2025/04/30(水)
ICT教育が普及する一方で、学力低下への懸念が高まっています。OECD(経済協力開発機構)が実施するPISAの調査結果やスウェーデンの事例から、ICT機器の過度な使用が学力に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。
一方で、適切な活用方法を知ることで、ICT教育の利点を最大限に生かすことが可能です。この記事では、ICT教育と学力低下の関係や効果的な活用法を詳しく解説します。
GIGAスクール構想とは?その目的と背景
GIGAスクール構想は日本の教育変革の軸となる取り組みです。ここでは、GIGAスクール構想の定義や推進された社会的背景、具体的な目標について解説します。
GIGAスクール構想とは?
GIGAスクール構想は、児童生徒1人1台の学習用端末と高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備する計画です。
この構想は、多様な子どもたちを誰ひとり取り残すことなく、公正に個別最適化された創造性を育む教育を全国の学校現場で持続的に実現させることを目指しています。
文部科学省が中心となって推進するこの構想は、ICTを活用した学習の充実と深い学びの実現を目標としています。
GIGAスクール構想が推進された背景とは?
GIGAスクール構想が推進された背景には、日本の教育におけるICT活用の遅れがあります。
2019年当時、日本の学校のICT環境は世界的に見て後れを取っており、地域間格差も顕著でした。
この状況を改善することを目的のひとつとして、文部科学省はGIGAスクール構想を策定しました。この構想は、急速なデジタル化社会への対応と、グローバル化や技術革新に対応できる人材育成の必要性から生まれたものです。
GIGAスクール構想の目的とは?
GIGAスクール構想の主な目的は、個別最適化された学びと創造性を育む教育の実現です。
この構想は、急速に変化するデジタル社会に対応できる人材の育成を目指しています。
1人1台の学習用端末と高速通信ネットワークの整備により、児童生徒の学習進度や理解度に応じた指導を可能にします。
協働学習や遠隔教育の機会を増やし、多様な学びの場を提供することで、21世紀型スキルの習得を促進することも目的の1つです。
教職員の業務効率化や、生徒の主体的・対話的な深い学びのサポート、情報活用能力の育成なども重要な目的として掲げられています。
学校現場でのICT教育の実態
学校現場におけるICT活用の頻度や普及状況、さらに実際の授業でどのようにICTが活用されているかについて詳しく解説します。
ICTの活用頻度とICT機器の普及状況
GIGAスクール構想の推進により、学校現場でのICT環境整備が急速に進んでいます。
中学校の教員が、ICT機器(大型提示装置等)を活用した授業の頻度は「ほぼ毎日」と回答する中学校の割合は、2022年で68.5%でした。(※1)
文部科学省の「令和5年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」によると、学習者用コンピューター台数は児童生徒1人当たり1.1台(平均)となり、1人1台端末の整備が実現しました。(※2)
授業でICTが活用される場面
主な活用場面としては、児童生徒が自ら調べ学習をする際や、教職員と児童生徒のコミュニケーションツールとして使用される場面です。
また、プレゼンテーションや発表の場面、さらには児童生徒同士の協働学習にも活用されています。
これらの活用により、情報収集能力や表現力、コミュニケーション能力の向上が期待されています。
一方で、ICTに過度に依存せず、従来の学習方法とのバランスを取ることも重要です。効果的なICT活用は、学習意欲を高め、学力向上につながる可能性があります。
ICT教育は学力低下を引き起こす?
一部の研究では、過度なICT利用が学力低下につながる可能性を指摘していますが、適切な活用は学習効果を高める可能性もあります。
ICT教育は学力低下を引き起こすのか、以下で詳しく見ていきましょう。
ICT機器の利用時間と学力低下の関係
ICT機器の利用時間と学力の関係については、慎重に考える必要があります。
一部の調査では、ICT機器の利用時間が長いほど、学力テストの平均正答率が低くなる傾向が示されています。
ただし、単純な因果関係ではなく、ICT機器の使用方法や目的によって影響が異なる可能性があるでしょう。
学習目的でICTを活用する場合と、娯楽目的で使用する場合では、学力への影響が異なると考えられます。
また、ICTの活用が「自分で考える力」を低下させる可能性も指摘されています。
重要なのは、ICTの使用時間だけでなく、その質や目的を考慮することです。教育現場では、ICTを効果的に活用しつつ、従来の学習方法とのバランスを取ることが求められています。
PISA調査が示すICT教育の影響
OECD(経済協力開発機構)が実施するPISA調査は、ICT教育と学力の関係について興味深い示唆を与えています。
この国際的な学習到達度調査の結果によると、ICTの過度な使用が学力に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。
学校でのコンピューター使用時間が長くなるほど、読解力や数学の成績が低下する傾向が見られました。
ICTをあまり使用しない国のほうが、平均的に使用する国よりも読解力が向上したケースも報告されています。
ただし、ICTの活用方法や頻度、教育環境全体のバランスなど、多角的な視点からの検討が必要です。ICTを効果的に活用するためには、従来の教育方法との適切な組み合わせが重要となります。
スウェーデンで起きた読解力の低下
スウェーデンの教育改革は、ICT教育の影響を考える上で重要な事例です。早くから進められたデジタル化政策の結果、以下の問題が浮上しました。
- 読解力の低下:スクリーン上での読書増加により、長文を深く読み込む能力が低下
- 集中力の欠如:デジタル機器の過度な使用による注意力散漫
- 手書きスキルの低下:タイピング重視による筆記能力の衰退
これらの課題に対し、スウェーデンは「基礎に戻る」教育方針を採用しました。
紙の教科書や手書きの重視、デジタル機器使用の制限などを実施しています。
この方針転換は、ICT教育のバランスの重要性を示唆しており、日本の教育現場にも参考になる点が多いでしょう。
h2:ICT教育が学力低下を引き起こす原因とは?
過度なデジタル依存は、「書く力」と「自ら考える力」を弱める傾向にあります。以下では、この2つの問題について見ていきましょう。
「書く力」が低下する
手書きは、情報の記憶や理解を深める上で重要な役割を果たします。例えば、ノートを取る際に手書きすることで、内容の整理や要約が手と頭で行われ学習効果が高まるでしょう。
一方、タイピングやコピー&ペーストの多用は、この過程を省略してしまう可能性があります。漢字を手で書く機会が減ることで、漢字の習得にも影響を与える可能性も考えられます。
ただし、ICTを適切に活用することで、この問題を軽減できる可能性もあるでしょう。タブレットでのペンを使用した手書き入力を併用したり、デジタルとアナログをバランス良く使用したりすることで、「書く力」の維持・向上が可能です。
「自分で考えて取り組む力」が低下する
ICT機器の便利さが、かえって「自分で考えて取り組む力」を低下させる可能性があります。情報検索が容易になったことで、深く考えずに答えを求める傾向が強まっているからです。
AIによる自動生成や翻訳ツールの利用が、自分で考え抜く機会を減少させる可能性もあるでしょう。
デジタル教材の即時フィードバック機能が、試行錯誤の過程を省略させてしまうのも懸念点です。上記の要因により、問題解決能力や創造的思考力の低下が危惧されています。
一方で、ICTを活用した協働学習や問題解決型学習を取り入れることで、この問題を克服できる可能性は高くなるでしょう。
オンラインでのグループディスカッションやプロジェクト型学習を通じて、主体的に考え、他者と協力して問題を解決する力を育めるからです。
学力低下を防ぐ効果的なICT教育の活用
学力低下を防ぐ効果的なICT教育の代表的な活用法は、次の5つです。
- アナログとデジタルを使い分ける
- 個別学習を促進する
- 迅速なフィードバックで学習効果を高める
- アクティブラーニングや協働学習で活用する
- 丸暗記ではない深い理解を促す
以下で詳しく紹介します。
アナログとデジタルを使い分ける
手書きの時間を確保しつつ、デジタルツールを活用して図形作成などをすることで、想像力や読み書き能力の低下を防げます。
ディスカッションの機会を増やし、考えをまとめたり新しいアイデアを出したりする時間を設けることも効果的です。
デジタルに頼りすぎず、バランスの取れた学習環境を整えることで、ICT教育のメリットを最大限に生かしつつ、従来型の学習方法の長所も維持できます。
個別学習を促進する
ICT機器の活用は、場所や時間の制約を超えて学習できるため、学習時間の総量増加につながります。
移動中や自宅でのリラックスした時間を有効活用できます。
さらに、授業前の予習や授業後の復習にICTを活用することで、個々の理解度に合わせた学習が可能です。
事前に関連動画を視聴したり、授業後に追加問題に取り組んだりすることで、知識の定着と理解を深められます。
ICTを活用した個別学習の促進は、学力向上の重要な要素となり得るでしょう。
迅速なフィードバックで学習効果を高める
ICT教育の強みは、即時のフィードバックを可能にすることです。
オンラインでの小テストや課題提出では、学習者がすぐに結果を確認でき、理解度を把握できます。
学習のモチベーションが向上し、効率的な復習が可能です。
例えば、クラス全体でオンラインテストに参加することで競争意識が芽生え、学習意欲が高まります。また、宿題の提出状況をリアルタイムで共有することで、生徒間での刺激が生まれ学習への取り組みが促進されます。
アクティブラーニングや協働学習で活用する
ICT教育は、アクティブラーニングや協働学習を促進する強力なツールです。
デジタル機器を活用することで、生徒たちは効果的に情報を共有し、共同で問題解決に取り組めます。
オンラインプラットフォームを使用したグループプロジェクトでは、リアルタイムでの意見交換や資料の共同編集が可能です。
遠隔地の学校との交流学習も容易になり、多様な視点を取り入れた学びが実現します。
ICTを活用したアクティブラーニングは、生徒の主体性と協調性を育むとともに、深い学びを促進する可能性があるでしょう。
丸暗記ではない深い理解を促す
ICT教育は、単なる暗記学習を超えた深い理解を促進する可能性があります。
デジタル技術を活用することで、学習者は幅広い情報にアクセスし、多角的な視点から学習内容の探究が可能です。
オンライン辞書や百科事典を活用すれば、1つの概念から関連する多様な情報へと学びを広げられます。
シミュレーションツールや動画教材を用いることで、抽象的な概念を視覚的に理解することも可能です。ICTを適切に活用することで、暗記に頼らない深い理解と知識の整理を促進できます。
まとめ
ICT教育が、学力低下を引き起こす原因には「書く力」と「自分で考えて取り組む力」の低下が挙げられます。
学力低下を防ぐ効果的なICT教育の活用方法として、アナログとデジタルを使い分けること、丸暗記ではない深い理解を促すことなどがあります。
本現場の中学・高校の教員の方は、ICTを活用する際の注意点に留意しましょう。