【最新情報】私立高校無償化とは?制度や注意点を解説

2025/12/08(月)

学校運営・教員

私立高校の無償化は、進路指導にどのような影響を与えるのでしょうか。2025年から高校無償化制度(高等学校等就学支援金制度)が拡充され、公立・私立を問わず支援の内容が変わりました。2026年にはさらに追加の拡充も予定されています。

本記事では、私立高校の無償化制度の最新情報や支援内容を分かりやすく解説します。さらに、自治体独自の支援策や制度利用時の注意点についても解説するので、進路指導の際にぜひ役立ててください。

高校無償化の概要・目的

高校無償化制度は、高校生が経済的な理由で進学を諦めることのないよう、学びの機会を確保するために導入されました。特に、私立高校の授業料負担が軽減されることで、公立・私立を問わず進学の選択肢が広がっています。

ここでは、高校無償化の制度内容や対象条件、導入の背景などを詳しく解説します。

高校無償化とは

高校無償化とは、国が授業料を支援する返還不要の制度です。正式には「高等学校等就学支援金制度」と呼ばれ、日本国内に住む高校生が対象です。国公私立を問わず利用できます。

従来は年収約910万円未満の世帯に限定されていました。しかし2025年度以降は、所得制限が段階的に撤廃されています。支援金は学校が代理で受領し、授業料に直接充てられるため、家庭の経済的負担が実質的に軽減される仕組みです。

2026年度には私立高校の支給上限額も引き上げられる予定です。(※1)

高校無償化が導入された背景と目的

高校無償化制度は、教育機会の均等と家庭の経済的負担軽減を目指して2010年に導入されました。当初は公立高校のみが実質無償化の対象で、私立高校は授業料の一部補助にとどまっていました。背景には、国の調査で「子どもが欲しくても持たない理由」の第1位が「教育費の負担」だったことがあります。

この課題に対応するため、少子化対策の一環として制度の拡充が検討されたのです。その結果、2020年4月から法改正により私立高校向けの支援金額が大幅に増額され、一定の所得基準を満たす家庭では私立高校も実質無償化が実現しています。

なお、同じ考え方から幼児教育(幼稚園・保育所など)も2019年から実質的に無償化されており、教育費の負担軽減策は段階的に拡充されています(※2)。

制度の対象者

制度の対象者は、日本国内の以下の高校など(国立・公立・私立の全てを含む)に在学し、日本国内に住所があることが必須です。

  • 全日制の高等学校
  • 中等教育学校後期課程
  • 定時制の高等学校
  • 特別支援学校高等部
  • 高等専門学校1学年から3学年
  • 専修学校の高等課程と一般課程
  • その他各種学校で国家資格者の養成施設や指定された外国人学校など

制度の対象外となるケース

高等学校等就学支援金制度の対象外となるのは、以下のケースが挙げられます。

高校をすでに卒業

高校をすでに卒業した生徒は制度の対象外です。原則として在学中の生徒を支援対象としています。

3年を超え在学

留年などによる4年目以降の在学は支援金を受けられません。ただし、定時制や通信制は4年を超えた場合に支給の対象外です。

高校などで合計74単位以上を履修済み

74単位以上を履修済みの生徒も対象外です。この単位数は、単位制高校における一般的な卒業要件に相当します。すでに卒業に必要な単位を取得している場合、卒業済みや在学期間の超過と同じ扱いです。この条件に該当すると支援金を受給できません。

科目履修生と聴講生

科目履修生と聴講生も対象外となります。科目履修生と聴講生は、一部の科目を学ぶことが目的であるためです。

高等学校等就学支援金受給資格認定申請書を未提出

申請書を未提出の場合も対象外です。この制度は申請主義を採用しているためです。対象要件を満たしていても、期限までに必要書類を提出しなければ支援金を受給できません。保護者や生徒自身が必ず申請手続きを行う必要があります。

【最新情報】高校無償化はいつからどうなる?


高校無償化の時期などについて、公立高校・私立高校・通信制高校に分けて見ていきましょう。

公立高校:2025年度から所得制限なしで実質無償化に

2025年度から公立高校は所得制限なしで実質無償化されました。高校生等臨時支援金が新設され、高所得世帯も支援対象となったためです。従来は年収約910万円未満の世帯のみが対象でした。

しかし新制度では、全世帯が年額11万8,800円の支援を受けられます。公立高校の授業料は年額11万8,800円のため、実質的に全生徒の授業料負担がゼロになりました。支援金は学校が代理で受領し授業料に充当されるため、家庭の経済的負担が大幅に軽減されています。

私立高校:2026年度から所得制限なしで実質無償化の予定

2026年度から所得制限が撤廃され、支給上限額が45万7,000円に引き上げられます。

現在は年収約590万円未満の世帯に限り、年額39万6,000円を上限に支援されています。新制度では全世帯が私立高校授業料の全国平均相当額まで支援を受けられるため、私立高校を選びやすくなるでしょう。

ただし上限額を超える授業料の学校では差額が家庭負担となるため、事前に各校へ授業料の確認が必要です。(※3)

通信制高校:2025年度から所得制限なしで実質無償化に

私立の通信制では年29万7,000円が上限として設定されています。一方、国公立の通信制では年11万8,800円まで助成されます。通信制は学び方の特性を踏まえ、全日制や定時制とは別の金額体系が適用されている点が特徴です。

この仕組みにより、家庭の経済状況に左右されず学習形態を選べる環境が整いました。多様な教育ニーズへの対応が進んでいます。

高校無償化制度の申込時期と手続き方法

高校無償化制度は、入学後に申請手続きするのが原則です。ここでは、申請時期と手続きについて詳しく紹介します。

入学後に申請手続きするのが原則

高校無償化制度の支援を受けるためには、入学後に必ず申請手続きが必要です。所得条件を満たしていても自動的に支給されることはないため、忘れずに手続きしましょう。
申請方法については入学後に学校から詳しい案内があり、その指示に従って申請書類を提出します。
また、都道府県が独自に実施している就学支援制度もあります。これらは高等学校等就学支援金制度とは別の制度であるため、利用を希望する場合は別途申請が必要です。

【入学年度から3年生までの支給申請の流れ】

毎年7月ごろに世帯の所得情報(課税額)が更新されるため、学校からの案内に従い、改めて収入状況を届け出る必要があります。手続きを行わないと、7月以降の支給が受けられなくなるため注意が必要です。

申請時に準備するもの

高校無償化の申請では、オンライン手続きが原則です。
マイナンバーカードを持っている場合はカード情報を入力するだけで課税情報を取得できるため、書類の提出は不要です。マイナンバーカードを持っていない場合は「通知カード」や「マイナンバー記載の住民票」などで代用できます。
申請に必要なものは、以下の通りです。

  • マイナンバー(親権者全員分)
  • オンライン申請用のIDとパスワード(学校から配布)

東京都など一部の自治体では、スマートフォンやパソコンからのオンライン申請が必須です。

支給開始のタイミングと返金の流れ

申請が受理されると、支給は申請した月から開始されるため、できるだけ早めに手続きを済ませることが重要です。申請後は都道府県の審査が行われ、適用が認められれば支援金の支給が決定します。支援金は学校へ直接振り込まれ、授業料の支払いに充てられます。
すでに家庭で授業料を支払っている場合、学校側から支援金分が返金される仕組みですが、返金の時期は学校ごとに異なります。詳細は各学校に問い合わせて確認となります。

在校中に新たに申請を希望する場合

高校無償化制度は入学直後だけでなく、在学期間中でも申請が可能です。
申請手続きは毎年7月ごろにかけて行われ、家庭の収入状況を証明する書類の提出が求められます。申請時期が近づくと学校から案内が配布されるので、その指示に従って必要書類を提出しましょう。
家庭の経済状況は変化する可能性があるため、在校中でも制度を利用できます。学校から届く案内を見逃さず、速やかに手続きすることが大切です。

オンラインでも申請手続きは可能

オンライン申請するには、学校から配布される専用のIDとパスワードを使って「e-Shien」という専用ポータルサイトにアクセスしてください。サイト上では画面の指示に従って必要情報の入力や、書類をアップロードできるため、来校せずに手続きが完了します。
遠方に住む保護者や多忙な方にとって、オンライン申請はメリットといえるでしょう。申請状況も随時確認できるため、手続きの進行状況を把握しやすいのも特徴です。

都道府県独自に支給額増額や所得制限撤廃の動きも

以下では、大阪府・奈良県・東京都の3つを例に挙げ、自治体独自の個性ある取り組みを紹介します。

大阪府の取り組み

大阪府は、所得制限を撤廃した公立・私立高校の無償化制度を導入しています。2024年度の3年生から段階的に適用を開始し、2025年度は2年と3年生が対象になり、経過措置のため一部は保護者などが負担します。2026年度には全学年で完全無償化となります。

大阪府内・府外の高校に通学する生徒も支給対象です。対象校は順次決定されていくため、大阪府のホームページでご確認ください。

奈良県の取り組み

奈良県では、2024年度から世帯年収910万円未満の家庭を対象に、授業料支援として年間最大63万円(国の就学支援金と県の軽減補助金をあわせて)を上限とする補助を実施しています。

さらに、2026年度からは所得制限を撤廃し、全世帯を対象にこの支援を拡充する方針が発表されました。

また、所得制限の枠外だった世帯、例えば23歳未満の子を複数扶養する家庭などを対象に、県独自で年間最大5万9,400円の軽減補助を順次拡大しています。

東京都の取り組み

東京都の高校無償化への取り組みでは、2024年度から所得制限を撤廃しました。都内の全ての高校生を対象に支援を実施しています。

公立高校については、国の就学支援金制度により実質無償化が継続されています。一方、私立高校では東京都独自の支援策が拡充され、都内私立高校の平均授業料相当額である年間48万4,000円を上限に助成されます。

東京都では家庭の経済状況にかかわらず、生徒が希望する高校を選択できる環境が整備されています。

ただし、就学支援金と授業料軽減助成金は別制度のため、それぞれ申請が必要です。申請時期は主に6月下旬から7月末までですが、通信制課程は10月ごろを予定しています(※4)。

私立高校無償化のメリットとデメリット

私立高校無償化のメリットは、授業料負担が軽減され進学の選択肢が広がる点です。一方、デメリットとして、入学金や設備費など授業料以外の費用が自己負担となるため、経済的負担が完全にゼロにはならないことが挙げられます。以下で詳しく説明します。

私立高校無償化のメリット

私立高校無償化には少子化対策、教育機会の均等、家計負担の軽減、進学選択肢の拡大という4つのメリットがあります。

少子化対策

日本では少子化が深刻な課題となっており、2025年4月時点で年少人口(0~14歳)は総人口の約11.1%にまで減少しています(※5)。

この背景としては、子育てや教育費の経済的負担が大きいことが一因です。高校無償化は、こうした負担を軽減し、子どもを持つことへの不安を和らげる効果が期待されています。
教育費の負担が軽くなることで、子育て世代の経済的な安心感が向上し、出生率の改善や人口減少の抑制につながる可能性があります。

全ての生徒が学べる環境づくり

高校無償化により、経済的な格差を問わず教育機会が保障されています。義務教育である小中学校では公立高校の授業料や教科書が無償でしたが、それ以外の教育段階では家庭の経済状況が進学の障壁となっていました。

特に高校教育は、将来の進路選択に大きく影響するにもかかわらず、経済的理由で進学を断念する生徒が存在していたのです。

高校無償化の導入により、家庭の収入に関係なく、全ての若者が平等に高校教育を受けられる環境が整備されつつあります。

家計の負担軽減

高校無償化制度により、家庭の教育費負担が大幅に軽減されます。

教育関連費用は家計の大きな部分を占めていましたが、この制度によって浮いた金額を住居費や塾・習い事の費用、あるいは将来の大学進学資金へと振り向けることが可能になりました。

ただし、高校無償化は一定の所得制限があるため、全ての家庭が同じ恩恵を受けられるわけではありません。特に世帯収入が高い家庭は対象外となる場合があります。

進学先の選択肢の広がり

一般的に私立高校は進路指導が手厚く、教育施設が充実している学校も多く見られます。進学指導が充実していれば、難関大学や希望する進学先を選びやすくなります。また、部活動や留学プログラムなど特色のある教育を提供している私立高校も多く、個々の目標に合わせた学びが可能です。

国公立・私立のどちらも授業料が実質無償化されれば、経済的な負担を気にせず、より良い教育環境を求めて私立高校を選択しやすくなるでしょう。

私立高校無償化のデメリット

高校無償化制度には、教育機会の平等化というメリットがある一方で、いくつかの課題も浮き彫りになっています。

まず、公立高校の志願者数の減少が挙げられます。大阪府や東京都では、私立高校の無償化に伴い、公立高校の定員割れや応募倍率の低下が見られました。

例えば、東京都の2025年2月の都立高校入試では、全日制の平均応募倍率が1.29倍と過去最低を記録しています(※6)。

また、私立高校の授業料値上げの懸念もあります。無償化により、学校側が授業料を引き上げる可能性や、結果として支援金の増額につながる恐れがあるでしょう。

さらに、教育の質の低下や学校間格差の拡大といった潜在的なリスクも指摘されています。

無償化が私立学校に与える影響


無償化が私立学校に与える影響として以下が挙げられます。

  • 中学受験の過熱
  • 学力幅の拡大

中学受験の過熱

私立校志願者の増加により、中学受験が過熱傾向にあります。高校段階での競争激化を懸念し、中高一貫校を選ぶ家庭が増えているためです。

合格への難易度が上がることで、保護者は小学校低学年から準備を開始する傾向が見られます。進学塾への費用は多額で、経済的余裕の有無が受験機会に直結する状況が生まれています。

生徒指導の現場では授業料支援の拡充が、別の経済格差を生み出している点を認識しておく必要があるでしょう。

学力幅の拡大

私立校への入学者層が広がることで、生徒の学力幅が拡大する傾向が見られます。経済的障壁の低下により、従来は選択肢になかった層も入学するためです。

これまで私立校は比較的均等な学力を持つ生徒で構成されていました。しかし支援制度の拡充により、さまざまな学力レベルの生徒が集まるようになっています。授業運営や進路指導において、個々の習熟度に応じた対応がより重要になってきています。

教員側には多様な学力層への指導スキルが求められる状況です。個別最適化された学習支援の体制整備が課題となっています。

私立高校の費用面で注意しておきたいポイント


私立高校の費用面で注意しておきたいポイントは以下の3つです。

  • 授業料以外の費用は無償化の対象外
  • 授業料以外にかかる費用とは
  • 私立高校進学に向けた家計負担への備え方

授業料以外の費用は無償化の対象外

私立高校無償化は授業料を実質無償化しますが、その他の費用は支援対象外と保護者に伝える必要があります。高等学校等就学支援金制度がカバーするのは、あくまでも授業料のみに限定されているからです。

そのため、「無償化」という言葉のイメージだけで判断しないように伝えましょう。進路指導では入学から卒業までの総費用を把握し、計画的に準備を進めるようアドバイスすることが重要です。

授業料以外にかかる費用とは

高等学校等就学支援金制度は授業料のみを対象としています。それ以外の教育関連費用については、各家庭での負担が必要です。

入学金や施設設備費、教科書代、制服代、修学旅行費などが該当します。加えて受験料、寄付金、PTA会費などが発生するケースもあるでしょう。特に私立校では年間で数十万円規模になることも珍しくありません。

生徒への進路指導では、授業料以外の費用負担についても保護者への説明が必要です。

私立高校進学に向けた家計負担への備え方

私立高校進学に向けた家計負担への備え方には、早めの資金計画と情報収集が必要です。まず志望校の詳細な費用を確認し、授業料以外にも入学金や施設費、教材費などの負担があることを把握します。

次に、各自治体が実施する独自の支援制度を利用しましょう。加えて、教育ローンの検討や家計の見直しも効果的です。これらの対策を行うことで、家計の負担を軽減し、安心して私立高校進学を目指せるでしょう。

授業料以外の負担を補うための支援制度


私立高校無償化後も発生する家計負担に備えるため、授業料以外の費用を支援する制度の活用を案内しましょう。具体的には、「高校生等奨学給付金制度」の活用を紹介します。

この制度の対象は、生活保護世帯や住民税の所得割が非課税の世帯です。返済不要の給付金によって、授業料以外の教育費負担を大幅に軽減できます。自治体によって内容が異なるため、最新の支給要件を調べて生徒や保護者に情報提供しましょう。

私立高校無償化制度を利用するときの注意点

ここでは、無償化制度を利用する際の注意点を見ていきましょう。

初年度の授業料は一時的に自己負担になる場合がある

無償化制度においては、学校を設置した都道府県や学校法人などが、生徒本人に代わって支援金を受け取ります。支援金は授業料に充当されるため、保護者または生徒自身が直接受け取るわけではありません。特に入学初年度の授業料と支援金の差額については、保護者または生徒自身が一時的に自己負担しなければならない可能性があります。

また、先に授業料を全額徴収後に後から差額を還付する方法を採用している学校もあるので、還付時期については学校への確認が必要です。

通信制高校の授業料は対象だがサポート校は制度の対象外

通信制高校の授業料は、就学支援金制度の対象です。ただし、通信制高校と別にサポート校に通う費用は支援金制度の対象ではないことに注意しなければなりません。

サポート校は、添削課題に取り組む場合のサポートなどを行う施設です。サポート校には法令上の根拠がなく、高校無償化の対象などに含まれないためです。

まとめ

2025年から高校無償化制度が拡充され、支援の対象や内容が大きく変わっています。これにより、公立・私立問わず高校進学の選択肢が広がり、家庭の経済的負担も軽減される見込みです。

高校の無償化が進むことで、進路選択の幅が広がり、進学先を決める際のポイントも変わってくるでしょう。制度の詳細や適用条件を正しく理解し、将来の進学計画に役立ててください。

※1:文部科学省「高等学校等就学支援金手続きリーフレット」
※2:ベネッセ「高校無償化」
※3:文部科学省「三党合意に基づくいわゆる⾼校無償化に関する論点の⼤枠整理」
※4:東京都「所得制限なく私立高校等の授業料支援が受けられます」
※5:総務省統計局「人口推計2025年(令和7年)4月報」
※6・7:NHK「高校授業料無償化の内容は?」

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