2024/09/12(木)
子どもたちの生活の一部でもある学校現場では、慢性的な教員不足が問題となっています。ニュースなどのメディアにも取り上げられるほど、現状はとても深刻です。教員不足が起こる背景と問題点、解決策として行うべき改革の内容を紹介します。
教員になりたいという人が減っている
教員が足りない背景として、そもそも教員になりたい人が減っていることが挙げられます。令和4年度の採用者総数は34,274人で、前年度と比べて793人減っています。受験者総数も前年度からマイナス7,876人の126,391人と、採用者総数と同様に大幅に減っています。ここからはその理由を解説していきます。
必要な教員数や産休・育休取得者の増加
文部科学省が各自治体の教育委員会に取ったアンケートでは、産休・育休の取得者数の増加が教員不足の原因であるとの結果が出ています。産休・育休は必要な制度です。制度には何も問題ありませんが、産休・育休に入った教員の仕事を同僚がカバーしきれず、結果として教員が足りない現場が増えています。休職の制度があることで、産休・育休後も現場に復帰する教員がいるのは良い反面、休職期間中の現場体制を整える必要があります。その仕組みをつくることも課題の1つといえるでしょう。
教員採用試験の倍率の上昇、採用数の減少
現場の人員が足りないのにもかかわらず、採用される教員の人数は減っています。特別支援学級が以前よりも増加して、1校あたりに通う子どもの人数が増えました。そのため、より多くの教員が必要とされているものの、教員採用試験で採用される正規雇用の教員は増えておらず、臨時職員や非常勤講師でカバーされているのが現状です。各学校に教員を必要数確保するために、採用人数の改善が必要です。
臨時職員の登録者も減ってきている
臨時職員の登録者数が減っている背景として、もともと臨時職員・非常勤講師として働いていた人が正規採用されたこと、臨時職員・非常勤講師を辞めて民間の企業に就職したことなどが挙げられます。女性で過去に教員だった人が、出産・育児を経て臨時職員・非常勤講師として復帰する例もありましたが、現在は産休・育休を利用する女性教員がほとんどです。このように、正規雇用の教員だけでなく、臨時職員・非常勤講師も減少しているのも教師不足の原因の1つといえるでしょう。
教員不足は当たり前?若者が考える「教員志望の学生が減少している理由」とは
教員不足の理由として、そもそも教員になりたいと思う学生の減少も関係しています。ここでは、若者が考える教員不足の理由について紹介します。
長時間労働が当たり前となっている
メディアでも取り上げられているように、教員は長時間労働が当たり前とのイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。実際に、平均でも小学校では93時間以上、中学校では113時間以上の残業が確認されており、やりがいはあったとしても過酷すぎると教員になることを敬遠している大学生は多く存在します。
業務量が多く、キャパオーバーである
小学校では約20%、中学校では約25%の学校で教員1人以上の欠員が出ています。そのため、足りない部分をその学校に勤める教師全員で補わなくてはなりません。そもそも教員1人あたりの業務量が多いため、キャパオーバーになる教員がいても全くおかしくありません。部活動などの本業以外の業務もあるためなおさらといえます。中には、1年間で担任が4人も変わったクラスや、教員不足が深刻で4月の始業式で担任発表ができない学校もあるようです。
業務が多いのに給料が安い、残業代が出ない待遇の悪さ
残業が多いのにもかかわらず、公立学校の教員は「給特法」という法律によって残業手当が支給されません。この過酷な待遇により、教員になることを視野に入れていない若者が多くいます。
教員の労働環境・待遇が悪いのは本当?データをチェック
教員が減っている原因として、労働環境と待遇の悪さが挙げられます。日本教職員組合が2022年に実施した「学校の働き方改革に関する意識調査」の結果をもとに見ていきましょう。
労働時間は過労死ラインをオーバー
公立学校の教職員の勤務時間は1週間に40時間、1日あたり8時間と定められていますが、現実はそれをはるかに超えています。小学校教員の時間外労働時間の平均は、週あたり23時間53分です。そこから月あたりの時間外労働時間を計算すると、残業時間数は95時間32分にも及びます。過労死ラインは月80時間と設定されているため、毎月過労死ラインを上回る残業をしているということです。中学校の場合は月あたり118時間20分の残業をしている計算で、どの教育現場でも過労死ラインをオーバーしていると言わざるをえません。
部活動の地域移行のためには人材や施設・予算の確保が課題
中学校の場合は、部活による教職員の負担を軽減すべく、部活動の指導を外部に委託する地域移行が進められています。しかし、外部の指導員の確保が大きな課題になっています。外部の部活動指導員の確保は簡単ではありません。都市部なら比較的簡単に見つかるかもしれませんが、もともと人口が少ない地方ではかなり難しく、スポーツの種類によっても確保の難易度が変わります。そのような状況では、住んでいる地域によって入りたい部活がある学校とない学校ができ、格差が生じてしまいます。教職員の労働環境だけではなく、生徒の部活環境にも大きな影響が出ているのが現状です。
残業手当ては改善の動きがあるものの、労働時間の実態とかけ離れている
会社員のみなし残業代に当たる「教職調整額」が教員の給与に含まれるようになりました。教職調整額は、月額給与の4%で設定されています。しかし、この数字は労働時間の実態とはかけ離れているため、待遇が改善されたとは言い難い状況です。そのため、公立学校の教職員が残業代をもらえるようになるための法改正が望まれます。
教員不足が現場にもたらす問題とは
教員不足は教員の負担が増えるだけではなく、教育現場に大きな影響を与え、ときには問題の原因ともなりえます。ここでは、生じる可能性がある問題について解説します。
授業の質が低下してしまう
本来は専門ではない教科を受け持たなくてはならない可能性があり、その場合授業の質が下がることになりかねません。授業の質が下がると、生徒たちは良質な学習環境を得られないでしょう。各クラスに1人の担任を配置できず、年度内に担任が頻繁に替わっていることから、本来現場には立たない教頭・校長が担任をしている学校もあります。
教員が生徒と向き合う時間が減少する
授業の時間だけでなく、分からない内容のフォローや学習状況の確認、生徒たちの生活面の指導などのコミュニケーションも教員の仕事の1つです。しかし、負担が増えたことで生徒たちのための時間が確保できない事態が実際の現場では起こっています。教員と生徒の何気ないコミュニケーションも人格教育のために大切なことです。コミュニケーションは生徒との信頼関係の構築にもつながります。教員の負担軽減だけではなく生徒の成長のためにも改善が必要です。
教員同士のコミュニケーションの問題が起きやすくなる
教員も人間であるため、教員同士のトラブルが全く起きないわけではありません。トラブルの発生を防ぐために大切なのは、教員同士のコミュニケーションです。コミュニケーションが取れていると意思疎通がスムーズに行え、相手がどのような人かを理解できているため大きなトラブルには発展しません。実際、教員の負担が増加したことで教員同士のコミュニケーションも減ってきています。教員同士がお互いのことを知らずに仕事をしているため、トラブルが起きやすい状況といえるでしょう。コミュニケーションを取ることで、人間関係が原因の離職を防ぐことにもつながります。余裕を持って仕事ができるようになると、コミュニケーションを取る心の余裕も生まれやすくなるでしょう。
負担が大きく、教員の離職が増加する
負担が増え、仕事のつらさが原因で離職する教員も増えています。教員不足が教員不足を生み出す負の連鎖を起こしているといえるため、離職に歯止めをかけ、これ以上教員不足が深刻化するのを防ぐことが望まれます。そのためにも、教員の労働環境の改善や正当な給与、負担軽減は早急に解決したい課題といえるでしょう。
教員不足の解決策として、目に見える働き方改革が急務
教員不足を少しでも早く解決するために、教員の働き方改革が必要です。そのためにはどのようなことをする必要があるのかを紹介します。
ICTを活用して負担軽減
一般企業ではICTを活用した業務負担の改善が進んでいます。教育現場でもICTを活用すれば教員1人あたりの負担軽減が行えます。そのためには、安定したインターネット環境はもちろん、多くの生徒たちが使用しても問題が発生しないかなど、それぞれの学校に合わせた対策や環境づくりが必要です。それに加え、ICTを安全に活用するために、教員に対するネットリテラシー教育を行う必要があります。個人情報流出やマルウェア感染など、教育現場で起きてはならないことを防ぐためにも、教員が指導方法や知識を得ることが大切です。
外部人材を配置する
地域によっては人材確保が難しい側面もありますが、「社会に開かれた教育課程」の実現のためにも、外部人材の配置を行うことで教員の負担を少しでも減らせます。優れた知識や経験などを持った社会人を教師として迎えることで、教員の負担が減るだけではなく生徒たちもより新しい学びを得ることが可能です。
学校の運営体制の見直し
現状を少しでも変えるためにどうしたら良いのかを、教員や外部スタッフ全員で考える機会が持たれています。組織マネジメント力をアップさせるための研修や、業務改善のために何をしたら良いのか意見を出し合う研修、管理能力を高めるための研修で、教職員の負担を減らすための運営を学びます。また、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなどの学校を支援するスタッフとの連携の見直しや分担などを行い、お互いのノウハウを学びます。
まとめ
教員不足は深刻な問題であり、現在学校に通う生徒たちの環境を脅かしているといっても過言ではありません。教員の負担を少しでも減らし、働きやすい環境にすることで離職率は大きく下げられます。子どもたちの未来を背負うやりがいのある仕事だからこそ、早急な改善が必要です。