探究学習を担当する教員が感じる課題や問題点とは?解決策の例も解説

2024/05/28(火)

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探究学習

現在の高校教育において、受験対策のための通常の授業以外に行われる探究学習が注目を集めています。すでにカリキュラムに含まれている高校も多くありますが、1つのテーマに向かって授業を進める中で、探究学習に課題を感じている教員もいるのではないでしょうか。

本記事では、探究学習を行う理由と課題が発生する原因、併せてその解決方法を紹介します。

探究学習とは

探究学習の「探究」には、物事の本質を「理解する」「解明する」という意味が含まれています。1つの物事に対し、本質を理解・解明するだけではなく、自分自身の在り方・生き方を考えつつ、課題を見つけ、解決するための力を育てることが探究学習の本来の目的です。

探究学習で育てたいのは、主体性・実行力・課題設定をして解決する能力です。これは社会の変化が激しい現代を生きるために必要な能力であり、特に大学生が行う就活の中で企業が学生に求めるものでもあることから、探究学習は2022年に必修化されました。

一昔前は行わなかった学習も、現在では社会で活躍するための力として必要とされています。それだけ社会も変化し、求める力が変わってきているということです。

探究学習とは

カンコー学生服が2023年6月に実施した「探究学習」についての調査によると、対象となった全国の中学・高校の教員1,400名のうち、中学校では73%、高校では63.9%の教員が「探究学習は生徒にとって必要」だと回答しています。

「探究学習」は2022年度から新しく必修化されたばかりのため前例がなく、授業の目標や展開方法、教材は学校側に委ねられているのが現状です。そのため、探究学習について「意味がない」「必要と感じない」という意見や、探究学習を負担に感じている教員がいることも確かです。
どのような点で探究学習は意味がないと考えられているのか、また必要だとする理由はどのような点なのか、現場の先生たちの声を紹介します。

探究学習の必要性に疑問を持たれる理由

探究学習は意味がない、必要だと思わないと考えられている理由として、教師の負担感があまりに大きすぎる点が挙げられます。前述の調査でも「準備が大変」「時間の余裕がない」「教材作りが難しい」という理由が挙げられていました。
また生徒に関わることとして「調べ学習で終わってしまう生徒が多い」「受験に関係しない」「興味を持たない生徒が多い」という課題を挙げる教員もいました。
その他にも「学校によって取り組みに差がある」「生徒の意欲につながる課題設定が難しい」などの声があり、探究学習の在り方について課題を感じている先生がいるようです。

探究学習はなぜ必要?

探究学習が必要な理由としては、以下のような意見が挙げられています。

・将来のことを多角的に学べ、キャリア発達に必要なことだから
・教科にとらわれない勉強や考え方が身に付く時間だから
・自分でより深く考える機会が増えるから
・クラスだけではなく、学年全体や学校全体で動ける機会だから
・入試で重視されはじめているから

新学習指導要領によると、高校での探究学習は「生徒がより良い社会を実現できるように、それに必要な能力や資質を育成する」ことをねらいとしています。そのため、これからの社会について考える機会は生徒にとって必要であると感じている先生が多いといえます。

探究学習に課題を感じる教員は多い


高校生が将来社会で働くために必要な力を伸ばすことが探究学習の目的ですが、課題を感じている教員は多くいます。
認定NPO法人カタリバの調査によると、実際に高校で探究学習を担当する教員の95%以上が課題を感じているという結果が出ています。特に、異動などで赴任して1年目の学校では、100%の教員が課題を感じていることがわかりました。

具体的には、授業案やカリキュラムの設計が甘いこと、ただ調べ学習をしているだけになってしまっている、探究学習に対しての理解が薄いというような課題があり、その教員がどれだけ探究学習に携わってきたかと、学校が探究学習を始めてどれくらい経つのかで課題の内容が大きく違います。
探究学習への温度差は、学校ごと・教員ごとに大きく異なるのが実態です。経験値を高め、より良い探究学習を進めていくことが課題です。

探究学習に取り組む現場が抱える課題や問題点


探究学習に課題を感じる教員は多く、学校が今までにどれだけ探究学習を行ってきたのかがポイントとなっています。将来、生徒が社会に出たときのための力を養える探究学習ですが、ここではどのような課題やデメリットがあるのかを具体的に紹介します。

指導計画の作成と計画通りに実行するのが難しい

どの授業でも、教員は生徒に指導する前に必ず指導計画を立てます。しかし、探究学習の場合は教科書や問題集を使って進めるものではなく、進め方がイレギュラーであるため、十分な指導計画の作成が困難です。
それに加え、計画を立てたとしてもその通りに進めるのが難しいのが実態です。必修化されて全国で本格的に探究学習がスタートしたのが2022年度からということもあり、事例が少ないのも大きな原因です。
特に、企業などとの外部連携を行っていると、学校の都合のみではスケジュールを組めないため、可変性・柔軟性の確保も大きな課題といえるでしょう。

生徒の主体性を引き出しにくい

大学受験のための勉強がメインになっている進学校の場合、探究学習のような生徒の主体性を引き出すための活動に、教師も生徒も慣れていないことが多い傾向があります。
解き方を教え、それに沿って問題集を解くことが通常であるため、自分自身でテーマを探して問題を発見したり、課題を設定したりすることが困難です。

それだけではなく、探究学習は受験科目にないことから大学受験には関係がないと思っている生徒が多く、なかなか身が入らない、どうしても受け身になりがちという現状があります。この考えは生徒だけではなく、教員にも当てはまってきます。

指導や評価の難易度が高い

テストの点や授業態度で評価を行うのは簡単ですが、探究学習の評価は生徒の学習状況を1人ひとり確認し、評価しなくてはなりません。しかも、学習内容が生徒ごとに異なるため、より評価が難しくなってきます。
評価だけではなく、指導の難易度も大きく上がります。探究学習のために課題を見つけさせながら、体験活動などの協働的な場面を作らなくてはならないこともあります。

生徒1人ひとりに合わせて指導方法を変えたり、時には教員自身の専門外のことについてのアドバイスをしなければならない必要も出てくるため、難易度が上がってしまうのは課題といえるでしょう。

企業・地域との連携が困難

学校内だけで終わらせるのではなく、地域の企業や専門家などと連携することも探究学習において重要です。学校外の人との交流はもちろん、実際に地域や企業が抱えている課題を発見・探究することで、生きた課題を考えたり、専門家の生の声を反映したりできるようになります。

ただ、このような学習を行うためには連携してくれるところを探したり、どのような立ち位置で協力してもらうのかを決めたりしなければなりません。時間もかかることから、現実的でなないと考えている学校が多いのが実情です。

周りの先生を巻き込むのが難しい

探究学習の目標やテーマを決めるのは、主に探究学習の担当教員が行います。
担当になった教員は探究学習についての深い知識や目的を持って授業に臨むことができますが、教師間で連携がうまくいっていない場合、なかなか同じ目的意識を持って授業を行うのが難しくなります。結果、クラス間や学年間で取り組みに差が生まれ、生徒の意識にも差が生じやすくなるでしょう。

探究学習は教科を越えた横断的・総合的な学習を目標としているため、教師間の連携は必須です。普段の授業とどう連動させるか、多くの教師がいかに関わるかが課題といえます。

教員の負担が大きい

多くの課題がありますが、実際にこれらの課題を解決しながら探究学習を行うことに教員の負担が大きすぎるという実態があります。それ以前の問題で、教員が働きすぎであることが社会問題になっており、それに探究学習の指導が加わったことでより負担が大きくなっています。

探究学習を行うためには、指導計画はもちろん、資料集めなどの手間もかかります。探究学習が必修化する前の2021年時点で、教員は平均して毎日約3時間近くの残業をしています。探究学習のための時間や手間をしっかりと確保できていないのが現状です。

探究学習にはメリットも多くある


探究学習は生徒が自ら問いを立て、情報を集めて分析したり自分の考えをまとめたりする活動であるため、生徒にとって多くのメリットがあります。ここでは探究学習におけるメリットをまとめました。

生徒の学力を向上できる

高等学校学習指導要領解説(総合的な探究の時間編)の中で、総合的な学習の時間で探究のプロセスを意識して取り組んでいる児童生徒ほど、全国学力・学習状況調査における各教科の正答率が高い傾向にあると述べられています。
加えて、学習到達度調査(PISA)における好成績につながっていることや、総合的な学習の時間が学習に対する姿勢の改善に大きく貢献するものとして 国際的に高く評価されていることにも言及しています。

生徒のモチベーションにつながる

探究学習は自ら問いを立てて課題解決に取り組む活動のため、生徒が学ぶ楽しさを感じ、自分の成長に気付けるという良さがあります。深く学ぶ姿勢を身に付けることで、普段の学習に対するモチベーションにもつながりやすく、向上心や自己肯定感を養うこともできます。

また、目標やゴールを決めた活動は生徒のやる気を引き出し、探究学習を通じて思考力や判断力など「生きる力」を育成することにもつながっています。

生徒の進路に生かせる

探究学習の目的の1つとして、学習内容を人生や社会の在り方と結び付けて理解し、生涯にわたって能動的に学び続けられる資質を養うことが挙げられます。そのため探究学習は、キャリア教育や進路指導と連携して行われることもあり、生徒の進路に生かせる活動といえます。

実際、ビジネスをテーマに探究学習を行っている学校や、自身のキャリアプランを立てさせる活動を探究学習と連携して行っている学校もあるようです。

探究学習の課題の解決策は?


多くの課題はあるものの、中には課題を解決しつつ探究学習を行っている学校もあります。ここでは、課題に対してどのような解決方法があるのかを紹介します。

中長期的な視野で計画を立てる

探究学習は、1回や2回の授業時間で終了するものではありません。探究学習を行う期間の中で、どのようにして探究レベルをアップさせていくかを踏まえた中長期的な計画を立てましょう。探究学習の期間の中で、生徒がどれだけ成長したかどうかを見ることができるよう、ステップごとに目標を設定するのも良い方法です。

また計画を立てるときには、探究学習を行うときに用いるグループワーク・グループディスカッション・プレゼンテーションを視野に入れ、クラスが慣れているのかどうかという現状を踏まえましょう。現実的な目標なら、生徒は達成できる喜びを感じられます。

探究学習の意義を生徒自身に伝える

探究学習は直接受験には関係しないため、大学受験を控えている学生にとって無意味なものと考えている生徒や教員も多いかもしれません。
しかし、探究学習は今すぐに成果が出なくても、大学生や社会人になってから役に立つ力です。それだけではなく、入試の多様性が進んでいることから、探究学習の成果を大学受験に生かせる大学も増えています。

大学受験を考えていなくても、探究学習を自分ごととして捉えられていない生徒もいます。教員は生徒に対し探究学習の意義を具体的に説明したり、最初のうちは課題の難易度を低めに設定したりといった工夫をし、生徒が探究学習に取り組みたくなる環境をつくることも大切です。

指導ではなくファシリテート・サポート役になる

生徒が探究学習を進めていると、教員側がどうしても疑問点に答えなくてはならない場面が出てきます。この場合、質問へ回答するために教員が情報を調べる手間が発生してしまい、負担が大きく増える原因になります。
そこで行いたいのが、ファシリテート・サポートです。ファシリテート・サポートとは、話を聞いて課題を進めるためのサポートや助言を行う役回りのことです。生徒に違う視点での捉え方をアドバイスし、自分の力で疑問点を解決し、学習を前に進められるようにします。

ファシリテート・サポートにより、教員を頼りにしなくても探究を主体的に進められるようになります。教員が生徒の疑問点について調べる負担がなくなるため、探究学習に取り入れたい方法です。

ルーブリックなどの評価方法を取り入れる

生徒により探究学習の課題は大きく異なるため、評価方法もそれぞれに合わせる必要があります。適切な評価を行うために取り入れたいのが、ルーブリック評価やパフォーマンス評価などの方法です。
ルーブリック評価は、いくつかある能力・資質を段階的に評価する方法です。パフォーマンス評価とは、成果物だけではなく調べている段階での調査資料なども含めた総合的な評価を行う方法です。
数学や英語のように、評価方法がはっきりしているわけではないため、類似事例での評価方法を調べておくのも大切です。

学校内に外部連携担当を設ける

探究学習をより深く行うためには、地元企業や地域などとの外部連携が重要です。一般的には、提携先を探してコンタクトを取り、目指すゴールを共有してPDCAを回していきます。しかし、実際には教員の負担が大きいため、なかなか実現しない・できない学校も多くあります。
そのために、学校内に外部連携担当者を設置し、連携の作業や外部とのやりとりを任せます。校内の教員だけでは難しい場合には、外部連携を支援するコーディネーターに依頼することもできます。

専門のコーディネーターなら外部企業などとのネットワークがあるため、生徒の探究活動に合った企業を紹介してもらうことも可能です。教員の負担が減るだけではなく、生徒もより探究学習を進めやすくなる方法といえるでしょう。

文部科学省が提供する教材などを活用する

生徒が探究学習を進めるとき、教員は生徒のために教材や資料を集める必要があります。しかし課題の通り、教員には教材をつくったり資料を集める余裕がないのが現状です。
そこで活用したいのが、文部科学省が提供している教材です。STEAMライブラリーというサイトには、文部科学省提供の探究学習の教材が無料で配布されています。紙の教材はもちろん、動画教材や、指導計画・評価項目が詳細に記載されている教材もあります。

すでに用意されている教材を使用することで、教材づくりの手間が大きく削減できます。探究学習の最初の時期は生徒も教員も慣れていないため、時間を有効活用するためにも利用してみてはいかがでしょうか。

失敗しない探究学習の進め方


探究学習を成功させるには「課題の設定」「情報収集」「情報の分析」「まとめ」と大きく分けて4つのポイントがあります。それぞれ見ていきましょう。

1.学習課題を設定する

学習課題の設定とは、探究学習で探究したい「テーマ」「課題」「問い」を設定することです。探究学習で重要なのは、この学習課題を生徒自身が設定するところにあります。
しかしながら、生徒にとっても教師にとっても、この学習課題の設定が一番難しいといえます。最初の課題設定を誤ると、生徒の深い学びにつながらない、モチベーションが上がらないなどの失敗につながってしまうでしょう。

学習課題の設定を失敗しないためには、生徒に漠然とテーマを決めさせるのではなく、まずは地域・医療・福祉・教育・歴史・ビジネス・防災・環境など「分野(範囲)」を絞らせることが大切です。次に、その分野の中での課題や自分の問いを決めさせます。教師はその課題や問いが「深い学び」につながるかどうかの援助をすると良いでしょう。

課題の設定方法については、文部科学省の事例集を活用することもおすすめです。

2.情報収集を行う

情報の収集方法を精査することも、探究学習を失敗しないために大切なことです。多くの生徒はインターネットで情報を集めようとしますが、その情報の正確性や信ぴょう性を考えさせることが重要といえます。

また、情報を集めることだけに終始してしまう生徒もいるため、見通しを持って情報を集める指導が必要です。図書館の利用、現地調査、インタビュー、講演会など、さまざまな情報収集の場を用意することも探究学習を成功させる鍵となるでしょう。

3.集めた情報を整理・分析する

情報をただ集めただけでは課題解決につながりません。集めた情報を正しく整理し、分析することは、探究学習の目標である「思考」「判断力」を養うために大切なことです。

まずは、事実とそうでないことについてしっかりと区別をつけさせましょう。そしてその事実について「分析」「課題の提示」をさせます。例えば「地域について調べた結果、〇〇ということがわかった」という事実に対して「なぜ〇〇なのか」「どうしたら〇〇になるか」という分析や仮説、課題を考えさせます。

こうした流れを作り、足りない情報をさらに調べさせたり、説得力のある資料を作らせたりすれば、まとめに向けて十分な準備ができるでしょう。

4.まとめ・発表・フィードバックを行う

探究学習のまとめの方法としてはさまざまあり、下記を組み合わせている学校も多くあります。

・レポートや論文にまとめる
・新聞を作成する
・ポスターにする
・プレゼンテーションをする
・ディスカッションをする
・報告会を開く

まとめたものを発表することも大切ですが、より重要なのは活動自体を振り返る「フィードバック」を行うことです。文部科学省によると、探究学習とは「生徒自ら課題を見つけ、情報を収集・整理・分析しながら、問題の解決に取り組み、意見をまとめ・表現することを繰り返していく学習活動」とあります。

つまり探究学習は一度の探究活動で終わるのではなく、活動と修正を繰り返しながら「もっと学びたい」という生徒の探究心を育むものだといえます。

また探究学習で陥りがちなのは、生徒がただ「楽しかった」という感想を持つことや「すごく勉強になった」と漠然とした感想で終わってしまうことです。「どのようなことについて、どのように考えられるようになったのか」など、具体的に自分の学びについて考えさせたり人からの評価を受け取ったりすることで、ぼんやりとしていた学びの内容をより具体的に感じられるようになるでしょう。

まとめ


探究学習は、ただテーマを設定して研究するだけではありません。社会人になったときに必要となる力を身に付け、より活躍できる人材を育てることが目的とされています。受験勉強には影響がほとんどないため、一部の生徒・教員にとっては必要のないものと思われがちですが、受験のその先を見据えると重要な学習といえます。

探究学習を進める上で、学校ごとに抱えている課題は異なります。まずは課題を洗い出し、解決のためには何ができるのか、対応は可能なのかを検討しましょう。

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