私立高校の無償化は、進路指導にどのような影響を与えるのでしょうか。2025年から高校無償化制度(高等学校等就学支援金制度)が拡充され、公立・私立を問わず支援の内容が変わります。
本記事では、私立高校の無償化制度の概要や実質的に無料となる世帯収入の目安などを解説します。さらに、自治体独自の支援策や制度利用時の注意点についても解説するので、進路指導の際にぜひ役立ててください。
高校無償化の概要・目的
高校無償化制度は、高校生が経済的な理由で進学を諦めることのないよう、学びの機会を確保するために導入されました。特に、私立高校の授業料負担が軽減されることで、公立・私立を問わず進学の選択肢が広がっています。
ここでは、高校無償化の制度内容や対象条件、導入の背景などを詳しく解説します。
高校無償化とは
「高校無償化」とは、経済的な理由で進学を諦めることのないよう導入された「高等学校等就学支援金制度」のことです(※1)。
この制度では、一定の所得基準を満たす家庭の高校生に対して授業料が支給されます。国公私立を問わず、高等学校や特別支援学校高等部、高等専門学校、専修学校高等課程などに通う生徒が対象ですが、世帯年収が基準額を超えると支給されません。
高校無償化は授業料のみを対象としており、授業料以外の教育費は「高校生等奨学給付金」制度で支援を受けられます。
多くの都道府県では独自に対象範囲を拡大したり、支給額を増額したりする支援策を実施しています。
高校無償化が導入された背景と目的
高校無償化制度は、教育機会の均等と家庭の経済的負担軽減を目指して2010年に導入されました。
当初は公立高校のみが実質無償化の対象で、私立高校は授業料の一部補助にとどまっていました。背景には、国の調査で「子どもが欲しくても持たない理由」の第1位が「教育費の負担」だったことがあります。
この課題に対応するため、少子化対策の一環として制度の拡充が検討されたのです。その結果、2020年4月から法改正により私立高校向けの支援金額が大幅に増額され、一定の所得基準を満たす家庭では私立高校も実質無償化が実現しています。
なお、同じ考え方から幼児教育(幼稚園・保育所など)も2019年から実質的に無償化されており、教育費の負担軽減策は段階的に拡充されています(※2)。
制度の対象者
制度の対象者は、日本国内の以下の高校など(国立・公立・私立の全てを含む)に在学し、日本国内に住所があることが必須です。
- 全日制の高等学校
- 中等教育学校後期課程
- 定時制の高等学校
- 特別支援学校高等部
- 高等専門学校1学年から3学年
- 専修学校の高等課程と一般課程
- その他各種学校で国家資格者の養成施設や指定された外国人学校など
制度の対象にならない方は下記の通りです。
- 専攻科および別科
- 高校などをすでに卒業
- 3年を超え在学
- 定時制と通信制で4年を超え在学
- 科目履修生と聴講生
- 一定基準を超える収入がある世帯
受給資格の目安
受給資格を満たしているかどうかは、以下の計算式を用いることで判断できます。
【算定式】
市町村民税の課税標準額×6%-市町村民税の調整控除の額
(※政令指定都市では調整控除の額に4分の3を乗じて算出)
計算結果が30万4,200円未満の場合、基準額(11万8,800円)の支給対象者となります。また、計算結果が15万4,500円未満であれば、私立高校の授業料が実質無償化(最大39万6,000円)の対象者です。
以下は、支援対象になる世帯年収の目安です。
・全日制の私立高校の場合の支給額です。
・両親の働き方は給与所得以外の収入はなく、共働きでは両親の収入は同額として計算しています。
あくまで参考の目安であるため、申請に当たっては学校または都道府県に問い合わせて確認する必要があります。
高校無償化制度の申込時期と手続き方法
高校無償化制度は、入学後に申請手続きするのが原則です。ここでは、申請時期と手続きについて詳しく紹介します。
入学後に申請手続きするのが原則
高校無償化制度の支援を受けるためには、入学後に必ず申請手続きが必要です。所得条件を満たしていても自動的に支給されることはないため、忘れずに手続きしましょう。
申請方法については入学後に学校から詳しい案内があり、その指示に従って申請書類を提出します。
また、都道府県が独自に実施している就学支援制度もあります。これらは高等学校等就学支援金制度とは別の制度であるため、利用を希望する場合は別途申請が必要です。
【入学年度から3年生までの支給申請の流れ】
毎年7月ごろに世帯の所得情報(課税額)が更新されるため、学校からの案内に従い、改めて収入状況を届け出る必要があります。手続きを行わないと、7月以降の支給が受けられなくなるため注意が必要です。
申請時に準備するもの
高校無償化の申請では、オンライン手続きが原則です。
マイナンバーカードを持っている場合はカード情報を入力するだけで課税情報を取得できるため、書類の提出は不要です。マイナンバーカードを持っていない場合は「通知カード」や「マイナンバー記載の住民票」などで代用できます。
申請に必要なものは、以下の通りです。
- マイナンバー(親権者全員分)
- オンライン申請用のIDとパスワード(学校から配布)
東京都など一部の自治体では、スマートフォンやパソコンからのオンライン申請が必須です。
支給開始のタイミングと返金の流れ
申請が受理されると、支給は申請した月から開始されるため、できるだけ早めに手続きを済ませることが重要です。申請後は都道府県の審査が行われ、適用が認められれば支援金の支給が決定します。支援金は学校へ直接振り込まれ、授業料の支払いに充てられます。
すでに家庭で授業料を支払っている場合、学校側から支援金分が返金される仕組みですが、返金の時期は学校ごとに異なります。詳細は各学校に問い合わせて確認しましょう。
在校中に新たに申請を希望する場合
高校無償化制度は入学直後だけでなく、在学期間中でも申請が可能です。
申請手続きは毎年7月ごろにかけて行われ、家庭の収入状況を証明する書類の提出が求められます。申請時期が近づくと学校から案内が配布されるので、その指示に従って必要書類を提出しましょう。
家庭の経済状況は変化する可能性があるため、在校中でも制度を利用できます。学校から届く案内を見逃さず、速やかに手続きすることが大切です。
オンラインでも申請手続きは可能
オンライン申請するには、学校から配布される専用のIDとパスワードを使って「e-Shien」という専用ポータルサイトにアクセスしてください。サイト上では画面の指示に従って必要情報の入力や、書類をアップロードできるため、来校せずに手続きが完了します。
遠方に住む保護者や多忙な方にとって、オンライン申請はメリットといえるでしょう。申請状況も随時確認できるため、手続きの進行状況を把握しやすいのも特徴です。
都道府県独自に支給額増額や所得制限撤廃の動きも
以下では、大阪府・奈良県・東京都の3つを例に挙げ、自治体独自の個性ある取り組みを紹介します。
大阪府の取り組み
大阪府の高校無償化では、府独自の制度に取り組んでいます。公立・私立を問わず、所得や子どもの人数にも関係なく授業料の負担がなくなります。
府外の高校などへ通学する場合でも、授業料の無償化の対象です。私立は「就学支援推進校」に指定された高校などに限られます。
大阪府の無償化の進行状況は、以下の通りです。
- 2024年度:高校3年生が対象
- 2025年度:高校2年と3年生が対象
- 2026年度~:全学年が対象
大阪府の高校無償化は段階的に実施され、2026年度から全学年が対象です(※3)。
奈良県の取り組み
奈良県では、2024年度から世帯年収910万円未満とする所得制限を設けつつ、63万円を上限に公費負担しています(年間生徒1人当たりの支援額)。
所得制限の世帯年収910万円以上でも、23歳未満の子を3人以上扶養している場合には県が独自で5万9,400円を上限に支援を開始しました。
公立高校では「授業料免除制度」、私立高校には「授業料等軽減補助金」があります。
また、授業料以外のサポートを目的とした「高校生等奨学給付金」の併用が可能です。教育費のサポートを必要とする方には、貸与型の「高等学校等奨学金」などもあります。
東京都の取り組み
東京都の高校無償化への取り組みでは、2024年度から所得制限を撤廃しました。都内の全ての高校生を対象に支援を実施しています。
公立高校については、国の就学支援金制度により実質無償化が継続されています。一方、私立高校では東京都独自の支援策が拡充され、都内私立高校の平均授業料相当額である年間48万4,000円を上限に助成されます。
東京都では家庭の経済状況にかかわらず、生徒が希望する高校を選択できる環境が整いました。
ただし、就学支援金と授業料軽減助成金は別制度のため、それぞれ申請が必要です。申請時期は主に6月下旬から7月末までですが、通信制課程は10月ごろを予定しています(※4)。
私立高校無償化のメリットとデメリット
私立高校無償化のメリットは、授業料負担が軽減され進学の選択肢が広がる点です。一方、デメリットとして、入学金や設備費など授業料以外の費用が自己負担となるため、経済的負担が完全にゼロにはならないことが挙げられます。以下で詳しく説明します。
私立高校無償化のメリット
私立高校無償化には少子化対策、教育機会の均等、家計負担の軽減、進学選択肢の拡大という4つのメリットがあります。
少子化対策
日本では少子化が深刻な課題となっており、2024年10月時点で年少人口(0~14歳)は総人口の約11.2%にまで減少しています(※5)。
この背景としては、子育てや教育費の経済的負担が大きいことが一因です。高校無償化は、こうした負担を軽減し、子どもを持つことへの不安を和らげる効果が期待されています。
教育費の負担が軽くなることで、子育て世代の経済的な安心感が向上し、出生率の改善や人口減少の抑制につながる可能性があります。
全ての生徒が学べる環境づくり
高校無償化により、経済的な格差を問わず教育機会が保障されています。義務教育である小中学校では公立校の授業料や教科書が無償でしたが、それ以外の教育段階では家庭の経済状況が進学の障壁となっていました。
特に高校教育は、将来の進路選択に大きく影響するにもかかわらず、経済的理由で進学を断念する生徒が存在していたのです。
高校無償化の導入により、家庭の収入に関係なく、全ての若者が平等に高校教育を受けられる環境が整備されつつあります。
家計の負担軽減
高校無償化制度により、家庭の教育費負担が大幅に軽減されます。
教育関連費用は家計の大きな部分を占めていましたが、この制度によって浮いた金額を住居費や塾・習い事の費用、あるいは将来の大学進学資金へと振り向けることが可能になりました。
ただし、高校無償化は一定の所得制限があるため、全ての家庭が同じ恩恵を受けられるわけではありません。特に世帯収入が高い家庭は対象外となる場合があります。
進学先の選択肢の広がり
一般的に私立高校は進路指導が手厚く、教育施設が充実している学校も多く見られます。進学指導が充実していれば、難関大学や希望する進学先を選びやすくなります。また、部活動や留学プログラムなど特色のある教育を提供している私立高校も多く、個々の目標に合わせた学びが可能です。
国公立・私立のどちらも授業料が実質無償化されれば、経済的な負担を気にせず、より良い教育環境を求めて私立高校を選択しやすくなるでしょう。
私立高校無償化のデメリット
高校無償化制度には、教育機会の平等化というメリットがある一方で、いくつかの課題も浮き彫りになっています。
まず、公立高校の志願者数の減少が挙げられます。大阪府や東京都では、私立高校の無償化に伴い、公立高校の定員割れや応募倍率の低下が見られました。
例えば、東京都の2025年2月の都立高校入試では、全日制の平均応募倍率が1.29倍と過去最低を記録しています(※6)。
また、私立高校の授業料値上げの懸念もあります。無償化により、学校側が授業料を引き上げる可能性や、結果として支援金の増額につながる恐れがあるでしょう。
さらに、教育の質の低下や学校間格差の拡大といった潜在的なリスクも指摘されています。
私立高校無償化制度を利用するときの注意点
助成対象を中心に、利用に当たっての3つの注意点を見ていきましょう。
助成の対象は授業料のみ
高校無償化制度は、教育の機会均等を目指す重要な施策ですが、その対象は授業料に限定されています。
2025年度から拡充される新制度では、所得制限が撤廃され、公立・私立を問わず年間11万8,800円を上限に支援金が給付されます。
ただし、この支援金は授業料にのみ充当されるため、他の教育関連費用は自己負担です。
次の費用が別途必要です。
- 入学金
- 教材費用
- 制服代金
- 部活動費用
- 設備費(私立高校の場合)
上記の費用は学校によって異なり、私立高校では高額になる場合があります。高校進学を検討する際は、授業料以外の費用も含めた総額を計算してみましょう。
無償化制度は教育費負担の軽減につながりますが、完全な教育費用総額の無料化ではないことを理解し、適切な準備が必要です。
初年度の授業料は一時的に自己負担になる場合がある
無償化制度においては、学校を設置した都道府県や学校法人などが、生徒本人に代わって支援金を受け取ります。支援金は授業料に充当されるため、保護者または生徒自身が直接受け取るわけではありません。特に入学初年度の授業料と支援金の差額については、保護者または生徒自身が一時的に自己負担しなければならない可能性があります。また、先に授業料を全額徴収後に後から差額を還付する方法を採用している学校もあるので、還付時期については学校への確認が必要です。
通信制高校のサポート校は制度の対象外
通信制高校の授業料は、就学支援金制度の対象です。ただし、サポート校に通う費用は支援金制度の対象ではないことに注意しなければなりません。サポート校は、添削課題に取り組む場合のサポートなどを行う施設です。サポート校には法令上の根拠がなく、高校無償化の対象などに含まれないためです。
2025年から拡充される高校無償化の新制度とは
高校授業料無償化制度が、2025年4月から大幅に拡充されます。新制度では、公立・私立を問わず年間11万8,800円の就学支援金での所得制限が撤廃され、公立高校が実質的に無償化されることになりました。
同時に、低中所得世帯向けの「奨学給付金」による教材費支援や、工業・農業などの専門高校向けの施設整備支援も強化されます。
2026年4月からは、私立高校対象の就学支援金加算額についても所得制限が撤廃され、上限額が全国平均授業料である45万7,000円に引き上げられる点が明確に規定されました(※7)。
多くの家庭では教育費負担が大幅に軽減されます。新制度は2026年度予算編成過程で最終決定され、段階的に実現される予定です。
まとめ
2025年から高校無償化制度が拡充され、支援の対象や内容が大きく変わります。これにより、公立・私立問わず高校進学の選択肢が広がり、家庭の経済的負担も軽減される見込みです。
高校の無償化が進むことで、進路選択の幅が広がり、進学先を決める際のポイントも変わってくるでしょう。制度の詳細や適用条件を正しく理解し、将来の進学計画に役立ててください。
※1:文部科学省「高等学校等就学支援金手続きリーフレット」
※2:ベネッセ「高校無償化」
※3:大阪府「高校授業料無償化制度が変わります!!」
※4:東京都「所得制限なく私立高校等の授業料支援が受けられます」
※5:総務省統計局「人口推計2024年(令和6年)10月確定値」
※6・7:NHK「高校授業料無償化の内容は?」