「未来の教室」とは?実現に向けたアクションや具体的取り組みを紹介

2024/07/10(水)

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経済産業省は2018年に「未来の教室プロジェクト」を開始しました。言葉自体は知っていても、「未来の教室」とは何なのか、それが教育現場にどのような変化をもたらすのか、疑問に思う方も多いのではないでしょうか。

そこで、本記事では「未来の教室」の概要やビジョンなどを解説するとともに、取り組みや実証事業の事例を紹介します。ぜひ本記事を参考に「未来の教室」について理解を深めましょう。

経済産業省が推進する「未来の教室プロジェクト」とは


「未来の教室プロジェクト」とは、未来を担う子どもたちの能力を育成するために、EdTech(エドテック)などを活用した教育モデルを構築するための取り組みです。経済産業省が5ヶ年計画として2018年に開始し、2022年には当初の計画に区切りがついています。

(※ 当初の予定よりも延長して2023、2024年度と継続しています。当記事は2022年までの内容を主に記載しております。)

時代が大きく変化する中で、未来をつくる当事者(チェンジ・メーカー)を育成するために教育イノベーションを進めることを目的としています。

未来の教室の重要キーワード「教育dX」「学校BPR」


「教育dX」「学校BPR」の2つは、未来の教室プロジェクトの取り組みの中で欠かせないキーワードです。ここでは、これらの意味について詳しく解説します。

【教育dX】デジタルを手段とする教育の変革

「教育dX」のdXはデジタルトランスフォーメーションの略であり、教育dXはデジタルを活用した教育の変革を意味します。未来の教室プロジェクトにおいてdXが表記される理由は、デジタルはあくまで手段であり、”デジタル化”が主な目的ではないためです。

教育dXには、以下の3つの原則があります。

原則①:まずは、目的を「最大限ラクに」実現する心構え
原則②:目的の実現に向けて、手段を「組み合わせ自在に」
原則③:そのために、3つの意味で、学習データを磨く

引用元: 教育dXでつくる「未来の教室」のビジョンとイメージ(「未来の教室」フォーラム2021.11 )

答えのある作業をラクに済ませ、場所や時間などのあらゆる選択肢を自由に組み合わせられるように、学習データの「スコープ(種類)」「品質」「組み合わせ」を充実させることが、教育dXの原則とされています。

教育dXとはICT環境を土台に、生徒の学び方や教員の働き方を変革させることを指し、未来の教室プロジェクトの根本的な考え方になっています。

【学校BPR】学校における働き方改革

未来の教室を実現するためには、学校BPRによる業務の改善が必要不可欠です。

BPRとはBusiness Process Re-engineeringの頭文字を取ったもので、学校BPRは学校での業務構造の抜本的改革を意味しています。効率的な教育の実施や子どもたちと向き合う時間の確保のためには、必要なものを見極め、業務の改善を図ることが必要です。

未来の教室プロジェクトが実施する「EdTechを活用した学校現場の業務改善等検討事業」では、学校などのBPR調査と調査から判明した課題の改善策を構築しました。具体的には、現場の声から業務課題の真因を突き止め、ICTを活用した業務の効率化を提案しています。

「未来の教室」の3つのビジョンと実現に向けた課題解決の試み


未来の教室には、「学びのSTEAM化」「自立化・個別最適化」「新しい学習基盤づくり」といった柱となる3つのビジョンがあります。ここでは、各ビジョンを実現するために克服すべき課題と必要なアクションを紹介します。

①学びのSTEAM化

STEAMとは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学・ものづくり)、Art(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)の頭文字を並べた言葉で、5分野の学びを通してIT社会に通用する人材を育成する教育方針を指します。

個々のワクワクを核に文理融合の学びで知識を得ること(「知る」)とPBL(探求型学習)で横断的に知識を応用し、創造的な思考で解決策を見出すこと(「創る」)を循環させることが学びのSTEAM化の目的です。

学びをSTEAM化するためには、以下の3つの課題を乗り越える必要があります。

STEAM学習プログラムや評価手法などが不足している
学校現場ではインプットに注力してしまい、STEAM学習で必要なPBLを実施する余裕がない
他者との協働に必要な情動対処・コミュニケーションが難しい子どももいる
上記の課題に対しては、以下のようなアクションが必要とされます。

STEAMの学習コンテンツを開発し、授業プランなどを明示する
オンライン上に学習コンテンツや授業実施のサポートコンテンツを掲載する
高校の農業科や専門学校の工業科などの施設をプロジェクト実施のために地域全体で活用できるようにする
EdTechを使用して知識を効率的に身に付け、PBLのための時間を創出する
幼児期から言語や社会などに関する基礎知識やコミュニケーションスキルなどの基礎力を育成する

②自立化・個別最適化

自立化・個別最適化は個々の認知特性や学習到達度などによって学び方を選べるようにすることを意味します。

自立化・個別最適化を実現するためには、以下の3つの課題の克服が必要です。

一律・一斉・一方通行型が絶対的な授業スタイルと信じられてきた
学習者1人ひとりの個性への細やかな対応が不足している
授業時数・学年・居場所などの制約がある
以下のようなアクションをとることで、上記の課題の改善を図ります。

知識の習得に関しては、一律・一斉・一方方向の授業ではなく、EdTechを使用した自学自習・学び合いに重きを置く
幼児期から学校・民間教育などでの学習や課外活動を「学習ログ」として蓄積する
個々の学習ログをもとに「個別学習計画」を策定・更新する
決められた時数の出席を重んじる履修主義ではなく、理解度・達成度を測定する到達度主義を導入する
個別学習計画に応じた多様な学びを認める仕組みを導入する
オンライン・オフラインを融合した学びを実施する

③新しい学習基盤づくり

新しい学習基盤づくりとは、学習者中心のデジタル・ファーストな学習環境や社会との接続がスムーズな学校をつくることを意味します。

新しい学習基盤づくりを実現するためには、以下の課題を解決する必要があります。

初期設定・設計の負担が大きく、ICT機器が学校現場に十分に導入されていない
公教育と社会・民間教育の間に橋渡しがない
これらの課題を解決するためには、以下のアクションが重要です。

公教育と社会・民間教育をつなぐ学習ポータルサイト「学びのステーション」を設置する
個々の学びの記録を収集し、蓄積するデータベースを構築する
新しいデジタル教材や学習支援サービスを容易に導入できる基盤を設ける
社会との接続のために、オンラインインターンシップや地域連携プロジェクトなどを実施する

モデル校における「未来の教室」の取り組み事例


ここからはモデル校における「未来の教室」の取り組み事例を3つ紹介します。実際にどのような取り組みがされているのかを知り、さらに理解を深めましょう。

認定NPO法人カタリバの取り組み

認定NPO法人カタリバでは、2019年から「みんなのルールメイキングプロジェクト」を実施しています。本プロジェクトの取り組み内容は、生徒主体で教員・保護者と対話を重ね、校則に関する納得解を見出すことです。校則の見直しを通して、課題発見・合意形成・意思決定の力を育み、社会の多様な他者とも納得解を導ける人材の育成を目的としています。

2019年にわずか2校から始まった取り組みですが、2021年度時点では新たに11校の中学校・高校、そして2つの自治体が加わっています。

福山市立城東中学校の取り組み

不登校の生徒や教室に入りづらい生徒のための居場所として「きらりルーム」を設置している広島県の福山市立城東中学校では、「オンライン探究プログラム実証事業」が行われています。

事業実施1年目では、EdTechを使用した個別最適な学びやSTEAM教材を使った作品づくりなどを行った「きらりルーム」の生徒たちに、知識の定着・学習意欲の向上などの効果が見られ、中には自分の所属学級に通うようになった生徒もいました。

2年目にはEdTechによる個別最適化された探求学習の実現を目指す他、+αとして広島大学の学生の訪問による学習支援体制が整えられました。

長野県坂城高等学校の取り組み

長野県坂城高等学校では、英語・数学・国語の3科目の授業に「すらら」を導入し、個別最適化学習を実現することで、以下5つを実証する取り組みが行われています。

– 生徒の学習生産性・学習効果向上
– 教員の指導生産性向上
– 生徒の学習意欲向上
– 生徒の自主性向上
– 学習情報の保護者・学習者・学校の三者共有の実現

引用元:「すらら」X「坂城高等学校」 地方の公立スタンダード高校における主要3科目での個別最適化学習の実現

「すらら」の導入により、生徒は1人1台貸与されたChromebookを用いて、個々に学習を進められます。授業によっては、必要な学習を終えたら他科目の学習を進めさせる取り組みもされています。

従来の授業スタイルでは、教員がティーチングとコーチングの両方を担っていましたが、「すらら」によってティーチングが行われることで、教員はコーチおよびファシリテーターとしての役割にも注力できるようになりました。

「未来の教室」実証事業の事例


ここからは「未来の教室」の実証事業の事例を3つ紹介します。

株式会社学研プラス「オンラインでの探究学習による不登校傾向のある生徒の学習支援」

株式会社学研プラスの「オンラインでの探究学習による不登校傾向のある生徒の学習支援」では、オンラインで探求学習が実施できるような取り組みが行われました。

具体的な取り組みは、以下の通りです。

– 「NHK for School」「Dplay」などの動画視聴により、学習意欲・探求心の向上を図る(動画に関連した教科の学習動画も用意)
– オンライン・ライブにより、動画内容と関連した授業を実施し、興味関心をさらに喚起する
– 1人1台Chromebookを配るなど、どこからでも学習できる環境を整備する
– 広島大学の大学生の協力のもと学習支援を行い、支援内容に関して定期的に検討する
– 東京大学先端科学技術研究センター「異才発掘プロジェクトROCKET」の過去に行われたプログラムを動画化し、探求学習を仮想体験させる
– オンラインでの学習状況を把握できるよう、探求学習の評価指標を開発する

本取り組みについて、教員からはオンラインの探求学習が児童・生徒の自律的学びを実現しうること、意欲の有無によって学習が左右される可能性もあるものの、個々に合った学習が実施できうることが言及されています。

また、認知特性の優位性によって、相性の良い学習スタイルやもたらされる学習効果が異なる可能性があることが分かりました。

さらに、内発的な探求学習を促すためには、段階的なサポートが必要になります。

株式会社サイボウズ「学校BPRプロジェクト」

株式会社サイボウズによる「学校BPRプロジェクト」では、教員が定時で帰宅できるような連携が取れており、生徒との触れ合いが増加した状態を目指しています。

本プロジェクトでは、以下のような取り組みが行われています。

– 週末の部活動について教員と生徒が話し合い、納得解を導き出す機会を創出する
– 外部のメンターと1on1を実施する
– 教員と管理職の連携により、働き方を改善する
– 学校・教育委員会間の情報共有をデジタル化する

部活動への取り組みを改善する方法として、教員と生徒との対話が効果的であることが実証されました。

また、外部との1on1実施によりアドバイスやアイデアが提供されたことで、教員の内省が促され、業務改善へとつながっています。

さらに、学校BPRのためには教育委員会のBPRが必要なことも明確化されました。

株式会社すららネット「旅する学校 みらいハイスクール」

株式会社すららネットの「旅する学校 みらいハイスクール」では、教育データを指導者・支援者間で共有可能にすることで、特定の指導者への負担の偏りを解消する他、生徒の効率的な学習を実現することを目的としています。

本取り組みの主な内容は、以下の通りです。

– 「すららドリル」のテスト機能を活用し、各単元2回ずつ確認テストを実施する
– 1回目テストにおける単元別の正答率をもとに、復習が必要な単元を抽出・選定する
– 抽出した単元をもとに、学習カウンセリングを行い、学習計画を策定する
– 上記3つの取り組みを経て、個々に必要な学習に取り組む

本取り組みでは、生徒によって弱点の量に差があることが判明し、個別サポートの必要性が明確化されています。

また、個別に最適化された学習を実施したことにより、単元正答率・学習内容の定着度の向上が見られました。

その他、学習量の減少が確認できたり、教員・保護者以外の存在によって学習にポジティブな気持ちを抱けたりといった成果もあります。

保護者にとっても、学習ログは学びをサポートするために有用であることが分かりました。

まとめ


「未来の教室プロジェクト」とは、EdTechなどの活用によって未来を担う人材育成のモデルを構築する取り組みを指します。

「教育dX」「学校BPR」をキーワードに、「学びのSTEAM化」「自立化・個別最適化」「新しい学習基盤づくり」の3つの柱の実現を目指しています。

本記事で紹介した取り組みや実証事業の事例を参考に、「未来の教室」によっていかに教育現場が変化していくのかイメージをつかんでみてください。

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