学習意欲低下の原因と対策を文部科学省の資料をもとに解説

2025/05/21(水)

授業方法/学習指導

生徒の学習意欲低下に悩む先生は多いのではないでしょうか。 学習意欲の低下は、学力だけでなく、生徒の将来にも影響を与えかねない深刻な問題です。

この記事では、文部科学省の資料などをもとに、学習意欲低下の主な原因と、明日から実践できる具体的な対策を解説します。生徒の学習へのモチベーションを効果的に高める方法理解につながりますと幸いです。

学習意欲の低下が起こる7つの要因

生徒の学習意欲低下には、単一ではない、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。以下では、重要と考えられる主な7つの原因を紹介します。これらの要因を把握することが、効果的な対策を講じるための第一歩といえるでしょう。

1. 学習内容の難易度と理解度のギャップ

生徒の理解度と学習内容の難易度に大きなずれが生じることが、学習意欲低下の原因のひとつです。
与えられた課題が難し過ぎると、生徒は達成感を得られず「どうせできない」と挑戦意欲を失います。
心理学におけるキャロル・ドゥエック教授の「達成目標理論」でも、適度な難易度の目標が意欲を引き出すとされています。

生徒の理解度が低い場合は、学習内容が難し過ぎないか確認してみましょう。

2. デジタル機器の普及による影響

デジタル機器の中でも特にゲーム使用は、生徒の学習意欲低下に影響を与えることがあります。
ゲームは、短時間での成功体験や達成感を即座に与え、脳に快感をもたらすドーパミンを分泌させます。

「もっと続けたい」という強い衝動を生むこの作用は、プレイヤーを夢中にさせるよう設計されたゲームの特性と相まって、より強力になるでしょう。

そのため、すぐに成果が見えにくい学習に比べ、ゲームはより魅力的に映り、学習意欲を削いでしまうことにつながります。家庭での適切なゲーム使用については、いま一度確認しましょう。

3. 学習を強制されることによるストレス

「勉強しなさい」といった一方的な指示や親・教師からの過度な期待は、生徒が「自分で決めている」という自己決定感や「自分はできる」という有能感、そして周囲から受け入れられているという他者受容感を損なう可能性があります。

これは、自律的な学習意欲の基盤となる上記の3要素が、強制によって阻害されてしまうためです。結果として、生徒は内発的な動機付けを失い、学習への興味や意欲が低下してしまうのです。

4. 生活習慣の乱れ

生活習慣の乱れは、生徒の学習意欲の低下につながる要因のひとつです。睡眠不足、不規則な食事、運動不足などが続くと、集中力や思考力が低下するとともに体がだるくなり、疲労が抜けにくくなります。

例えば、夜更かしによる睡眠不足は日中の眠気を誘発し、授業への集中を妨げます。また、過度な栄養の偏りや運動不足は心身のバランスが悪くなり、学習に必要なエネルギーが不足するでしょう。
心身のコンディションが整わないままでは、学習意欲が低下してしまいます。文部科学省と連携している「早寝早起き朝ごはん」全国協議会は、睡眠不足や朝食を毎日食べないことが学力を低下させるデメリットに言及しています。(※1)

5. 学習する価値が見いだせない

生徒は「なぜ勉強するのか」「何に役立つのか」という疑問が解決しないと、学習に意味を見いだせず、必要性を感じなくなります。
自分の興味や関心とつながらなかったり、社会での生かし方が分からなかったりすると「やる意味がない」と感じてしまいがちです。

親の学びに対する価値観も影響します。学習の意義が不明確なままでは、楽しいと感じられる他の活動に心が向きやすくなり、学習への意欲が失われてしまうでしょう。

6. 学習方法の理解不足

新しい単元や複雑な課題に対し、具体的にどう取り組めばよいかが分からないと、生徒は戸惑い学習への苦手意識を抱きやすくなります。

効果的なノートの取り方や問題の解き方、計画の立て方など、具体的な学習方法の指導が不足している場合や、適切な教材・ツールがない場合に、このような「手詰まり感」が生じます。
学び方が分からない状況では、学習するハードルが高くなり、結果的に学習意欲を失わせてしまうでしょう。

7. 授業が楽しくない

画一的な授業ペースやレベル設定が、生徒の「楽しい」という感情を阻害し、学習意欲低下を招くことがあります。
一斉授業の形式では、どうしても個々の生徒の理解度や進捗(しんちょく)に適切に対応することが難しくなるためです。

具体的には、授業の展開が早過ぎると生徒は内容を理解できず、逆に簡単過ぎると手応えがなく退屈だと感じてしまいます。
こうした経験の積み重ねは、授業そのものへの興味を失わせる一因となり得ます。

学習意欲低下を克服する具体的な5つの方法


学習意欲低下には多くの原因がありますが、適切な対策を講じることで改善が見込めます。以下では、生徒が再び学びに向かう力を取り戻すための具体的な方法を5つ紹介します。それぞれの生徒に適した方法を見つける際の参考にしてください。

1. 学習内容の適切な難易度設定

生徒は課題が簡単過ぎると退屈し、難し過ぎると挫折感を招き、学習意欲を失ってしまいます。
生徒の理解度や習熟度に合わせた個別課題や、つまずきへのきめ細かなフォローが必要です。

また、テストの点数だけでなく、授業への取り組みやレポートなど、さまざまな側面を評価することで、生徒は自分の成長や強みを認められたと感じます。
1人ひとりに「できる」という自信と「頑張りが認められる」という実感を与えることが、学習意欲の向上につながります。

難易度が高いと感じる生徒には「今日は英単語を5つ覚える」など、スモールステップから始めるよう促しましょう。

2. 静かで落ち着く環境の確保

騒音や視覚的な誘惑が多い場所では、集中力が散漫になり、学習効率が低下します。
学習に集中できる環境として、静かな場所を選び、机の上を整理整頓することが基本です。

特に、スマートフォンなどの学習を妨げるデジタル機器は、学習時間中は別の場所に置く対策を取りましょう。
適切な照明や生徒の体に合った机・椅子で学習することも、長時間集中して取り組む上で重要です。

このように学習に集中できる環境を整えることで、生徒はよりスムーズに学習に取り組めるようになり、学習意欲の維持・向上につながります。

3. 短時間でも習慣化するアドバイスをする

長時間の集中が難しい場合でも、短い時間なら取り組むハードルが低く「できた」という達成感が得やすくなります。
「まず15分だけやってみよう」と声かけをしたり、タイマーを使って学習と短い休憩を繰り返す方法を提案したりします。

具体的にはポモドーロテクニックを使って、25分学習し5分休憩するなど、生徒に合わせて時間を調整するのもよいでしょう。
短い時間で成功体験を積み重ねることが、次の学習への意欲につながります。短時間でも継続する習慣付けをサポートすることで、学習への苦手意識を減らし、学習意欲の回復を促せます。

4. 疲労がたまらないよう配慮する

学習意欲低下には、疲労の蓄積が大きく関わっています。疲労によって集中力や思考力が低下すると、学習へのエネルギーが湧きにくくなります。生徒の疲労に配慮し、生活習慣を整えるサポートも大切です。

十分な睡眠時間の確保や、規則正しい生活リズム、バランスの取れた食事は、学習に必要な心身のコンディションを整えます。
就寝前にデジタル機器の使用を控える、朝食をしっかり取るといった基本的な習慣付けを促し、部活動など生徒の状況に合わせて無理のない生活パターンを一緒に考えていきましょう。

疲労を軽減し健康的な生活を送ることは、学習に向かう体力と気力を養い、学習意欲の向上につながります。

5. 学びへの興味を取り戻す

学習内容と自分自身とのつながりが見いだせないと、生徒は学ぶ意義を感じにくく、意欲を失いがちです。
生徒の興味や関心、日常生活や将来の進路に関連付けて学習内容を提示したり、学んだことが社会でどう生かされているかを示したりすることが効果的です。

例えば、身近な地域の課題をテーマにしたプロジェクト学習は、主体的に学ぶことで意義を実感できる良い機会になります。
学びが「自分事」であると感じられる工夫を通じて、生徒の知的好奇心を刺激し、学習意欲の回復・向上に努めましょう。

学習意欲低下を改善させるツールと支援


学習意欲低下の改善には、生徒への直接的な働きかけだけでなく、ツールや外部からの支援も有効です。これらは教育の可能性を広げ、多様なアプローチを可能にします。
以下では、デジタルツールの活用、カリキュラム改革、そして地域や社会との連携という3つの視点から紹介します。

デジタルツールの活用

デジタルツールは、生徒1人ひとりの学習ペースや理解度に応じた個別最適な学びを可能にし、多様なアウトプットや評価手段を提供するものです。

文部科学省の「学習者用デジタル教科書の活用による指導力向上ガイドブック」では、デジタル教科書の表示・非表示の「マスク機能」で自分のペースでリスニング練習をしたり、自宅で音読動画を提出しAIによる採点を活用したりといった事例が紹介されています。
従来の学習では難しかった生徒への個別対応や、生徒が取り組みやすい多様な学習方法を提供できます。デジタルツールの効果的な利用は、生徒の学習へのハードルを下げ、意欲向上につながる可能性があるでしょう。(※2)

カリキュラム改革の可能性

画一的で生徒の興味や社会とのつながりが薄いカリキュラムは、生徒の学習意欲を削ぐ要因の1つです。

生徒が「学びたい」と感じられる改革として、多様な選択科目の拡充、探究学習やプロジェクト学習の導入、教科を横断するテーマ学習、地域連携による実践的な学びなどが考えられます。
上記の改革により、生徒は主体的に学習に関わり、学びの意義を実感できます。カリキュラムを柔軟に見直すことは、生徒の学習意欲向上につながる大切なアプローチです。

地域や社会との連携による学びの向上

文部科学省の「地域と学校の連携・協働の推進に向けた参考事例集」では「ふるさと杉一」のように、学校・地域・保護者が一体となって生徒を支援する取り組みがあります。

朝の学習支援「朝先生」や、放課後の「すぎっ子くらぶ」など、地域の大人が関わる活動を通じ、生徒はさまざまな価値観や経験に触れられます。
こうした協働体制のもとで、学習への不安やつまずきを相談できる環境が整えば、生徒1人ひとりの小さな成功体験も地域全体で認め合うことが可能です。

このような地域ぐるみの支援は、学習意欲低下の根本的な解決につながります。(※3)

まとめ


本記事では、学習意欲低下の多様な原因と、それに対する具体的な対策やツール・支援について解説しました。

学習意欲の低下は、生徒1人ひとりの状況が複雑に影響し合って起こります。学習内容の調整、環境整備、習慣化のサポート、疲労への配慮、興味喚起、デジタルツールや地域連携の活用など多角的なアプローチが有効です。

生徒の学習意欲低下に直面した際は、まず原因を見極めてこの記事で触れた多様なヒントの中から、その生徒に合った方法を選んで実践してみてください。

※1:「早寝早起き朝ごはん」全国協議会

※2:「学習者用デジタル教科書の活用による指導力向上ガイドブック」

※3:「地域と学校の連携・協働の推進に向けた参考事例集

CONTACT USお問い合わせ

「すらら」「すららドリル」に関する資料や、具体的な導⼊⽅法に関するご相談は、
下記のフォームよりお問い合わせください。

「すらら」「すららドリル」ご導⼊校の先⽣⽅は
こちらよりお問い合わせください。

閉じる