のグローバル化に伴い、世界中の教育を共通の基準で比較する必要性が求められるようになりました。その指標を作成するために教育インディケータ事業を実施し、以下3つの分野をもとに調査が行われています。
(1)数学的リテラシー
あらゆる会話の中から数学的に定式化し、物事に対して数学を活用して解釈する能力
(2)科学的リテラシー
科学的に考え、科学に関するさまざまな問題に関与する能力
(3)読解リテラシー
目標達成やあらゆる可能性を広げるために知識を積み重ねて、テキストを利用したり熟考したりして取り組むこと
PISAが定義する読解力
PISAでは、義務教育終了段階の15歳の生徒が自ら決めた目標を達成するためにテキストなどを用いて内容を理解し熟考する能力のことを読解力の定義としています。テキストに書かれた情報を理解するだけではなく十分に解釈・熟考できることや、テキストにもとづいて自分の意見を伝える能力などが求められています。また、内容を理解することに加えて、文章の組み立て方や表現法までも評価の対象となります。その他、文学的な文章や説明文などの連続型テキストだけではなく、図表やグラフなどを用いた非連続型テキストも含み、文章を多角面から判断できる読解力が求められています。
PISAで測定する読解力の要素
PISAで測定するテキストの読解力では、次の3つの要素が必要とされています。教科書や参考書などのテキストに加えて、Webサイトや電子メールなどのデジタルテキストも含まれます。
(1)情報を探し出す能力
テキストの中から必要な情報や関連する文章を探索して選び出す
(2)理解する能力
字句の意味を理解することに加え、情報を統合し論理的に結論付ける
(3)評価し、熟考する能力
テキストの質と信頼性を評価し、内容と形式について熟考することに加えて矛盾を見つけて対処できる
PISA2018では日本の15歳の読解力ランキングが低下
OECDが2018年に実施したPISA2018では、日本の読解力ランキングが低下しています。ここからは読解リテラシー分野の分析結果をもとに、近年の傾向や今後の課題を具体的に解説していきます。
PISA2018の読解リテラシー分野の結果と近年の推移
PISA2018年における分野ごとの調査結果は次の通りです。
OECDの調査によると、日本は数学的リテラシー1位・科学的リテラシー2位と高得点のグループに位置し、世界に誇れる結果であると分かった一方、読解力は11位でした。以下の表から読解力のみ抜粋してみると、2000年に8位、2012年に1位と高い順位を記録していましたが、2018年には11位という結果となり大幅な低下傾向が見受けられます。
特に課題が大きいのは「テキストの解釈」「熟考・評価」「自由記述(論述)」
以下のPISA2018年の調査結果によると、日本の生徒は「テキストの解釈」「熟考・評価」「自由記述(論述)」などが弱点となっていることが分かりました。
「どちらが適切でしょうか」「あなたはどう思いますか」などといった、選択肢を多方面から評価したり選択したりする設問が苦手な傾向にあるようです。国語を中心としつつ、総合的な学習の時間を通して課題の改善に取り組む必要があるでしょう。
PISAで読解力が低下した原因として考えられることは?
PISAで読解力が低下した原因としてどのようなことが考えられるでしょうか。ここでは、生徒の習慣やこれまでの国語教育における課題などの側面から、読解力が低下したといわれる具体的な理由を解説していきます。
子どもの読書量が減っていること
生徒の読書量が減っていることが、読解力の低下の原因として考えられます。以下の表から分析すると、日本の生徒は新聞や雑誌など本の種類にかかわらず、本を読む頻度が減少傾向にあると分かります。
OECD平均と比較すると、読書が好き・趣味は読書といった日本の生徒の割合は多い傾向にあります。漫画本・コミック・フィクションを読む割合も多いようですが、本の種類にかかわらず、よく本を読む生徒の読解力が高いことが分かりました。今後は読書への関わりをこれまで以上に増やしていくことが重要といえるでしょう。
子どもがデジタル形式の読み書きに不慣れであること
読解力の低下は、生徒がデジタル形式の読み書きに不慣れであることも原因と考えられます。生徒たちはパソコンやタブレットなどのデジタル形式を用いて、テキストを深く読み込んで情報をくみ取ることに慣れていなかったり、教育されていなかったりする可能性も少なくないでしょう。今回のPISA調査も画面上で読み書きを行うデジタル形式で行われたため、このような結果になったと分析できます。社会のデジタル化が進む中、今回のような形式の調査にも本来の力を発揮して対応できるよう、これまで以上に慣れておく必要があるでしょう。
従来の国語教育が文学的文章の読解に偏りがちであったこと
読解力が低下傾向にあるもう1つの要因は、これまでの国語教育が文学的文章の読解に偏りがちであったことが考えられます。今後は自分の意見を話したり書いたりする機会を充実させることにより、論理的・説明的な文章を作成する機会を意図的に作ることが効果的でしょう。その他に定期的な読書時間を保ちつつ、文学的な文章だけではなくさまざまな資料を読む機会を増やすことも大切です。
文部科学省が提唱する読解力改善の取り組み
生徒の将来の可能性を広げるために、読解力の改善が必要です。そのため、文部科学省は国語科や総合的な学習の時間などの中で取り組みを行うことを提唱し、学習指導要領の内容はすでに改善が図られています。
文章を「理解・評価」しながら読む力の向上
読解力改善のために、文章を「理解・評価」しながら読む力を向上させる取り組みがあります。読解力を高めるためには、まずは何のために文章を読むのか、その目的を生徒に理解させる指導が必要です。目的に向かい読み進めていく上で、理解することに加えてその文章が信頼できるものなのか、自分と比べてどうかなど、評価しながら読めるように指導していく必要があるでしょう。また、国語の授業だけではなくその他の教科や総合的な学習の時間を通して、学校生活全体で読む力を身に付けていくことが重要です。
文章にもとづいて考えを記述する力の向上
読解力改善の取り組みとして「書くこと」も重要と考えられます。単に文章を読んで理解するだけではなく、文章にもとづいた自分の考えを書くことによって考えを記述する力の向上が期待できます。文章の内容を要約して紹介したり、自分の考えや経験に沿って再構築したりして、文章を書く機会をこれまで以上に増やすことが重要といえるでしょう。特に自由記述が苦手な生徒には、授業の終わりにまとめの時間を作り、自分の考えを短い時間で簡潔に書く練習をしてもらうのも効果的です。そういった練習を日常的に繰り返すことによって「書く力」の向上が期待できるでしょう。
多様な文章や資料に触れる機会や意見を述べる・書く機会の充実
あらゆる文章や資料を読む・自分の意見を述べる・書く機会を充実させることも、読解力改善の取り組みとして挙げられます。「読む」に関しては、朝の読書や定期的に図書室を利用する時間を作るなどして、読書活動を推進しています。その際、文学的文章だけではなく新聞や科学雑誌など幅広いジャンルの本に関心が持てるように、図書室の掲示物や図書新聞を通して紹介するなど、ガイダンスを充実させることが大切です。授業においては、自分の意見を述べたり書いたりする機会を充実させることが重要とされています。自分の経験や考えを叙述することに加え、説明的・論理的な文章に対して自分の意見にもとづいた文章を書く機会を意図的に作ることも大切です。
まとめ
読解力は学校生活における学習に欠かせない力ですが、生徒が社会に出た際の実生活でも重要な力です。さまざまな課題が生じてきた際にどのような方法で向き合い、どのように対処していくか自分で考える必要があるため、生きていくためにも読解力は高めておいた方がよいといえます。多くの生徒の読解力向上のために、授業に工夫を取り入れて読解力の向上を目指した指導を行いましょう。