特別の教育課程による日本語教育とは?高校の制度改正や事例も紹介

2024/07/18(木)

出入国在留管理庁によると、2022年6月末の在留外国人数は約300万人と、前年度に比べ20万人以上も増加しています。それに伴い、日本の学校に通う外国人の児童生徒の数も増加傾向にあり、日本語教育の必要性が注目されています。日本の学校では、日本語教育が必要な外国人児童生徒に対して「特別の教育課程」による日本語教育の実施が可能です。本記事では「特別の教育課程」による日本語教育の概要や実践事例について解説しています。需要が増えている日本語教育の参考になれば幸いです。

「特別の教育課程」による日本語教育とは


「特別の教育課程」による日本語教育とは、日本語指導が必要な児童生徒のために、各教科の授業時数に替えて日本語指導を行うものです。学校教育法施行規則第56条の2、第79条、第108条および第132条の3にもとづき、小学校、中学校、中等教育学校の前期課程、または特別支援学校の小学部もしくは中学部において行われるものを指します。以下で詳しい内容を解説していきます。

特別の教育課程による日本語教育が必要となった背景

厚生労働省が発表した「外国人雇用状況」の届出状況まとめによると、日本で働く外国人労働者数は令和4年10月末時点で約182万人いるとされています。前年に比べ9万5千人以上増え、過去最高を更新しました。国籍別ではベトナムが最も多く、次いで中国、フィリピンと続いています。外国人労働者の数が増えるとともに、日本の学校に通う外国人の児童生徒も年々増加傾向にあります。文部科学省の「外国人の子供の就学状況等調査(令和3年度)」では、学齢相当の外国人の子どもの数は約13万人いることが分かっています。外国人については就学義務が課せられていませんが、日本の学校は外国人がその保護する子を公立の義務教育諸学校に就学させることを希望する場合には、国際人権規約などを踏まえ無償で受け入れており、教科書の無償給与や就学援助を含め、日本人と同一の教育を受ける機会を保障しています。これを踏まえ国では、外国人児童生徒に対して個々に応じた日本語指導などを行うため、文部科学省を中心に以下のような制度を整えています。

・2014年 特別の教育課程の制定
・2016年 義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律
・2017年 公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律を改正
・2017年 新学習指導要領総則に、日本語の習得に困難のある児童生徒への指導を明記
・2019年 外国人児童生徒受入れの手引き書の改定
・2019年 外国人児童生徒等の教育の充実に関する有識者会議の設置
・2020年 外国人児童生徒等の教育に関する研修用動画の配信

日本語教育の意義と目的

「特別の教育課程」による日本語教育は、児童生徒が日本語を用いて学校生活を営むとともに、学習に取り組めるようにすることを目的としています。「日本語を用いて学校生活を営む」とは具体的には以下の通りです。

・日本の学校生活や社会生活について必要な知識を学ぶこと
・日本語を使って行動する力を身に付けること
・健康・安全・関係づくりなどの観点、教科や文房具、教室の備品名など、学校生活で日常的に使う言葉などについて、その児童生徒にとって緊急性の高いものから順に習得すること
・挨拶の言葉や実際の場面で使用する日本語の表現を練習すること
・自分の名前を平仮名や片仮名で書いたり、教室に掲示されている文字を理解できるようにしたりすること

また「日本語を用いて学習に取り組む」とは具体的に以下の通りです。

・日本語で行われる在籍学級での授業に参加し、周囲の支援やさまざまな関わりを通して支障なく学習に取り組めること
・基礎的な力としての発音、文字・表記、語彙、文型に関する知識を習得すること

外国人児童生徒への日本語教育は、外国人の子どもたちが将来にわたって我が国に居住し、社会の一員として今後の日本を形成する存在であることを前提に行われています。現在は、日本語指導が必要な高校生の中退率が高いことや、卒業後の進学率が低いこと、非正規就職率が高いことなどの課題を抱えています。そのため外国人児童生徒への日本語教育が必要とされています。

教育課程上の位置付け

「特別の教育課程」による日本語教育は、児童生徒が学校生活を送ったり、授業を理解したりする上で必要な日本語の指導を、在籍学級の教育課程の一部の時間に替えて、在籍学級以外の教室で行う教育の形態として位置付けられています。授業時数は、年間10単位時間から280単位時間までを標準とし、児童生徒の在籍する学校における「取り出し指導」を原則としています。

特別の教育課程による日本語教育の現状

令和3年度に文部科学省が発表した「外国人児童生徒等教育の現状と課題」によると、特別の教育課程による日本語教育には以下のような現状があります。

・公立学校における日本語指導が必要な児童生徒は10年間で5倍増えた
・2割以上が、日本語指導などの特別な指導を受けることができていない
・小・中学校において「特別の教育課程」を編成・実施して日本語指導を受けている児童生徒の割合は6割程度

高等学校の「特別の教育課程」による日本語教育


「特別の教育課程」による日本語教育は、小・中学校だけで行われる教育課程ではありません。ただし高等学校は義務教育ではないことから、単位の認定・評価について小・中学校とは大きく異なります。

高等学校における日本語指導の現状と必要性

文部科学省の「外国人児童生徒等教育の現状と課題」によると、日本語指導が必要な高校生の中退率は9.6%で、全体の中退率1.3%と比べかなり高い数値となっています。また、高校卒業後の進学率は全体で71.1%であるのに対して日本語指導が必要な高校生は42.2%、就職者における非正規就職率は全体で4.3%であるのに対して日本語指導が必要な高校生は40%と、大きな差があることが分かります。公立高等学校における日本語指導が必要な生徒数は10年間で2.7倍ほど増加していますが、日本語指導が必要な高校生のうち、特別な指導を受けている生徒の割合は6割強程度にとどまっています。中退率や非正規雇用者数の課題を解決するためにも、高等学校における日本語教育の充実がより一層求められています。

教育課程上の位置付け

高等学校における「特別の教育課程」による日本語教育は、義務教育段階のものと同様の制度とすることが基本とされています。しかし、課程・学科の設置、必履修教科・科目などの設定、単位による履修・修得と卒業の認定など、高等学校における教育の特徴を尊重した内容とすべきであると位置付けられています。

指導内容と実施形態

高等学校での「特別の教育課程」による日本語教育は、小・中学校のように通常授業から対象生徒を個別に取り出して指導する「取り出し授業」の形は取れません。高等学校で日本語教育を「特別の教育課程」として実施する場合には、選択科目などの時間に通常授業の教室とは別の場所で「取り出し指導」として実施します。始業前や放課後、または長期休業中に対象生徒を集めて日本語教育を実施することもできます。また学校が独自に「学校設定教科・科目」を設定している場合は、通常の授業として日本語指導を行うことも可能です。指導の内容については、小・中学校と同様に「生徒が日本語を用いて学校生活を営むとともに、日本語を用いて行われる各教科等の学習に取り組むことができること」を目的としたものであることが定められています。

単位認定と学習評価

高等学校での日本語指導の時間は、正規の課程として単位の修得が認められています。修得単位数は21単位を超えない範囲で、在籍する高等学校が定めた全課程の修了を認めるのに必要な単位数の中に加えることができます。ただし必履修教科・科目や総合的な探究の時間などは「特別の教育課程」をもって替えることはできません。ちなみに学習指導要領では、卒業までに修得させる単位数を74単位以上と定めています。また単位の認定については、学校教育法において以下のような定めがあります。

・学校においては、生徒が学校の定める個別の指導計画に従って日本語の能力に応じた特別の指導を履修し、その成果が個別に設定された指導目標からみて満足できると認められる場合には、当該学校の単位を修得したことを認定しなければならない
・学校においては、生徒が日本語の能力に応じた特別の指導を2以上の年次にわたって履修したときは、年次ごとに当該学校の単位を修得したことを認定することを原則とする

評価方法については、筆記テストによる評価やパフォーマンス課題による評価、日常の学習状況の観察やポートフォリオによる評価などが挙げられます。また、日本語能力試験(JLPT)を行う場合もあります。評価の目的や生徒の実態に応じて、複数の方法を組み合わせて実施している学校が多いようです。

日本語教育に当たる教員

「特別の教育課程」による日本語指導は、対象の生徒に対し別室で日本語の授業を実施するため、指導は当該学校の教員が行います。高等学校において「特別の教育課程」による日本語指導を担当する教師は、高等学校教諭免許状を有する者である必要があります。2022年3月31日公布の「学校教育法施行規則の一部を改正する省令等の公布について(通知)」の中では「日本語の指導に関する知識や経験を有する教師であることが望ましいが、特定の教科の免許状を保有している必要はない」という文言が明記されています。よって国語や英語の教諭に限ったものではないことになります。学校によっては、日本語教育に関する専門知識や指導の経験がある外部人材を活用しているところもあります。その場合は、校内の日本語指導担当教師と外部人材が連携して指導にあたっているようです。

全日制・定時制・通信制課程ごとの制度設計の違い

文部科学省の受入状況等調査によると、公立高等学校の全日制・定時制・通信制の課程のいずれにも日本語指導が必要な生徒が在籍しています。このため2021年9月に行われた「高等学校における日本語指導の在り方に関する検討会議」では、全日制・定時制・通信制の全ての課程において「特別の教育課程」を編成し日本語指導を行うことができるようすべきだという提言がありました。またその際、いずれの課程においてもきめ細かな日本語指導の実施が重要であることから、基本的な制度設計について違いを設ける必要はないと記載されています。加えて、それぞれの課程の特色を生かした教育の実施を考慮して「特別の教育課程」を編成することが望ましいと提言されています。

高等学校における日本語指導計画の作成手順

高等学校における「特別の教育課程」による日本語指導を計画する手順は以下の通りです。

1.日本語の習得程度、母語、主な教科の学習経験や学力、学習に対する関心、将来的な目標など、生徒の実態を把握する
2.修了までの支援・指導についての方針と全体的な指導計画の作成
3. 学校設定教科・科目として設定するのか、教科の取り出し指導で日本語指導を実施するのかの決定
4.「特別の教育課程」による実施の単位数の決定(教育課程に加えるか、替えるかの決定)
5.日本語指導を実施する時間、担当教諭の決定
6.日本語指導の目標を設定する
7.指導内容と方法の決定
8.学習評価の方法と実施時期の決定

高等学校の「特別の教育課程」による日本語教育の事例


高等学校での「特別の教育課程」による日本語教育の実際の事例を紹介します。

県立全日制高等学校の事例

集住地域にある全日制高等学校で、入学者選抜に外国人生徒の特別定員枠を設けている学校の事例です。英語科では定員の80%近くが外国人生徒で、南米を中心に12カ国の生徒が在籍。担当教諭2名の他にも、日本語指導アドバイザーや母語ができる支援員・補助員で指導や支援をしています。生徒の日本語能力に応じて「通常授業」「教科の取り出し指導」「学校設定科目での日本語指導」の3つに分けて教育課程を編成し、1年生の例では、取り出し指導を「現代の国語」「言語文化」「公共」「科学と人間生活」「保健」の授業時間で実施しています。放課後の勉強会や長期休業中の学習支援も行い、地元の国際交流協会と連携して、小学生と交流したり外国人児童の宿題のサポートを行ったりしています。

県立工業高等学校の事例

2021年度は全生徒の約25%が外国人生徒であった工業高校の事例です。この学校では校内に「日本語指導担当者連絡協議会」を設置し、生徒の母語を理解する教育相談員の派遣を県から受けて対応しています。具体的には、始業前に学校設定科目「日本語基礎講座」を開き、日本語の指導が必要な生徒に指導を行っています。週4日と夏休みの集中講座で、国語・英語・理科の教員3名と県派遣の相談員やコーディネーターが担当しています。授業の内容は、単に日本語の知識や技能の学習ではなく、工業科として必要な数学や物理などの内容と関連付けた「教科横断的な日本語の統合学習」です。この取り組みで、外国人生徒の増加で多言語対応が必要になり、担当の教員やコーディネーターでは対応が不十分なことや、「日本語基礎講座」の学習だけでは日本人生徒と一緒に授業を受けられるレベルまで到達するのは難しいという実践課題が見つかりました。

まとめ


「特別の教育課程」による日本語教育の必要性は今後ますます高まると考えられます。指導には各学校の教員があたることになるため、全教員がその役割を担う可能性があります。本記事で紹介した概要や各校の実践例がその手がかりになれば幸いです。

CONTACT USお問い合わせ

「すらら」「すららドリル」に関する資料や、具体的な導⼊⽅法に関するご相談は、
下記のフォームよりお問い合わせください。

「すらら」「すららドリル」ご導⼊校の先⽣⽅は
こちらよりお問い合わせください。