社会人の学び直しとして注目されている「リスキリング」。似たような言葉にリカレント教育がありますが、詳細な違いについて知らない方も多いのではないでしょうか。この記事では、リスキリングの概要やリカレント教育との違い、教育分野における必要性について解説します。教育に携わる方はぜひご一読ください。
そもそもリスキリングとは?
リスキリングとは社会人が仕事をしながら新しい学びを得ることです。ここでは、リスキリングとリカレント教育の違い、国がリスキリングに対してどのような取り組みをしているのか解説します。
リスキリングとリカレント教育の違い
リスキリングは、今の仕事に必要なスキルを新たに獲得することや、新しい職業への就職を目指して必要なスキルを身に付けることです。似たような言葉にリカレント教育がありますが、大きな違いは仕事と並行しながら学ぶかどうかです。リカレント教育の場合は一度仕事を辞めて、大学や専門学校に入学し学生として本格的に勉強し直します。一方で、仕事をしながら学び、必要なスキルを身に付けていくのがリスキリングの特徴です。リカレント教育が自主的に学ぶ考え方であるのに対し、企業が制度を設け、社員にそれを利用して学んでもらうのがリスキリングの考え方です。
リスキリングに関する国の取り組み
海外はリスキリングが浸透しているのに対し、日本はかなり遅れている状況です。しかし、リスキリングに力を入れている企業の取り組みもあり、少しずつ認知されてきています。ここでは、リスキリングに関する国の取り組みを見ていきましょう。
教育訓練給付制度
社会人が簿記・TOEIC・英検などの検定試験や国家資格に挑戦するための補助金制度で、雇用保険から給付されます。条件は雇用保険の加入期間が3年以上、初めて利用する場合は1年以上です。雇用保険の対象者であり、かつ決まった期間の勤続期間があれば教育訓練給付制度の対象となるため、適用までのハードルは低いといえるでしょう。
母子(父子)家庭自立支援給付金
20歳未満の子どもを持つシングルペアレントである父・母の能力開発を後押しするために、対象の講座を受講・修了した場合に受講料の一定の割合を助成金として給付する制度です。厚生労働省が全国一律で指定している講座はもちろんですが、都道府県で地域の実情に合わせて対象講座が決められていることもあります。
実は教員にもリスキリングが必要不可欠!
教育現場は常に変化しているため、教員にもリスキリングが必要不可欠です。以下でその理由を解説します。
教育現場のDX推進に対応できるICTスキルを持つ人材が不足している
デジタル化が進む社会に子どもたちが対応できるようにしていくため、教育現場においても最先端の技術を効果的に活用することが求められています。そこで導入されつつあるのが「ICT教育」です。ICTとは「Information and Communication Technology」の頭文字を取ったもので「情報通信技術」という意味を持ちます。情報通信技術そのものはもちろん、インターネットを利用した産業・サービス・コミュニケーションなどの意味としても使われます。ICT教育を行うためには、教師にもそのICTスキルを活用し、教育現場でのDXを推進させる必要があります。教育現場のDXとは、データとデジタル技術を活用し、従来の教育手法を改革しながらデジタルでの教育を行うことです。教育現場でのDXを行うためには、教師側のICTスキルが必要不可欠といえます。学校では、タブレットを使ってインターネットで調べものをする、算数の図形問題の解説をアニメーションで行う、教科書をデジタル化する、といったICT教育が行われています。リスキリングを行うことで、教員はより最新のICT教育について学べるでしょう。
複数の学校種や教科の教員免許を持つ人材のニーズが高まっている
教員免許には、小学校・中学校・高校などの学校種別、国語・算数などの教科別の2つがあります。幅広い知識や高い専門性を持つ教員へのニーズが高まっている背景には、以下の理由が関係しています。
各教科の特性に合わせた、質の高い教育をするため
これからの時代を生きる子どもたちを育成するためには、各教科の特性に合った授業改善がより必要とされます。改善に必要なものは、教員の知識や識見、高い専門性がある指導力です。それらの力を伸ばすためには、教員自らが今以上に学んでいく必要があります。そこで文部科学省では、小学校・中学校の9年間で子どもたち個々の力を伸ばすことを目指しています。そのため、例えば教科の専門性を持った小学校教員や小学校教育を熟知した中学校教員といった人材による、9年間を見据えた教育に重きが置かれていることから、複数の学校種・教科の免許を持つ教員へのニーズが高まってきています。
「情報科」専任教員が足りない
高校の情報科は必修科目であるのにもかかわらず、専任の教員を配置している学校が少なく、ほとんどの高校は「免許外教科担任」が担当しています。その理由は、主要教科に比べると単位数が少ないことや、教員採用試験で情報だけでなく数学や理科など他教科の免許の所持が条件であるなど、ハードルが高い傾向があるからです。高校の新学習指導要領では、生徒全員がプログラミングを学習することになった背景もあり、情報の免許を持つ教員が求められています。
教育現場でリスキリングを進めるメリットとは?
ここでは、教員がリスキリングを行うことで教育現場にもたらされるメリットを3つ紹介します。
人材不足の解消や業務効率化が期待できる
新たな教員免許の取得でできる業務が増えるのはもちろんですが、例えば免許を持つものの教員の仕事をしていなかった人がリスキリングで新たに教員として就職した場合、人材不足の解消にもつながります。新たな学習を通して業務の効率化につながることを学べるため、リスキリングで得た知識は決して無駄にはなりません。今の仕事をさらに充実させられるのもリスキリングのメリットといえるでしょう。
教育の質が向上する
リスキリングをする中で、教育について本格的に学んだのは大学以来という教員も多いのではないでしょうか。学校や講座での学びとこれまでの経験を生かすことで、教員はより質の良い教育を目指せるようになります。自分の学びは、生徒たちをより良い方向へと導くための学びでもあります。学んだことを即実践し、次のリスキリングにつなげていくことも可能です。このことを忘れず、リスキリングに取り組めると良いでしょう。
採用コストが抑えられる
1人の教員が免許を複数取得し、活躍の場を広げられるようになることで、新たな人材を採用する必要がなくなります。1つの教科、1つの校種だけではなく、複数の教科・校種の免許を取得し内容を理解していれば、人員を増やすことなく質の良い教育を提供できるようになるでしょう。リスキリングは教員本人のスキルアップはもちろん、採用コストを抑えられる点は学校側にとってもメリットともいえます。
教員のリスキリングをサポートする制度や取り組みがある
リスキリングとひと口にいっても、毎日の授業や業務などと並行させるとなるとそう簡単にはいきません。そこで活用したいのが、教員をサポートする制度や取り組みです。
大学通信教育による複数免許取得制度
現役の教員だとしても、もう1つ教員免許を取得するとなると再び大学に通う必要があるため時間がかかってしまいます。そこで活用したいのが、通信制大学での複数免許取得制度です。複数免許取得制度には以下の2つがあります。
同校種他教科の教員免許状
同校種他教科の教員免許状とは、例えば中学校の国語の免許を持つ教員が、中学校の社会の免許を取得することです。免許取得に必要な科目・単位の取れる通信制大学で正科生もしくは科目等履修生として免許状に必要な条件を満たせば、教員免許状を追加取得できます。科目履修生なら費用も安価で済みます。
隣接校種の教員免許状
隣接校種の教員免許状を取得する例は以下の通りです。
・小学校教諭普通免許状を持っている教員が中学校教諭2種免許状を取得する
・中学校教諭普通免許状を持っている教員が小学校教諭2種免許状を取得する
こちらも同校種他教科と同じように必要な科目・単位の取れる通信制大学で正科生か科目等履修生で講義を受け、免許状に必要な条件を満たし、かつ実務証明責任者の証明があれば教員免許状を追加取得できます。
文部科学省「新たな教員研修制度」の設置
教員が新たな知識技能に継続して取り組んでいけるよう、オンライン研修が拡大したり、研修の体系化が発展したりと教員の研修制度がどんどん進化しています。文部科学省は、社会的変化や学びの環境の変化を受け、「新たな教師の学びの姿」の実現に向けて主体的・個別最適・協働的な学びが必要であると考えています。学校現場や教師のニーズを踏まえ、新たな研修システムを整備し、教師の資質向上に関する指針の改正、それにもとづくガイドラインの作成が予定されています。
文部科学省「新たな教師の学びのための検索システム」の提供
この検索システムは、教師が資質向上を目的として学べる機会の提供を目的としています。各機関が提供している研修や学習コンテンツなどの情報の検索が可能です。「リスキリングをしたいけれど何から始めれば良いのか分からない」「自分に合う学びを知りたい」といった場合に活用すると、今の自分が欲しい情報を見つけられるでしょう。
文部科学省「教師の養成・採用・研修の一体的改革推進事業」
学校教育とは、さまざまな分野で活躍できる質の高い人材育成の中核です。教育を直接担う教師の資質能力の向上は、特に重要とされています。必要とされている資質能力とは、自律的に学ぶ姿勢、時代の変化や自らのキャリアステージに合った資質能力を生涯高めていく力、などがあります。教師が資質能力をどんどん向上させていけるように、新たな社会に求められる資質能力を持つ教師を養成したり、効果的な研修を行ったりと、教員採用などに関する課題への対応、新たな免許状取得の促進など、教員のスキルアップを目指した取り組みが始まっています。
自治体などによる教職員研修補助金
教員免許更新制の廃止に伴い、教員の能力の保持・向上や、教員1人1人に合わせた研修の実施が求められています。そのためには、オンラインの研修コンテンツなどを活用する合理的・効果的な研修環境が必要です。教員免許を持っているけれど教職に就いていないペーパーティーチャーや外部人材にも同じことがいえます。そのような場合に活用できるのが、自治体などの教職員研修補助金です。大学の設置者や大学共同利用機関の設置者、地方公共団体などが申請可能で、ペーパーティーチャーや外部人材が新たに入職するための研修コンテンツの開発に利用できます。
教員がリスキリングに取り組むコツを紹介
毎日の業務をこなしながらリスキリングをするのはたやすいことではありません。ここでは教員がリスキリングに取り組むためのコツを紹介します。
課題を明確にして解決につながる教材や学習方法を選ぶ
ただやみくもに学習するだけではなく、何を学びたいのかをリストアップし、その内容に合わせた教材や学習方法を選びましょう。そうすることでより学習効率が上がり、学習への意欲も高まります。
業務と両立できる体制をつくる
リスキリングは基本的に仕事と両立して行います。仕事をしながら学ぶのは至難の業ですが、スケジューリングや学習方法を工夫することで両立は可能です。休みの日に学習する、講義の動画はスマートフォンやタブレットなど疲れているときでもさっと見られるようなシステムのものを選ぶ、などの工夫をすると進めやすくなるでしょう。学習する日をあらかじめ決めておくのも、スケジュール管理がしやすいためおすすめです。仕事と両立し、無理なく学習を進める方法は人それぞれ違います。自分にはどのような方法が合っているのか模索してみましょう。
まとめ
指導方法や現在の教育システムについて学んだり、新たに教員免許を取得したりと、勉強を教える側の教員であってもリスキリングは必要不可欠といえます。どんどん変化する教育現場に対応できるよう、継続的な学びができるのが理想的です。まずは自分が何を学びたいのかを探してみてください。