自己調整学習は、効果的な学習を実現する手法として、近年注目を集めています。この学習方法は、生徒が自らの学習プロセスを主体的にコントロールし、目標達成に向けて計画的に取り組む姿勢を育むものです。
本記事では、教育現場での実践に役立つ具体例や、効果的な指導のポイントを詳しく解説します。高校教員の方に向けた、生徒の自己調整学習を成功させるための要素を体系的に紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
自己調整学習とは?
自己調整学習は、生徒が自らの学習過程を主体的にコントロールしていく教育手法です。従来の受け身中心の学習スタイルとは異なり、目標設定から学習方法の選択、そして振り返りまで、生徒自身が積極的に関与していきます。
この学習方法の特徴は、生徒が「なぜ学ぶのか」という目的意識を持ち「どのように学ぶか」を自分で決定できる点です。例えば、定期テストに向けた学習では、苦手分野の把握から学習計画の立案、効果的な学習方法の選択まで、生徒が自律的に進めていきます。
急速に変化する現代社会において、生涯にわたって自ら学び続ける力は不可欠です。自己調整学習は、まさにこの「学び方を学ぶ」という21世紀型スキルの育成に直結しています。
自己調整学習が注目されている理由
自己調整学習が教育現場で注目を集めている背景には、社会環境の急速な変化があります。AIやデジタル技術の進展により、従来の知識習得型の学習だけでは不十分になってきているのが現状です。
この状況に対応するため、文部科学省は新学習指導要領で「主体的・対話的で深い学び」を重視しています。特にGIGAスクール構想の進展により、生徒1人に1台の端末が整備され、生徒が自分のペースで学習を進められる環境が整いました。
こうした変化は、生徒1人ひとりが自らの学習をコントロールする自己調整学習の重要性を一層高めています。知識を効率的に習得するだけでなく、生涯にわたって自律的に学び続ける力を育成することが、現代の教育に求められています。
自己調整学習の土台
自己調整学習を成功させるためには、3つの要素が重要な土台となります。それは「動機付け」「学習方略」「メタ認知」です。
これらの要素がバランス良く機能することで、生徒は自律的な学習者として成長できます。以下で、3つの要素について詳しく見ていきましょう。
① 動機付け
動機付けとしては、主に「外発的動機付け」と「内発的動機付け」の2つの種類が知られています。
外発的動機付けは、「良い成績を取りたい」「褒められたい」といった外部からの刺激によるものです。一方、内発的動機付けは、学ぶこと自体への興味や、知識を得る喜びから生まれる自発的な意欲です。
一般的に、内発的動機付けのほうが学習効果は高いとされますが、外発的動機付けも学習の出発点として重要な役割を果たします。
教員には、外発的な動機付けを足がかりに、徐々に内発的な動機付けへと導いていく指導が求められています。
② 学習方略
学習方略を大きく分けると、知識の習得や理解を深めるための「認知的方略」と、学習意欲を維持し困難を乗り越えるための「情意的方略」の2つです。
例えば、認知的方略には要点をまとめる、図式化する、問題を解きながら理解を深めるなどの方法があります。一方、情意的方略には、目標を小さく区切る、達成感を味わうための振り返りをするといった工夫が含まれます。
ただし、全ての生徒に同じ方略が効果的とは限りません。教員は、さまざまな学習方略を紹介しつつ、生徒1人ひとりが自分に適した方法を見つけ出せるよう支援することが重要です。
最終的には、生徒自身が自分の学習スタイルを確立していくことが目指すべき姿といえるでしょう。
③ メタ認知
メタ認知は、自分の学習プロセスを客観的に観察・理解し、コントロールする認知能力です。具体的には「モニタリング」と「コントロール」の2つの段階で機能します。
モニタリングでは、例えば「この問題は理解できているだろうか」「この学習方法は効果的だろうか」といった形で、自分の学習状況を観察します。コントロールは、モニタリングの結果にもとづいて、学習方法の修正や改善をする段階です。
メタ認知により、クラスメートがどのように学習に取り組んでいるかを知ることで自分の学習方法を相対化し、より適切な学習方法を見いだせます。メタ認知は自己調整学習の要となる能力です。
自己調整学習のプロセス
自己調整学習のプロセスは、まず目標設定と計画を立案し、次にその計画に沿って学習を進めます。最後に学習成果を振り返って次につなげます。以下で、この循環的なプロセスを見ていきましょう。
①計画を立てる
自己調整学習における計画立案は、従来の学習内容の見通しを立てる段階から、さらに一歩進んだものです。具体的には、学習計画表を活用し、単元の課題、個人の目標、学習方法、そして学習時間までを詳細に設定します。
この過程で重要なのは、生徒自身が計画を立てることです。ただし、全ての生徒がすぐに適切な計画を立てられるわけではありません。教員は、生徒が作成した計画を確認し、必要に応じて調整を手伝います。
繰り返し計画を立て、調整する経験を通じて、生徒は徐々に自立的に学習を管理する力を身に付けていきます。これこそが自己調整学習の核心であり、将来の学びにも生きる重要なスキルとなるでしょう。
②計画にもとづいて学習する
計画にもとづいて学習を進める段階では、生徒が自ら立てた目標や方法に沿って学習活動を展開します。この過程で重要なのは、生徒自身が学習の進捗状況を常に意識し、必要に応じて軌道修正することです。
計画・テスト・分析・練習というサイクルを繰り返します。このような取り組みを通じて、生徒は自己制御と自己観察の力を養っていきます。
教師の役割は、生徒の学習過程を見守りつつ、適切なタイミングでサポートすることです。例えば、効率的な学習方法のアドバイスや、時間管理のヒントを提供するなど、生徒の自己調整能力の向上を促す働きかけが求められます。
③ 学習内容を振り返る
自己調整学習における振り返りは、単なる学習内容の確認にとどまりません。むしろ、学習プロセス全体を見据え、自らの学び方を評価することが重要です。
具体的には、目標の達成度を「できた」「できなかった」という観点から分析し、その理由や要因を深く掘り下げます。例えば、目当てと学んだことを記述させ、教員がチェックする方法が効果的です。
重要なのは、振り返りの結果を次の学習に生かすことです。次の授業開始時に前回の振り返りを確認することで、生徒は学習方法の改善点を意識し、より効果的に学習に取り組めるようになるでしょう。
自己調整学習を取り入れるための具体例
自己調整学習を効果的に取り入れるには、生徒の知的好奇心を刺激し、明確な目標設定をサポートすることが重要です。
また、継続可能な学習方法のアドバイス、ICTの活用、そして個々の生徒に合わせた細かなサポートをすることで、自律的な学びを促進します。
知的好奇心を刺激する
生徒の興味を引き出し、学びへの意欲を高めるためには、さまざまな方法があります。
例えば、フィールドワークや実践の場です。生徒に直接的な経験を提供することで教室の中だけでは得られない気づきや目標を見つけることにつながります。
また、本や図鑑、新聞、旅行ガイドブックなどの多様な情報源を教室に用意することで、生徒の自発的な探究を促すことも可能です。
さらに、生徒の疑問に真摯(しんし)に向き合い、即座に答えを与えるのではなくヒントを提供したり、一緒に考えたりすることで生徒自身の思考力を育めるでしょう。
学習の目標や計画が明確になるようサポートする
教員は、生徒が具体的かつ達成可能な目標を立てられるようサポートする必要があります。
例えば、「数学の何ページの問題を全問正解する」といった具体的な目標を設定することで、生徒は学習の方向性を明確に理解し、進捗を自己評価しやすくなります。
目標設定の際は、生徒の能力に合わせた、少しだけ背伸びをすれば手の届く目標を設定することが重要です。簡単過ぎず難し過ぎない、少し頑張れば達成できる目標が、生徒の成長につながります。
継続しやすい学習方法をアドバイスする
継続しやすい学習方法をアドバイスするには、生徒の興味や特性を十分に理解することが重要です。
例えば、歌やイラストを活用した学習が効果的です。視覚的・聴覚的要素を取り入れることで、記憶の定着を促進し、学習を楽しいものにできます。
重要なのは、これらの方法を単に提案するだけでなく、生徒と一緒に最適な学習スタイルを見つけ出すプロセスを大切にすることです。生徒自身が自分に合った方法を選択し、調整していく力を育むことが、自己調整学習の本質であるためです。
ICTを活用する
1人に1台の端末が与えられる環境が整備された現在、生徒たちは学習過程のより詳細な記録と振り返りが可能です。
例えば、動画や写真を使って学習の様子を記録したり、音声メモで気づきを残したりすることで、従来のノート形式では難しかった多角的な振り返りが可能になります。
学習管理システムを導入している高校では、課題の提出状況や学習の進捗を一元管理できます。
教員はICTツールの効果的な使い方を指導し、生徒自身が学習状況を把握しつつ、自律的に学びを進められるよう支援することが大切です。
個々に合わせたサポートを行う
鳥取県の青翔開智中学校・高等学校では、英語検定や数学検定の受検を通じて、生徒が自ら目標を立て、計画を実行し、振り返るサイクルを実践できるよう、独自のサポートツールを開発しています。
このツールには、計画立案、勉強法の提案、振り返りの各段階に対応したページがあり、生徒は自分のペースで自己調整学習を進められます。勉強法のページでは具体的な学習方略が示されており、生徒はこれを参考に自分に合った方法を見つけることが可能です。
まとめ
自己調整学習は、生徒が主体的に学習プロセスを管理し、効果的な学びを実現する教育手法です。この学習法では、動機付け、学習方略、メタ認知の3つの要素を基盤とし、計画、実行、振り返りのサイクルを通じて学習を進めます。
教員の役割は、生徒の知的好奇心を刺激し、明確な目標設定をサポートすることです。また、ICTの活用や個々の生徒に合わせた指導を通じて、生徒の自律的な学習を促進します。
高校教育において、この学習法を取り入れることは、生徒の成長と学習効果の向上に大きく貢献するでしょう。