2024/11/26(火)
給特法改正は2022年から盛んに議論され、2023年6月の「経済財政運営と改革の基本方針2023(骨太の方針)」にも反映されました。骨太の方針では、給特法の枠組みを含む制度設計の検討を進め、教師の処遇の抜本的見直しへの言及がありました。本記事では、給特法改正の背景と最新情報をさまざまな視点から分かりやすく解説します。給特法の問題点や今後の見通しを理解する上で参考になるため、ぜひ最後までご覧ください。
教員の給与や労働条件に関する法律「給特法」とは
給特法とは「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」の略称で、日本の公立学校教育職員の給与や労働条件を定めた法律です。教育職員には、原則として時間外勤務手当や休日勤務手当は支給されません。給料月額の4%に相当する額を、教職調整額として支給することが定められているためです。教職調整額の4%は、1966年当時の1カ月残業時間が約8時間だったことを根拠にしています。
参考記事:https://www.sankei.com/article/20221220-AL7Y2D6ZB5MFTDQROJSAEGBQNA/
給特法改正が求められている理由
給特法改正が求められているのは、教育職員の勤務実態が給特法制定当時から、年月とともに大きく変化したためです。教育職員へ時間外勤務を命じられる仕事は、超勤4項目と呼ばれる業務で下記のとおりです。
・校外実習その他の実習
・修学旅行その他の学校行事
・職員会議
・非常災害などに関する業務に限定
近年は、共働きの保護者も多く勤務終了を待って対応することも増えるなど、勤務時間も増加せざるを得なくなっています。また、保護者の都合で始業時間前に登校せざるを得ない生徒がいる場合にその登校指導にもあたる必要があることから、朝早くから対応している教育職員も多いでしょう。さらに部活動の担当になれば、平日の授業終了後や休日に対応することが多く、本来の授業準備への業務は時間外にやらざるを得なくなってしまいます。
給特法が制定された背景
給特法は1971年に制定されました。従来は、教育職員の職務の特殊性から勤務時間の測定が難しいため、超過勤務を命じない指導方針が取られていました。現在は教員の実態とはかけ離れ、時間外に勤務せざるを得ない教育職員の一部からは「超勤訴訟」が全国一斉に提起され、待遇の改善を要求する声が上がっています。かつては、人事院からも教育職員の超過勤務手当の問題に対する指摘がありました。教員給与の改善の実現に向けて、1971年の給特法制定へつながったという背景があります。
現行の給特法は現代の公務員の勤務実態にそぐわないため
現代の教育職員の勤務実態では、業務が長時間化しているにもかかわらず、超勤4項目以外では超過勤務を行えません。地方自治体に勤務する公務員と異なり、やるべき業務があるのに自由に残業できないということです。やむを得ず仕事を持ち帰り、自宅で授業準備や採点などを行う教育職員もいるのではないでしょうか。現行の給特法は、教育職員の勤務実態に合わないため改正に向けた動きも出ています。
改正に向けた動きは深刻な教員不足と過酷な勤務状況のため
2016年に実施された教員勤務実態調査によると、教員の1週間当たりの学内勤務時間は中学校で63時間20分、小学校で57時間29分と、労働基準法が定める週40時間を大きく上回っています。教員勤務実態調査には、自宅に持ち帰って行う授業準備などの時間数を含めていないため、過酷な勤務状況であるといえます。2006年の教員勤務実態調査に比べても、学内勤務時間が増加しました。増加した理由は下記のとおりです。
・経験不足の若手教師の増加
・総授業時間数の増加
・中学校における部活動時間の増加
過酷な勤務状況が教員不足へとつながり、給特法の改正に向けた動きが出ている大きな要因の1つです。部活動時間の増加については、地域のスポーツクラブが土・日の部活動を受け持つ地域が出ていることは改善材料の1つといえるでしょう。
参考資料:文科省特別措置法の一部を改正する法律の概要:資料1-1P2
直近の改正で給特法はどう変わった?
2020年から2021年にかけて改正された、給特法の主な改正点は下記のとおりです。
・上限を踏まえた業務の量の適切な管理の実施
・1年単位の変形労働時間制の活用
時間外在校等時間の上限は、1カ月45時間以内とし、1年間に360時間以内と指針で定めました。在校等時間とは「超勤4項目」以外の業務を行う時間も含め、教育職員が学校教育活動に関する業務を行っている時間として把握できる時間です。在校等時間も勤務時間管理の対象とされています。また、1年単位の変形労働時間制の活用は、夏休み中の休日のまとめ取りのように集中して休日を確保できるようにしました。全国一律でなく地方公共団体の判断により、1年単位の変形労働時間制の適用が可能になりました。
現在の給特法改正の主な焦点は残業代の取り扱い
文部科学省の試算によると、現行の4%の教職調整額を実態に近いものに大まかに換算すると、9,000億円超です。小学校の教育職員の教職調整額を30%近くに、中学校の教育職員の教職調整額を約40%に引き上げた見込み額です。現実的に達成が可能かは、財務省をはじめとした各省庁の思惑もあるため、政治的なリーダーシップが必要になります。公立学校の教育職員は、より良い授業を行うために現在の状況を受け入れつつ残業を行っています。現在の残業代の取り扱いは、決して最善の方法とはいえません。一般の地方公務員は必要な仕事があれば、超過勤務を申請後に上司に認められると残業が可能です。現在、公立学校の教育職員は、超過勤務手当の代わりに4%の教職調整額が与えられています。今の状況が続くと教育職員のモチベーションが下がり、教員不足に拍車がかかってしまいます。教育現場は、ますます厳しい状況に追い込まれるでしょう。解決のためには、現在の給特法で残業代の改正をするなど、現場の教育職員が納得するような方法を取る必要があります。「労働基準法の割増賃金規定にもとづき残業代を支払うべき」との声が高まっています。理解が得られなければ、一部の教育職員からは訴訟などに発展する可能性もあり得ます。今後、給特法改正の議論が活発化する中で、残業代の取り扱いについて新たな提案が出てくると考えられるでしょう。
参考資料:https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/079/siryo/1402618.htm
(文科省の試算:下から18行目)
自民党案は現行の4%から10%への引き上げ
2023年5月に自民党の特命委員会が提言をまとめました。自民党の特命委員会は、学校での業務量が増えていることが課題だと指摘し「お金の面だけでなく仕事内容も含めて見直す必要がある」と提言しました。処遇を改善し、教育職員の志望者を増やすことも狙いの1つです。教職調整額の支給比率を、現行の4%から10%以上に引き上げる案が議論されました。採用されれば、国費で約690億円かかります。今後さらに、中央教育審議会の特別部会で議論が重ねられ、具体策が答申されます。文部科学省は、2025年度中の通常国会での制度改正を視野に入れています。
参考記事:教員給与の増額検討へ 文科相が諮問、自民案が検討の軸に
給特法廃止を求める声も大きい
現役の教育職員からは、給特法を廃止しなければ現状は変わらないとの声もあり、長時間労働の常態化について裁判が提起されるほどです。給特法の改正をめぐっては、改正しても問題の解決には至らないと廃止を求める声も多く出ています。抜本的な解決を求める声が多く、給特法の改正と廃止はともに非常に重要な問題で、今後の議論の行方が注目されています。
残業代以外の教師の処遇改善の方針は?
2023年6月に骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針2023)が発表されました。働き方改革の一環として、教育現場ではデジタル化を取り入れた業務の効率化を行います。全ての教育職員の時間外の在校時間を、国が残業時間の上限としている月45時間以内にすることを目標にし、将来的には月で約20時間に減らすべきだとしています。さらに、各種手当の見直しでは学級担任手当の創設を含めるなど、職務の負荷に応じたメリハリのある給与体系の改善を図ることが求められました。2024年度中に、必要な法案を国会に提出するよう検討しています。管理職に対しては、管理職を確保するための管理職手当の改善なども考慮の対象です。タイムテーブルでは、2024年度からの3年間を集中改革期間としています。2024年度からは、小学校高学年の教科担任制を強化し、教員業務支援員の小・中学校への配置拡大をスピード感を持って進めることとしました。教師の処遇改善の方針を改めてまとめると、下記のとおりです。
・時間外の在校時間の目標を月45時間以内に設定
・将来的には月約20時間に減らすべき
・新たな手当の創設を含む各種手当の見直し
・学級担任手当の創設
・管理職を確保するための管理職手当の改善
・教員業務支援員の小・中学校への配置拡大
参考記事:24年度に給特法改正案、「集中改革期間」を明記 骨太方針決定 | 教育新聞
給特法改正には課題もある
いわゆる「過労死ライン」を超える、長時間勤務を余儀なくされる教育職員も珍しくありません。最近では過重労働で心身を病み、休職や退職に追い込まれる、過労死に至ってしまう、といった教育職員も増えています。給特法を改正して、教職調整額の支給比率が4%から10%以上に引き上げられても、教育職員の働き方を変えなければ教員を目指す若者は増えないのではないでしょうか。また、私立学校の教育職員は給特法の適用外のため、公立学校の教育職員とバランスを取る必要があります。
給特法改正の今後の見通しは?
まず、2024年度中に給特法改正案を国会に提出することが検討されています。2024年度から3年間を集中改革期間と定める方針で、教育職員の働き方改革が議論されていくでしょう。子どもたちも多様化し少子化等の変化を踏まえて、質の高い教育職員の人材確保が不可欠です。教育職員の将来が、魅力的であることが前提です。給特法改正の今後の見通しとして、教育職員の処遇や勤務制度の改善、さらには学校としての働き方改革が総合的に行われていくと見られています。集中改革期間の3年間において、国・都道府県・市町村並びに各学校が、それぞれの役割をしっかりと果たしていくことが重要です。
まとめ
給特法改正はまだ流動的な部分が多いため、今後の政府、文部科学省の動きには注意が必要です。特に2024年度からの3年間と2025年度中の給特法改正案の提出は、流れを左右する大きな動きになると考えられます。給特法改正は、教育職員の働き方そのものに直結します。どれが大切な情報なのかを見極めていきましょう。