自分の中の怒りの感情をコントロールする手法「アンガーマネジメント」。興味はあるものの、子どものアンガーマネジメントに関してよく分からないと悩んでいる方もいるのではないでしょうか。そこで本記事では、子どものアンガーマネジメントの概要について解説していきます。併せて、子どものアンガーマネジメントの学校教育での扱いや取り組み事例も紹介しますので、教育に携わる方はぜひご覧になってみてください。
怒りのコントロール法「アンガーマネジメント」とは
アンガーマネジメントとは、1970年代にアメリカで開発された自分の怒り(アンガー)をコントロールし、うまく付き合うための心理トレーニング法の1つです。アンガーマネジメントを学ぶことによって、自分の怒りを理解した上でコントロールしたり、前向きな感情を生み出したりして周囲との良好な人間関係を築き上げることが期待できます。教育や学習パフォーマンスの向上のために全米の教育機関でも広く導入され、長年活用されています。
アンガーマネジメントの学校教育上の扱い
アンガーマネジメントの学習は学級活動と道徳の時間に行います。学級活動では、自分たちの課題に気付き、考え方を転換する力を学ぶことで解決方法をつかみ取り、日常生活でどのように生かしていきたいか目標を立てます。このように「望ましい人間関係の確立」や「心身ともに健康で安全な生活態度や習慣の形成」を目的として題材に取り組みます。道徳の時間では学校生活や生活の中で学んだことを振り返り、これからの生き方について考える時間「互いの立場の尊重と寛容の心」として取り扱います。
小学校・中学校担任経験者の95.8%以上が怒りの感情教育が必要と感じている
まずはこちらの調査結果をご覧ください。
イライラしている子供がいないと感じた教員の方が圧倒的に少ないことがわかります。さらに次の調査結果からは、感情に対しての教育が必要と感じている先生は96.1%にも上る結果となり、多くの小中学校担任経験者が感情教育の必要性を感じていることが判明しました。
子どもと大人のアンガーマネジメントの違い
大人は感情をある程度コントロールできる一方で、子どもは感情をコントロールする力が未熟なため、湧き起こる怒りをどのように表して良いのか分からずに興奮してしまうことも珍しくありません。暴言・暴力・かんしゃくなどとともに、持っているエネルギーをぶつけてきたり、攻撃的に怒りを訴えてきたりといった子どもも多く見られます。こういった行動を解決するために実践したいのがアンガーマネジメントです。
アンガーマネジメントが子どもや教育現場にもたらす効果
子どもがアンガーマネジメントを学ぶことで、良好な学校生活やいじめ防止などが期待できるでしょう。子どもの中には感情のコントロールが十分にできず、考えていることをうまく伝えられなかったりして、人間関係の悩みやストレスを抱えている子もいます。このストレスがベースにあり感情のコントロールができなくなってしまった際に、不満やストレスに対処できず対人関係のトラブルやいじめを引き起こす傾向があるとされています。アンガーマネジメントを身に付けると「怒りの感情とうまく付き合える」「相手と自分の感情の違いに気付ける」といったことが期待できます。そうすると、いじめや暴力の未然の防止にもつながりやすくなるでしょう。
子どもが実践しやすいアンガーマネジメントの方法
子どもが実践しやすいアンガーマネジメントの方法は何パターンかあります。中でも特に習得したいのは手軽に始められる「怒りに気付いたら6秒数える」方法です。他には「気持ちが落ち着く言葉を自分にかける」「怒りについてメモする」などが挙げられますが、教育現場や保護者のサポートが必要なものもあります。これらはどの方法も短い時間で身に付くものではありません。その都度、子ども自身が自分の怒りの感情に向き合い周囲のサポートを借りながら取り組んでいく必要があります。
怒りに気付いたら6秒数える
人間は怒りの感情を覚えた際にアドレナリンというホルモンが分泌され、アドレナリンが出ている興奮状態のときはどんなに問いかけても耳を傾けられません。アドレナリンは6秒で全身を巡るといわれているため、この6秒間さえ我慢できれば、怒りを抑えやすくなるでしょう。目を閉じてゆっくり6秒数えるのも効果的です。
気持ちが落ち着く言葉を自分にかける
怒りの感情を覚えた際に「許せない」「なぜ」と感じることがあります。その際に怒りをありのままに放出するのではなく、あえて「何ができる?」「どうしたら良い?」と自分に問いかけをするのもアンガーマネジメントの1つの方法です。この方法では「解決のために対策方法を考えよう」と気持ちを前向きな方向へ切り替えられます。アンガーマネジメントを身に付けることで、このように怒りの力をネガティブなものに使うのではなく、建設的なエネルギーに変えることもできるようになるでしょう。
怒りを点数化する
怒りの点数の付け方としては、怒りの感情がない普段の状態を0点、最大の怒りを10点とし、怒りを感じる出来事が起きたときに点数を付けます。こうすることで「先日の出来事は5点だったけれど今回は3点くらいだから我慢しよう」など、怒りに対して客観的な判断ができるようになり、感情をコントロールする力が身に付くことが期待できるでしょう。
「べき」思考にとらわれていないか考えてみる
子どもは自分の中で「約束は守るべき」「悪口はいうべきじゃない」など、自分にとっての当たり前を決めている場合があります。「べき」思考がベースにあると、自分の当たり前が外れてしまったときに怒りの感情が湧きやすくなるでしょう。このように自分の中で決めてしまっている「べき」思考に気付き、考え方を変えていくことが怒りの感情を生じにくくすることにつながるでしょう。
怒りについてメモする
怒りについてのメモはアンガーログとも呼ばれます。いったん怒りが落ち着いた後も、モヤモヤした気持ちが残ったり頭の中で怒りの原因を考えてしまったりと、うまく切り替えができない日もあるでしょう。このようなときは、メモに書き出すことで頭の中が整理されて自身の考え方が可視化できスッキリします。
子どもにアンガーマネジメントを教えるときのポイント
子どもにアンガーマネジメントを教えるときは、本人の意思や教育現場・保護者のサポートが必要です。ここではアンガーマネジメントを教える際のポイントを2つ紹介します。
怒りは必ずしも悪い感情ではないと伝える
アンガーマネジメントの目的は怒りの感情を抑えるのではなく、怒りをコントロールして適切に表現できるようになることです。怒りを感情のままに表現してしまうと、周囲の人や物だけではなく自身への攻撃にもつながりかねません。怒りはネガティブな感情とともに、自分が守りたいものや本当の気持ちが明確に見えるといったポジティブな作用もあります。そのため怒りは必ずしも悪い感情ではないことを子どもに十分に伝えることが重要でしょう。
子ども自身が自分の怒りに気付くように誘導する
アンガーマネジメントは本人が主体的に取り組むことで効果を発揮しやすいため、子ども自身が何のためにアンガーマネジメントを身に付けるのかを十分に理解しておく必要があります。怒りが抑えられない、怒っていることをうまく伝えられないといった場面があるか、子どもに質問してみるのも良いでしょう。自分の怒りに対する気持ちやこれまでの対処法を確認した上でアンガーマネジメントに誘導するのも1つの手です。
子どものアンガーマネジメント教育に活用できる教材
アンガーマネジメントを実践する前により深く学びたい方は教材で学習してみてはいかがでしょうか。指導用の教材としてはアンガーマネジメントジャパンが展開する書籍を参考にするのがおすすめです。子どものアンガーマネジメント教育に活用できる知識を増やしていきましょう。
子どものアンガーマネジメント教育に役立つ本
ここからは子どものアンガーマネジメント教育に役立つ書籍をご紹介します。子どもの怒りの感情に対して悩みを抱えている方やアンガーマネジメントについて詳しく知りたい方は、ぜひ読んでみてください。
イライラに困っている子どものためのアンガーマネジメント スタートブック
小学校・中学校にアンガーマネジメントを広めてきた著者による、アンガーマネジメント入門書です。自分の怒りの感情をコントロールできず、誰かを傷付けてしまったり自分が傷付いたりする子どものために、怒りとの付き合い方を学ぶアンガーマネジメントを始めてみませんか。
イラスト版 子どものアンガーマネジメント
アンガーマネジメントは、自分の怒りを知り上手にコントロールするスキルです。文章だけではなく親しみやすいイラストも入っているため、実生活をイメージしやすい本といえます。アンガーマネジメントを身に付けて、学校や友達同士でよくあるイラっとしてしまう場面に対処する練習をしましょう。
アンガーマネジメントジャパンが展開する小学生・中学生の指導用教材
アンガーマネジメントジャパンは、学校の授業に利用できるアンガーマネジメントのテキストを開発し、すでに公立中学校や私立中学校での導入が始まっています。
<小学生用>
子どもたちが教師と一緒に自分の気持ち(特に怒りの感情)について学び、より良い人間関係を築くことを目的に組まれているプログラムです。
<中学生用>
アンガーマネジメントを初めて学ぶ中学生向けのテキストです。5つのステップに分けられ、段階的にアンガーマネジメントを学ぶことができます。
まとめ
自分の怒りをコントロールしうまく付き合うためのアンガーマネジメント。子どもが怒りと向き合い感情をコントロールするのは簡単なことではありません。そのため本人の意思と、教育現場や保護者のサポートが重要といえるでしょう。困っている子どもが快適な生活を送るためにも、アンガーマネジメントについて十分に理解してこれからの教育に役立てていきましょう。