EdTechとは教育と技術を組み合わせた新しい教育手法や学習環境を指す言葉です。EdTechの導入により、生徒へより興味深く魅力的な学習体験を提供できることが期待されています。本記事では、EdTechの概要や国の取り組みについて詳しく解説します。併せて、導入するメリットやデメリットも紹介するので、教育に関わる方はぜひご一読ください。
EdTechとは|教育×テクノロジー
EdTech(エドテック)とは、教育(Education)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語です。この言葉には広い意味があり、日常的に活用しているソフトウェアやアプリケーションなどに加え、スマートフォンやタブレットなどもEdTechのツールに含まれます。また現在、日本国内で提供されているEdTech関連のサービスには、オンライン英会話サービス・学習記録ツール・自動採点システム・受験アプリなどがあり、広く活用されています。
ICTとの違い
EdTechとICTは混同されがちですが、両者には明確な違いがあります。EdTechは教育とテクノロジーを組み合わせ、より質の高い学びを実現するための概念です。一方、ICTはインターネットや情報端末、コミュニケーションツールといった技術そのものを指します。EdTechには「教育の質を高める」という目的があり、目的達成のためにICTツールが手段として活用されます。例えば、学校にパソコンやタブレットといったICT環境を整備することは、EdTechを導入するための準備段階といえるでしょう。
e-Learningとの違い
e-Learningは、インターネットなどのデジタル媒体を通じて学習するスタイルを指します。企業研修やオンライン授業、通信教育などが代表例です。一方、EdTechはより広範な概念で、e-Learningを包含しながらも、AIやビッグデータ分析などを活用した個別最適化学習や、教育プロセス全体の革新を目指しています。e-Learningが「コンテンツ配信の手段」であるのに対し、EdTechは「教育そのものを変革する技術的アプローチ」といえるでしょう。
MOOCとの違い
MOOCは「Massive Open Online Course」の略で、大規模な公開オンライン講座を意味します。主に大学などの高等教育機関が提供しており、インターネットを通じて世界中の誰でも無料で受講できるのが特徴です。MOOCは、EdTechという大きな枠組みの中で、特定の教育コンテンツを提供する具体的な形態の1つであるといえるでしょう。EdTechが教育全体の変革を目指す概念であるのに対し、MOOCはその中の「オンラインで質の高い学習機会の提供」という側面に特化したサービスです。
EdTechの6つのカテゴリー
EdTechは幅広い意味を持ち、6つのカテゴリーに分類されています。業界の全体像を理解したり、EdTechを総合的に見渡したりする際に役立ちます。ここからは、カオスマップをもとに6つのカテゴリー別にどのようなサービスがあるのかご紹介します。
①授業支援
授業支援は多岐にわたるため、その中でもカテゴリー分けされています。目的に応じて探究・地理・音楽・英語・プログラミングの中から選択することが可能です。「ジャパンナレッジSchool」は、二大百科事典を軸に中高生向けのサービスを展開する教育プラットフォームの1つです。学習に役立つ辞典・辞書・統計資料・参考書など900冊以上のデータの中から信頼できる情報を24時間いつでも一括検索できるため、まさにオンライン図書館といえるでしょう。
②デジタル教材
デジタル教材は学校・塾・個人・プログラミングに区分され、個人に合わせた教材の選択が可能です。「学研プライムゼミ」では受験指導のプロフェッショナル講師によるオンライン授業が受講できます。「SPTR(スパトレ)」は外国人講師による英語の授業をマンツーマンで行うサービスを提供しています。
③学習支援
探究的な学びを提供する「Inspire High(インスパイアハイ)」では、答えのない問いに取り組み、ICTならではの体験を通して思考力・判断力・表現力を養います。また、学校独自の探究カリキュラムの補助教材としても利用可能なため、生徒の学びを支援するために役立つでしょう。
④学習管理システム
「Classi(クラッシー)」は、成績データ・学習時間などの学びに関する記録を一元管理できる教育プラットフォームです。生徒1人1人の特性に合わせた柔軟な指導や、学習課題に取り組む機会の提供が可能です。学校教育のICT化を多角的にサポートする便利なシステムといえるでしょう。
⑤校務支援
「BLEND(ブレンド)」は、学校運営に欠かせない校務を支援するフルクラウド型のサービスです。欠席連絡・皆勤精勤などを管理したり、成績や学習記録などの情報を管理したりと、日常的に行う業務を手助けします。システムを活用することで、大幅な業務時間の軽減が期待できるでしょう。
⑥業務支援
「みちざね」では、スクール業務管理をサポートしています。出欠管理では、出欠をタブレットで操作したり入退出カードの情報と連携したりと、保護者の不安を取り除くことができるでしょう。また、成績管理ではテストを一元管理し、成績をグラフ化して視覚的に見ることが可能です。このように日常的な業務が軽減されることで、生徒と関わる時間を持てるでしょう。
なぜ今、EdTechが注目されているのか
大きな要因として、2020年に小学校で必修化されたプログラミング教育と、個別最適化された学びを可能にするアダプティブ・ラーニング(適応学習)への移行が挙げられます。これらの変化は、教育の在り方そのものを見直し、テクノロジーを積極的に活用する必要性を高めているといえるでしょう。
2020年に必修化されたプログラミング教育
プログラミング教育は、独立した専門科目ではなく、さまざまな教科の中で「プログラミング的な思考」を育む工夫が凝らされています。子どもたちは、コンピューターやAIの仕組み・考え方を体験的に学ぶ機会が増えました。プログラミング教育の導入には、EdTechが不可欠です。例えば、社会の授業でパソコンやタブレットなどのデジタルツールを活用し、シミュレーションを通じて社会の仕組みを学ぶといった取り組みは、まさにEdTechの実践例といえるでしょう。
アダプティブ・ラーニング(適応学習)による学習スタイルの転換
アダプティブ・ラーニングは、EdTechの進化によって実現した個別最適化学習の代表例です。学習者1人1人の理解度や進捗に応じて教材や問題を自動で調整し、「理解→定着→活用」のサイクルを繰り返す仕組みです。例えば、AIが解答履歴や学習データを分析し、苦手分野を重点的に出題する教材が実際に導入されています。こうしたEdTechの活用により、従来の一斉指導では難しかった個別最適な学びが、学校現場でも広がりつつあります。
EdTechの市場規模は拡大傾向にある
野村総合研究所(NRI)の推計では、2016年度のEdTechの市場規模は約1,700億円でしたが、2023年には約3,000億円に達すると予測しました。これは、教育分野におけるテクノロジー活用への期待と需要の高まりを示しています。市場拡大の背景には、国を挙げたEdTech推進の動きがあります。特に大きなきっかけとなったのは、文部科学省が2020年までに全ての小・中学校で1人1台のタブレット端末の導入を目指すという指針(GIGAスクール構想)を発表したことです。さらに、2018年1月には経済産業省が「『未来の教室』とEdTech研究会」を立ち上げ、教育現場でのEdTech活用を積極的に推奨しています。このような国の施策は、公教育の現場だけでなく、企業研修、リカレント教育(学び直し)、さらには個人の生涯学習といった、幅広い分野でのEdTech導入を加速させているのです。EdTechは教育の在り方を根本から変え、多様な学習ニーズに応える形で市場を広げています(※)。
EdTechの導入で解決をめざす教育課題
EdTechの導入によって、教育現場では多くの課題解決が期待されています。主なものとしては、地理的な制約にとらわれずに質の高い教育サービスを提供すること、そしてVRなどの先進技術を用いて学習体験の幅を広げることが挙げられます。
地域に左右されない教育サービスの実現
都市部では、生徒の個性や習熟度に合わせて選べる塾や専門的な学習機会が豊富に存在しますが、地方では生徒へのサポートが不足しがちです。このため、地方に住む子どもたちは、都市部の子どもたちに比べて教育の選択肢が限られてしまうという課題を抱えています。しかし、EdTechを活用することで、オンライン学習システムや遠隔授業を通じて、都市部の質の高い教育コンテンツや人気講師の授業を地方の生徒も自宅から受講できるようになるのです。地理的なハンディキャップが解消され、誰もが平等に質の高い教育を受けられる機会が提供されます。
VRで広がる教育体験領域
EdTechの導入によって解決が目指される課題の1つに、仮想現実のVR(Virtual Reality)技術を活用した教育体験領域の拡大があります。VRの最大の特長は、専用機器を装着することで、まるで現実のような没入感のある疑似体験を、いつでもどこでも何度でも繰り返せる点です。VR技術は現実世界では再現が難しい、あるいは危険を伴うような体験を安全に提供できるため、教育現場での活用が注目されています。このVR技術を、体験型研修や学校現場に導入する動きが見られています。
体験型研修の導入例
VRを活用した体験型研修では、建築現場での高所作業における転落事故の危険性を疑似体験したり、地震や火災などの災害発生時の対応を事前にシミュレーションしたりすることが可能です。また、医療行為や溶接技術のように、実際の訓練に多大な費用や時間を要する分野でも、VRを用いることで効率的に経験を積めます。さらに、VRの360度映像は、機械や機器の立体的な説明、店舗での接客や調理研修、あるいはクレーム発生時の適切な対応を学ぶための実践的なトレーニングとしても活用されています。
学校現場での導入例
EdTechの導入により、学校現場でも多様な学びが実現しています。例えば、歴史的建造物へのバーチャル見学や、通常は見ることのできない人体の構造をVRで学ぶ授業が行われています。また、アポロの乗組員になって月面着陸を体験したり、VR空間で観衆の前で発表・プレゼン練習をしたりすることも可能です。さらに、職業体験や仕事の事前シミュレーションなど、現実では難しい体験もEdTechによって安全かつ効果的に学べるようになっています。
国が推奨するEdTechの取り組み
世界各国に比べてEdTechの普及が遅れている日本。遅れを取り戻すためにも、経済産業省・文部科学省・総務省などからさまざまな取り組みが推進されています。ここからは、各省庁の取り組みを紹介します。
経済産業省「未来の教室プロジェクト」
経済産業省はデジタル技術を活用した新たな教育「未来の教室」の構築に向けて、「学びのSTEAM化」、「学びの個別最適化」、「1人1台パソコン環境」の3つの柱を提言しました。時代の変化とともに、能力観が変化したり新しい教育を実現するEdTech(技術)が登場したりと、1人1人が社会に合わせて未来をつくる人材に育つことが求められるようになりました。将来を担う生徒の能力育成のためにEdTechを活用した教育を目指しています。
文部科学省「GIGAスクール構想」
文部科学省が推進するGIGAスクール構想とは、全国の小中学生1人に1台学習用の端末と高速大容量ネットワークを整備する計画です。生徒1人1人が地域や住環境にとらわれることなく公平かつ確実に資質や能力を育成するために、ICT環境の整備を目指しています。またGIGAスクール構想には、教師の業務を支援するシステムの導入により教師の働き方改革につなげる狙いもあります。
総務省「Society5.0への環境整備」
EdTechの活用により、生徒の学習面や人間関係などの悩みを見逃さずに発見することで、必要に応じた細かな支援ができるでしょう。また教師は、学習指導や生徒指導などの場面でEdTechを使用することで、指導の質を向上させられるとともに負担の軽減も期待できます。Society5.0の超スマート社会に向けて、これらを全ての学校で実現するためのベースとして、EdTech活用が推進されています。
EdTechがもたらす5つのメリット
EdTechを学校教育に導入しうまく活用することで、これまでの学校教育には存在しなかった多くのメリットが期待できます。ここからはEdTechがもたらす4つのメリットを解説します。
デジタルツールの活用による時間・場所・金銭的事情に左右されない学びの実現
これまで住環境などの要因により学習を受けたいのに受けられない生徒も存在していたかもしれません。EdTech導入により教育機会の公平な提供が可能になります。また、無償で提供されているオンライン授業もあるため、金銭的な事情に左右されないのもEdTechの利点といえるでしょう。
学習管理システム活用による学習効果の向上
EdTechは教材だけでなく、学習管理システムも活用することで、カリキュラムや指導計画の作成に加えて、授業以外の日常的な業務のシステム化が可能です。システム化によって負担が軽減されれば、教師は時間に余裕が持てるため質の高い指導ができるようになり、生徒の学力向上が期待できるでしょう。
自己学習の環境整備による生徒の主体的な学びの促進
これまで自己学習の際に分からない問題があった場合、教師や保護者に聞いて解決していた生徒もいるのではないでしょうか。EdTechの中には、分からない問題をスマートフォンで撮影して投稿すると、電話やチャットで教えてくれるサービスも存在します。近くに質問できる人がいなくても問題を解消できるため、主体的な学びの促進や苦手意識の克服につながるでしょう。
校務支援・業務支援ツール活用による教員の業務効率化
授業以外の煩雑な業務による長時間労働や、学校教育の課題の多様化による負担などから、退職や休職する教師が増え問題になっています。これらの課題に対しEdTechの校務支援・業務支援ツールを活用することで明確に日常的な業務遂行が可能になるため、教師の負担も軽減できるでしょう。
STEAM化による探究的な学びのカリキュラム・マネジメント
「学びのSTEAM化」とは、子どもたちが「知る」ことと「創る」ことを循環させながら、ワクワクする学びを実現することを目指しています。TEAMは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学・ものづくり)、Art(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)の5つの分野の頭文字を取った言葉です。これら5つの分野の学習を通して、IT社会で活躍できる人材を育てるための教育理念です。これまでの教育では、各教科でそれぞれの知識を学ぶことが中心でした。「学びのSTEAM化」では、それに加えて「知る」「創る」が互いに影響し合い循環することで、子どもたちは文系・理系といった枠にとらわれず、未知の課題を発見し、その解決策を生み出す力を育めます。
EdTechのデメリット
これまでの教育に比べて多くのメリットが存在するEdTechですが、オンライン特有のデメリットも考えられます。EdTechはインターネットを介したコミュニケーションが主になるため、リアルな人間関係を構築しにくくなる懸念があります。また、個人のペースで進められるため、集団行動などの指導には不向きでしょう。EdTechは指導内容によって向き・不向きが生じます。そのため学びの方法の1つとして捉え、グループデスカッションや自然と触れ合う体験学習などバランスよく取り入れることが重要です。
学校向けEdTech教材・ツールの具体例
EdTechの教材は種類が多く特徴もさまざまあります。それぞれの特徴を理解しながら、目的に合わせて選択することが大切です。ここからは、学校向けの教材やツールを紹介するので、導入を検討している教員の方はぜひ参考にしてください。
すらら|株式会社すららネット|教科学習ツール
「すらら」は、1人1人の理解度に合わせて学習できるオンライン学習ツールです。経済産業省が進める未来の教室実証事業に採用され、約2,500校の学校や塾が導入しています。またアニメーションキャラクターを取り入れており、ゲーム感覚で楽しく学べる点が魅力です。2023年には総合的な探求の時間で活用できる「すらら Satellyzer」もリリースしました。他にもすららの特徴として以下が挙げられます。
・アニメーションによる授業
・AIドリル機能
・自動作問・自動採点テスト機能
・教師の学習管理機能
・ゲーミフィケーション機能
実際に利用した生徒からは「テキストやドリルは何度もできないけれどすららは何度も繰り返せるため覚えやすい」「終了時にどのくらい学習したか視覚的に分かるため達成感がある」と好評です。
ライフイズテックレッスン|ライフイズテック株式会社|教科学習ツール
「ライフイズテックレッスン」は約1,100校で導入されており、18万人が利用するプログラミング学習教材です。文系や理数系など教科担当以外の教師でも、個別最適で探究的な授業ができる点が特徴です。また、他には以下のような特徴が挙げられます。
・新旧の学習指導要領対応で移行もスムーズ
・先生役のキャラクターによる学習の動機付け
・プログラミングの知識がない教師でも授業が可能
・教師向けのサポートも充実
・1人1人の理解度に合わせた個別最適化を実現
実際に導入した学校の教師からは「これまで以上に生徒をサポートする時間が生まれ、前向きな声かけができるようになった」「生徒が楽しそうに学ぶ姿勢や集中力の度合いの変化を実感した」などの声が挙がっています。
Studyplus for School|スタディプラス株式会社|学習管理ツール
「Studyplus for School」は、教師が生徒を褒める機会を最大化する学習管理ツールです。生徒の学習進捗を教師が見守りつつ、生徒の努力に気付き褒める機能でコミュニケーションを活性化させるのが特徴です。また学習管理に役立つ以下の機能が豊富です。
・カレンダー
・タイムライン
・ガントチャート
・ヒートマップ
・メッセージ
・カルテ
学習管理ツールを導入した学校の教師からは、これまで紙で管理していた学習状況をデジタル化することで、生徒の学習状況を分析しやすくなったと好評です。また担任が生徒の学習状況を把握しやすいため、担任から教科担当に苦手な問題を伝えピンポイントで教えてほしいなど、教師間での連携も可能になりました。
まとめ
EdTechを学校教育に導入することで、生徒の学習意欲および学力の向上や教師の負担軽減など、多くのメリットが期待できます。生徒が時代に合った方法で自身の力を伸ばしていくためにも、EdTechの活用が効果的です。本記事で紹介したメリットやデメリットを踏まえた上で、実際に教育現場で活用している姿をイメージしながら導入を検討してみてはいかがでしょうか。