2025/04/28(月)

中学卒業後の進路で、ほとんどの生徒は高校への進学を希望します。しかし、高校だけではなく、高等専門学校という選択肢もあります。高専にはレベルの高い技術者を育成する環境があり、就職実績も進学実績も申し分ありません。本記事では高専について詳しく解説します。
高等専門学校(高専)とは

高等専門学校は、実践的かつ創造的な技術者を育成することを目的としている高等教育機関です。全国に57校があり、約6万人の生徒が在籍しています。中学卒業後に入学可能な学校で、5年間の一貫教育を行っています。5年間本科で学んだ後は、就職するか、2年間さらに専門的な学びができる専攻科に進学する選択肢があります。
高等専門学校の5つの特徴

高校と似ているようで違う高専ですが、技術者の育成に特化した環境で学べるのが特徴です。ここでは、高校とは明確に違う5つの特徴を紹介します。
①高校・短期大学を合わせた5年一貫教育
高専は、高校と短期大学の5年一貫教育を行う教育機関です。中学を卒業した人が入学でき、卒業期には高校の卒業資格はもちろん、短大の卒業資格も得られます。カリキュラムは、一般科目と専門科目をバランス良く配置しています。技術の専門知識だけではなく、技術者に必要な教養も身に付けられるのが特徴です。
②実験や実習にウエイトを置いた専門教育を行う
高専の中にもいくつか学科があり、工業系と商船系に分かれています。工業系の場合は機械工学科・電気工学科・情報工学科・環境都市工学科などがあります。商船系の場合は商船学科のみです。学校により、経営情報学科・情報デザイン学科などが設置されていることもあります。どの学科にも共通しているのは、実験・実習にウエイトを置いていることです。座学で理論を学ぶのはもちろんですが、実験や実習に重点が置かれているため、座学で学んだことの応用力を身に付けられます。卒業前にある卒業研究では、技術者に必要な創造性を高めていきます。
③専門分野のコンテストやコンペの全国大会を開催・参加することができる
全国の高専の生徒が参加する、ロボットコンテスト・プログラミングコンテスト・デザインコンペティションなどがあり、日頃学んだ成果を発揮できます。他の高専の生徒と交流することで今後の学びへのモチベーションアップにもつなげられます。同じ高専という舞台で学ぶ生徒同士だからこそ、大会やコンテストはお互いに学べることが多い場といえるでしょう。
④卒業生は産業界から高い評価を受けている
高専の卒業生は、製造業はもちろん、さまざまな分野で高い評価を受けています。高専生が就活を行う場合、就職率や求人倍率も高いため、それだけ期待されていることが分かります。即戦力にもなれる高度な知識・技術を身に付けていた場合、その力を欲しいと考える企業が多いということです。
⑤卒業後には専攻科に進学し、より高度な技術が学べる
高専は5年制ですが、卒業後は就職しなければならないというわけではありません。専攻科に進学し、もう2年勉強することも可能です。専攻科では高度な技術教育が行われており、卒業後には大学卒業の資格を得られます。進学の進路は専攻科だけではなく、4年制の大学に3年生から編入するパターンもあります。国立高等専門学校機構のデータでは、2021年度の高専卒業生の約40%が進学しており、専攻科か大学編入かの道を選んでいます。就職はもちろん、進学にも強いのは高専の強みです。
高等専門学校の入学資格や受験スケジュール

高専の入学資格は、中学校の卒業者・中等教育学校の前期課程修了者・文部科学省が中学卒業と同等の学力があると認めた人に与えられます。これは高校と同じ入学資格です。実は高校の卒業者は高専に編入することもできます。受験のスケジュールとしては、毎年1・2月に試験を実施します。一般入試のように学力試験の成績で合否を決めるか、推薦入試のように推薦の選抜があります。
高等専門学校(高専)と高等専修学校・専門学校との違い

高専によく似た学校に、高等専修学校と専門学校があります。高専とどう違うのか、それぞれ解説します。
在学年数の違い
高専の在学年数は5年ですが、ほとんどの高等専修学校は3年、ほとんどの専門学校は2年です。高専は在学年数が長い分、3年生修了時には高校卒業資格が、5年生卒業時には短大卒の資格である准学士の称号が与えられます。
進学のタイミングの違い
ほとんどの高専生と高等専修学校生は、中学を卒業後に進学します。高校に代わる進路の選択肢の1つです。一方、専門学校だけは進学タイミングが異なり、高校を卒業していないと入学資格がありません。中学を卒業後に進学ができるか、高校卒業後の進学先なのかが大きな違いです。
学べる分野の違い
高専では、工業分野と商船分野を学びます。高専へ進学した時点で工業分野へ進むことが確定しています。高等専修学校は、工業分野はもちろんのこと、農業・医療・衛生・社会福祉と教育・商業・家政・教養と文化の8分野から好きなものを選択し、専門知識と技術を身に付けます。専門学校はさらに多くの分野があり、好きなことや国家資格の取得を目指して学ぶことができます。高等専修学校を卒業すると、大学受験資格は与えられますが高卒の資格が得られないため、専門学校などに進学してさらに磨きをかける生徒もいます。高専も3年生を修了していれば専門学校に入学が可能です。
生徒にとって高等専門学校(高専)に進学するメリットは?

高専は難易度が高い学校であるため、集まる生徒のレベルも高く、勉強するのに適している環境です。他にもある高専のメリットについて紹介します。
在学中に専門分野の資格取得がしやすい
学生のうちに、社会人になってからのことを想定し資格取得を考える学生は多くいます。高専も、資格取得に適しており、積極的な取得を推奨しています。TOEIC・英語検定などの一般的なものはもちろんですが、第二種電気工事士や危険物取扱者などの難易度の高い専門的な資格も取得できます。社会人になる前にしっかりと専門分野の勉強をした証しにもなるでしょう。
国立校が多いため学費を抑えられる
高専は、そのレベルの高さから学費も高いと思われがちです。しかし国立の学校がほとんどのため、学費が年額234,600円と決められています。これは本科も専攻科も同じ金額です。1年生〜3年生の高校生に当たる学年では、高等学校等就学支援金制度を利用すれば実質11万5,800円まで授業料を抑えられます。もし高校から短大に進学した場合の学費と比較しても、かなり安価といえるでしょう。少ない費用ですが、受けられる授業のレベルは高く、卒業すればいろいろな企業から必要とされる存在になりえます。
在学年数が長く、卒業後の進路を考える時間がある
高校は3年、高専は5年という在学年数の違いも人によっては大きなメリットではないでしょうか。高校は3年で卒業するため、入学から3年後には進路を決定しなくてはなりません。しかし高専の場合は卒業が5年後であるため、ゆっくり進路を考える時間があります。技術を勉強したいのは決まっているけれど、進学か就職かで悩んでいるという生徒に対しては、高専も視野に入れるよう勧めてみてはいかがでしょうか。
高等専門学校に進学するデメリット

メリットばかりに見える高専ですが、実はデメリットもあります。どのようなデメリットがあるのか解説します。
工業系からの進路変更が難しい
高専は工業系の技術を学ぶ学校です。そのため、ほとんどの生徒が工業系の企業に就職したり、学校に進学したりします。中には進路変更をする生徒もいますが、レアケースです。もし語学や経済など文系の学部に進路変更する場合、高専から大学への編入はできないため、大学入試を受けて入学する必要があります。それに加え、高専では普通科の高校のように大学受験対策の授業を行わずに専門科目を学ぶカリキュラムが組まれているため、もし進路変更で大学受験をする場合は独学で勉強しなくてはなりません。このことから、高専では進路変更の難しさがデメリットといえます。
親元を離れる可能性がある生徒がいる
高専は全国に57校あります。各県に1校以上が設置されている計算ですが、神奈川県・埼玉県・滋賀県・山梨県・佐賀県の5つの県には高専がありません。県内にない場合はもちろん、現在住んでいる県に高専があったとしても、住んでいる地域から遠いところにあれば自宅からの通学は難しいでしょう。そうなると、高専進学時に親元を離れる必要性が出てきます。実際に親元を離れて高専に通う生徒はたくさんいます。各高専には寮があるので、親御さんも安心です。親元を離れることがメリットなのかデメリットなのかは人によりますが、寮に入ると今までのように簡単に家族に会えなくなってしまいます。
普通の高校よりも留年の可能性が上がる
高専は高校よりも留年率が高く、次のテストで点数が取れなかったら留年になってしまうという生徒も珍しくありません。その理由は、赤点が60点以上であること、専門科目・数学の難易度が高校よりも高いことです。試験の成績による留年もありますが、出席日数が足りない、カンニングをしてしまったという理由で留年してしまうのは普通の高校と同じです。
高等専門学校生の卒業後の進路の実態

高専卒業後の進路には進学・就職の2パターンがありますが、実態はどうなっているのかを調べました。
専攻科・大学編入による進学
進学の場合、高専本科を卒業すると専攻科に進学するか、大学に編入するかの2パターンがあります。大学の場合はほとんどが国公立大学へ進学します。割合は、大学編入は約24%、専攻科への進学は約14%という国立高等専門学校機構のデータが出ています。
工業系の企業への就職
就職した場合は、地域の優良企業や世界的な有名企業に就職する道があります。高専で学んだ技術は各業界の企業から高い評価を受けやすく、就職率は毎年ほぼ100%、求人倍率も20倍です。就職してからも研究開発などでさらなる学びを得られます。
進学率・進学先の例
2022年度に高専卒業生が進学した割合は全体の4割です。専攻科以外へ進学した卒業生の82%以上が国立大学へ進学したという結果が出ています。多くの国立大学がある中、進学先としてかなりの人気があるのは長岡技術科学大学と豊橋技術科学大学の2校です。この2校は高専卒業生のための国立大学で、高専教育と連携した教育が行われています。周りも高専卒業生ばかりのため、大きく変わらない環境で学ぶことができます。
就職率・就職先の例
卒業生の6割が就職します。就職先の例としては、JR東海・サントリー・花王・旭化成などの有名企業が挙げられます。中でもサントリーでは、高専生向けのインターンシップを開催しています。工場見学はもちろん、高専出身の社員が案内を務めるため質問も気軽にできます。他にもセミナーなども開催しており、高専生への手厚いフォローが魅力です。
まとめ

社会に出てすぐ役に立つ専門技術を学べる高専ですが、学校のレベルはかなり高いため、同じ志を持った仲間と質の高い授業を受けることが可能です。進学か就職か、進路を考える期間もたっぷり用意されているので、ゆっくり自分の将来を考えることができます。高専が気になる生徒を受け持っている教員の方は、オープンスクールなどの見学を勧めてみてはいかがでしょうか。

