小学校・中学校に続いて、高校でも観点別評価の実施が始まっています。しかし、観点別評価について十分理解できていない教師の方も多いのではないでしょうか。本記事では、観点別評価の概要や目的、メリット・デメリットについて解説するとともに、観点別評価の具体例を紹介します。本記事を参考に、自身の観点別評価の取り組みに生かしてみてください。
高校で始まった観点別評価とは
すでに観点別評価に取り組んでいる教師の方も多いのではないでしょうか。ここでは改めて観点別評価の概要や導入目的を確認し、今後の取り組みにつなげていきましょう。
観点別評価の概要
観点別評価とは、生徒の学習状況を規定の観点別に評価する方法です。高校では新学習指導要領の施行に伴って、2022年度に導入されました。新学習指導要領で再整理された資質・能力の3つの柱「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」に沿った観点で、生徒の学習状況を評価します。
観点別評価導入の目的
観点別評価導入の目的は、指導と評価の一体化を図るためです。文部科学省は以下2点の教育活動において、学習評価の在り方が重要であると提言しています。
・教師が指導を改善すること
・生徒自身が学習を振り返り、次の学習に向かえるようにすること
学習評価を上記の教育活動につなげるためには、学習評価を充実させることが必要です。ペーパーテストの結果など表面的な評価だけではなく、多角的な評価を行うために新たに評価観点が整理され、観点別評価が導入されました。また、指導と評価は教育活動の向上を図る「カリキュラムマネジメント」の根幹を担っています。
・Plan:指導計画の作成
・Do:指導計画に沿った教育の実施
・Check:生徒の学習状況、指導計画の評価
・Action:授業、指導計画の改善
カリキュラムマネジメントとは上位「PDCA」を回すことを指し、カリキュラムマネジメントを円滑に行う上でも指導と評価の一体化が重要視されています。観点別評価によって指導と評価の一体化を図り、教育活動全体の向上に役立てることが求められているのです。
高校の観点別評価における評価方法
観点別評価では、新学習指導要領で掲げられている資質・能力の3つの柱をもとにした3つの観点で評価が行われます。ここからは、観点別評価の各観点の詳細および評価・評定のつけ方について確認してみましょう。
観点別評価の3観点とは
観点別評価導入に際して、評価観点は「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3つに整理されました。
知識・技能
「知識・技能」の観点では、各教科の学習過程で知識や技能の習得状況を評価します。また、習得した知識・技能をすでにある知識・技能と関連付けられたり、他の学習や生活の中での知識・技能の活用法を理解できていたりすることも評価の対象となります。「知識・技能」を評価するにあたり、ペーパーテストでは単に知識を習得しているかを問う問題に加え、知識を概念的に理解しているかを問う問題をバランス良く盛り込むことが大切です。その他、観察や実験、文章やグラフによる説明・表現など、知識や技能を活用する場面を設けて評価を行います。
思考・判断・表現
「思考・判断・表現」の観点では、各教科で習得した知識や技能を活用して課題解決などを達成するための思考力・判断力・表現力があるかを評価します。「思考・判断・表現」の観点で評価を行うためには、新学習指導要領で重要視されている「主体的・対話的で深い学び」の視点から授業を改善し、生徒が思考・判断・表現できる場面をつくることが必要です。具体的には、レポートの作成・発表、グループディスカッション、作品制作などの活動およびそれらをまとめたポートフォリオを活用して評価します。
主体的に学習に取り組む態度
「主体的に学習に取り組む態度」では、以下2つの側面を評価します。
・知識・技能の獲得や思考力・判断力・表現力の習得に向けて、粘り強く取り組もうとする側面
・粘り強い取り組みの中で、生徒自身が学習を調整しようとする側面
引用元:「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料(高等学校編)「巻頭資料」
「主体的に学習に取り組む態度」の評価は、ノート・レポートの記述、授業中の発言、行動観察の結果、生徒の自己評価・相互評価の状況を見て行います。ノートの取り方や挙手の回数など、性格面・行動面の傾向を評価するものではないことを覚えておきましょう。なお、前提として資質・能力の1つ「学びに向かう力、人間性等」は「主体的に取り組む態度」の観点で評価できる部分と、観点別評価にはなじまない部分があります。なじまない部分に関しては、個人内評価で見取ることが求められます。
観点別評価の評定のつけ方
2022年度の観点別評価の導入に伴い、高校の指導要録では「観点別学習状況」を記入する欄が新たに設けられました。評定は観点別評価をもとにつけられます。観点別評価の各観点は、ABCの3段階で評価されます。
・A:十分満足できる状況
・B:おおむね満足できる状況
・C:努力を要する状況
単元・題材ごとに各観点を上記の3段階で評価し、最も多い記号を学期末や学年末の評価にする方法や、単元・題材ごとでは数値として評価し、学期末・学年末でまとめる際にABCに換算する方法などがあります。評定は、観点別評価の結果を総括して5段階でつけます。評定のつけ方としては、ABCの組み合わせに応じて基準を設けたり、評価の結果を数値化した平均値を評定に換算したりする方法があります。なお、観点別評価のABCのつけ方や評定への換算には決まったルールはありません。あらかじめ各学校で明確な基準を設けておくことが大切です。
観点別評価のメリット
観点別評価の実施は、生徒・教師の双方にメリットをもたらします。ここでは、観点別評価のメリット3つについて解説します。
生徒の理解度を把握しやすい
前述の通り、観点別評価は3つの観点から多角的に生徒の学習状況を評価する方法です。そのため、単元・題材ごとに、どの観点で望ましい学習状況にあるのか、反対にどの観点に苦手や課題を感じているのかということを教師はもちろん、生徒自身も把握できます。たとえば、「ペーパーテストの点数は十分ではないが、グループワークでは積極的に発言できている」生徒の場合、「知能・技能」に苦手を感じ、「思考・判断・表現」の観点は望ましい状況にあるといえます。
授業改善につながるフィードバックが得られる
フィードバックが得られる理由は、生徒の理解度が把握しやすいことと同様です。多角的評価を可能にする観点別評価だからこそ、生徒1人ひとりの達成度や課題点といった指導改善につながるフィードバックが得られます。
評価基準が明確になり、公正性が増す
前述の通り、高校の指導要録には、2022年度から観点別評価の結果が記されるようになりました。評定は観点別評価の結果を基準につけられるものであり、指導要録上で観点別評価の結果を明記することで、生徒および保護者は学習状況と評定との結びつきを把握できるようになります。観点別評価によって全生徒に評定の根拠を示すことで、評定の公平性が増すのです。
観点別評価のデメリット
観点別評価にはあらゆるメリットがある一方、いくつかのデメリットもあります。教師は以下で解説するデメリットもよく把握した上で、観点別評価への取り組みを見直すことが大切です。
評価が複雑になるため、負担が増える
1人の教師が複数クラス・複数学年の生徒を評価する場合、生徒の学習状況を細かく見取る必要がある観点別評価では、教師に大きな負担がかかってしまいます。また、新学習指導要領での教科・科目構成の変更に伴う指導改善やいじめ・不登校の問題への対応など、評価以外の負担も大きく、教師が観点別評価のために日ごろから生徒の学習状況を見取るゆとりがないことも問題として挙げられています。
観点ごとの評価基準に偏りが生じることがある
前述の通り、観点別評価の基準は明確に定められていません。何を基準に評価するのかは各学校の裁量に委ねられています。そのため、あらかじめ評価規準を明らかにし、学校全体で共有していないと、教師ごとで評価規準の偏りが生じてしまいます。偏りが生じれば、評価に対する信頼性も損なわれてしまうでしょう。
観点別評価にもとづいた評定に不公平さが生じることがある
観点別評価を評定に換算する基準に関しても決まりはないため、学校全体で明確な基準を設けなければ、教師によって評定のつけ方が異なる事態が発生してしまいます。たとえば、観点別評価のABCの組み合わせを評定に換算する場合、明確な基準がなければ「ABB」を4と換算する教師と3と換算する教師が出てくるでしょう。基準が明確でないことで評定における公平さは失われ、生徒や保護者に不信感を抱かれる恐れがあります。
観点別評価への現状と課題
指導と評価の一体化を目的とした観点別評価ですが、実際の学校現場では評価が指導や学習の改善につながっているとは言い難い現状にあります。教育情報誌「VIEW next」にて2022年10月に実施されたアンケートの結果では、観点別評価が指導・学習の改善のために機能していないと感じている教師がアンケートモニター全体の6割であることが分かりました。また、同アンケートでは指導と評価がつながっていない理由について、以下のような声が挙がっています。
・観点別評価の意義や目的の理解および教師の意識の転換が進んでいない
・観点別評価を理解する研修や議論の場が設けられていない
・これまでの評定と大きなずれを生まないことが優先され、観点別学習評価に重きが置かれていない
・「主体的に学習に取り組む態度」の評価方法が確立されていない
上記のような声から、観点別評価を「評価のための評価」にとどめないためには、いかに学校ごとで評価を指導・学習の改善に生かす仕組みをつくるかが今後の課題であることが分かっています。
観点別評価の具体例
前述の通り、観点別評価への理解はまだまだ進んでいないのが現状です。そこで、ここでは観点別評価への取り組み例を確認し、具体的なイメージをつかみましょう。
国語の場合
ここでは、高校国語の教科書「現代の国語」での題材「書けない日々」における評価規準の作成例を見てみましょう。
「書けない日々」では、以下のような目標が定められています。
上記目標を踏まえた評価基準の例が以下の通りです。
上記のような評価規準に対して、学校ごとで定めた評価基準をもとにABCの3段階で観点別評価を行います。
引用元:チャート式の数研出版 令和6年度用高校教科書のご案内「国語 シラバス・観点別評価規準例」
数学の場合
ここでは、高校数学の教科書「数学Ⅰ」での「第1節式の計算:2.多項式の加法と減法および乗法(2)」における評価規準の作成例を紹介します。
「第1節式の計算」には、以下のような学習のねらいがあります。
上記のねらいから、以下のような評価規準が作成できます。
上記のような評価規準に対して、学校で定めた評価基準に則ってABCで評価をつけます。
引用元:チャート式の数研出版 令和6年度用高校教科書のご案内「数学 シラバス・観点別評価規準例」
英語の場合
高校英語の教科書「BLUE MARBLE English CommunicationⅠ」での「Lesson1 Friendships in the Digital Age:Part1~3」における評価規準の作成例を見てみましょう。
Part1~3での学習のねらいは以下の通りです。
上記の学習のねらいをもとに、以下のような評価規準が作成できます。
引用元:チャート式の数研出版 令和6年度用高校教科書のご案内「英語 観点別評価規準例」
上記のような評価規準を定め、学校ごとの評価基準に従ってABCの3段階で評価をつけましょう。
まとめ
学習評価を充実させ、指導と評価を一体化するために、2022年度から高校で観点別評価が導入されました。観点別評価の実施によって生徒・教師の両者にメリットがもたらされます。しかし、導入されて間もないこともあり、まだまだ課題があるのも事実です。本記事で解説した内容を参考に、指導・学習の改善に生かせるよう観点別評価に取り組んでいきましょう。
参考:「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料(高等学校編)「巻頭資料」
引用元:チャート式の数研出版 令和6年度用高校教科書のご案内「シラバス・観点別評価規準例」