教員が抱える悩みの1つが、学習が苦手な子どもへの指導方法です。低学力層の子どもにはどのような指導法が適しているのか、あるいは指導の中でどのような工夫が必要なのか悩んでいる方は多いのではないでしょうか。この記事では、子どもの学力低下が起こる背景や低学力層の子どもの特徴、具体的な指導方法を紹介します。学習が苦手な子どもに効果的な指導をしたいと考えている方はぜひ最後までご覧ください。
学力低下が起こる背景
子どもの学力の低下は、さまざまな要因によって生じます。ここでは、学力低下が起こる背景について解説します。
社会的・経済的要因
例えば、生活保護を受けている家庭やひとり親家庭の子どもは家計を助けたい気持ちから、義務教育修了後すぐに働くことを選択することがあります。また貧困家庭の場合、学費や進学後の生活費がまかなえないことから高等学校や大学への進学を断念せざるを得ない子どもも少なくありません。塾や習い事などの費用の捻出が難しいことが子どもの教育の機会を狭め、結果的に学力低下につながっているケースもあるでしょう。このように各家庭の社会的・経済的状況が、子どもの学力低下に影響しています。
家庭環境の影響
例えば、中学生や高校生になった子どもに対して「大きくなったのだから自分でなんとかできるだろう」と、教育に対するサポートを減らしてしまう親がいます。しかしそうした放任すぎる環境では、子どもが学習意欲を持つきっかけがなく、結果的に学力低下が起こりやすくなるでしょう。反対に、教育熱心なばかりに勉強を強要されている子どもも、勉強から離れてしまうことがあります。それは、親からの勉強の強要に対して、反発心を持ってしまうためです。また、文部科学省による「平成29年度 全国学力・学習状況調査の結果及び保護者に対する調査」をもとにした「保護者に対する調査の結果と学力等との関係の専門的な分析に関する調査研究」では、蔵書数が多い家庭ほど子どもの学力が高いことが分かっています。同調査研究では、蔵書数と学力の関係性はそれほど強いものではないとしていますが、蔵書数の違いによって学力の差が見られたのは事実です。このように、子どもの学力低下には、家庭環境も影響していると考えられるでしょう。
参考:保護者に対する調査の結果と学力等との関係の専門的な分析に関する調査研究|国立大学法人お茶の水女子大学
教育システムの問題
田舎の地域にある学校は、都心部の学校に比べて学校施設の老朽化や教育関連設備の不足が起こりがちです。また、学校・塾・習い事の数は田舎よりも都心部のほうが多く、教育の選択肢の幅も地域によって差が生じてしまいます。また、田舎ではアクセスの不便さから学校や塾だけでなく、貧困家庭の支援や子どもの学習サポートなどを行う団体の利用も困難な場合があります。このように、地域による教育システムの差は、子どもの学力低下の要因の1つです。
低学力層の子どもが持つ特徴
効果的な指導を行うためには、低学力層の子どもが持つ特徴を把握することが大切です。ここでは、低学力層の子どもによく見られる特徴を3つ紹介します。
基礎学力が不足している
どの学問でも共通しているのは、基礎の上に応用が積み重なっていくことです。数学であれば足し算や掛け算などができてこそ方程式や関数が理解できるようになり、英語であれば単語や文法を知っているからこそスピーキング力やリスニング力を伸ばせるようになります。基礎学力がなければ、いくら勉強しても学力は向上しません。基礎学力の不足は、低学力層の多くの子どもに見られる特徴です。
学習意欲が低い
学習意欲が低い原因は様々ですが、そのひとつとして、前項で解説した基礎学力の不足も考えられます。基礎学力がないことから授業の内容が理解できないと、次第に勉強に対して抵抗感を抱いてしまうでしょう。また、中学生や高校生になると、部活動や友人との交流など勉強以外のあらゆる物事に興味が向くようになります。そうなると、勉強の優先順位は低くなり、次第にモチベーションは失われていきます。その他、勉強することに意味を見いだせずに、モチベーションが上がらない子どももいます。このように原因はさまざまですが、低学力層の子どもには学習意欲が低い特徴があります。
学習方法に誤り・問題がある
誤った学習方法には、次のようなものが挙げられます。
・教科書の内容を1から10まで書き写す
・問題集を1回しか解かない
・教科書や問題集を眺めているだけ
上記のような学習方法だと「勉強したつもり」になっているだけであり、学力は向上しません。また、音楽を聴きながら勉強していたり、頻繁にスマートフォンを触っていたりするとその分集中が削がれ、学習効率は下がってしまいます。低学力層の子どもの学習方法には、しばしばこのような誤りや問題が見られます。
低学力層と高学力層の違いとは?
低学力層の子どもと高学力層の子どもには、学習の方法や環境などに大きな違いが見られます。ここでは、低学力層と高学力層の違いを3つ紹介します。
目標の立て方
低学力層の子どもが目標を立てると、「成績を上げる」「クラスで上位に入る」といったような抽象的な目標になってしまいがちです。また、現在の実力を考慮せず、高すぎる目標を設定してしまう特徴もあります。一方で、高学力層の子どもは「次のテストで80点を目指す」「2週間で単語を100個覚える」といったように、数値や期間が明確な目標を設定します。また、自分の実力をしっかり把握していることで、少し頑張れば達成できそうなレベルの目標を立てられることも高学力層の子どもの特徴です。さらに、高学力層の子どもは最終ゴールだけでなく、ゴールに到達するまでの過程も自分で考えられる点も、低学力層の子どもとの違いです。例えば、「次のテストで80点を取るために、苦手な文法を見直そう」「2週間で単語を100個覚えるために、登校前の20分間を単語学習に充てよう」といったように、目標を達成するためにはどのような方法で学習したらいいのかを自ら考えて、行動できます。目標を1つ設定するのにも、低学力層と高学力層には大きな違いがあります。
自発的な意欲を持っているか
先述の通り、学習へのモチベーションが乏しい傾向にあるのが低学力層の子どもの特徴です。なおかつ、「親がやれと言うから」「先生にやれと言われるから」「テストがあるからしょうがなく」と、周りからの影響によって勉強を「やらされている」状態の子どもが多く見られます。反対に、高学力層の子どもは新しい知識を得られることや分からないことが解明されることに楽しさやうれしさを感じ、自発的な意欲を持って学習に臨んでいます。外的要因によって勉強をしているのと、内的要因が学習の原動力になっているのが低学力層と高学力層の違いです。
勉強を行う環境
低学力層・高学力層それぞれによく見られる学習環境の特徴は、次の通りです。また、低学力層と高学力層では、親の子どもへの関わり方にも違いが見られます。低学力層の子どもの場合、親が勉強を強要していたり、結果ばかりを見てできないことに対して過剰に厳しく指導するというケースが見られます。一方で、高学力層の家庭では、子どもが親に気軽に相談できる関係性が構築できており、親は結果だけでなく努力の過程にもしっかり目を向けている傾向にあります。物理的要素から親の養育態度まで、低学力層と高学力層の学習環境には大きな違いがあります。
低学力層への指導や対策方法
低学力層も含めた全ての生徒に適切な教育指導を行うのが、教員の重要な役割の1つです。ここでは、低学力層の子どもへの指導方法や対応方法を紹介します。
習熟度別・少人数指導を行う
習熟度別・少人数指導とは習熟度別にクラスをいくつかのグループに分けて、少人数で授業を行う方法です。習熟度別・少人数指導には1人ひとりにきめ細かい指導を行うことで、学習効果を高めるねらいがあります。習熟度・少人数指導を実施することで、低学力層・高学力層のどちらにも適切な指導ができるようになります。習熟度別・少人数指導に役立つのがICTツールです。ICTツールを用いることで児童・生徒の理解度や誤答の原因の分析、および学習内容の個別最適化が可能になります。個別最適化された学習に取り組み、「できた」「わかった」という成功体験を積み重ねていくことが、児童・生徒の学習意欲や理解度の向上につながります。東京都教育委員会が小学生・中学生を対象に実施した「令和5年度児童・生徒の学力向上を図るための調査」では、習熟度別・少人数指導を受けた場合の算数/数学や英語の理解度について、全学年の90%以上が「よくわかるようになると思う」と回答しています。低学力層の子どもの学力向上を目指すのであれば、積極的に習熟度別・少人数指導を取り入れていくのがよいでしょう。
参考:令和5年度「児童・生徒の学力向上を図るための調査」|東京都教育委員会
モチベーションを高めるコミュニケーションを図る
子どものモチベーションを高めるためには、頑張った先の未来を提示するような声がけが必要です。例えば「勉強しなかったらいい点が取れないよ」ではなく、「勉強したら(努力したら)平均点超えがねらえるよ!」といったように、前向きなコミュニケーションを心がけます。ただし、中には「もっと頑張らないと、目標を達成できないよ」と危機感を持たせることでやる気が出る負けず嫌いな子どももいるため、子どもの性格を考慮してコミュニケーションの取り方を変えるのがおすすめです。もしテストの点数が悪かったり、目標を達成できなかったりしたときには、原因や改善策について一緒に話し合いましょう。その際、子ども自身に考えさせる機会を与えることが大切です。自分で自分のことを分析し、改善策を考えることで、次の目標に向けてモチベーションを高められます。
確かな学力を向上させる「学力向上アクションプラン」とは?
「学力向上アクションプラン」とは文部科学省が2003年度から実施している施策で、子どもの確かな学力を向上させることを目的としています。学力向上アクションプランの実施が開始された当初、学習指導要領では「確かな学力」「豊かな人間性」「健康・体力」の3つを合わせた「生きる力」の育成が掲げられていました。学力向上アクションプランは、生きる力の1つである「確かな学力」にフォーカスした施策ということです。2017年・2018年・2019年改訂の学習指導要領では、知・徳・体のバランスのとれた力を総称して「生きる力」としていますが、学力向上アクションプランは現在も継続的に行われています。学力向上アクションプランを構成するのは、「個に応じた指導の充実」「個性・能力の伸長」「学力の質の向上」「英語力・国語力の増進」の4つの施策です。2005年度には事業が拡大され、これまで次のような取り組みが行われてきました。
※スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクールの事業は2009年度に終了し、2014年度からスーパーグローバルハイスクール事業が開始されている。
参考:学力向上アクションプラン|文部科学省
まとめ
社会的・経済的要因・家庭環境・教育システムの問題など、さまざまな背景を抱えた低学力層の子どもには、基礎学力の不足や学習意欲の低さなど共通した特徴が見られます。教員はこうした特徴を踏まえつつ、習熟度別・少人数指導を実施したりモチベーションが高まるようなコミュニケーションを心がけたりすることで、低学力層の子どもの学力向上に努めることが重要です。ぜひこの記事で解説した内容を参考に、低学力層の子どもへの指導を工夫してみましょう。