定時制高校とは|特色や全日制・通信制との違い、生徒の特徴を解説

2024/08/29(木)

多様性

高校

不登校

定時制高校は公立が多く、全国には2019年度の時点で約82,000名の生徒が在籍しています。定時制高校の生徒数は高等学校全体のわずか2.4%と少なく、どのような生徒が通っているのか気になる教員の方も多いのではないでしょうか。本記事では定時制高校について、全日制や通信制との違いを挙げながら特徴を解説します。定時制高校についての知見を深め、定時制高校を志望する生徒への進路指導にぜひお役立てください。
参照元:【資料3-2】定時制課程・通信制課程の現状について(P7から)

定時制高校とは?


定時制高校と聞くと「1日の仕事を終えた後、夜間に学習するところ」というイメージを持つ方もいるのではないでしょうか。定時制高校は全日制と同じく毎日の登校が必要であり、1日の授業は約4時間のため基本的には卒業までに4年間を要します。現在では「夜間定時制」「昼間二部定時制」「三部定時制」に分かれ、学習時間の選択肢が多くなりました。1〜2学年は普通科の昼間二部定時制、3〜4学年は普通科の夜間定時制といったように、学校によって採用する種類が異なります。昼間定時制・夜間定時制ともに、3年で卒業を希望する生徒のために、さらに2限の特設授業を設けています。

定時制高校の「単位制」と「学年制」の違い

単位制とは各科目ごとに単位が設定され、3年間在籍し必要な単位数を満たすことを条件に、3年間で卒業できる制度です。学年制は多くの全日制高校と定時制高校で導入されており、1学年ごとに取得しなければならない単位数が学校で決められている点が単位制と異なる点です。

全日制高校と通信制高校の違い

通信制高校は、自由度の高さが特徴です。学校によりさまざまですが、以下のポイントで全日制高校と比較してみましょう。

・授業の時間帯や時間割の違い
・学習方法や授業方法の違い
・卒業する年数の違い

順に詳しく解説していきます。
参照元:【資料3-2】定時制課程・通信制課程の現状について(P17~18)

授業の時間帯や時間割の違い

時期により違いはあるものの、全日制高校では朝から夕方まで毎日6時間前後の授業が行われています。時間割については、50分授業で1日6時限の時間割が組まれることが一般的です。一方通信制高校では、授業の時間帯や時間割を比較的自由に決められ、基本的に1人で学習することが可能です。必履修科目以外は生徒の希望によって履修科目を変えられるのも特徴です。参加必須のスクーリングなどは別ですが、生徒自身のスケジュールに合わせて勉強できます。

学習方法や授業方法の違い

全日制高校は、最近ではパソコンやタブレットなどを利用したオンライン教育も取り入れていますが、基本は教室で教科担当教師と対面式の学習方法を取っています。教師は教科書を中心に授業を行い、プリントや問題集などから宿題を出すことも一般的な方法です。一方、通信制高校の教育方法は下記の通りです。

・添削指導
・面接指導(スクーリング)
・試験

通信制高校では基本的に授業がなく、生徒はレポートを提出し教師の添削を受け、返送後に指導を受けます。通信制高校の大きな特徴として、年間数回の面接指導(スクーリング)に登校する以外は、オンライン配信などによる非対面の学習方法が一般的です。教師には、専任教諭・常勤および非常勤講師がおり、生徒は1人でパソコンやタブレットを使用して授業を受け、宿題もオンライン上で回答する授業方法が多いといえます。テレビ放送やインターネット等を利用して学習した場合には、面接指導時間の一部免除が認められています。上記の添削指導・面接指導等の成果を見るために試験が実施されますが、実施校の教職員の監督下で適切に実施することが「高等学校通信教育の質の確保・向上のためのガイドライン」で策定済みです。

卒業する年数の違い

全日制高校は、1学年ごとに取得すべき単位数を取得すれば3年間で卒業可能です。通信制高校の場合も、卒業には3年以上高校に在籍する必要があります。通信制高校の卒業要件は、全日制や定時制高校とほぼ共通しており、下記の3つを満たさなければなりません。

・74単位以上の習得
・通算3年以上(全日制は3年間)の修学
・3年間で30時間以上の特別活動への参加

成績によっては、必要な単位を取得するまで4年以上かかることも十分に考えられます。

定時制高校に通う生徒の特徴


定時制高校は、主に就業等のために全日制高校に進学できない人の就学先として1948年に設置されました。現在では就業している人だけでなく、下記のような生徒も多く通学しています。

・中途退学経験者
・不登校経験者
・高等学校教育を受ける機会がなかった者

定時制高校は、さまざまな入学動機や事情のある生徒が多いことも特徴の1つです。ここからは、定時制高校に通う生徒の特徴を2つの視点から詳しく解説します。
参照元:【資料3-2】定時制課程・通信制課程の現状について(P17から)

入学の動機

定時制高校と通信制高校の入学動機を比較表にまとめると以下の通りです。引用元:資料2-2 定時制課程・通信制課程高等学校の現状(P13)

上記の「高等学校定時制課程・通信課程の在り方に関する調査研究(2013年度)」によると、定時制・通信制高校ともに「高校卒業資格が必要だと思ったから」との入学動機が一番多く、他を大きく引き離しています。通信制高校に通う生徒の半数近くがそのような動機を持つのに対し、定時制高校では「全日制高校を受験したが、合格しなかった」「経済的に働く必要があった」との理由が10%を超えている点が目立ちました。

生徒が抱える事情や悩み

「定時制・通信制高等学校における教育の質の確保のための調査研究(2017年度)」から定時制高校に在籍する生徒の実態等を読み取っていきましょう。
過去に不登校の経験を持つ割合が39.1%と、心に傷を負った生徒の多さが分かります。また、ひとり親家庭の生徒が36.9%と多いことも特徴に挙げられます。2015年の2人以上の勤労者世帯の年間平均実収入が約630万円であるのに対し、ひとり親世帯の年間平均収入は母子世帯で348万円、父子世帯で573万円であることから、背景に経済格差が関係しているのもうかがえます。その他にも、特別な支援を必要とする生徒や、心療内科等への通院歴があり心のケアを必要としている生徒が多いことも留意しておきましょう。

参照元:【資料3-2】定時制課程・通信制課程の現状について(P7から)
参照元:平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果
参照元:「家計調査年報(家計収支編)平成27年(2015年) 家計の概況」

定時制高校に進学・編入・転入する生徒のメリット


ここでは、定時制高校を選択するメリットを2つ紹介します。

通いやすい時間帯を選び授業が受けられる

都道府県や学校により違いはありますが、代表的な時間帯は以下の通りです。

1.夜間定時制の例
2.昼間二部定時制(愛知県立刈谷東高等学校の場合)
3.三部定時制

さまざまな事情で定時制高校に進学・編入・転入する生徒がいますが、三部定時制では、自分の生活スタイルに合わせて学びたい時間帯で学習できることがメリットです。

・午後の部、午前の部、夜間の部のいずれかに所属
・所属する部以外の授業も受けることで3年間で卒業することも可能
参照元:愛知県高等学校教育課

就職支援を受けやすい傾向がある

定時制高校は、働いている生徒が比較的多いものの、雇用形態はパートなどが を占めています。より稼ぎたいからと、在学中に社員を目指す生徒がいてもおかしくありません。とはいえ、働きながら学習する人の離職率は高いため、就職する際には学校からの支援を受けることができます。学校側からすると、生徒への支援は実績にもつながるため、定時制高校は就職支援を受けやすい傾向にあるといえるでしょう。
参照元:資料2-2 定時制課程・通信制課程高等学校の現状(P8)

定時制高校を選択するデメリット


定時制高校は、基本的に卒業まで4年かかります。全日制高校を3年で卒業した生徒より、定時制高校を選択すると卒業時に1歳年上になる点は、就職する上でデメリットになることもあるかもしれません。ここからは、その他4つのデメリットを解説します。

中途退学率が高め

定時制高校では、約半数の生徒が働きながら通学しています。朝からフルタイムで働いた後、約4時間学習すれば下校時間は21時を過ぎてしまうため、強い意志がなければ卒業まで継続するのは困難といえるでしょう。職場での残業が長く続くと通学も継続困難になり、中途退学せざるを得なくなる場合もあります。
参照元:【資料3-2】定時制課程・通信制課程の現状について(P7から)

大学進学には対応しづらい傾向がある

定時制高校を卒業すれば、全日制高校を卒業したのと同様に大学への進学が可能です。ただし、1日4時間の授業を4年間受けたとしても大学入試範囲はカバーしきれず、大学受験を目指すには授業内容が不十分といえます。また、定時制高校では大学進学を全日制高校のように力を入れていません。これらを踏まえ、定時制高校は大学進学に向けてのサポートが手厚くないといえるでしょう。

3年で卒業できない場合がある

定時制高校は、卒業まで4年かかることがあります。三部定時制で所属する部以外の授業も受けない限り、3年での卒業が難しい可能性があります。

学校の選択肢が少ない

定時制高校は、学校数から見ると2019年度で168校と少なく、全国の高等学校の11.4%に過ぎません。学校の数自体が少ないため、自宅から通学できる学校がないこともあるでしょう。
参照元:高等学校教育の現状について(P3から)

定時制高校向きの生徒の特徴とは


ここでは、定時制高校に向いている生徒の特徴を2つ紹介します。

勉学以外にやりたいことがある

定時制高校では、学習しながら働くことも可能です。例えば、IT化時代に対応するために本格的にプログラミングスキルを習得したいと考える生徒がいるとします。その場合プログラミングスクールなどで勉強する必要性がありますが、定時制高校であれば自らの手で得た収入でスクール代金を支払って学習しながら働くことも可能です。全日制の場合アルバイト禁止の高校も多く両立が難しいため、勉学以外にやりたいことが明確な生徒は定時制高校に向いているといえます。

集団生活が苦にならない

定時制高校は通信制高校と異なり、全日制高校と同様に他の生徒と授業を受け、行事に参加することが必要です。そのため、他の生徒との集団生活を送れる生徒は、定時制高校と全日制高校の両方に向いています。

定時制高校への進学・転入・編入を相談されたときの留意点


定時制高校を検討中の生徒に対し、以下に示す事項について教員は1人1人の生徒の事情に照らし合わせて学校を選択できるようにしておく必要があります。

・定時制高校の授業時間
・カリキュラム(何年で卒業できるかなども含めて)
・転入・編入できるタイミングと移動できる単位
・公立と私立学費の違い
・卒業後の進路

特に転入・編入ができる時期が決められている点には注意が必要です。全日制高校から定時制高校への転入は、受付期間と、全日制高校と同じ学科しか選択できない点は留意しておきましょう。時期はそれぞれの高校により、違いがあります。定時制高校へ編入可能な時期は新年度の4月が一般的であり、その定時制高校が補欠募集をしている場合のみ編入できます。

まとめ


現在の定時制高校は「夜間定時制」「昼間二部定時制」「三部定時制」に分かれているため、かつての「夜間に学習するところ」から学習時間の選択肢が幅広くなりました。さまざまな入学動機や事情のある生徒が通いやすいといったメリットがある一方で、デメリットとしては、中途入学率が高く、大学進学に対応しづらい点などが挙げられます。また、所属する部以外の授業も受けることで3年間での卒業も可能ですが、基本的に定時制高校では卒業まで4年間かかります。定時制高校独特のポイントをうまく押さえた上で、定時制高校への進路指導について対応していきましょう。

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