インターネットを利用する生活が当たり前となり、あらゆるサービスにおいてインターネットがつながっていることが前提となってきています。さまざまなサービスに活用されるインターネットですが、メタバースを活用してサービスや娯楽の提供を行うことが増えてきました。メタバースは教育現場にも活用されており、生徒たちの学校生活に変化を与えています。本記事ではメタバースの教育活用について詳しく紹介します。
メタバースとは?分かりやすく解説
メタバースという言葉をよく聞いても、詳しく知っている方は少ないかもしれません。ここでは、メタバースがどのようなものかについて解説します。
メタバース=インターネット上の3次元の仮想空間
メタバースとは、インターネット上にある仮想空間のことです。インターネットの中の3次元の世界に、アバターという自分の分身をつくって入るようになっています。キャラメイキングができるオンラインゲームに近いため、ゲームをしているような感覚でメタバースの世界を楽しめます。ゲームと違うのは、現実の世界と同じ時間が流れており、現実と同じようにコミュニケーションを取って過ごせるという点です。ゲームのキャラクターのように見える他のアバターも、実際には自分と同じように人が動かしています。このようなポイントを生かし、遊びだけでなくミーティングなどの仕事にも使われるようになってきました。インターネット上で社会生活を送れるツールということです。
メタバースが注目される背景
メタバースは、2021年後半からニュースの話題に上がるようになってきました。現在では、聞いたことのない人のほうが少ないかもしれません。ここまで注目されるようになったのは、VR機器が普及し、専門家でなくても家庭で簡単に使えるようになったことや、Facebookが社名を「Meta」に変更し、メタバース事業へと本格参入したことなどさまざまな要素が関連しています。身近なものでは、新型コロナウイルスの感染防止対策の一環としてメタバースが使われるようになったことが挙げられます。現地へ行かなくても、メタバース空間内で会議や研修などが行えるようになり、需要に合わせてどんどん技術が発展し、導入する企業も増えてきました。企業内で使われることが多かったメタバースですが、教育現場での活用を増やしてきています。
メタバースを教育分野で活用する5つのメリット
メタバースというと、ゲームで遊ぶようなことが真っ先に想像できるのではないでしょうか。ゲームだけではなく、教育現場でもメタバースの利用が進んできています。ここでは、メタバースを教育現場で活用するメリットを紹介します。
①3Dコンテンツを活用した学習効率の向上
学校の授業では、教科書を読んだり、模型を見たり、実験をしたりと、学習方法がパターン化されています。これは、現実世界の授業でできることが限られているためです。しかし、メタバース内の授業では、人間の臓器や機械の操作方法など、立体的な学習コンテンツを活用することで、より印象に残る学習が可能です。メタバースでしか体験できないことも多く、学習効率が大幅に向上します。学習効率の向上は、学習意欲の向上にもつながり、生徒たちの新たな可能性を発見するきっかけとなります。
②アバターを介して能動的な学習を実現する
メタバース内ではアバターを利用して学習をします。座学はもちろんですが、実験などもアバターを通して行うことになります。注目したいのがアバターを用いた体験学習です。アバターを使ってアクションを起こすという能動的な行動ができるため、受け身になることがありません。自分から行動することでより学習した内容が身に付きやすくなるという大きなメリットがあります。現実では受け身になりがちな性格の生徒でも、アバターなら積極的に動けるということもあり、より生徒たちが能動的になれる空間でもあるのです。
③距離を問わずコミュニケーションが取れるようになる
メタバースはインターネット上の空間です。そのため、同じメタバース空間にいる人とは物理的な距離がかなり離れていても同じ空間で過ごせるようになっています。同じ学校だったとしても住んでいる地域が違えばなかなかコミュニケーションを取ることができません。コミュニケーションを取るためには同じ場所にいることが条件となるからです。しかし、メタバース内ならインターネットがあれば同じ空間にいることができるため、通常なら出会えないような人とも会話などができるのです。
④現実では難しいことを擬似体験できる
現実の世界では危険といわれるようなことや、実際にはできないようなことも、メタバース内なら疑似体験ができます。例としては、歴史の勉強の一環として過去に戦争のあった場所を訪れ、戦争の悲惨さを実感できます。アバターで体験するため危険は一切ありません。現実では体験することが不可能なことも、メタバースなら疑似体験をし、実際に体験しているかのような経験ができます。ただ見たり聞いたりするだけではなく、疑似体験をすることでより印象に残りやすい学習が可能です。
⑤生徒の事情を問わず学べる環境ができる
学校に行けない事情を抱える生徒が増えています。学校に行かないと充実した学びの機会が失われやすくなってしまいます。しかし、メタバース内の学校ならさまざまな事情を抱える生徒でも自宅から学校に通うことが可能です。メタバース登校ができる自治体はまだまだ少ない傾向にありますが、メタバース登校を学校の出席認定とするところも増えてきています。
高校教育関連のメタバースの活用事例
多くのメリットがあるメタバースを活用した教育ですが、どのように活用されているのかを想像するのが難しい方もいるのではないでしょうか。実際に行われているさまざまな高校教育関連の活用事例を紹介します。
擬似体験を活用した授業
メタバース内では疑似体験を行うことができ、より印象に残りやすい体験が可能です。その仕組みを利用して、金融教育を行った事例があります。生徒がメタバース空間に入ると、20年前から現代までを何回かタイムスリップし、その時代の経済の状況などの情報を集めてその時代にある投資信託で投資します。現代に帰ってきたら、その投資信託の運用結果を確認し、どれだけ現代と経済の状況が変わっているのかを実感できるというものです。その後、生徒たちでディスカッションを行います。投資の結果をもとに経済状況の移り変わりの理由について意見を出し合い、思考することで、金融への興味関心を深めていけるでしょう。
通信制高校・サポート校でのオンライン登校・バーチャルキャンパス
メタバース内で授業が行われるように、メタバース内につくられた校舎に登校するシステムを取っている通信制高校・サポート校があります。アバターを選択して校舎の中に入り、授業を受けるだけでなく教員・生徒同士で会話などのコミュニケーションを取ることが可能です。ゲームのように1対1や少人数はもちろん、大人数の会話も行えるため、まるで実際に教室で話しているかのような体験ができます。このようなメタバース内の学校に登校するシステムにより、学校へ通うことのハードルが下がるため、生徒たちの状況に関係なく学ぶ環境をつくることが可能になるでしょう。
学校行事をメタバースにより開催
全てをメタバース内で完結させる学校もありますが、現実で通っている学校が行事をメタバースで行ったという事例があります。メタバース内につくられた会場で、文化祭のようなイベントを行った学校があります。吹奏楽部・軽音楽部がバーチャル演奏を行ったり、ダンス部・バトン部がパフォーマンスを行ったりしました。そのイベント時に学校のPR動画を上映し、地域に学校の魅力を伝えることにも成功しています。
大学の受験生向けメタバースオープンキャンパス
大学のオープンキャンパスというと、実際に大学のキャンパスに出向いて見学をするのが通常です。しかし、地方に住んでいる高校生にとっては、交通費や行き帰りの時間、宿泊など、かなりの負担になってしまいます。そこで、メタバースでのオープンキャンパスを開催した大学があります。メタバースでオープンキャンパスを開催することで、時期に関係なく見学ができたり、直接行かなくてもオープンキャンパスに参加できたりと、ハードルが一気に下がります。それに、一度だけではなく何回も参加できるため、その大学のことをより深く知ることができ、入学へのモチベーションを高めるきっかけにもなります。
自治体による学校生活に困難を抱えている生徒の支援
自治体でメタバースを導入しているという場合、授業に活用するのはもちろん、不登校など学校生活が困難である生徒を支援するために使われている事例があります。メタバース内で参加できるオンラインイベントを開催したり、AIドリル、日本語学習ツールなどの学習コンテンツを提供している自治体があります。また、NPO法人が自治体からの委託を受け、高校への再入学や高卒資格を取得するためのサポートをメタバースで行っています。現役の高校生だけではなく、高校卒業を目指す人のサポートも行っているのが特徴です。
学校教育にメタバースを活用するときの注意点
インターネットを活用してどこにいても同じ場所で学べるメタバースですが、メリットばかりではなく注意点もあります。気を付けないと、大変なトラブルに巻き込まれてしまう可能性もあることを留意して起きましょう。ここでは、メタバースを活用する上での注意点を紹介します。
導入・運用費用の負担が発生する
メタバース学習を行うためには、インターネットの環境が必要不可欠です。それだけではなく、VR用のヘッドセットやパソコン・スマホ・タブレットなど、専用の端末も必要となります。もし自宅でメタバース学習をしようという場合には、インターネット環境などがない場合、全てを用意しなくてはなりません。その場合、毎月の固定費と初期費用の両方が発生し、思わぬ出費となってしまうことがあります。通っている学校によってはタブレットなどの端末が指定になっていることもあります。
利用できる学習コンテンツが豊富とはいえない
メタバース学習は始まったばかりの学習方法です。便利に感じて使いたくなりますが、まだ対応している学校やメタバース向けの専用教材が少なく、使いたいと思っていても使いにくいのが現状です。それならどんどん教材をつくればいいと考えるかもしれませんが、実際にメタバース向けの教材をつくるとなると、1つのゲームをつくるほどの手間と時間がかかります。時間だけではなくコストもかかるので、量産することができません。メタバースを利用した学習がしっかりとできるようになるまでには、まだまだ時間がかかりそうです。
教育者・利用者のITリテラシーを求められる
インターネットには、サイバー攻撃などさまざまな危険があります。それに、インターネットでもマナーやルールがあるので、ITリテラシーがないと生徒も教師も大変なことに巻き込まれてしまいます。特に教員のITリテラシーが低いと、教育の質に大きな差が出てしまい、平等な教育が提供できません。メタバース導入前に、ITリテラシーの知識を身に付けることで、メタバース学習をスムーズに進められるでしょう。
まとめ
少しずつ導入が進められているメタバースは、インターネットを利用することで住んでいるところに関係なく、平等に質の高い教育を提供できます。学力アップはもちろん、生徒たちの成長において豊かな経験を与えてくれるでしょう。高校生のうちにいろいろな経験をすることで、進路の決定にも大きな影響が出てきます。画期的であり便利なメタバースですが、使い方を間違えると生徒が危険なことに巻き込まれてしまうという注意点もあります。導入前・活用前には生徒たちはもちろん、教員にもITリテラシーなどの教育を行い、安全に使用できる環境と心構えを整えることが重要です。