授業の準備や採点に追われ、なかなか生徒1人ひとりに向き合う時間が取れないと悩む教員の方も多いでしょう。ICTツールを活用することで、教育の質を高めながら業務効率化が可能です。なぜなら、ICTツールは単調な作業を自動化し、生徒の学習データを可視化できるからです。この記事では、教育現場で実際に役立つICTツールとその選び方を解説します。記事を読めば、学校環境に合った最適なツールが見つかるでしょう。目的に合ったICTツールを選び、段階的に導入することが大切です。
教育におけるICTツールとは?
教育におけるICTツールは、情報通信技術を活用して学習や教育活動を支援するデジタル機器やソフトウエアなどです。タブレット端末やパソコン、電子黒板などのハードウエアから、学習管理システム(LMS)や教育用アプリケーションなどのソフトウエアまでと幅広い点がICTツールの特徴です。ICTツールを使用することで、動画制作やプログラミング教育など、生徒が自分のアイデアを形にする機会が増え、創造力や問題解決能力の育成につながります。また、教員の授業準備や成績処理などの業務効率化にも貢献します。
教育にICTツールを利用するメリット
文部科学省が推進するGIGAスクール構想にもとづくと、学校教育でのICTツール活用には主に「学習意欲の向上」「情報活用能力の育成」「教員の業務効率化」という3つの本質的なメリットがあります。
生徒の学習意欲を高める
ICTツールの活用は、生徒の学習意欲を大きく向上させます。従来の紙媒体では表現しきれなかった視覚的・体験的な学びが可能になり、生徒の興味関心を引き出せるからです。理科の授業ではシミュレーション動画を用いて実験結果を考察したり、数学の授業では図形を立体的に捉えたりできます。発表が苦手な生徒でも、ICTツールを通じて意思表示ができるため、積極的な授業参加につながります。
情報活用能力が育てられる
ICTツールの日常的な使用により、生徒たちは自然に情報活用能力を身につけられます。基本的なデジタル機器の操作スキルだけでなく、インターネット上の情報を収集・評価・選択し、活用する能力も養えるでしょう。オンラインでの調べ学習を通じて、信頼性の高い情報源の見分け方や、効果的な検索方法を学べます。グループワークでデジタルツールを使用することで、協働で課題解決に取り組む力も育成できます。
教員の業務負担が軽減される
ICTツールの活用により、教員の業務効率が大幅に向上します。自動的なデータ収集や即時の情報共有が可能となり、成績処理や授業準備の時間が短縮されるからです。課題配布では印刷作業が不要となり、生徒のタブレットに一斉配信できます。テスト採点業務の自動化システムを導入した兵庫県のある中学校では、1クラスあたり1.5〜2時間程度の時間削減に成功しました。(※1)遠隔技術を活用した研修や会議参加により、出張の負担も軽減されます。
教育でICTツールを利用するデメリット
導入・維持コストの負担、教員の技能習得、健康面への配慮が、教育でICTツールを利用する主なデメリットです。
導入や維持に費用がかかる
ICTツールの教育現場への導入には、多額の初期投資と継続的な維持費用が必要です。デバイス、ソフトウエア、ネットワーク環境の整備に加え、定期的な更新や修理のコストも考慮しなければなりません。高等学校では保護者負担で端末を整備するケースもあり、将来的な修理や買い替えの費用も含めて、慎重な検討と丁寧な説明が求められます。
教員への研修が必要
ICTツールの効果的な活用には、教員の継続的な研修が必要です。文部科学省の調査によると、教員のICT活用指導力は増加傾向です。学校は定期的な校内勉強会の開催や、外部研修への参加を積極的に支援する必要があります。「教員研修Web総合システムTRAIN」などのe-ラーニングツールを活用することで、教員は自分のペースで学習を進められます。
長時間使用による健康への悪影響が考えられる
ICTツールの長時間使用は、児童・生徒の健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。特に懸念されるのは、VDT症候群と呼ばれる症状です。VDT症候群には、眼精疲労や視力低下、肩こり、頭痛などが含まれます。さらに、睡眠障害やネット依存症のリスクも指摘されています。健康リスクを軽減するためには、使用時間の制限やブルーライト対策、適切な姿勢の指導などの対策が必要です。
学校教育で役立つおすすめICTツール7選
教育現場で効果的に活用できるICTツールを7つ厳選しました。授業に直接活用できるものから、コミュニケーションを円滑にするものまで、幅広いニーズに対応しています。以下では、各ツールの特徴と活用方法を詳しく解説します。
授業に活用できるICTツール
授業の質を向上させ、生徒の理解を深めるICTツールを5つ紹介します。教材作成から授業進行まで幅広くサポートし、教員の業務効率化にも貢献するツールです。
①手軽に資料を作成・共有できる:Googleスライド
Googleスライドは、ブラウザ上で簡単に授業用資料を作成・編集でき、生徒のタブレットにリアルタイムで表示できます。複数の教員での共同編集も可能なため、教科横断的な資料作成が可能で、ベテラン教員からのアドバイスを受けやすいツールです。例えば、古典の授業では漢文をスライドに投影し、ポイントを黒板に書き込むことで、効率的に授業を進められます。生徒同士の協働学習にも活用でき、グループでのプレゼンテーション作成などにも適しています。
②ホワイトボードに書いたものをデジタル化する:Adobe Scan
Adobe Scanは、アナログとデジタルの橋渡しをする優れたICTツールです。このアプリを使えば、ホワイトボードの内容を瞬時にデジタル化できます。板書スタイルに慣れた教員にとって、急激な変化を避けつつICT化を進められるのはメリットです。授業後にスキャンした板書を生徒と共有することで、復習の効率が上がります。漢字の書き取りや数学の証明など、手書きの課題もデジタル提出が可能になり、採点や管理が容易になります。
③動画を作成できる:Lecta
Lectaは、オンデマンド授業の作成を効率化するICTツールです。スマートフォンを黒板全体が映るようにセットするだけで、教師の動きに合わせて自動でカメラワークやピント調整をします。自動編集機能により、長時間の授業動画でも配信に適した容量にダウンサイズしてくれます。50分を超える授業でも、容量を抑えつつ高品質な動画作成が可能です。教員は撮影や編集の技術に悩まされることなく、授業内容に集中できます。生徒は自分のペースで繰り返し視聴できるため、理解度の向上にもつながります。
④学習に役立つ動画コンテンツ・演習問題を提供する: すらら
すららは、AI型学習教材「すらら」と探究学習を効果的に支援するICT教材「すららSatellyzer(サテライザー)」を提供しています。このツールは、多忙な教員と探究学習に不慣れな生徒のニーズに応えるよう設計されています。教員の負担を軽減しつつ、生徒の探究スキル向上を強力にサポートする点が特徴です。準備の手間を大幅に削減し、複数教員での取り組みや教員の異動が多い公立高校でも円滑に導入できます。「すららSatellyzer(サテライザー)」では動画コンテンツを通じて探究の基礎を学び、ワークシートで理解を深められるため、生徒は自主的に学習を進められます。教員は生徒の進捗状況を簡単に把握でき、効率的な指導が可能です。すららのICTツールは、探究学習の導入期に最適で学校教育での課題解決に貢献しています。
⑤豊富な辞書・参考書を一括検索できる:ジャパンナレッジSchool
ジャパンナレッジSchoolは、中高生向けの「オンライン図書館」です。700冊以上の辞書・事典、参考書、新書、統計資料を一括検索・閲覧できる強力なICTツールです。従来の辞書ツールとは異なり、岩波新書や講談社ブルーバックスなどの新書も網羅しています。インターネット環境があれば、アプリやソフトのインストールなしで、いつでもどこでも利用可能です。
コミュニケーションに活用できるICT教育ツール
学校教育でのコミュニケーションを円滑にするICTツールを2つ紹介します。
⑥課題のやり取りや管理をスムーズにする:Google Classroom
Google Classroomを使えば、課題の作成から配布・回収・採点までをデジタル化し、効率的に管理できます。PDFや動画、URLなど多様な形式の教材を用いて課題を作成し、提出期限を設定して配布できます。生徒の提出状況をリアルタイムで確認でき、採点結果も一覧で管理可能です。クラス全体や個別生徒へのお知らせ機能も備えており、コミュニケーションツールとしても活用できます。
⑦教師や生徒同士の情報共有を円滑にする:Google Meet
Google Meetは、Googleアカウントから簡単に授業用URLを発行でき、参加者はブラウザ上ですぐに接続できます。遠隔授業やグループプロジェクトの実施、保護者面談など、さまざまな場面で活用できます。画面共有機能を使えば、教材をリアルタイムで表示しながら説明することも可能です。チャット機能を活用すれば、質問や意見をテキストで共有でき、双方向のコミュニケーションが促進されます。
教育でICTツールを導入する際の確認ポイント
ICTツールを効果的に導入するには、以下の3つのポイントを確認する必要があります。
・導入の目的と必要な機能を明確にする
・ICTツールの料金と利用環境を確認する
・使いやすさとサポート体制を確認する
以下では、各ポイントについて詳細に解説します。
導入の目的と必要な機能を明確にする
ICTツールの導入を成功させるには、明確な目的設定が不可欠です。教育での成果を目指し、個別学習・情報共有・協働学習の3つの学習方法を念頭に置きましょう。生徒の学習意欲向上や教員の業務効率化など、具体的な目標を定めることが重要です。次に、目的達成に必要な機能を洗い出し、優先順位を付けます。課題管理機能やリアルタイムフィードバック機能など、目的に直結する機能を特定します。多様なICTツールの中から最適なものを選択でき、効果的な導入が可能です。
ICTツールの料金と利用環境を確認する
ICTツールの選定に際しては、料金体系と利用環境を十分に確認する必要があります。最初に無料版と有料版の機能差を比較し、必要最低限の機能が満たされているか精査しましょう。データの保存期間や容量、アカウント数に制限があるケースも存在します。長期的な利用を見据え、将来的なニーズも考慮に入れる必要があるでしょう。次に、ツールの利用方法を確認します。ブラウザベースのツールなら、端末を選ばず柔軟に使用できますが、アプリのインストールが必要な場合は、学校の端末OSとの互換性を事前に確認することが重要です。
使いやすさとサポート体制を確認する
まず、教員と生徒双方にとって操作が直感的で、処理速度が速いかを事前に確認しましょう。無料トライアル期間を利用して、実際に操作感を体験することをおすすめします。次に、充実したサポート体制の有無を確認します。詳細な操作マニュアルの提供、電話やチャットでのサポート対応、対応時間帯などを確認しましょう。ICT支援員の配置により、機器の準備や教材作成の支援、トラブル対応などをスムーズに行えるようになります。
ICTツールを使った事例
ICTツールの活用事例を紹介します。以下に、導入目的と活用方法について具体的に解説します。
導入目的
大阪府立東淀工業高等学校では、学力面で不安を抱える生徒が多く、個別対応の必要性が高まっていました。ICTツールの導入目的は、生徒の基礎学力向上と自信を付けさせることです。「基礎講座」を設け、生徒の学習スタイルに合わせて2つのクラスを編成しました。1つは自主学習するクラス、もう1つは教員がサポートするクラスです。さらに、従来の共通ドリルを廃止し、ICT教材「すらら」を導入しました。これにより、生徒1人ひとりの得意・不得意に応じた学習支援が可能になりました。
活用方法
同校ではICTツール「すらら」を活用し、効果的に学び直しをしました。授業では「すらら」を用いて個別最適化された小テストを実施し、生徒の理解度を即時に把握します。さらに、授業終了10分前にはGoogleフォームを活用した振り返りを行い、PDCAサイクルを通じて継続的な改善を図っています。この取り組みにより、教員の業務効率化と生徒の学力向上を同時に達成できました。「すらら」の自動採点機能により、教員の採点業務が大幅に削減され、個別指導の時間が増加しました。学習履歴データを活用することで、生徒1人ひとりの弱点を特定し、ピンポイントな指導が可能です。生徒の学習意欲が向上し、学力の底上げにつながっています(※2)。
まとめ
学校教育でのICTツール活用には、「学習意欲の向上」「情報活用能力の育成」「教員の業務効率化」のメリットがあります。ICTツールを効果的に導入するには、「導入の目的と必要な機能を明確化」し、「料金と利用環境を十分に確認」の上「使いやすさとサポート体制を確認」することです。本記事での導入事例を参考に、自校に適したICTツール選びにお役立てください。
※1:DNP「教員の「働き方改革」を実現するためには? ICT活用による業務効率化がポイントに!」
※2:すらら「導入校事例」