ニュースでも話題になっている「生成AI」。教育現場での利用も検討されていますが課題が多く、なかなか積極的に利用できない状況でした。しかし、文部科学省が生成AI利用ガイドラインを策定したことで状況が変わりつつあります。本記事では生成AI利用ガイドラインについて、基本的な方針や活用方法を解説します。
教育現場での生成AIの利用について懸念されていること
企業では積極的に生成AIを利用しているところが多くありますが、教育現場ではさまざまな要因から生成AIの利用が懸念されています。教育現場の懸念事項を紹介します。
生徒が自分で考える機会を奪う可能性がある
生成AIは質問に回答することも可能です。しかし、学校の生徒がこの技術を頻繁に利用すると、自分で考える機会が減り、思考力や表現力が低下する危険性があります。思考力と表現力は、目標を達成するための方法を考える力であり、学生時代だけでなく社会人としても必要なスキルで、将来に影響を与えます。したがって、これらの力を身につけることは生きていく上で重要です。そのため、思考力や表現力を育む機会は確保する必要があるでしょう。
著作権侵害の恐れがある
著作権侵害に該当する行為は、生成AIを利用してつくった画像などの公表や、 複製物の販売などが当てはまります。著作権法で利用可能な場合以外では、通常の著作権侵害と同じです。もし教育現場で利用するとなると、著作権侵害の対策を行う必要があります。
AI出力の情報が間違っていることがある
インターネットには出自が不明な情報やフェイクニュースが溢れかえっているため、生成AIがそれらを読み取って出力する恐れがあります。また、最新ではなく過去の情報が出力される可能性があることも懸念点の1つです。
文部科学省が「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を作成
教育現場での生成AI活用はデメリットばかりではなくメリットも多くあります。将来、子どもたちが上手に生成AIと付き合っていくためにも、学校での生成AIの利用を進めていく必要があるでしょう。そこで、国としての一定の考え方を示すため、「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を文部科学省が作成しました。
文部科学省のガイドラインに示された基本的方針とは
文部科学省が策定したガイドラインに記載されている、生成AIに関する基本的な方針を紹介します。
基本的な考え方
文部科学省が定めたガイドラインでは、生成AIに対しての理解をし、学びへの生かし方はもちろん、将来使いこなしていくための力を育てることが重要であると示されています。しかし、生成AIはまだまだ発展途上のツールです。多くのメリットがあるものの、個人情報の流出や著作権侵害など懸念事項がたくさんあります。教育現場で活用する場合、子どもたちの発達段階を考慮して使用を考える必要があるとしています。
結論現段階では「限定的な利⽤から始めることが適切」
個人情報保護やセキュリティなどに注意しながら、生成AIの学習の成果・課題を検証し、今後のために議論を重ねていく必要があります。それだけではなく、教員研修や校務で生成AIを適切に活用するための取り組みを行い、教師のAIリテラシーを高めていくことも重要です。働き方改革が進むだけではなく、指導にも生かされるでしょう。
ガイドラインに沿った利用の一例
ガイドラインに沿った生成AIの利用の例を紹介します。まずは生成AIが出力したものを教材として利用するパターンです。教師が生成AIが出力した答えについて、性質などを生徒に議論させます。生成AIが間違えた回答を出す可能性があることを利用した活用方法です。続いては、グループ活動の議論での活用です。ある程度生徒同士で議論を行い内容をまとめた後、生成AIを使い足りない視点を発見し、議論をさらに深めるきっかけにつながります。このように、使い方によっては生成AIの活用がプラスに働き、生徒の能力を伸ばすことができます。
学校教育で生成AIが活用できる場面・利用が不適切な場面の切り分けは?
どのようなシーンでも生成AIの活用が適切というわけではありません。適切な利用ができる場面とできない場面の一例を紹介します。
生成AIが活用できる場面の例
・生成AIについての社会的論議を生徒たち自身で議論し、議論の過程で素材として活用すること
・英会話の練習相手として利用することで、英語表現をより自然に近づけたり、生徒1人1人に合わせた単語リスト・例文リストの作成に活用する
・生徒自身が適切な生成AI活用方法について考えることを目的とし、自分でつくった文章を生成AIに修正させたものをたたき台とし、推敲を重ねた文章の作成過程を提出させる
あくまで学習目的としての生成AI活用は、生徒自身にとってもプラスに働きます。自分自身で生成AIの活用方法を考えることで、使い方を見直すきっかけにもなるでしょう。
生成AIの利用をしてはならない場面の例
・生成AIについての学習を十分に行わず、情報活用能力の育成ができていない状態で自由に使わせること
・提出するレポートや小論文で生成AIから出力したものを使用し、自分がつくったものとして提出すること
生成AIを含む情報リテラシーについて学習を行わないまま生成AIを利用させることは危険です。さまざまなリスクがあるため、無意識のうちに危険に巻き込まれてしまう可能性があります。それを防ぐためにも、情報リテラシーなどの学習は非常に重要です。
ガイドラインが示す生成AIの校務での活用方法
教育現場だけではなく、校務で生成AIを活用することもガイドラインで定められています。教師の負担が減るような、校務での生成AIの活用方法について解説します。
授業準備への活用
授業準備で、教材のたたき台や模擬授業の相手として生成AIを活用できます。練習問題やテスト問題をつくるためのたたき台にしたり、授業の練習相手として生成AIを活用することが可能です。
行事や部活動での活用
行事・部活動で活用する場合は、行程作成のたたき台として生成AIを利用すると効率良く作業が進みます。例えば、運動会の競技種目案のたたき台や部活の大会・遠征などの経費の概算、定型的な文書のたたき台などに使うことができます。
学校運営のサポート
学校運営で生成AIを活用できる場面は、報告書の作成です。授業時数の調整案を作成するときのたたき台、教員研修資料をつくるときのたたき台、広報用資料や挨拶文、式辞の原稿作成のたたき台をつくる場合の活用ができます。時間のかかる作業だからこそ、生成AIで負担が減らせます。
外部対応のサポート
外部対応のサポートとしては、保護者向けのお知らせの文書をつくるときのたたき台はもちろん、外国籍の保護者に向けた文書の翻訳のたたき台もつくれます。いろいろな国籍の生徒を受け持つ場合、生成AIを活用して効率良く作業を進めていけます。
生成AIの教育現場での活用で注意すること
事前に⽣成AIの性質や適切な使い方について学習を行う
まずは使用前の教育が重要です。生成AIがどのようなものなのか、危険に巻き込まれないためにはどのように使ったらいいのかを学ばなければなりません。それは大人も子どもも関係なく、教師と生徒の両者が学ぶ必要があります。特に教師は教える立場であるため、より深く学び、危険なことを予測できるようにし、その対策を考える必要があるでしょう。
個人情報やプライバシーの保護を確実に行う
もし生成AIに個人情報を入力した場合、その情報を生成AIが学習してしまい、他の内容を出力するときに使われる可能性があります。逆に、自分が生成AIに出力させた内容に、個人情報が含まれていることもあります。生成AIを利用するときは、個人情報はもちろん、プライバシーに関することは入力しないこと、もし個人情報が出力された場合は利用しないことを確認しましょう。生徒に生成AIを使わせる場合は、授業前の確認を忘れずに行いましょう。
扱うときには教育情報セキュリティを守る
教育情報セキュリティポリシーというものがあり、教育現場での情報が流出しないよう、方針や対策などが記載されています。もし生徒の個人情報を生成AIに入力してしまうと、その情報はインターネット中に広がるといっても過言ではありません。個人情報はもちろん、機密情報の入力もしないようにしましょう。
著作権を理解し侵害しないようにする
生成AIでよくあるのが著作権侵害によるトラブルです。生成AIの情報の中には著作権で保護されている情報もあり、それを利用するときには著作権者の許可が必要です。特にコンクールで発表する情報で利用するような場合には、情報源のチェックが必要となるでしょう。私的利用や学校の授業で複製する場合は例外で、著作権者の許可の必要がなく使用できることもあります。
生成AIツールは家庭の経済的負担を考えて選定する
さまざまな企業が生成AIツールを販売しており、教育現場ではどの製品を利用するかを選定する必要も出てくるでしょう。選定の段階で心がけたいのは、家庭の経済負担です。とても良いツールだったとしても、料金が高額で家庭に負担がかかってしまうものを導入することはできません。どの生徒も平等に扱えるよう、家庭の負担を考慮した金額のものを選ぶことも大切です。
生成AIの教育現場での利用に関する今後の国の方針は?
生成AIを教育現場で利用することについて、国はいくつかの方針を固めています。内容としては、生成AIについての正しい知識を得ること、教える立場にある教員の研修を支援すること、生成AIを開発している企業にパイロット的な取り組みの推進やイベントの開催を働きかけること、生成AIが普及していくことを踏まえ、教育の在り方を見直すことなどです。特に生成AIの開発企業への働きかけとして、教育利用の観点からの開発や改善の要請、保護者向けの資料作成など、国と企業が協力すべきポイントがあります。生徒たちが生成AIを適切に使用できるよう、協力していく必要があるでしょう。
まとめ
ニュースでも取り上げられ、利用する企業も増えてきた生成AIは、使い方を間違えると大問題に発展してしまうこともあります。教育現場においてそのような事態を防ぐべく、生徒だけではなく教員も正しい知識を身に付ける必要があります。未来を担う子どもたちだからこそ、生成AIの有意義な使い方を学び、活用できるようサポートしていきましょう。