高校で必修化した「情報Ⅰ」とは|ねらいや学習内容と現場の課題

2024/09/02(月)

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2022年度施行開始の新学習指導要領により、高校では「情報Ⅰ」の授業が新たにスタートしました。しかし、情報Ⅰの概要や学習内容について不明点を持つ教員の方も多いのではないでしょうか。本記事では、情報Ⅰの概要や新設された背景、学習内容などについて詳しく解説します。記事の後半では、大学入学共通テストでの扱いや指導に役立つコンテンツも紹介しているため、ぜひ最後までご覧ください。

新学習指導要領の新科目「情報1」とは


情報Ⅰは、2022年度に施行が開始された新学習指導要領で新たに設けられた必修科目です。旧学習指導要領では「情報社会に参画する態度」と「情報の科学的な理解」を重視した「社会と情報」「情報の科学」の2つの基礎科目が設けられ、生徒はどちらか1つを選択して履修していました。情報Ⅰは「社会と情報」「情報の科学」の学習内容を統合・改善してつくられた科目であり、全生徒が共通で学ぶよう定められています。

情報1が新設された背景

人工知能(AI)の進化やIoTの発展など、私たちの社会や生活は大きく変化しており、新たな時代「Society5.0」の到来も予測されています。また、情報化やグローバル化の急速な進展も、社会変化の大きな要因の1つです。こうした社会の移り変わりに対応するためには、生徒が情報を見極める力や、情報や情報技術を利用して課題解決を実現する力などを、学校教育において養う必要があります。生徒が複雑化する社会に順応し、積極的に社会参画していけるよう設けられたのが情報Ⅰです。

情報Ⅰの目標

情報Ⅰでは、情報に関する科学的な見方・考え方を重視し、問題の発見・解決のために情報や情報技術を適切かつ効果的に活用することで、主体的に社会参画するための資質・能力の育成を目指しています。「情報に関する科学的な見方・考え方」とは、「事象を、情報とその結び付きとして捉え、情報技術の適切かつ効果的な活用(プログラミング、モデル化とシミュレーションを行ったり情報デザインを適用したりすること等)により、新たな情報に再構成すること」と定義されています。

参照:高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編 イ共通教科情報科における「見方・考え方」

また、学習指導要領には、以下3つの通りに資質・能力を育成する旨が明記されています。

1.効果的なコミュニケーションの実現、コンピュータやデータの活用について理解を深め技能を習得するとともに、情報社会と人との関わりについて理解を深めるようにする。
2.様々な事象を情報とその結び付きとして捉え、問題の発見・解決に向けて情報と情報技術を適切かつ効果的に活用する力を養う。
3.情報と情報技術を適切に活用するとともに、情報社会に主体的に参画する態度を養う。

引用元:高等学校学習指導要領(平成30年告示)第10節情報 第2款各科目 第1情報Ⅰ

「情報Ⅰ」の4つの学習内容


ここでは、情報1の4つの学習内容ついて解説します。

情報社会の問題解決

情報社会の問題解決では、情報の科学的な見方・考え方を働かせ、情報・情報技術を活用した活動を通して、以下のスキルや知識の習得を目指します。

・情報・情報技術を活用して問題を発見・解決する力
・情報技術の人や社会に対する役割・影響
・情報に関する法規・制度・マナー
・情報モラル

問題を発見・解決する活動では、生徒が主体となり、より良い解決方法の実現に向けて他者と協働することで、学びに向かう力の向上が期待できます。また、情報社会の問題解決の学習内容は、残り3つの内容の学習に向けた動機付けとしての役割もあります。

コミュニケーションと情報デザイン

コミュニケーションと情報デザインでは、目的や状況に応じて情報を分かりやすく伝える活動を通して、以下のスキルや知識を育成します。

・メディアの特性やコミュニケーションの手段の科学的な理解
・情報デザインの考え方や方法
・コンテンツを表現・評価・改善する力
・情報・情報技術を活用して効果的にコミュニケーションを取ろうとする姿勢
・情報社会に主体的に参画する態度

情報・情報技術を活用した問題発見、課題に向けたメディア・コミュニケーション手段の選択、コンテンツの設計から実行、その後の評価・改善といった一貫した取り組みを通して、上記で挙げたスキル・知識を養っていきます。

コンピュータとプログラミング

コンピュータとプログラミングでは、問題解決のためにコンピュータや外部装置を活用する活動を通して、以下のスキル・知識の習得を目指します。

・コンピュータの仕組み・コンピュータでの情報の内部表現・計算の限界
・アルゴリズムを表現し、プログラミングによってコンピュータや情報通信ネットワークの機能を使う方法やスキル
・目的に応じてコンピュータの能力を引き出す力

具体的な学習活動としては、アプリケーションソフトウェアの動作・機能を図や文章で整理したり、アプリケーションソフトウェアの内部の働きをプログラミング言語で表現したりすることが挙げられます。

情報通信ネットワークとデータの活用

情報通信ネットワークとデータの活用は、情報通信ネットワークや情報システムによって提供されるサービスの活用を通して、以下のスキル・知識を養うことを目的としています。

・情報通信ネットワークや情報システムの仕組み
・データを蓄積・管理・提供する方法
・データを整理・分析する方法
・情報セキュリティを確保する方法
・情報ネットワークや情報システムによって提供されるサービスの安全かつ効率的な活用方法
・データを問題の発見・解決に生かす力
・情報技術を適切に活用しようとする態度・データを多面的に精査しようとする態度・情報社会に主体的に参画しようとする態度

多数の意見を集約する学習活動などを通して、データの蓄積・管理・提供のデータベースの仕組みや情報セキュリティなどへの理解を深めたり、統計的な分析や可視化に関するスキルを身に付けたりします。また、気温の変動などのデータを分析する学習活動では、グラフ・表でデータを可視化して傾向を読み取ったり、問題を発見・予測したりする力を養うことが可能です。

「情報Ⅰ」を指導するポイント


必須科目である情報Ⅰと選択履修の情報Ⅱの2つで編成される共通科目情報科は、小学校・中学校・高校で行われる情報教育全体の中核とされています。そのため、情報Ⅰを指導する際は、小学校および中学校での学習内容を理解し、学習内容の連携を意識することが大切です。ここでは、小学校・中学校の学習内容について解説します。

小学校の学習内容


小学校での情報教育の目的は、文字入力などの基本操作の習得です。また、2020年度からプログラミング教育が必修化されており、プログラミングを体験しながら論理的思考力を養う学習活動が行われます。新学習指導要領の中では、プログラミングに関する学習活動の取り扱いについて、以下の例が示されています。

中学校の学習内容

中学校では、技術・家庭科の技術分野において情報教育が行われます。小学校でのプログラミング教育を発展させ、学習内容の充実を図るとともに、情報セキュリティなども扱います。学習指導要領で示されている「情報の技術」の学習内容は以下の4つです。

・生活や社会を支える情報の技術
・ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングによる問題の解決
・計測・制御のプログラミングによる問題の解決
・社会の発展と情報の技術

参照:中学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 技術・家庭編「技術分野 新旧内容項目一覧」

大学入学共通テストでの「情報Ⅰ」の取り扱い


2025年度(2025年1月実施)の大学入学共通テストから「情報」の新設が予定されており、この出題範囲が情報Ⅰです。2022年11月に公開された試作問題で明らかとなった出題形式および内容は以下の通りです。


参照:大学入試センター「令和7年度試験の問題作成の方向性,試作問題等」

上記の問題形式および内容は試作であるため、今後問題内容や難易度などが変更される場合があることを留意しておきましょう。

「情報Ⅰ」の必修化に伴う課題と解決策


情報Ⅰが必修化されたことにより、いくつかの課題が浮き彫りになりました。ここでは、情報Ⅰの指導に関する課題やその解決策について解説します。

専門知識を持つ教員の不足と地域格差

文部科学省が2022年度に実施した「公立高等学校情報科担当教員の専門性の向上及び採用・配置等に関する状況」の調査では、2022年5月時点で全国の情報科担当教員数4,756人のうち、臨時免許状保有教員および免許外教科担任は796人であることが分かりました。つまり、必ずしも情報科の正規教員免許を保有しているわけではないということです。また本調査によると、東京都・埼玉県・横浜市などの自治体では、臨時免許状保有教員や免許外教科担任が0なのに対し、長野県では免許外教科担任が76人、栃木県では臨時免許状保有教員が45人・免許外教科担任が23人と、地域間で専門知識を持つ教員数に格差が生じている現状です。文部科学省は情報化指導体制の充実に向けて、2022年に各自治体で改善計画を策定させました。改善計画の主な内容は以下の通りです。

・情報科担当教員の専科教員としての計画的・着実な採用
・免許状保有者による複数校指導の抜本的増加
・現在情報を指導していない免許状保有者の情報科担当教員としての配置
・情報以外の普通免許状を保有している教員のうち、情報に関する優れた知識経験又は技能を有する者に対する特別免許状交付
・現在情報を指導しており、情報以外の普通免許状を保有している教員に対する情報の普通免許状の取得(教育職員免許法別表第4)奨励
・長年にわたり臨時免許状で情報を指導している教員に対する普通免許状の取得(教育職員免許法別表第3)奨励
・情報科における採用試験2次募集の実施
・情報に関する資格や専門知識を有する者を対象とした、特別免許状を授与することを前提とした採用選考の実施
・情報教員の退職者数見込み・採用者数見込みについて、情報Ⅱの開設増も視野にいれて推計
・地元の大学や関係機関と協議する場の設定

引用:(別紙1)高等学校情報科に係る指導体制の一層の充実について(通知)

その他、「複数校指導の手引き」や「外部人材に関する手引き」を公表したり、協議を行う場として「産学官協議の場」を県域ごとに創設したりするなど、情報化指導体制の充実を図っています。

また、専門性・指導力を高めるために、以下の取り組みも行われています。

・情報処理学会MOOC教材の無料公開
・「情報1」「情報2」の教員研修用教材の公開
・「情報」実践事例集の公開
・情報1」「情報2」の解説動画の配信
・NHK高校講座「情報1」(2023年3月~)を監修

上記のような取り組みにより、文部科学省は2022年時点、2023年4月には指導体制が改善され、おおむね情報科の教員免許を保有する教員が「情報」の指導を担当する見込みであることを提言しています。

大学入学共通テストに向けた指導の不安

株式会社ベネッセコーポレーションが2021年に実施した「高校教員に向けたオンラインセミナー<新課程教科「情報」に向けて今 、始められる準備>」での事後アンケートによると、情報1に関して最も課題に感じるものとして「大学入学共通テストへの対応」と回答した割合は、参加者の42.3%に上ることが分かりました。教員が不安に感じる要因として、情報1が高校1年生の学習過程のみでしか扱われないことが考えられます。前述の通り、2025年度の大学入学共通テストで新設される「情報」の出題範囲は情報1です。しかし、基本的に情報1を習うのは高校1年生で、その後の2年間では扱われないため、指導内容が大学入学共通テストで十分に生かされない恐れがあります。
高校1年次での学びを生かせるよう指導を行うためには、高校3年間を通じたカリキュラムマネジメントが必要といえます。例えば「総合的な探究の時間」を活用して情報1で学んだ知識やスキルを応用する学習活動を行えば、高校3年間を通して情報1の学習内容を定着させられます。このようにカリキュラムを工夫して大学入学共通テストに向けた力を養うことが大切です。

「情報Ⅰ」の指導に役立つ文部科学省のコンテンツ


情報科の指導を充実させるために、文部科学省は教員向けのコンテンツを作成しています。指導方法に迷ったときには、ぜひ積極的に活用してみてください。

高等学校「情報」実践事例集

文部科学省は情報教育を推進するために、教員向けに「高等学校「情報」実践事例集」を公開しています。当サイトでは、前項で解説した情報1の学習内容「情報社会の問題解決」「コミュニケーションと情報デザイン」「コンピュータとプログラミング」「情報通信ネットワークとデータの活用」の4つそれぞれにおける実践事例が紹介されています。
各事例の内容は以下の通りです。

・単元目標と学習活動
・学習活動の概要(授業の流れ・使用教材)
・単元の評価規準
・単元の指導計画
・代表的な授業
・補助教材
・生徒の問題解決例
・生徒の姿
・本事例のポイントと留意点

概要だけでなく、評価規準や指導計画まで細かく提示されているため、すぐに実践に生かせるでしょう。また、本サイトでは情報2の実践事例も紹介されているため、高校2年生の情報科を担当する教員にとっても役立つといえます。

高等学校情報科に関する特設ページ

同じく情報教育の推進を目的に開設されたのが「高等学校情報科に関する特設ページ」です。前項で紹介した実践事例も本サイトから確認できます。本サイトの中で、特に情報科を担当する教員に有益なのが「授業・研修用コンテンツ」です。本ページでは、情報Ⅰの4つの学習内容それぞれの授業・解説動画および学習動画が載せられている他、教員研修用教材が公開されています。これらコンテンツを活用すれば、教員自身も情報に関する理解が深まり、より内容の濃い授業が実施できるでしょう。本サイトでは、高校の情報科に関する最新情報が随時更新されているため、定期的に確認し、授業に生かしていきましょう。

まとめ


2022年度の新学習指導要領施行に伴ってスタートした「情報Ⅰ」。情報Ⅰは急速に変化を続ける社会の中で、生徒が主体的に参画する力を身に付けることを目的に設けられました。情報Ⅰの指導においては、小学校および中学校までの情報教育との連携を意識することが大切です。また、本記事で紹介した文部科学省が公開しているコンテンツをうまく活用し、自分自身も情報に対する理解を深めつつ、生徒が情報に関する知識やスキルを適切かつ効果的に習得できるよう指導を工夫しましょう。

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