ADHDの割合は20人に1人程度といわれており、40人クラスには2人ほどが在籍する計算になります。 ADHDの子どもを担任し、接し方に悩んでいる教員も多いのではないでしょうか。この記事ではADHDの原因や特徴、接し方について詳しく解説します。教室や授業の工夫例も具体的に紹介するので、ぜひ実践に役立てましょう。
子どものADHDの原因や特性を理解しよう
ADHDはAttention-Deficit / Hyperactivity Disorderの略で、発達障がいの1つです。ADHDの子どもはその特性から、日常生活で苦労する場合があります。ADHDの子どもとの接し方を知るために、まずはその原因や特徴を知りましょう。
子どものADHDの原因は?
ADHDの原因は脳の神経系の働きに何かしらの異常や偏りがあることだと考えられていますが、はっきりとは分かっていません。遺伝的要因や環境の影響などもADHDの原因の1つとされています。ADHDは脳の機能の障がいであるため、しつけや育て方が原因で発症するものではありません。ADHDの特徴はそう簡単に変わらないことを理解しておくことが大切です。
子どものADHDに見られる特徴
子どものADHDには「不注意」「多動性」「衝動性」という主に3つの特徴が見られます。また3つの他にも学校生活で困りごとを感じやすい特徴を持っていることがあります。ここではADHDの特徴について、それぞれ詳しく見ていきましょう。
不注意
不注意は、集中力が続かない・忘れっぽい・順序立てて行動できないといった特徴です。具体的には下記のような行動が見られます。
・うっかりミスが多い
・気が散りやすい
・片付けが苦手
・遅刻が多い
・提出物の期限を守れない
多動性
多動性を持つADHDの子どもはじっとしているのが苦手です。例えば下記のような行動が見られます。
・授業中に席を立つ
・所かまわず走り回ったり、高いところに登ろうとしたりする
・順番を待てない
・貧乏ゆすりをする
多動性は幼少期に顕著ですが、成長につれ落ち着いてくる場合が多いようです。
衝動性
思い付きで発言・行動をする「衝動性」もADHDの特徴の1つです。下記のような行動が見られ、日常生活に支障をきたす場合があります。
・静かにすべき場所でしゃべる
・思い通りにいかないとイライラする
・言い合いの場面などで手が出る
・急に走り出したり大声を上げたりする
その他
ADHDの子どもの特徴として、上記3つの他に姿勢・感覚の問題が挙げられる場合もあります。例えば下記のようなことを苦手とする場合があるといわれています。
・線をまっすぐに引けない
・定規やコンパス、リコーダーなどをうまく使えない
・姿勢の保持が難しい
・リズムが取りにくい
日常生活への支障が大きい場合は、小児リハビリへ通院するケースもあります。
子どものADHDの学齢別特徴
多くの子どもは活発に動き回ったり感情のコントロールがうまくできなかったりする場合があり、こういった特徴はADHDと共通しています。一方でADHDの子どもに顕著に表れやすいといわれる特徴も存在します。ここでは学齢別に、ADHDの子どもが持つ特徴について解説します。
小学生によく見られる特徴
ADHDの小学生には次のような特徴が顕著に見られます。これはADHDが持つ不注意・多動性・衝動性に起因するものです。
・授業中に立ち歩く
・毎日のように忘れ物をする
・配布されたプリントがランドセルの中でぐちゃぐちゃになっている
・順番を待てない
・指名されていないときに発言する
・集会などでじっと座っていられない
中学生・高校生によく見られる特徴
中学生・高校生になると人間関係がより複雑になる中で、友だちなどとコミュニケーションがうまく取れずに苦労することが増えるケースが多くあります。またADHDは計画的に学習することを苦手とするためテストなどで思ったような結果が出ず、進路選択で苦労することもあります。中学生・高校生によく見られる特徴としては、下記が挙げられます。
・人の話を聞かない・遮る
・飽きっぽい
・好きなことには集中力を発揮する
・思ったことを軽率に口に出す
・提出物の期限を守れない・提出物を紛失する
・計画的に勉強できない
ADHDの子どもに対する接し方のポイント
ここではADHDの子どもに対する接し方のポイントをご紹介します。教育現場で子どもと関わる人はADHDの子どもとも接する可能性が高いものです。適切な接し方について理解し、子どもの健やかな成長のために役立てましょう。
子どもを落ち着かせることを優先する
ADHDの子どもがパニックになっているときなどは、まずは落ち着くよう対処することが大切です。例えばADHDの子どもが友だちと言い合いになり手を出してしまった場合、教員は身体を押さえる必要があることもあります。声掛けの方法としては、例えば「落ち着きなさい」と注意するのではなく「〇〇君が危ないから身体を押さえているよ。落ち着いたら離します」と冷静に状況を伝えると良いでしょう。また落ち着いた後は起こったことや子どもがしたこと、相手の気持ちや今後の予防策について子どもと話し合います。
1つずつ具体的・簡潔に指示をする
ADHDの子どもは一度に多くの情報が入るとパニックになりやすく、ハードルが高いと感じて物事へのやる気やできるという自信をなくす原因につながることもあります。それゆえ教員には情報を端的に分かりやすく伝えることが求められます。また、ADHDの子どもにとって「ちゃんとして」「急いで」といった抽象的な声掛けは理解しづらい場合があります。「靴にはかかとを入れて履きましょう」「10分で終わらせましょう」などと、なるべく具体的に指示すると伝わりやすくなるでしょう。
視覚的に理解しやすい伝え方をする
ADHDの子どもの中には、言葉での理解が苦手で視覚的な情報理解が得意というタイプもいます。そのため、視覚的に理解しやすい伝え方の工夫をすると良いでしょう。例えば課題の取り組み方・当番の仕事の手順は、箇条書きにしたり絵や写真で説明したりした掲示物を用意すると、子どもが自らそれを見て取り組める場合があります。
小さな課題からクリアできるよう支援する
ADHDの子どもに良い行動が身に付くようにするためには、小さな課題からクリアできるよう支援することが大切です。小さな課題をクリアできるようにするためには、以下のようなステップを踏むと良いでしょう。
1.課題を明確にし、できるようにしたいことを子どもと共有する
2.1で共有した課題を細かく分ける
3.教員がモデルを示し、子どもと一緒に取り組む
4.子どもが練習する
ステップ4で子どもが練習する間、教員はこまめにサポートしましょう。また部分的にでもできたところは褒めると習慣が定着しやすくなります。
良いことやできたことは大げさなくらいに褒める
褒められることによってADHDの子どもはすべき行動を理解できると同時に、自分が認められたと感じ自己肯定感が向上します。本人の特性から注意されることが多いADHDの子どもにとって、自己肯定感が上がる経験は健やかな成長のためにも大切です。
行動や発言のルールを明確に伝える
ADHDの子どもはその特性ゆえに、ルールを守ることが難しい場合があります。行動や発言のルールは子どもに分かりやすいよう明確に伝えることが重要です。例えば、授業中に指名されていないのにADHDの子どもが発言してしまったとします。発言して良いときには「では発言してください」とはっきり伝えます。静かにしなければならないときは「今は〇〇さんの話を聞く時間です」などと言葉で伝えたり、絵カードなどを用いてサインを送ったりします。子どもにとって分かりやすいサインや合図を事前に決めておくと良いでしょう。
ADHDの子どもがいる場合の教室や授業の工夫例
ADHDの子どもはその特性から授業に集中したりルールを守ったりすることが苦手な場合があります。クラスにADHDの子どもがいる場合、教員が教室の環境づくりや授業の方法を工夫をすると子どもは過ごしやすくなるでしょう。ここでは「じっとしていることが苦手な子の場合」「忘れ物やうっかりミスが多い子の場合」「気が散りやすい子の場合」の3項目に分けて、具体的な工夫例をご紹介します。
じっとしていることが苦手な子の場合
じっとしていることが苦手な子どもには、次のような配慮が有効です。
授業中に歩いても良い役割を与える
授業中に歩きたくなる子どもにはプリント配りなど動けるお手伝いを頼むといった工夫をしてみましょう。授業開始から〇分後など、子どもが動きたくなる時間を見極めて頼むことも重要です。
次にやるべきことを伝える
やることがなくなったり分からなくなったりすると、ADHDの子どもは手持ち無沙汰で動きたくなってしまうものです。次にやることなどの声掛けをし、見通しを持てるように配慮しましょう。
授業中に短い休憩をはさむ
授業中の子どもが動きたくなる時間を見計らって、クラス全体でストレッチをする短い休憩をはさむのも良いでしょう。動きたい気持ちをいったん発散させることによって、その後も集中できるようになります。
忘れ物やうっかりミスが多い子の場合
忘れ物やうっかりミスが多い子に向けては、下記のような対策が考えられます。
端的で分かりやすい話し方をする
ADHDの子どもは長い話や一度にたくさんの情報を聞くことが苦手です。話す側はポイントを押さえて端的に分かりやすく伝えることを心掛けましょう。
絵や図を使って視覚的に分かりやすいプリントをつくる
耳で聞くよりも目で見て情報を処理するほうが得意な子どももいます。絵や図を使って視覚的に分かりやすいプリントをつくることも、ADHDの子どもに物事を端的に伝えるための手段です。例えば矢印を使って手順を示したり、絵カードで1日のスケジュールを掲示したりする工夫が考えられます。
大事なことは繰り返し伝える
ADHDは気が散りやすい特性を持っており、大切な話をうっかり聞き漏らすことも多いものです。しかし繰り返し伝えることによって、どこかのタイミングで情報をキャッチできるでしょう。また口頭だけでなく、掲示物などで視覚的に情報を伝える工夫も有効です。
気が散りやすい子の場合
気が散りやすい子の場合は、下記のような配慮を行うと過ごしやすくなるでしょう。
教室内をシンプルにする
教室内をシンプルにすれば、ADHDの子どもにとって余計な情報が目に入らず集中しやすくなります。特に授業中目に入りやすい黒板の周りは掲示物などを貼らず、すっきりさせておくと良いでしょう。
棚など気を取られてしまうものに目隠しをする
棚の中身や窓の外の景色が見えると、ADHDの子どもはつい気が散ってしまうものです。棚にカーテンをしたり、窓に目隠しフィルムを貼ったりといった工夫を行うと改善される場合があります。
外や他のことが気になりにくい真ん中の席に座らせる
廊下や窓の近くは外からの刺激が多いため気が散りやすくなりますが、教室の真ん中の席であれば比較的刺激が少なく集中しやすくなります。
落ち着きのない子やちょっかいを出す子とは離れて座らせる
落ち着きのない子やちょっかいを出す子が近くにいると、ADHDの子どもは相手のペースに飲まれやすくなります。席を離すなどして、互いに目に入りにくいよう配置に気を配りましょう。
ADHDが子どもにもたらす二次障がいに注意
ADHDの子どもに二次障がいが生じないよう、周囲の大人は注意が必要です。二次障がいとは心の傷付きや精神的な不調が日常生活に支障を及ぼすものです。 ADHDの子どもはその特性から傷付いたり自尊心が低下したりしやすく、二次障がいが生じる危険性が高いといえます。以下で詳しい症状や予防法を解説します。
二次障がいに見られる症状
親や先生との関係が悪循環に陥ることも
例えば下記の4パターンを循環的に繰り返す場合が考えられます。
1.子どもが大人に認めてもらえず落ち込んだり反抗したりする
2.大人がイライラしたり落ち込んだりする
3.子どもが大人の気持ちをキャッチし、さらに問題行動を起こす
4.大人は子どもを叱責する
早期の予防・対策を意識した接し方が大切
二次障がいが一度生じると、ADHDの子どもが本来持っていた困難さがさらに増していき、本人や親は脱するために大変な労力を要します。二次障がいは否定的な感情が積み重なることによって生じます。つまり、つらい時間が長くならないようにすることが重要なのです。具体的には下記のような接し方をすると良いでしょう。
・子どもの特性に気付き、理解する
・子どもが生きやすい環境を整備する
・子どもが達成感を得られるようにする
また、二次障がいが疑われる場合は家庭や学校だけで抱え込もうとせず、医療機関や相談機関に早期に相談しましょう。
まとめ
ADHDの子どもは不注意・多動性・衝動性といった特徴を持っており、学校生活の中で過ごしにくさを感じている場合が多いものです。教員がADHDの子どもと接するときには、視覚的に分かりやすく伝える・集中しやすいように環境を整えるなど、子どもの特性に合った工夫をすることが求められます。またADHDの子どもは叱責された経験や失敗経験が必然的に多くなることから、二次障がいを生じるリスクを抱えています。子どもの良い部分や得意なことを認め、自信を持てるよう支援することも大切です。