2024/10/02(水)
メタ認知能力が高い生徒は、効果的に学習に取り組めたり問題解決能力が向上しやすかったりする傾向にあります。生徒のメタ認知能力を育成して、前向きに学習に取り組めるようにしたいと考える教員も多いのではないでしょうか。
本記事では、メタ認知能力の概要や学校教育においてどのように取り扱われているか解説します。メタ認知育成に効果的な取り組みのポイントも紹介するので、教育に携わる方はぜひご一読ください。
メタ認知とはどのような能力?
メタ認知は自身の頭に浮かんだ考えを、客観的に再考する能力です。私たちは人の話を聞いたり、考えたり、文章を読んだりして、日常的なあらゆる場面を「認知」しています。起きている間は自然と認知活動を行っています。しかし、この認知活動は記憶違いや誤解などがよくあるため、認知した物事に対して客観的に思考する必要があります。このように正しく修正する能力が「メタ認知」です。メタ認知は、メタ認知的知識とメタ認知的活動の2つから構成されています。以下では知識と活動の視点からメタ認知について詳しく解説します。
メタ認知の3つの「知識」
自身の長所や短所など自分自身を客観的に理解した知識を「メタ認知的知識」といい、以下の3つに分類されます。
一例ですが「一度に複数のことをいわれても覚えられない」という認知特性を知っているからこそ、忘れないようにメモをとるなどの対策を講じられます。ただし、メタ認知的知識を持っているからといってメタ認知能力が高いとはいえません。メタ認知的知識を軸に思考し、解決策を把握できてはじめてメタ認知能力は高められます。
メタ認知の2つの「活動」
メタ認知的活動とは、自身がメタ認知的知識を理解した上で対策を講じたり修正したりし、よりよいものにするための能力です。メタ認知的活動はモニタリングとコントロールに分類されており、2つの要素が循環的に働いています。
メタ認知的活動を高めることで、生徒は学習状況を把握し、適切に評価しながら修正していく力を身に付けることが期待できます。モニタリングとコントロールのどちらかの能力が欠けては目標達成が困難です。ともに能力を生かしつつ試行錯誤していく必要があるため、トレーニングが重要といえるでしょう。
学校教育におけるメタ認知の重要性
生徒自身ができるようになったことを客観的に理解しながら、さまざまな場面で活用できるメタ認知能力は学校教育においても欠かせません。ここからは学校教育においてメタ認知能力がどのように取り扱われているのか、どのように学力に影響するのかなどを詳しく解説します。
新学習指導要領でのメタ認知の取り扱い
文部科学省は全国どこの学校でも一定の水準を保った教育が受けられるように、新学習指導要領を定めています。新学習指導要領は以下の3つの柱に分類されており、学びに向かう力を育成することを目指しています。
1.知識・技能
2.思考力・判断力・表現力
3.学びに向かう力・人間性等
この中の「学びに向かう力・人間性等」では、主体的に学習に向かう姿勢・感情・行動を客観的に理解する能力が重要視されており、メタ認知能力と関連していると考えられています。メタ認知の育成は、生徒の持続的な成功に向けた習慣づくりにも結びつくでしょう。
メタ認知能力が学力に与える影響
過去に実施された研究結果を総合的に分析する「メタ分析」という手法を用い、メタ認知能力と学力はどのような関係があるか調査が行われました。分析の結果、メタ認知能力のほうが学力に影響を与えることが明らかになりました。知能は遺伝的な要素も少なくないため、指導によって知能を養うことは簡単ではありません。一方で、メタ認知能力は個人差があるものの重ねて行うことで高められます。メタ認知能力を意識しつつ客観的に評価し、不足している部分を補いながら学習を進めるなど工夫することが大切です。このように生徒のメタ認知能力を高めると、学力の向上にも効果が期待できるでしょう。
メタ認知が高い生徒・低い生徒の特徴
メタ認知能力が高い生徒には、次のような特徴があります。
・自身の学習を客観視しつつ調整することができる
・コミュニケーション能力が優れている
このように具体的な目標を思考してから学習に取り組む傾向にあります。宿題を例に挙げると「なぜ宿題をやるのか」に対して、感情面だけではなく先を見据えて目標や目的まで考えて、調整しながら学習に取り組むことができます。
一方でメタ認知能力が低い生徒の特徴は、次のとおりです。
・できること・できないことの判断が苦手
・他者から見た自身を想像できない
メタ認知能力を高めて学習に生かすことで、学力向上が期待できるでしょう。
メタ認知能力を育む授業や取り組みのポイント
生徒のメタ認知能力を育成するためには、いくつかの方法があります。授業では単元の目的・目標にたどり着く過程の中で、メタ認知能力を育成するポイントを取り入れることが重要です。ここからは授業づくりのポイントや具体例を紹介するので、ぜひ参考にしてください。
授業づくりのポイントと具体例
生徒の資質や能力を確実に育成するためには、それらの軸となるメタ認知的知識を明確にした上で、教科の学習内容に沿った授業づくりが効果的です。一例を挙げると中学校学習指導要領の理科編では、自然の事物・現象を科学的に探究するために必要な資質・能力を育成することを目指しています。このため科学的に探究するための知識・思考力・判断力・表現力・態度など、授業を通して養う必要があります。具体的には実験を計画する際にメタ認知的知識を取り入れた実験ルールを作成し、実験手順を作成しました。ルールにもとづいた実験を行うことで、実験内容や結果を明確に理解しやすくなり、実験後のテストでも得点が伸びたケースもあります。このようにメタ認知的知識を取り入れた指導方法を採用することで、生徒の学力向上が期待できるでしょう。
振り返りの重要性
新学習指導要領において、主体的な学びの実現には見通しと振り返りが重要視されています。学習内容の振り返りはその日に学んだ内容に加えて自身がどの程度理解できているか見直すことも含まれますが、生徒が適切にメタ認知的モニタリングすることは困難です。理解できていないのに過大評価してしまい、学びが身に付かないケースも考えられます。その一方で、できているのに過小評価してしまい、必要のない学習に時間を使ってしまう場合もあります。そのため学習プリントや小テストなどを通して、生徒自身がどの程度理解しているのか可視化できる手がかりを与えることが大切です。また、授業の最後の数分間を使った振り返りも役立ちます。ただし、授業の感想をまとめる時間にならないように、以下のように要素や条件を導入することがポイントです。
効果的に活用できているか定期的に再考しながら活用するとよいでしょう。
高等学校キャリア教育でもメタ認知は重要
高等学校キャリア教育の手引きでは、自己理解・自己管理能力の大切さを挙げています。生徒が自分らしい生き方を実現するためには、自身を知る力「自己理解」が欠かせません。たとえば、進学や就職活動を行う際に自身についてあまり理解できていない場合、誤った選択をしたり選択肢が狭くなったりする可能性が考えられます。進路だけでなく、日常生活でも自己理解が薄いと適切な選択ができません。自身の得意分野や興味があることや価値観などについて、自身を正しく理解する取り組みが重要です。そのために、自身の考え方や感情・興味があることなどを紙に書き出したあとにメタ認知で客観的に書き出した内容を分析することで、より自身について知ることができます。社会に出る直前の高等学校は生徒の将来に大きく関わる大切な期間です。将来、生徒が困らないように早い段階から取り組むことで、社会に出てから自身の資質や能力を生かした活躍ができるでしょう。
メタ認知は教員自身の学びにも有効
これまで生徒のメタ認知について解説しましたが、教師自身の学びにも有効です。たとえば授業内容を理解している生徒が少ないと感じた場合、授業の進行や教材の選択などを含めた自身の言動を振り返り、客観的に評価しつつ改善策を見付ける機会が必要です。また、生徒とのコミュニケーションにおいてもメタ認知は役立ちます。生徒とよりよい関係性を築くことで信頼関係ができ、学校生活が円滑に進むでしょう。このようにメタ認知は、教員自身の学びにもつながるため、生徒とともにメタ認知能力を育成していくことが大切です。
まとめ
メタ認知は自身の頭に浮かんだ考えを、客観的に再考する能力です。学習面に加えて友人関係や日常生活においても重要な役割を果たすメタ認知能力は、さまざまな考え方の軸として役立つ能力です。生徒の将来の可能性を広げるためにはどのようなメタ認知的知識が必要か熟考し、意図的に指導することが大切です。本記事を参考にしながらメタ認知能力の知識を深めて、生徒のサポートにぜひお役立てください。