生成AIの学校教育での活用事例は?授業や校務での活用方法を紹介

2024/04/17(水)

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生成AIが学校教育ではどのようなことに適しているのか疑問に思う教員の方もいるのではないでしょうか。本記事では、生成AIを授業や学習教材に取り入れた3つの活用事例を解説します。併せて、校務における活用の可能性と業務効率化の事例についても紹介します。生成AIの特性を理解した上で活用すれば教育効果も期待できるので、ぜひ最後までご覧ください。

生成AIとは?

生成AIはGenerative AI(ジェネレーティブAI)とも呼ばれ、AIが学習したデータをさらに自らが活用することで、オリジナルのデータを学習して生成するAIです。ChatGPTも、生成AIの機械学習のモデルの1つです。以下では、生成AIにできることと、文部科学省が示した生成AIの教育利用の考え方について説明します。

生成AIでできること

従来のAIは、与えられたデータから適切な回答を見つけることが主な強みでした。しかし、生成AIは自ら学習し、新たな情報を生み出すことが可能です。生成AIができることには、次のようなものがあります。

・会議音声の文字起こしで議事録作成ができる→職員会議で活用
・文章の要約が可能→会議資料作成や学校内のメールを作成
・キャッチコピーなどのアイデア出しが可能
・画像を生成可能→チラシで活用

生成AIは大量の情報を高速に処理し、効率的な業務を実現するのに役立ちます。

文部科学省に示された⽣成AIの教育利⽤への考え方

文部科学省は、2023年7月に「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を策定しました。その中で、以下のような考え方が示されています。
【適切でないと考えられる例】

・生徒の情報活用能力が十分でない段階での使用
・生成AIを使用した成果物をレポートやコンクール作品として提出すること
・生徒の独創性を生かしたい詩の創作や音楽・美術などの表現活動で安易に使わせること

【活用が考えられる例】
※生成AIの性質およびメリット・デメリットを理解していることが前提

・生成AIを使用したことによる誤りを教師が教材として使用し、生徒に性質や限界を気付かせる
・グループのアイデアや考えをまとめる途中で、生徒同士で議論した上で不足している視点を見つけるために活用させる
・英会話を行う相手にしたり、英会話表現を改善する手段として活用させてみる
・高度なプログラミングを生成AIを使用して行う(発展的な学習段階の場合のみ)など

基本的には校務での適切な利用をすることで教師の働き方改革にもつなげていくことと、併せて教師のAIリテラシー向上を目指すとしています。

生成AIの授業や学習教材への活用事例

生成AIでは、教育現場で生徒一人ひとりに合わせた学習が可能です。以下では、積極的に生成AIを授業に取り入れた3つの活用事例を紹介します。

高校英語科の授業での活用事例

長崎県長崎北高校では、2023年5月から生成AIを英語の授業に取り入れています。英語のスピーチ原稿作成に、生成AIを使用しました。生徒が考えて入力した英語をChatGPTに添削してもらうと、生徒の書いたものより正確な英語文が生成されます。ChatGPTによる英文が難しく、理解できない生徒もいるほどです。生徒が書いた文章をChatGPTに添削してもらうことで、改善していくべきヒントをもらっています。教師によると、生成AIに対して「質問を投げかけることで、自分の望んでいる答えに伴走しながらAIを使いこなす人材の育成が大切」とのことです。

高等情報科の授業での活用事例

東京都和光学園和光高等学校では、情報科の授業で毎年9月の防災月間に防災知識を深めることで大地震に備える授業を行っています。2023年の高校1年生の取り組みとして、起きていない地震を予測して被害を執筆する「被災ジャーナル」を画像生成AIの利用によって、生徒一人ひとりが制作を行いました。従来から同校では防災教育に力を入れており、帰宅が困難なときのための徒歩での帰宅ルートのシミュレーションをするなど、災害を自分のことと捉えて学習させています。指導に当たった教師は、「もし自分ならどんな行動をとるかを考え、さらに踏み込んで学習してもらいたい」と話していました。

高校情報科の教材での活用事例

NPO法人みんなのコードは、高校情報科で使用するプログラミング授業教材を提供しています。Pythonという言語をプログラミングする機能を有し、生徒は自由にプログラムを組むことが可能です。さらに、OpenAIが開発したGPT-3.5を使った議事録作成などを自動化する「AIアシスト」機能も盛り込まれています。生徒が入力したプログラムに対して発生したエラーは、日本語での説明が可能で解決策としてのヒントを与えています。NPO法人みんなのコードによると「授業を見るとついていけない生徒も複数いて、先生が1人に対応する間は他の生徒は待つだけになってしまう」ということです。解決策として、情報科の授業のスムーズな進行のために文章生成速度の速いGPT-3.5を選択しました。NPO法人みんなのコードは、教師に向けて下記のとおり依頼しています。

・「AIアシスト」機能を使用するときは生徒に適切な説明をする

・生成AIを使った教材の利用について保護者からの同意を得る

上記2点が「AIアシスト」機能を有効にする条件です。教師からは、今後は生成AIの出した結果についてのファクトチェックなどについての教育が重要になるとの意見が出ています。

生成AIの校務への活用可能性と業務効率化の事例

生成AIは活用可能な範囲が広く、主に下記の分野での活用が見込まれています。

・授業準備や小テストなどの教材作成支援

・学校運営業務への支援

・学校行事や部活動への支援

・保護者などの外部対応への支援

以下では校務の中でも最も期待されている、アンケート結果の分析や取りまとめ、研修企画・授業計画づくりでの活用についての事例を2つ紹介します。

事例①アンケート結果の分析・まとめの負担を軽減

愛知県春日井市立出川小学校では、生成AIを記述式アンケートの取りまとめ用として利活用しています。研究授業の終了後に、教頭から教師へ行ったアンケートの回答内容を全て生成AIに入力します。生成AIに依頼するのは、結果を要約することとキーワードの抽出です。一般的には、記述式アンケートを取りまとめて分析を実施するには数日間かかります。生成AIに依頼することで時間が短縮され、研究授業の翌日には振り返りができるようになりました。研修効果の向上につながるとともに、アンケートの回数を増加させることができました。

事例②研修企画・授業計画作りでの活用

愛知県春日井市立高森台中学校では、研修企画や授業計画づくりを生成AIを用いて行っています。高森台中学校が生成AIを用いる上で、大切にしているのは以下の3点です。
・立場を明確にする
・対話を繰り返し行う
・できる限り具体的に聞く

生成AIと対話を繰り返すことで、具体的な内容を示してもらえるようになりました。自身の立場が管理職の教頭であること、研修時間は約50分で内容の濃い研修にすること、約50分の内訳を順序を示して具体的に聞くことです。これにより、生成AIから効果的な提案がされるようになります。授業計画づくりに当たっても、研修企画づくりと同様に自身の立場が教頭であることと、授業時間の内訳を考えてもらいながら生成AIとの対話をしています。

文部科学省「リーディングDXスクール事業」で事例の共有が期待される

2023年、文部科学省は全国47都道府県と政令指定都市に「リーディングDXスクール」約200校を指定しました。文部科学省が主導する新たな試みによって「効果的な教育実践の創出」と事例の共有が進むことが期待されています。以下では、リーディングDXスクール事業の概要と生成AIパイロット校で実施された取り組みを紹介します。

リーディングDXスクール事業とは

リーディングDXスクール事業とは、生徒1人ひとりへの最適で主体的な学習と協働的な学習を一体化する事業です。校務DXの実施によって、全国に優れた取り組み事例を展開するための事業でもあります。GIGAスクール構想によって、生徒1人1台のGIGA端末が整備されました。GIGA端末の仕様に含まれる、ソフトウエアとクラウド環境を利活用することで実施可能な事業です。リーディングDXスクールに指定された、各学校の取り組み事例を共有できる特設サイトが開設済みです。また、各学校のホームページでもさまざまな取り組み事例が紹介されています。

生成AIパイロット校での具体的な取り組み

生成AIパイロット校とは、全国的な展開でなくパイロット的な取り組みを推進するものです。教育活動と校務での生成AIの活用について紹介します。

教育活動での生成AIの活用

教育活動において、生成AIを活用する際の考え方は下記のとおりです。

・生成AIの性質やメリット・デメリットをあらかじめ学習する
・AIには人格や自我がないことを認識する
・生成AIに教育活動全てを任せない

生成AIの適正な活用方法によっては生徒1人ひとりの学習履歴に応じて学習方法を提案できるため、教師の負担軽減につながる可能性があります。

【①茨城県つくば市立みどりの学園義務教育学校の取り組み例】
茨城県つくば市立みどりの学園義務教育学校では、ICT活用授業を実施しています。中学社会科の地理の授業では、マイクロソフトの生成AIを生徒が使用中です。近畿地方の市町村の課題と解決策を考えてニュース原稿にする課題授業には、生成AI「Bingチャット」が使用されました。授業では少子高齢化や過疎化の課題について生成AIを用いて調査を行うことで、調査結果をクラス全体で共有しています。授業中には、日本マイクロソフトのスタッフが「難しい回答だったら中学生でも分かるようにとAIに言ってください」などと授業を見て回りました。さらに、回答の出典も確認するよう生徒にアドバイスをしています。教師によると生成AIの回答だけでなく、教科書に立ち戻って生成AIが回答した情報が間違っていないかのファクトチェックをしながら原稿の作成を進める予定です。

その他校務DX

生成AIではないですが、校務にICTを利用することによって、校務の効率化や職員会議などの負担軽減が可能です。効率化によって生まれた時間は、生徒の教育のために使うことができます。

【①北海道旭川市緑が丘中学校の活用例】
北海道旭川市緑が丘中学校では、教職員を対象にして下記のように校務DXを積極的に実践しています。

・進路指導をGoogleサイト内で行う
・Googleカレンダーを使って生徒と保護者および学校間で日程調整し共有する
・日報をGoogleスプレッドシートを使用して作成
・マイクロソフトのFormsで三者面談や参観日の日程調整を行う

【②栃木県矢板市立片岡中学校の活用例】
栃木県矢板市立片岡中学校では、2023年9月から「健康観察カード」をタブレット端末を使用して行っています。従来は、毎朝7時30分から学年主任などが健康観察カードを生徒から直接受け取っていました。9月からはタブレットを使用して心と体の健康観察を行い、その日の体調や朝食を済ませたかどうか、さらに心の状態についても天気のイラストで選択するなどの取り組みを行っています。今後も改善しつつ、心と体の健康観察を行う予定です。生徒の様子は担任教師が一覧形式で把握できるようにしています。

まとめ

生成AIの積極的な活用は、煩雑な事務の軽減が期待されるため教師の働き方改革にもつながる可能性が高いといえるでしょう。生成AIの活用事例を確認し、AIリテラシーのさらなる向上のために本記事を参考にしていただければ幸いです。

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