2024/06/05(水)
生徒が意欲を持って学習活動に取り組み、急速に変化する社会で「生きる力」を身に付けられるようにと文部科学省が推進しているのが「高等学校の魅力化・特色化」です。しかし、中には「魅力化や特色化って何?」「具体的にはどういう取り組みが必要なの?」と疑問を抱いている教職員の方もいるでしょう。
この記事では、高等学校の魅力化・特色化の概要や必要性、具体的な取り組みなどについて解説します。学校の魅力化や特色化について理解を深めたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
高等学校での満足度や学習意欲について
高等学校での満足度や学習意欲は、中学校の段階に比べて低いのが現状です。
文部科学省・厚生労働省が実施した「第16回21世紀出生児縦断調査(平成13年出生児)」では、次の4つ全ての設問で学年が上がるにつれて「とてもそう思う」と回答する割合が低くなっています。
参照:「第16回21世紀出生児縦断調査(平成13年出生児)」|文部科学省・厚生労働省
また、同調査における「学校外での学習時間」に関する設問では、「家や塾で学習を『しない』」と回答する割合が中学1〜3年生に比べて高校1年生で急増しています。
参照:「第16回21世紀出生児縦断調査(平成13年出生児)」|文部科学省・厚生労働省
このように、生徒の満足度・学習意欲の低下は、高等学校における課題の1つといえます。
令和3年に新時代に対応した制度改正が実施
中央教育審議会がまとめた「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して(答申)」および新しい時代の高等学校教育の在り方ワーキンググループの「新しい時代の高等学校教育の在り方ワーキンググループ(審議まとめ)」を受けて実施されたのが、新時代に対応した高等学校教育の制度改正です。
概要
「令和の日本型学校教育」の構築を目指して(答申)
:学校の2020年代を通じて実現を目指す学校教育を「令和の日本型学校教育」とし、その姿である「個別最適な学び」「協働的な学び」の実現に向けた具体的な方策をまとめたもの。
新しい時代の高等学校教育の在り方ワーキンググループ(審議まとめ)
:持続可能な社会を創造する担い手になることを後押しする「生徒を主語にした」高等学校教育を目指し、高等学校での特色や魅力ある教育の実現に向けた方向性を示すもの。
具体的には、「学校教育法施行規則」「高等学校設置基準」「高等学校通信教育規程」などの一部改正が行われました。そして、令和3年の制度改正の目的の1つとされたのが「各高等学校の特色化・魅力化」です。
学校の魅力化・特色化とは? 必要性や背景について
高等学校の魅力化・特色化とは、文字通りそれぞれの学校に独自の魅力や特色を持たせる取り組みのことです。
高等学校の魅力化・特色化の背景には、急速な社会の変化があります。少子化・情報化・グローバル化など近年社会は大きく変化し、これまで以上に子どもたちには困難を乗り越える力や自ら未来を切り開く力が求められています。生徒1人ひとりが社会で自立できる力を育むことが、高等学校の重要課題の1つです。
ところが、一部には高等学校教育段階で学習意欲が持てなかったり学校生活になじめなかったりすることで、中途退学してしまう生徒もいます。そこで、全ての生徒が充実した学校生活を送り、資質や能力を十分に伸ばせる教育を提供するために、各高等学校で魅力化・特色化が進められています。
魅力化・特色化の主な方策について
高等学校の魅力化・特色化の具体的な方策には、次の3つがあります。
・各高等学校の存在意義・社会的役割などの明確化
・各高等学校の入口から出口までの教育活動の指針の策定
・普通科改革
ここでは、各方策の概要について解説します。
各高等学校の存在意義・社会的役割などの明確化
学校に魅力や特色を持たせるために大切なのは、高等学校の存在意義や社会的役割(スクール・ミッション)などを改めて明確にすることです。
これまでの学校教育目標は抽象的で分かりづらかったため、学校内外へ十分に共有されていませんでした。そこで、生徒に身に付けてほしい資質や能力を念頭に置き、生徒の状況や意向・学校の歴史や伝統・地域社会の実情と未来像を踏まえながら目指すべき学校像を明らかにすることが重要です。
また、各校が定めるスクール・ミッションは、中学生の学校選択および在校生の科目選択の検討材料になることが期待されています。
各高等学校の入口から出口までの教育活動の指針の策定
魅力化・特色化に向けては、入学から卒業まで一貫した教育活動の指針(スクール・ポリシー)を定めることも必要です。スクール・ポリシーの策定は育成を目指す資質や能力を明らかにすることに加えて、教育活動を体系的かつ継続的に行っていくことを目的としています。
また、スクール・ポリシーを策定することは、教育活動の改善や重点化すべき教育活動の精選にもつながります。
スクール・ポリシーとして策定するべき方針は、次の3つです。
・育成を目指す資質・能力に関する方針
・教育課程の編成及び実施に関する方針
・入学者の受入れに関する方針
普通科改革
普通科改革とは、「普通教育を主とする学科」として普通科以外の学科を設置可能とするものです。令和4年度より設置が認められるようになった学科は、次の3つです。
【学際領域学科】
SDGs実現への取り組みやSociety5.0社会の中で生じる課題に対応するべく、横断的に最先端の学びに取り組む学科
【地域社会学科】
地域社会の課題や魅力に特化した学びに取り組む学科
【その他普通科】
各高等学校のスクール・ミッションにもとづく学びに取り組む学科
これまでの普通科は、「一斉的」「画一的」といった印象を持たれやすいことが課題でした。高校生の約7割が普通科に通っている現状において、普通科にも魅力や特色を持たせる必要性が出てきたわけです。
普通科改革は生徒が社会の発展に貢献していけるように、多様な学びに触れ、必要な資質や能力を身に付けられる環境を整えることを目的としています。
高等学校における制度改正と3つの方針とは?
令和3年の制度改正を受け、各高等学校には一貫した教育活動の指針(スクール・ポリシー)の策定・公表が求められるようになりました。そしてスクール・ポリシーには、次の3つの方針が含まれます。
・育成を目指す資質・能力に関する方針(グラデュエーション・ポリシー)
・教育課程の編成及び実施に関する方針(カリキュラム・ポリシー)
・入学者の受入れに関する方針(アドミッション・ポリシー)
ここでは、各ポリシーの概要について解説します。
育成を目指す資質・能力に関する方針(グラデュエーション・ポリシー)
育成を目指す資質・能力に関する方針(グラデュエーション・ポリシー)は、各高等学校に求められる社会的役割にもとづき、育成を目指す資質や能力を定めたものです。グラデュエーション・ポリシーは生徒にとっては学校生活の目標の1つに、そして教職員にとっては教育活動の最終的な目標となります。
グラデュエーション・ポリシーは授業改善などに役立てることも想定されているため、ある程度具体性を持たせることが大切です。ただし、グラデュエーション・ポリシーに記載される目標は数値で表されたものではなく、数値化できない部分に着目したものである必要があります。
教育課程の編成及び実施に関する方針(カリキュラム・ポリシー)
教育課程の編成及び実施に関する方針(カリキュラム・ポリシー)は、目標として掲げた資質や能力の育成を達成するための教育課程編成や学習評価を定めたものです。学校全体のカリキュラム・マネジメントの基盤として、年間指導計画をつくったり授業の実施・改善を行ったりすることに役立てられます。
カリキュラム・ポリシーを策定する際は、新学習指導要領で重視されている「社会に開かれた教育課程」「主体的・対話的で深い学び」「教科等横断的な視点に立った資質・能力の育成」を意識することが重要です。
入学者の受入れに関する方針(アドミッション・ポリシー)
入学者の受入れに関する方針(アドミッション・ポリシー)は、入学者に期待される生徒像について定めたものです。アドミッション・ポリシーは、各高等学校の社会的役割に加えて、グラデュエーション・ポリシーやカリキュラム・ポリシーを踏まえて策定します。
アドミッション・ポリシーは入学者の受け入れに関する重要な方針ですが、入学時に生徒に求める資質や能力を厳しく定めてしまわないよう注意しなければなりません。厳格になりすぎると、高い志を持った生徒の進学の可能性を狭めてしまう恐れがあります。
学校の魅力化・特色化に向けて行いたい取り組み
学校の魅力化・特色化を実現するためには、具体的に次の2つの取り組みが必要です。
・特定の分野に特化した教育プログラムの導入
・地域社会との連携を強化
各取り組みについて詳しく見ていきましょう。
特定の分野に特化した教育プログラムの導入
特定の分野に特化した教育プログラムを導入することで「この学校でしか学べない」という価値が生まれ、学校自体に魅力や特色を持たせられます。
例えば、高等学校が属する地域の歴史や文化などを探究する教育プログラムには、その学校ならではの独自性があります。ときには地域住民・行政・企業などとの関わり合いを設け、課題の設定から解決策の考案までを1つの教育プログラムとして実施すれば、新学習指導要領で重要視されている「主体的・対話的で深い学び」にもつながるでしょう。
このように特定分野の教育プログラムを導入することにより、各高等学校の魅力化・特色化が促進されます。
地域社会との連携を強化
地域社会との連携を強化することも、高等学校の魅力化・特色化を実現する上で欠かせない取り組みです。地域社会との連携によってもたらされるメリットには、さまざまなものがあります。
例えば、地域社会と連携しながら学校の存在意義や役割を明確にしていくことで、その地域のニーズに応えた独自の学校像を築けます。また、芸術・スポーツ・職人技術などを学ぶ際は、その分野に長けた地域住民を外部講師として配置することでより専門的な学びの提供が可能です。
前述した地域の歴史や文化などについての探究学習も、地域社会との連携がなければ実現できないでしょう。
このように高等学校の魅力化・特色化には、地域社会との強い連携が欠かせません。
魅力化・特色化を実現している事例
魅力化・特色化に向けた取り組みは、全国の高等学校で行われています。ここでは、魅力化・特色化を実現している事例として、岩手県立大槌高等学校と長崎県立松浦高等学校の取り組みを紹介します。
岩手県立大槌高等学校
岩手県立大槌高等学校は、大槌町と連携して「大海を航る、大槌(ハンマー)を持とう」をコンセプトに「大槌高校魅力化プロジェクト」を立ち上げました。
学校設定教科として「地域みらい学」が新しく設置され、町内でのフィールドワークなどに取り組む学校設定科目「三陸みらい探究」が実施されています。他にも、大槌町をテーマにした学校設定科目が5科目設けられ、教科横断的な教育活動が行われています。
長崎県立松浦高等学校
長崎県立松浦高等学校では、平成29年度から松浦市と協同した「まつナビ」を開始しました。「まつナビ」は、地域課題の解決に向け、調査・考察・発表という流れで取り組む学習プログラムです。令和2年度からは「まつナビ」を進化・深化させた「まつナビ・プロジェクト(MNP)」が実施されています。
また、これまで普通科2学級と商業化1学級で構成されていましたが、令和4年度には新しい普通科として「地域科学科」が設置されました。
まとめ
高等学校の魅力化・特色化は、グローバル化や情報化によって急速に変化する社会の中で、困難を乗り越え自立して生きていくための力を育むための施策です。
学校の存在意義や社会的役割を明確にした上で独自の学びを提供することは、新学習指導要領で重視されている「主体的・対話的で深い学び」につながっていきます。
ぜひこの記事を参考に、高等学校の魅力化・特色化を進めていきましょう。