日本語教育とは?学校での現状や、教育のためのカリキュラム、国の取り組みを紹介

2024/08/21(水)

多様性

小学校

中学校

全国の学校で、日本語がうまく話せない、理解が難しいという生徒が増えています。親の仕事の都合で日本に来た子どもや、長らく海外にいた日本人の子どもに多く、日本語を使う機会が少なかった理由が考えられます。そのような生徒のために行われているのが日本語教育です。本記事では、日本語教育がどのようなものなのか、また日本語教育のために国がどのような取り組みをしているのかについて紹介します。

日本語教育とは


日本語がままならない生徒に行うのが日本語教育です。日本人の子どもに行う「国語教育」との違いや日本語教育の需要について解説します。

日本語教育と国語教育との違い

日本語教育と国語教育の大きな違いは、生徒の母国語が日本語であるかどうかです。日本語を学びたいと希望している、日本語が母国語ではない人に日本語を教えるのが日本語教育であり、反対に、日本語が母国語である生徒に日本語を教えるのが国語教育です。日本語教育は、英語を母国語としない日本人が、英語を学ぼうと英会話スクールに通うのと同じような考え方といえます。

日本語教育の需要が高まってきている

日本語の学習者はどんどん増加しており、需要が高まっています。文化庁が調査した結果によると、2000年代に入ってから国内にいる外国籍の人々による日本語学習者数が大幅に上昇していることが分かりました。その背景には、企業の海外進出や国際結婚、技能実習生の増加などが挙げられます。親が日本に滞在することになってその子どもが現地の学校へ通ったり、親の海外赴任で一緒に海外に滞在し、帰国した日本人の子どもが学校へ通ったりするケースがあります。海外で仕事をすることが世界的に増えたのは、日本も例外ではありません。その分、海外から日本に来る、戻って来るという子どもたちがどんどん増えています。日本の公立の学校は日本語で授業を行うため、それを理解できるようにするための日本語教育の需要が高まっているのです。

学校での日本語指導が必要な児童への日本語教育の現状と取り組み


学校で日本語教育が必要と判断された子どもは、平成20年度で小学校19,504人、中学校7,576人だったのに対し、令和3年度は小学校31,189人、中学校11,280人とどちらも大きく増えています。日本語を学習する児童・生徒たちのために、どのような取り組みがあるのか紹介します。

学習への参加に必要な日本語能力の育成を行う

いくら学力があったとしても「教科書の日本語が読めない」「授業の日本語が理解できない」といったレベルでは、学習がどんどん遅れてしまいます。そのため、学校の日本語教育では、他の児童・生徒たちと一緒に学習に参加できるようになることを最終目標としています。

日本語指導と教科指導を統合したJSLカリキュラムとは

現在取り入れられている日本語指導方法に、JSLカリキュラムがあります。

子ども1人1人に合わせたカリキュラムデザイン

日本語が母語ではない児童は、生育背景・学習歴・日本語力・認知発達などが1人1人大きく違います。決まった学習内容で全員に同じ日本語学習のカリキュラムを作成しただけでは対応しきれないことがあります。日本語指導の教材は数多くあるものの、進みずらい理由の1つに、このような子どもたちの多様性に対応できていないことが挙げられます。JSLカリキュラムでは、みんなが同じ内容で日本語学習を進めていくのではなく、児童1人1人に合わせたカリキュラムを教師や指導者が作成するのが特徴です。日本語教育での指導を通して、教師・指導者の経験値を上げることも目的とされています。

「トピック型」と「教科志向型」

JSLカリキュラムには「トピック型」と「教科志向型」の2種類があります。トピック型JSLカリキュラムの目的は、直接物事を体験するという活動や他の児童との関わりの中で日本語を学ぶ力を育てることです。算数・数学や理科などのような特定の教科を学ぶのではなく、それぞれの教科に共通している「学ぶ力」を育てていきます。体験・探求・発信の3つの面を意識して活動の計画を立て、その日に行った成果を日本語で表現します。教科にとらわれないテーマを設定して課題に取り組み、その成果を日本語で発表することで日本語力を高めていく考え方です。
教科志向型JSLカリキュラムの場合はそれぞれの教科の学習に参加して、学ぶ力を身に付けながら日本語力を育てていきます。一見トピック型と似ているように思えますが、教科の内容と深く関連した活動の計画を立てるのがトピック型との大きな違いです。教科の学習の中で適切な単元を選択して追求し、成果を日本語で発表します。追求の過程で児童が教科の内容をどう理解しているのかを日本語で表現することが、学ぶ力の向上につながります。

日本語指導が必要な児童への日本語教育のための国の取り組み

日本語指導が必要な児童の教育をより充実させていくために、文部科学省では「外国人児童生徒等教育アドバイザー」の委嘱を行っています。地方公共団体などから申請があった場合にアドバイザーを派遣する制度です。外国人児童生徒等教育アドバイザーは、学校などの地方公共団体が行っている日本語教育が必要な児童の指導方法や特別教育課程の編成・実施についてアドバイスをしたり、日本語教育に関する教員研修の講師を務めたりします。他にも、日本人の子どもたちが外国で生活している際、彼らが日本にいるときと同じ教育だけでなく、国際的な視野を広げられるよう、在外教育施設に教師を派遣しています。

日本語教育が抱える課題とは?


一見充実しているかのように見える日本語教育ですが、実際には課題が多くあります。教員の面、環境の面から日本語教育が抱える課題を解説します。

教員・教材が不足している

小学校や中学校の場合は、日本語の授業を行うために特に専門の免許は必要ありません。通常の小学校・中学校の教員免許さえ取得していれば誰でも教えることが可能です。しかし、国が配置する担当教員数は十分ではありません。中には、日本語教育を担当する教員が足りないことから現在いる教員でまかなっているところもあります。その場合教員の仕事が増えるため、根本的な解決とはいえません。子どもたちだけではなく、大人が対象の日本語学校でも同様の人手不足が起きています。コロナ禍による水際対策で入国制限がかかり、日本語学校では生徒が大幅に減りました。そのときに解雇された教師は多く入国の制限がなくなった現在、生徒は増えたものの教師が圧倒的に足りないという現象が起きています。

都会と違い、地方は環境整備が間に合っていない

学校と同様、日本語教育にも地域格差があります。文化庁が発表した「平成30年度国内の日本語教育の概要」では、東京には363、大阪には157、愛知には153の日本語学習施設があるのに対し、和歌山・高知・宮崎は合わせて11、福井・山梨・大分には合わせて14しかなく、都会と地方とで大きな差が生じていることが分かりました。都会は施設の数だけ選択肢がありますが、地方はそこでしか学べないような現状です。小学校・中学校の日本語教育の地域格差は、日本語教育が必要な子どもたちの集まり方で大きく差が出ています。やはり都会では人が多く集まるため、日本語教育が必要な子どもたちも多く集まります。そのため、子どもたちへの対応のための研修や面談時の通訳の同席、日本語力に応じた取り出し授業などサポートが充実しています。地方の場合、日本語が分からない子どもが学校に1人しかいない状況がよくあります。支援が少なく子ども自身の努力で日本語を身に付けなくてはならない状況は、早急に改善する必要があるでしょう。

教員の待遇が不安定

日本語専門の教員になろうにも、実際待遇はかなり不安定であり、それは需要がどんどん高まっている海外でも同じです。国内で働く日本語教師の年収は200万円〜250万円以下であるため、専任で常勤の正社員であっても年収300万円あればかなり良いほうといわれています。海外で働く場合はその国の給与水準に合わせる必要があるため、日本円に換算するとかなり少なくなるでしょう。特にアジア圏内では、月5万円〜10万円以下でも全くおかしくありません。

日本語教員は国家資格に「日本語教育機関認定法」が成立


日本語学校の日本語教員には特別資格は必要ありませんでした。小学校・中学校などの場合は教員免許を取得していれば問題ありませんでしたが、国家資格として「日本語教育機関認定法」が成立しました。

現在の日本語教師の資格要件とは?

主な指導者として日本語教育を行うのは、常勤・非常勤講師を含む教員です。小学校なら小学校の教員免許、中学校なら中学校の教員免許さえあれば教えられます。中学校で日本語指導ということで各教科の補充を行う場合、該当する教科の教員免許が必要です。留学生などが通う日本語学校の教員の場合は、特に免許などが必要なわけではありませんが、日本語教育に関する研修の受講や日本語能力検定試験の合格、大学で日本語教育を専攻するといった条件のどれかを満たしていることで資格と認められるケースがほとんどです。

日本語教育機関認定法が制定した日本語教師の資格要件

日本語教育機関認定法では日本語教育課程を適正に、確実に実施できる日本語教育機関であることを文部科学大臣から認定された施設を「認定日本語教育機関」と呼びます。日本語教育機関認定法では、日本語教師の資格要件も創設されました。この認定日本語教育機関で日本語教育を行うためには、日本語教員試験に合格し、実践研修を修了しなければなりません。その後、文部科学大臣の登録を受けることができます。

まとめ


日本語教育の必要がある子どもが他の子どもと同じように授業を受けるためには、日本語教育のサポートが必須です。しかし、教員不足や地域格差などによって、全員が適切なサポートを受けられているわけではありません。どの子どもも同じような教育を受けるための環境を整えることが今後の課題です。

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