2025/04/19(土)
学習体験は知識やスキルの習得に加えて、感情や気付きも含めた一連の学びを通して得られるものです。学習体験を重ねることで意識が高まり、生徒が能動的に学習に取り組めるように後押ししたいと考える教師も多いのではないでしょうか。本記事では、学習体験や学習体験デザインの考え方、その効果について解説します。併せて学習体験デザインの取り組み方も紹介するので、生徒の学力向上のために教育現場でぜひお役立てください。
学習体験とは
学習体験(ラーニングエクスペリエンス)とは、何かを学ぼうとする行為全般を意味します。自身が持っているスキル・自信・モチベーション・ツールなどを活用して、問題を解決する際に役立ちます。生徒は授業に加えて、友人とのやり取りやタブレットを使用するときなど、さまざまな方法を通じて常に学んでいます。このように通常の何気ない行動からも生まれるのが学習体験です。これは学習する上で生徒の成長や発見につながる大切な要素といえるでしょう。
学習体験を育成する4つの要素
学習体験は単なる知識の積み重ねでなく、その過程での感情や気付きも含め、生徒が学ぶ際に習得する経験全体を指します。ここからは学習体験を育成する4つの要素を紹介します。
スキル
学習体験の構築には、さまざまな経験を通して「できること」を増やすことが大切です。具体的なスキルを定め、実践的な経験を積むことで効果の向上が期待できます。知識を増やすだけでなく作品をつくりあげる一連の経験を通しつつ、できることを増やしていきましょう。人にたずねることももちろん大切です。しかし、何でも聞いて解決しがちな生徒には、読書をしたり新聞を読んだりすることで、論理的思考を鍛えさせるのもおすすめです。
自信
学習体験は自己肯定感を高める要素も含みます。一例を挙げると、複雑な問題に挑戦して解決できた経験は生徒に自信を与え、他の問題にも意欲的に取り組むことにつながるでしょう。中には周囲と自分とを比較し、できない部分に目がいくことで自信や自己肯定感が下がってしまう生徒も存在します。しかしそこで足を止めずに、自己肯定感を保った状態で進んでいく力はその後の人生にもつながるため、自信は欠かせません。そういった経験は生徒の自信につながるため、スモールステップを活用しつつ細かく褒めることも役立つでしょう。
モチベーション
学習に向かう意識を維持するためにはモチベーションが欠かせません。たとえば興味深い授業を実践したり、挑戦的な問題を出したりと何らかの刺激を加えると、生徒はモチベーションを維持する力を獲得できるでしょう。またいくつかの目標を立てて、小さな目標から達成できるようにしていくのも1つの手です。
ツール
ICTを活用するGIGAスクール構想が開始されたことにより、生徒が意欲的に学ぶ機会が増えました。適切な学習ツールを利用することで、学習体験はより効果が期待できます。たとえば対面式のアプリケーションを使用すれば、教室を移動せずに他のクラスと交流したり、地域の方々と対面型の授業を行ったりすることも可能です。知識を深めるだけでなく、実践的なスキルも身に付けられるでしょう。
学習体験がもたらす3つの効果
生徒がさまざまな学習体験をすることで、学習に対する自律性が向上したり、生徒に合わせた学習設計が可能になったりと多くの効果が期待できます。ここからは学習体験がもたらす効果を3つ紹介します。
①学習に対する主体性・自律性が向上
学習体験を通じて得られる知識やスキルは、生徒の自主性を引き出し自律的な学びへと導きます。たとえば問題解決型学習では、生徒が自分の課題や目標を設定し問題を見付け、その問題を生徒自身で解決する能力を身に付けることが可能です。生徒はこのような経験を積み重ねることで、学習に対する自立性が向上し主体的に取り組めるようになるでしょう。
②個々の学習者に合わせた学習設計が可能に
学習体験は生徒1人ひとりに焦点を当て、それぞれの学習スタイルや進捗状況に合わせた柔軟な学習設計を可能にします。たとえば、AIを活用した学習プラットフォームでは、生徒の興味や進捗状況に合わせて提案が調整されるため、生徒1人ひとりに応じた最適な学びの提供が可能です。
③学習の効果が向上
生徒が主体的に取り組み、教師の適切なサポートが融合することで、学習成果の向上が期待できるでしょう。充実した学習体験を積み重ねることで、知識やスキルの効果的な習得が可能です。一例を挙げると、コンピューターによってつくり出された仮想空間を現実かのように疑似体験できる仕組みを利用して、実際の状況に近い体験が可能です。これにより知識の定着や実践的なスキルの向上に役立ち、学習の効果がより一層高まるでしょう。
学習体験デザインも注目を集めている
生徒が意欲的に学習に取り組むには、さまざまな手法が役立ちます。その中の1つとして、あらゆる経験を通して学習体験を積み重ね、学習体験のもととなる「学習体験デザイン」を適切に活用することが大切です。ここからは学習体験デザインについて解説します。
学習体験デザインとは
学習体験は何かを学ぼうとする行為全般のことを指しますが、これは学習体験デザインを行った結果もたらされるものです。この学習体験をより効果的に構築する手法として、学習体験デザインが注目されており、その重要性も理解され始めています。学習体験デザインは、目標や学習の成果を挙げるために、生徒1人ひとりが体験を通して目標達成に向けた何かを学ぶための過程をデザインすることが目的です。生徒の目標や興味に合わせて時間割を作成したり授業の計画を立てたりと、生徒が受け入れやすい形で教育に導入できることを目指しています。
学習体験デザインが注目を集める背景
急速化している教育のデジタル化や変化する学習様式に対応するため、生徒1人ひとりの成長に効果的な学習体験デザインが注目を集めています。コロナの影響や教育のDX化により、オンライン授業が普及しました。これまでの一方的に授業を展開する学習教材でなく、生徒のペースに合わせてどんどん学習を進めたり、リアルタイムでのフィードバックがもらえたりすることで、柔軟に学べる学習環境の提供が可能になりました。これらの理由により学習体験デザインが注目を集めています。
学習体験デザインの基本的な手順
学習体験デザインを実践するために、いくつかの基本的な手順があります。ここからは、学習体験デザインの基本的な手順を解説します。以下の手順に沿ってデザインしていくことで、学習体験を得る近道となるでしょう。
1.学習目標を設定
まずは、生徒が達成したいと考える具体的な学習目標を設定することが大切です。たとえば英検3級の取得や、安定した学習習慣を身に付けるなどが考えられます。目標を具体的に示してあげると、生徒は目標に向かって明確な方針を持つことが可能です。また目標達成のために実践した過程を、チェック表などを用いて数値化することで変化を可視化でき、より目標に近付けるでしょう。
2.学習者のペルソナを設定
さまざまな生徒に対応できるよう、生徒の特性や好みをもとに複数のペルソナを用意すると良いでしょう。ペルソナを設定する際は、目標に対して最も影響力が大きい生徒を盛り込んでおくことがポイントです。たとえば視覚的に学ぶことを好む生徒には、図・イラスト・テキストなどを用いて、分かりやすい情報提供が必要です。情報を簡潔にまとめる難しさもありますが、生徒の特性に沿った学び方であるため効果が期待できるでしょう。
3.ラーニング・タッチポイントを設定
設定したペルソナをもとに、ラーニング・タッチポイントを準備しましょう。ラーニング・タッチポイントは以下の3種類に分類されます。
このように進める過程で生徒が直接触れるポイントを設定すると、積極的に学習環境を整えることが期待できるでしょう。
4.ラーニングジャーニーを設計
前項で準備したラーニング・タッチポイントを組み合わせてラーニングジャーニーを設計することで、段階的かつ効果的な進行を促します。生徒1人ひとりに合わせて以下の学習資産を配置することがポイントです。
これらの学習資産をもとに、学習の過程を、導入・発展・ピーク・結果といった段階に分けて計画します。学習の過程を組織化することで、学びの進行をスムーズに進められるでしょう。
5.評価の指標を設定
最後に、学習の成果を評価する指標を設定します。これにより、生徒は自己評価を行い、自身の成長を確認できます。たとえば英検3級の検定結果や、習得した単語・熟語の数など、複数の指標を設定できれば理想的といえるでしょう。また、指標の達成度を振り返り改善点を見付けられると、次回の目標につなげることも可能です。
学習体験は学校教育とも親和性が高い
学習指導要領では生徒自らが調整しつつ学習を進めていけるように指導することの重要性が指摘されています。そのためには、生徒1人ひとりの特性や学習進度に応じて、教員が柔軟な指導方法を提供する「指導の個別化」が欠かせません。また、近年ではICTの導入により、学校教育の現場でもさまざまな学習体験を選択できるようになりました。今後は学校にも学習体験デザインの概念が入り、より個別化された学びが進んでいくと考えられるでしょう。
まとめ
学習体験はただ単に知識を学ぶだけでなく、さまざまな経験を積み重ねることでもたらされるものです。効果的に学習体験を得るために、生徒1人ひとりに合わせて学習デザインをうまく活用するのがポイントです。本記事を参考に学習体験デザインを教育に取り入れ、学習体験をより多く獲得できるように学習内容を構築しつつ実践してみてはいかがでしょうか。